愛する妻をテロで亡くした夫が綴る決意のメッセージ
2015年のパリ同時多発テロ発生から2週間の出来事を綴った世界的ベストセラーを映画化した『ぼくは君たちを憎まないことにした』が、2023年11月10日(金)よりTOHOシネマズ シャンテほか全国公開となります。
アカデミー賞プロデューサーが贈る、心揺さぶる実話の見どころをご紹介します。
映画『ぼくは君たちを憎まないことにした』の作品情報
【日本公開】
2023年(ドイツ・フランス・ベルギー合作映画)
【原題】
Vous n’aurez pas ma haine(英題:You Will Not Have My Hate)
【監督・脚本】
キリアン・リートホーフ
【製作】
ヤニーネ・ヤツコフスキー、ヨナス・ドルンバッハ、マーレン・アーデ
【製作総指揮】
サラ・ナーゲル、イザベル・ビーガント
【原作】
アントワーヌ・レリス著「ぼくは君たちを憎まないことにした」(ポプラ社・刊)
【キャスト】
ピエール・ドゥラドンシャン、カメリア・ジョルダーナ、ゾーエ・イオリオ、トマ・ミュスタン、クリステル・コルニル、アン・アズレイ、ファリダ・ラウアジ、ヤニック・ショワラ
【作品概要】
2015年のパリ同時多発テロ事件で妻エレーヌを失ったジャーナリストのアントワーヌ・レリスが、事件発生から2週間の出来事を綴った「ぼくは君たちを憎まないことにした」を映画化。
アントワーヌを『万能鑑定士Q -モナ・リザの瞳-』(2014)、『エッフェル塔 創造者の愛』(2021)のピエール・ドゥラドンシャン、エレーヌをシンガーソングライターでもあるカメリア・ジョルダーナがそれぞれ演じます。
監督は『陽だまりハウスでマラソンを』(2013)のキリアン・リートホーフ。『スペンサー ダイアナの決意』(2022)を手がけたヤニーネ・ヤツコフスキー、ヨナス・ドルンバッハ、マーレン・アーデの3人が製作に着手しました。
本作は2023年ロカルノ映画祭観客賞、Film Festival Cologne 2022 NRW Film Award、そして2023年ドイツ映画批評家賞男優賞に、それぞれノミネートされました。
映画『ぼくは君たちを憎まないことにした』のあらすじ
2015年11月13日金曜日。ジャーナリストのアントワーヌ・レリスは息子のメルヴィルと一緒に、仕事に急ぐ妻のエレーヌを送り出します。
帰宅した彼女はその夜、パリ中心部のコンサートホール、バタクランで行われるライブに向かうも、その会場でテロ事件が発生し、命を落としてしまいます。
誰とも悲しみを共有できない苦しみと今後の育児への不安をはねのけるように、アントワーヌは妻の命を奪ったテロリストへ向け、Facebookにメッセージを書きはじめます。
「息子と2人で今まで通りの生活を続ける」という彼の決意表明は全世界に拡散され、予期せぬムーヴメントを起こしていき…。
映画『ぼくは君たちを憎まないことにした』の感想と評価
愛する人が、予期せぬコラテラル・ダメージ(攻撃対象外の者が意図せず被る犠牲)で突然この世からいなくなってしまったら、あなたはどうしますか。
爆破テロで妻子を失った男が仇を討とうと首謀者の本拠地に乗り込む『コラテラル・ダメージ』(2002)でも描かれたように、悲しみに暮れるとともに「目には目を歯には歯を」とばかりの復讐心に囚われてしまうかもしれません。
2015年11月13日に起こった、130名もの死者を出したパリ同時多発テロ事件。中でもヴォルテール大通りにあるバタクラン劇場では90名という最大の犠牲者を出ましたが、その中にはアントワーヌ・レリスの妻エレーヌも含まれていました。
悲しみ、憎しみ、不安といったさまざまな負の感情に苛まれつつ、目の前にいる幼い息子のメルヴィルを1人で育てていく現実と向き合うこととなったアントワーヌ。復讐心に囚われてもおかしくなかった彼が取った行動は、Facebookにメッセージを記すことでした。
本作『ぼくは君たちを憎まないことにした』は、事件発生からおよそ二週間の出来事を綴ったアントワーヌの回顧録を映画化したものです。
一晩で20万人以上がシェアし、やがて新聞・テレビでも扱われるほどの反響を呼んだアントワーヌの「憎しみを贈らない」メッセージをまとめた原作の文体は、まるで詩集を読んでいるかのような印象を受けます。
原作を読んですぐさま映画化を即決したというキリアン・リートホーフ監督は、そんなアントワーヌの揺れ動く心情や精神状態をドラマティックに演出。加えて原作では細かく触れられていない家族との触れ合いを追加しています。
もし同じようなコラテラル・ダメージが自分の身に起きたら…という不安に駆られたというリートホーフ監督。メルヴィルと同年代の娘の親でもある彼は、アントワーヌの心情に寄り添った作劇に着手しました。
まとめ
日本で行われたアントワーヌ・レリス本人の会見
第二次世界大戦終結直後、武装したユダヤ人で編成された実在のナチス狩り部隊を描いた『復讐者たち』(2021)。彼らは当初、「復讐こそ正義」という名目でナチス残党、さらにはドイツ人を抹殺しようとしますが、やがて血を流さない最大の復讐方法「生きること」を見出します。
それは、アントワーヌがテロリストたちに綴ったメッセージと通じます。憎悪からは何も生まれない。憎悪に取り込まれたらテロリストと同じになってしまう。それよりも息子と生きていくこそが、不信と暴力に対する武器なのだ、と。
またアントワーヌは、メッセージは自分自身に向けて書いたものでもあると答えています。黙っていたら負の感情に囚われてしまいそうになる、そんな自分を律する戒めとしたのです。
同時多発テロから1年後の16年11月12日。バタクラン劇場はスティングのコンサートで復興します。彼が1曲目に歌ったのは、「暴力は何も生まないし、怒りに囚われてしまうと成す術がない」という人間の脆さを謳った「フラジャイル」でした。
絶望の中から希望を見出した親子の実話を、ぜひともその目で確かめてください。
映画『ぼくは君たちを憎まないことにした』は、2023年11月10日(金)よりTOHOシネマズ シャンテほか全国公開。