Cinemarche

映画感想レビュー&考察サイト

ヒューマンドラマ映画

映画『ボストン ストロング』感想と考察。ボーマンはコストコのチキンをなぜ焦がすか

  • Writer :
  • シネマルコヴィッチ

実話映画『ボストン ストロング ~ダメな僕だから英雄になれた~』は5月11日(金)より、TOHOシネマズシャンテほか全国ロードショー

2013年に実際の出来事として起きたボストンマラソン爆弾テロ事件。このことを記憶する人も多いのではないでしょうか。

本作品は爆破事件で被害にあったジェフ・ボーマンを主人公に映画化した作品。

爆破事件に巻き込まれ両足を失ったボーマンは、“ボストン ストロング”という、ボストン復興の象徴として脚光を浴びますが…。

1.映画『ボストン ストロング ~ダメな僕だから英雄になれた~』の作品情報


© 2017 Stronger Film Holdings, LLC. All Rights Reserved. Motion Picture Artwork © 2018 Lions Gate Entertainment Inc. All Rights Reserved.

【公開】
2018年(アメリカ映画)

【原題】
Stronger

【原作】
ジェフ・ボーマン、ブレット・ウィッター

【監督】
デヴィッド・ゴードン・グリーン

【キャスト】
ジェイク・ギレンホール、タチアナ・マスラニー、ミランダ・リチャードソン、クランシー・ブラウン

【作品概要】
2013年のボストンマラソン爆弾テロ事件で、両脚を失った被害者であるジェフ・ボーマンの実話を映画化。第42回トロント国際映画祭でプレミア上映されました。

主演は『ナイトクローラー』などで知られる演技派俳優のジェイク・ギレンホールがジェフ・ボーマン役を熱演、演出を務めたのは『セルフィッシュ・サマー ホントの自分に向き合う旅』や『スモーキング・ハイ』のデビッド・ゴードン・グリーン監督が描くヒューマンドラマ。

3.映画『ボストン ストロング ~ダメな僕だから英雄になれた~』のあらすじ


© 2017 Stronger Film Holdings, LLC. All Rights Reserved. Motion Picture Artwork © 2018 Lions Gate Entertainment Inc. All Rights Reserved.

ボストンに暮らす27歳のジェフ・ボーマンは、今日である職場のコストコでローストチキンを焼いていたが、焼き上がりを知らせるタイマーを忘れて焦がしてしまいます。

上司や同僚たちにミスした理由をタイマーが鳴らなかったのせいにしますが、上司からたしなめられます。

その後片付けをジェフは同僚の女性に押し付け、2連敗中のレッドソックスを応援するために仕事帰りにやって来たのは、気の知れた仲間が集うバーでした。

ジェフは仲間と談笑をしていると、偶然、何度も別れては縁を戻している元カノのエリン・ハーレイが姉妹でやって来ます。

ボストンマラソンにチャリティランナーとして出場するため、エリンは寄付金を募りに来たのです。

彼女に未練があるジェフは、仲間が制するも男前が良いところを見せようと、バーにいる客たちに呼びかけ、「ランナーの彼女は病院で働く素敵な女性だ、ビール一杯をガマンしての2ドルを寄付してくれ」と、寄付金集めを助けます。

しばらくして、エリン姉妹は車に乗って帰ろうとすると、その後を追いかけたジェフは、翌日に手作りのポスターを作って応援に行くことを無理矢理に約束します。

ジェフの熱意とは裏腹に、毎度の約束破りの彼の話だと聞き流すエリン。彼女は約束をしても必ず守れない彼のいい加減さを知っているのです。

2013年4月15日、ボストンマラソン当日。

ゴール地点近くにギリギリの時間でやって来たジェフは、応援で湧き返る人混みのなか入り、エリンのゴール到着を待っていました。

すると、サングラスをかけた奇妙な男がジェフの前を通り過ぎます。直後、2度の爆発が発生。

ジェフの思いの家族や仲間は居ても立っても居られずに、不安と怒りを抱えて緊急輸送された患者でごった返す病院にやって来ました。

ジェフの命は無事であると、担当医に伝えられたジェフの母親パティでしたが、それもつかの間。両脚は切断された重体であることが告げられます。

やがて、意識が戻ったときにはすでに病院のベッドの上であったジェフ。

意思の疎通が困難にありながらも、ベット脇で見守ってくれる友人にペンとメモ帳を用意させ、必死の思いで「犯人のみた」と警察を呼ぶことを頼みます。


© 2017 Stronger Film Holdings, LLC. All Rights Reserved. Motion Picture Artwork © 2018 Lions Gate Entertainment Inc. All Rights Reserved.

やがて、ジェフの証言もあって、4日後にテロ事件の犯人は逮捕されます。

そのような状況で弱り切ったジェフの傍を離れずに支える元カノであるエリンでした。

珍しくジェフが約束を守り、応援に来てくれたことで事件に巻き込まれたという責任の重さに、エリンは深く胸を痛め自責の念を抱いています。

そして、ジェフの切断した両脚の包帯を、いよいよ外す日になるのですが…。

4.映画『ボストン ストロング ~ダメな僕だから英雄になれた~』の感想と評価


© 2017 Stronger Film Holdings, LLC. All Rights Reserved. Motion Picture Artwork © 2018 Lions Gate Entertainment Inc. All Rights Reserved.

ダメ人間が再生するリサイクル

この映画では、ジェイク・ギレンホールは演じるジェフ・ボーマンが、ボストンの郊外にあるコストコで働く場面から物語が始まります。

ボーマンは建物の外にある大きなダスト箱に、調理で出たゴミを捨てに行くのです。

なぜ、この映画の主人公は、「ゴミ出しという行為」から映し出され映画が始まるのでしょう。

日常的な何気ない営みのワン・シーンではありますが、ここで主人公ボーマンは「いらなくなった物を捨てる」という記号から、「自身も捨てられた人物」であるということを示しているのではないでしょうか。

この作品で初めてジェイク・ギレンホールが映し出される登場シーンが、要らない不要な人間像なのです。

そのことは、しばらく物語が進むとすぐに分かるのですが、元恋人のエリン・ハーレイに3回も捨てられた、時間にルーズな人物であることが示されます。

ジェイク・ギレンホールが演じたボーマンは、やはり、不必要なゴミと同じようだとわかります。

しかし、それだけでは映画の物語にはならないので、ゴミのようなダメ人間がどのように再生するか?

この映画は3Rである、Reduce(リデュース)、Reuse(リユース)、Recycle(リサイクル)といった、人間再生の物語です。

そこにこそ、どんな人間も様々であり、不要な人はいないのだというアメリカンスピリッツがある、いや、“ボストン ストロング”というボストン魂があるのではないでしょうか。

ボーマンはコストコのチキンをなぜ焦がすか?


© 2017 Stronger Film Holdings, LLC. All Rights Reserved. Motion Picture Artwork © 2018 Lions Gate Entertainment Inc. All Rights Reserved.

このことはズバリ、自爆テロ事件の予兆を示しています

ゴミを捨てに行ったボーマンは、タイマーもかけずにローストチキンのオーブンをそのままにいきました。

チキンを焼き過ぎたのは、“ゴミのようなダメ人間”である、チキン野郎のボーマンを投影したものです。

つまり、ダメ人間でチキン野郎な彼が、そのうちに焦げるということを表現した予兆や、時限タイマーではないなどブラック・ユーモアとして捉えることができるでしょう。

このような粋な演出が見られる時点で、本作『ボストン ストロング ~ダメな僕だから英雄になれた』は、後々までストーリー展開も飽きさせることなく、笑いや涙で見せてくれる作品です。

笑いと感動のバランスが見事で、決して劇場で見ても損のない、娯楽作品としてもヒューマンドラマとしても高い表現力を持った作品です。

さて、ボーマンは地元のボストン・レッドソックスという球団のマニアックなファンです。

ボーマンは自爆テロ事件で両足の切断を余儀なくされますが、大好きなレッドソックス(赤い靴下)はもう履くことはありませんね。

これは本作のなかでも、ブラックユーモアとして赤い靴下をワン・ショット見せる場面も登場します。見逃さないでね。

さて、これは人間の強い生き方への再生の物語。ジェフ・ボーマンがレットソックス球団と、どのような関係になるのかにも要注目です!

まとめ


© 2017 Stronger Film Holdings, LLC. All Rights Reserved. Motion Picture Artwork © 2018 Lions Gate Entertainment Inc. All Rights Reserved.

本作の主演を務めたのは、映画『ノクターナル・アニマルズ』や『ナイトクローラー』など、話題作への出演が続くジェイク・ギレンホール。

ジェイクはこの映画に賭ける思いも大きく、プロデューサーとしても参加しています。

また、実在モデルとなったジェフ・ボーマンと映画の撮影前から密にコミュニケーションを図り、彼の人間としての本質を模索する徹底ぶりで演技力の裏付けを構築させています

“ゴミのようなダメ人間”と書いて紹介してきましたが、それは実在のボーマンにとっては大きな事実であり、映画を観たあなたには一つの例えの比喩のような存在です。

人はゴミであるか、そうでないか、不必要という価値を決めるのは、その人自身の生き方次第です。

この作品の劇中に、夜の公園でボーマンと友人たちと過ごし、ドライブに行くシークエンスがあります。

価値の有る無しを超えた青春的なグラフティも、またオススメな場面です。

実話映画『ボストン ストロング ~ダメな僕だから英雄になれた~』は5月11日(金)より、TOHOシネマズシャンテほか全国ロードショー

揺ぎない実話のストーリーに裏付けされた、笑いと涙のヒューマンドラマの感動作。ぜひ、お見逃しなく!

関連記事

ヒューマンドラマ映画

『雪の花』原作ネタバレあらすじと感想評価。実写化で主演の松坂桃李が疫病との闘いに勝利する理由を解説!

吉村昭の天然痘と闘った町医の物語『雪の花』が待望の映画化に 小説家吉村昭が1988年に発表した『雪の花』。江戸時代末期を舞台に、数年ごとに大流行して多くの人命を奪う天然痘と闘った一人の町医者の実話を描 …

ヒューマンドラマ映画

映画『ネクストドリーム』ネタバレあらすじ感想とラスト結末の評価。音楽業界のスター歌手とアシスタントのつながりと信頼を描く!

ハリウッドの音楽業界を舞台に人とのつながりや絆の大切さを描く 『フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ』のダコタ・ジョンソンと、ダイアナ・ロスの娘トレイシー・エリス・ロスが主演を務めたヒューマンドラマ『ネ …

ヒューマンドラマ映画

映画『ナポリの隣人』あらすじネタバレと感想。イタリアの名匠ジャンニ・アメリオがあなたに送る”絶望の一品”

映画『ナポリの隣人』は、2019年2月9日(土)より、岩波ホールほか全国順次公開。 「もうやめてくれ」、そう呟きたくなるほどの絶望と孤独。 人間と社会の闇がリアルに描かれた「21世紀のネオリアリズモ」 …

ヒューマンドラマ映画

映画『センセイ君主』あらすじとキャスト。主題歌TWICEのオリジナル MVも話題に

『ヒロイン失格』に続く、幸田もも子原作コミックスの実写化。 冷静沈着でヒネクレ者の数学先生に恋をしてしまった、ちょっとおバカだけど何事にも全力投球なパワフル女子高生のPOPでキュート! そして少々イタ …

ヒューマンドラマ映画

韓国映画『天命の城』あらすじネタバレと感想。ラスト結末も

韓国映画『天命の城』は、6月22日(金)より、TOHOシネマズシャンテほか全国ロードショー! 『王になった男』以来のイ・ビョンホン主演の本格時代劇。清の侵攻を受けた李氏朝鮮6代王仁祖は南漢山城に籠城作 …

【坂井真紀インタビュー】ドラマ『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』女優という役の“描かれない部分”を想像し“元気”を届ける仕事
【川添野愛インタビュー】映画『忌怪島/きかいじま』
【光石研インタビュー】映画『逃げきれた夢』
映画『ベイビーわるきゅーれ2ベイビー』伊澤彩織インタビュー
映画『Sin Clock』窪塚洋介×牧賢治監督インタビュー
映画『レッドシューズ』朝比奈彩インタビュー
映画『あつい胸さわぎ』吉田美月喜インタビュー
映画『ONE PIECE FILM RED』谷口悟朗監督インタビュー
『シン・仮面ライダー』コラム / 仮面の男の名はシン
【連載コラム】光の国からシンは来る?
【連載コラム】NETFLIXおすすめ作品特集
【連載コラム】U-NEXT B級映画 ザ・虎の穴
星野しげみ『映画という星空を知るひとよ』
編集長、河合のび。
映画『ベイビーわるきゅーれ』髙石あかりインタビュー
【草彅剛×水川あさみインタビュー】映画『ミッドナイトスワン』服部樹咲演じる一果を巡るふたりの“母”の対決
永瀬正敏×水原希子インタビュー|映画『Malu夢路』現在と過去日本とマレーシアなど境界が曖昧な世界へ身を委ねる
【イッセー尾形インタビュー】映画『漫画誕生』役者として“言葉にはできないモノ”を見せる
【広末涼子インタビュー】映画『太陽の家』母親役を通して得た“理想の家族”とは
【柄本明インタビュー】映画『ある船頭の話』百戦錬磨の役者が語る“宿命”と撮影現場の魅力
日本映画大学