心の傷みを知っているから「大事な人を助けたい」。その思いが見えなかった世界を明るくする青春物語。
今回は事故で大切な姉を亡くしてしまった主人公が、不登校がちなクラスメイトによって立ち直るまでの、心の触れ合いそして痛々しいまでの葛藤を描いている『最高に素晴らしいこと』をご紹介します。
身近にいる大切な人が亡くなった時の喪失感に苦しんだ時、そこから立ち直るには時間が必要です。そのために必要な時間は人によって異なり、その方法も人にとって違います。心の傷みがわかればこそ、その傷みに苦しむ人がいたら助けてあげたいと思うのが、友人であるといえます。
映画『最高に素晴らしいこと』の作品情報
【日本公開】
2020年公開(アメリカ映画)
【原題】
『All the Bright Places』
【原作・脚本】
ジェニファー・ニーヴン『僕の心がずっと求めていた最高に素晴らしいこと』
【監督】
ブレット・ヘイリー
【キャスト】
エル・ファニング、ジャスティス・スミス、アレクサンドラ・シップ、キーガン=マイケル・キー
【作品概要】
本作は「マレフィセント」シリーズでオーロラ姫を演じたエル・ファニングと、『名探偵ピカチュウ』でティム・グッドマン役のジャスティス・スミスが共演しています。
原作は世界40ヶ国で翻訳されベストセラーになった、ジェニファー・ニーブンの小説『僕の心がずっと求めていた最高に素晴らしいこと』で、本作の脚本もジェニファーが務めています。
多感なティーンエイジャーである主人公が、家族の死や家庭内での虐待、学校でのイジメなどから、心身に病を抱えながらも精一杯自己と向き合い、立ち直ろうとするハートフル青春ストーリーです。
映画『最高に素晴らしいこと』のあらすじとネタバレ
インディアナ州の小さな街の早朝、セドニア・フィンチがジョギングをしていると、橋の欄干に立ち今にも落ちてしまいそうな少女を見かけます。
彼女はセドニアと同じ高校に通う、クラスメイトのバイオレット・マーキーでした。セドニアはバイオレットがそこで何をしようとしているのか、直感でわかり声をかけます。
バイオレットの隣りに立って片足でバランスをとってみたり、彼女をソワソワさせながら欄干から降りるように仕向けました。
その日バイオレットは学校に普通に登校し、友人のアマンダからホームパーティーに誘われたり、ボーイフレンドのローマからも声を掛けられますが、気もそぞろです。
セドニアは不登校が多く成績も不安定、校内で問題行動も起こし卒業が危ぶまれ、スクールカウンセリングを受けています。
カウンセラーのエンブリはセドニアを心配し生活の様子を聞きますが、セドニアは自分のことを“フィンチ”と呼ぶよう指示したり、助言を茶化しエンブリをイライラさせてしまいます。
バイオレットは姉を交通事故で亡くしていて、姉の死に気持ちがふさぎこみ、両親にも心を閉ざしていました。
その晩、フィンチはバイオレットのことをググってみました。すると、姉のエレノアと一緒に写るバイオレットの写真が載ったSNSと、他に姉エレノアが事故死した現場写真も検出されます。そこはバイオレットが自殺をほのめかしていた橋のある場所でした。
翌日、地理の授業で卒業課題が出題されます。クラスメイトとペアを組みインディアナ州の名所を調べて2カ所以上巡り、レポートにまとめ出すというものです。
フィンチはバイオレットを誘うために仲良くなろうと試みますが、うまくいきません。そして、バイオレットはその課題をやりたくないと母親に訴えますが、外出もせずひきこもる彼女に、友達と交流できるいい機会になるから取り組むようすすめました。
バイオレットはアマンダのホームパーティーに出かけますが、雰囲気に馴染めずすぐに家を出ます。帰り道バイオレットのスマートフォンに、インスタグラムの通知音が鳴ります。
見るとフィンチが橋でのできごとを唄にしてストーリーズで、バイオレットのアカウントにタグ付けしたのです。
バイオレットは怒って削除するようフィンチに電話をします。フィンチは橋での出来事を“あんな経験はもう二度と嫌だ”と、伝えます。その言葉は小説家ヴァージニア・ウルフの言葉を引用したものでした。
フィンチは彼女と会い課題のパートナーになってほしいと誘います。人嫌いの2人にとって意味のある場所がある。
だから、一度試してみる価値があると言いますが、バイオレットはそんな可能性はないと拒みます。
「ひとつ君に捧げたい言葉があるんだ。“千の可能性が芽生えるのを感じる”ウルフの波からの引用さ。人には最低でも千の可能性があるんだよ。」
バイオレットは少し納得はしますが結局、課題を免除してもらえるよう先生に頼んでみると告げて、フィンチと別れました。
映画『最高に素晴らしいこと』の感想と評価
本作は表向きには見えにくい「心の病」について、そのシグナルとなるヒントを教えています。
この映画のラストはフィンチの周囲をとりまく大人が、彼の心の闇の深さに気づけず判断を見誤り、適切な心療を受けさせなかったことで悲しい結末となっています。
カウンセラーが専門知識に乏しく、見抜けなかったとしかいいようがありません。
フィンチには気分障害と呼ばれる症状がありました。「気分障害」には遺伝要因もあると言われていて、作中でも触れていますが、フィンチの父親も同じ心疾患があったようです。
フィンチは父親の暴力性が遺伝していたらという不安がぬぐえず、バイオレットと付き合うことに悩んだのでしょう。
ストーリーのラストは、バイオレットがフィンチと取り組んだ課題を通し、目に見えるものだけで評価せず、その奥にある真実や輝きに目を向ける必要性を語り、そのことを教えてくれたフィンチへの感謝で締めくくっています。
まとめ
『最高に素晴らしいこと』は若年層に増えてきた、心の病気について表した作品でした。
昨今の学生は数字で評価されたり、言動や振る舞いだけで人格を決めつけられる、そういう場面が多いのが実情です。
つまり『面倒なこと』を避けて、人の本質について理解しようとする努力が、欠如した社会に目を向けているといえます。
作中では親の子供との関わり方、姉弟・姉妹の形、先生と生徒、友人とクラスメイトなどさまざまな観点で、心の病との向きあい方や見つけ方などがわかります。
この映画は、心疾患について正しく理解してつきあうことの大切さ以上に、もっと根本的な人との関わり方が重要なテーマであり、その先に「最高に素晴らしいこと」が、それぞれの心に芽生えてくることを教えてくれているのです。