映画『アンドレア・ボチェッリ 奇跡のテノール』は、11月15日(金)より、新宿ピカデリーほかにて全国ロードショー
映画『アンドレア・ボチェッリ 奇跡のテノール』は、世界に冠たるテノール歌手アンドレア・ボチェッリの半生を描いた伝記映画です。
主演は、『ゲーム・オブ・スローンズ』のトリスタン・マーテル役で知られるトビー・セバスチャン。
本作は、ボチェッリが執筆した自伝小説に基づいて映画化され、『イル・ポスティーノ』のマイケル・ラドフォードが監督を務めました。ボチェッリ自身が劇中の曲を歌い、カメオ出演もしています。
映画『アンドレア・ボチェッリ 奇跡のテノール』の作品情報
【公開】
2018年(イタリア映画)
【原題】
La Musica del Silenzio (英題:The Music of Silence)
【監督】
マイケル・ラドフォード
【キャスト】
トビー・セバスチャン、ルイザ・ラ二エリ、ジョルディ・モリャ、エンニオ・ファンタスティキーニ、フランチェスカ・プランディ、アントニオ・バンデラス
【作品概要】
『アンドレア・ボチェッリ 奇跡のテノール』は、アンドレア・ボチェッリ執筆の自伝『沈黙の音楽』を基に製作。
監督のマイケル・ラドフォードは、『イル・ポスティーノ』と『トレヴィの泉で二度目の恋を』でもタッグを組んだアンナ・パヴィニャーノと本作の脚本を共同執筆。
アンドレア・ボチェッリの意向は撮影に反映され、気分転換に実生活で行う乗馬が劇中に盛り込まれています。
映画『アンドレア・ボチェッリ 奇跡のテノール』のあらすじ
イタリア、トスカーナに住むサンドロ・バルディと妻・エディに、1958年の9月長男・アモス(アンドレア・ボチェッリ)が誕生。
サンドロは、弟・ジョヴァンニ等他の親族を連れてエディとアモスに会いに病院へ急ぎます。
半年後、エディは四六時中泣いてばかりの息子に異変を感じ、夫と一緒にアモスを病院へ連れて行きます。診断は先天性緑内障。医師は、アモスには手術が必要だと告げます。
3時間を超える大手術を受けたアモスは、3才の時に再び手術を受けます。病院の壁を通して聞こえて来るオペラを聞き、平穏を感じるアモス。
弱視の息子を心配するエディですが、アモスは全く母親のいうことを聞かず憎まれ口ばかり。母親の料理が苦手なアモスを、乳母はアモスが慕うジョヴァンニの所へ連れて行きます。
ジョヴァンニは大好きなオペラを掛け、アモスは食事を摂ります。
サンドロとエディは、片目を失明した息子に点字を習わせるよう医師から助言を受けます。
アモスは家から離れた盲学校へ入学。寄宿舎で生活をすることに。挨拶をするよう母親から言われたアモスは、「居るつもりが無い所で挨拶なんかしない」と言い返します。
視覚障害を持つ生徒達を見たサンドロも、アモスは見えるのだからあの子達とは違うとエディに囁きます。
泣いて自分の手を離さないアモスをなだめ、エディは学校を後にします。車の中では1人サンドロが涙を流していました。
好き嫌いの多いアモスは、教師に隠れて出された昼食をクラスメートに食べてもらいます。
そして、彼にフランコ・コレッリの様な歌手になりたいとアモスは自分の夢を語ります。
4ヵ月後アモスは家族へ手紙を郵送。「僕は元気です。この辺りは寒く食事も腐っていて、ベッドのマットレスは固いですが、時々楽しいこともあります」
アモスは覚えたての点字で自分の名前を記載。家族や親戚はその点字を愛おしそうに撫でます。
合唱の時間、教師はアモスの類稀な歌声に気が付きます。学校の発表会が開催され、家族が見守る中アモスはソロを披露。
12才になったアモスは、体育の時間にゴールキーパーを務めます。しかし、生徒が蹴ったボールがアモスの目に直撃。片目の視力も一気に悪化。
ある日、昼間でありながら、まるで日食の様に視界が暗くなり、アモスは完全に視力を失います。
いつも気丈なアモスですが、「太陽が消えた」と大声で母親に助けを求めます。息子を両手で抱きしめるエディは、天に顔を向けて絶叫します。
‐その時母親は初めて泣きました。自分を失ったかのような様子でした‐
‐以前と何も変わっていないと自分に言い聞かせた僕は、誰の助けも借りませんでした‐
アモスは馬に乗ろうと椅子を引き寄せ、踏み台にして馬へ跨ります。側で息子の様子を黙って見守るサンドロ。
1971年、夏。サンドロとジョヴァンニはそれぞれの家族を連れて、旅行へ出掛けます。止められているにも拘らず、海へ泳ぎに行ってしまうアモス。見かねたジョヴァンニは、地元の歌唱コンテストへアモスを飛び入りで出場させます。
アモスは民謡『レジネッラ』を歌って勝ち残り、トスカーナ州のファイナルへ出場。
選んだ曲はナポリ民謡『オ・ソレ・ミオ』で、歌う前に叔父・ジョヴァンニへ捧げると挨拶。見事トスカーナ代表に輝いたアモスでしたが、変声期で声が上手く出せなくなります。
アモスは普通高校へ進学。アモスの視覚障害に全く気を配れない講師は、なぜこの学校へ来たのかと辛らつな言葉を浴びせます。
幼い頃にカフェで開催された歌唱コンテストで優勝したアモスを見ていたアドリアーノは偶然同じ学校の生徒で、アモスに手を差し伸べます。
‐優しく手を沿えて導いてくれたことは今でも記憶に残り、アドレアーノとは以降深い友情を築きます‐
3年後。アドレアーノが後ろに乗り、アモスは原付バイクを運転。毎晩酔っぱらって帰宅するアモスを心配する両親は、寝ずに待っていました。
テープに教科書の内容を音読して録音してもらい、アモスは学ぶことができるようになります。高校を卒業し両親の期待に応えようと、アモスは弁護士を目指し大学へ進学。
ギターが好きなアドレアーノとピアノを弾くアモスは、「アドレアモス」と名付けてコンビを組み、遠ざけていた音楽を再び始めます。
‐オペラ歌手になることはとっくに諦めていましたが、少なくとも音楽に関わりお金を少しでも稼げればと思ったのです‐
1978年。アモスはピアノバーで引き語りを始めます。ロックを弾けと失礼な態度の客やバーの騒音に我慢できなくなったラモスは、オペラ『椿姫』から『乾杯の歌』を即興で歌い出します。
静まり返る店内。慌てたオーナーをアモスに続けさせろと客が引き留めます。自分の誕生日でバーへ来ていたかエレナは、女友人に頼んでアモスとデュエットを頼みます。
2人の『乾杯の歌』に客達は拍手喝采。アモスとエレナはその後親しく付き合うようになります。
ある晩、ジョヴァンニは著名な批評家を伴いアモスが歌う『トスカーナの夜』を聞かせます。しかし、批評家は、オペラの才能が無いとアモスを扱き下ろし、盲目では周囲の状況判断が出来ない為舞台に立てる筈がないと言います。
ジョヴァンニは、グラスに入ったお酒を批評家に引っ掛け、アモスの声は特別だと声を荒げます。
傷ついたアモスは、その感情を振り切るように、夜の森を馬に乗って駆け抜けます。
エレナと家庭を築こうと考えたアモスは、遅れていた勉強を取り戻し弁護士になろうと1984年に大学を卒業。
そんなある日、バーのピアノを調律した男性から、アモスはオペラ歌手を目指すべきだと声を掛けられます。
変声期で歌う声を失ったと信じていたアモスにとって、才能を認めてくれる家族以外の他人でした。
調律氏は、フランコ・コレッリが師事したスペイン人マエストロ、スアレス・インフィエスタを紹介すると言います。自分が尊敬するコレッリの名前を聞いたアモスは、レッスンを受けることに思考を巡らせますが…。
映画『アンドレア・ボチェッリ 奇跡のテノール』の感想と評価
『アンドレア・ボチェッリ 奇跡のテノール』は、目の病を持って生まれたアンドレア・ボチェッリが苦悩と葛藤を超えてテノール歌手として一躍有名になる日までを描いています。
両親の言うことを聞かず人の手を借りるのを拒む幼少期のボチェッリですが、半生を通し、出会う人々によって導かれている詳細が物語られます。
しかし、世界最高峰のテノール歌手と呼ばれるボチェッリは、35才まで無名。劇中にある通り、ズッケロのコンサートをきっかけに欧州では大変有名になりますが、北米へ名前が届くのは、更にその後数年を要します。
90年代後半のある日、ラジオのパーソナリティは「ヨーロッパを席巻している」とボチェッリを紹介。
ボチェッリの為にフランチェスコ・サルトーリが作曲し、ルーチョ・クアラントットが作詞した『Con Te Partiro』、後に『Time To Say Goodbye』と改題された曲をかけました。
ボチェッリのテノールは衝撃的で、ラジオ局に歌手の名前と曲名を問い合わせるリスナーが殺到。この際、“盲目の”と前置きしないフェアな扱いでした。
アンドレア・ボチェッリはアメリカに旋風を巻き起こし、1988年にデビューを果たします。
翌年、40才を迎え点字で執筆したボッチェリの自伝『沈黙の音楽』が出版されます。「それまでのアドヴェンチャーを辿ることと、いったい自分に何が起きたのか振り返るため」の回顧録だとボチェッリは答えています。
映画化の申し出をたくさん受けましたが、映画という媒体をあまりよく知らなかった為長い間断っていたボチェッリは、本作の制作に意欲的に参加した。
アモスに扮するトニー・セバスチャンの発声練習風景も全てボチェッリのものです。
セバスチャンは、トスカーナに在るボチェッリの自宅へ招かれ5日間滞在。大成功を納めた天才テノール歌手の生活がとても質素であることに驚愕したと明かしています。
また、ボチェッリに歌を指導したマエストロを演じるアントニオ・バンデラスは、いぶし銀の演技力を披露。完璧なビートや間の取り方に加え、円熟味が増した表現力は特筆すべき点です。
以前盲目であることについてアンドレア・ボチェッリが語ったコメントを紹介。
「賢者が言うように、人生に重要なものごとの本質は、目に見えないものです」
まとめ
太陽光のコントラストを頼りに生活していたアンドレア・ボチェッリは、12才で完全に視力を失います。
自信を無くし自分を疑うボチェッリですが、彼の才能を信じる誰かが常に存在。そして、自分流を貫き続けたボチェッリは、気の遠くなる時間を経た30代後半、遂に世界へ羽ばたきます。
オペラを聴いたことが無くても、クラシック音楽に知識が無くても、アンドレア・ボチェッリの歌は、彼が心で見ている風景を聴衆の胸に響かせる力を秘めています。
本作は、世界最高峰のテノール歌手がそこへ辿り着く軌跡を描いた伝記映画です。