映画『ベルカント とらわれのアリア』は2019年11月15日(金)より、TOHOシネマズ日比谷ほか全国ロードショー公開!
2001年に出版され、PEN/フォークナー賞とオレンジ賞(現在のベイリーズ賞)のフィクション部門最優秀賞、Amazonベスト・ブック・オブ・ザ・イヤーを受賞したベストセラー小説を映画化した『ベルカント とらわれのアリア』。
1996年に実際に起こったペルー日本大使公邸占拠事件を題材に、テロ事件の最中で確かに生まれた人々の心の交流と、それによってもたらされた哀しみと感動を描きます。
ジュリアン・ムーア、渡辺謙、加瀬亮、クリスチファー・ランバートといった国際色豊かなオールスターキャストが結集しました。
映画『ベル・カント とらわれのアリア』の作品情報
【日本公開】
2019年(アメリカ映画)
【原題】
Bel Canto
【原作】
アン・パチェット
【監督】
ポール・ワイツ
【脚本】
ポール・ワイツ、アンソニー・ワイントラーブ
【キャスト】
ジュリアン・ムーア、渡辺謙、加瀬亮、クリストファー・ランバート、セバスチャン・コッホ
【作品概要】
2001年のAmazonベスト・ブック・オブ・ザ・イヤーに輝いたアン・パチェットのベストセラー小説『ベル・カント(Bel Canto)』の映画化作品。
『アリスのままで』(2014)ではアカデミー賞・ゴールデングローブ賞のW受賞を果たした演技派女優のジュリアン・ムーアが主演を務めたほか、共演には国際的に活躍する日本人俳優の渡辺謙と加瀬亮、『サブウェイ』(1985)「ハイランダー」シリーズ(1986〜1994)で知られるクリスチファー・ランバートなど、国際色豊かなキャストが集いました。
映画『ベル・カント とらわれのアリア』のあらすじとネタバレ
南米・某国の副大統領公邸。海外にも多くの工場を展開する実業家であるホソカワは、政府から直々にパーティーへと招かれます。
某国での工場の開業には消極的なホソカワでしたが、彼をもてなすために招待された世界的オペラ歌手ロクサーヌ・コスによるサロンコンサートも開かれると聞き、通訳のワタナベゲンを伴って遠い国へと来訪しました。ホソカワはロクサーヌ・コスの長年のファンだったのです。
まさにコスが歌声を披露しようとしたその時、銃声が鳴り響きます。
銃声の主は、パーティーに出席予定だった大統領の命を狙うテロリストたちでした。ところが、当の大統領は直前に出席をキャンセルしていました。
目論見が外れたテロリストたちは、ホソカワやコス、フランス大使ら各国のVIPたちを人質にして立てこもります。
政府側は「テロリストとの交渉は行わない」という態度をとります。それに対し、テロリストたちはコスに外に向かって歌声を披露させ、中にいる人質は重要人物であることを知らせます。
事態が刻一刻と進む中、公邸の中では奇妙な連帯感生まれつつありました。
ホソカワとコスはファンと歌手以上の距離感を持ち始め、ゲンもまたテロリストの少女カルメンと惹かれ合います。
人質たちは貧困と格差からまともな教育を受けてこず、それ故といえる少年テロリストたちの勤勉さと純粋さを誉めます。そしてテロリストたちも、教養と優れた人格を併せ持つ人質たちに敬意と親愛を抱くようになっていきました。
確かな絆が育まれてゆき、かりそめの家族のような形を創り上げてゆく人質とテロリストたち。
ある、天気の良い日。テロリストたちは温かい日の光が差す庭に人質たちを連れ出します。そして、転がっていたサッカーボールで即席のサッカーゲームに興じ始めます。
映画『ベル・カント とらわれのアリア』の感想と評価
実際に起きた日本大使公邸占拠事件をベースにしていることもあり、本作を通じて渡辺謙と加瀬亮という『硫黄島からの手紙』のコンビが再共演を果たしました。
さらに実力派女優ジュリアン・ムーアやフランスのベテラン俳優クリスチファー・ランバート、Netflixドラマ「ナルコス:メキシコ編」などメキシコ映画界で活躍するテノッチ・ウエルタやグアテマラ出身の新進女優マリア・メルセデス・コロイなどが揃いました。
「どの物語も白人俳優に脚色し直す」というハリウッドの慣例“ホワイトウォッシュ”への批判もあり、近年では非白人のキャラクターはそのまま非白人系の俳優が演じることが当たり前になってきました。
その一方で、「元々の原作に描かれている非白人系のキャラクター自体が、フィクションの度合いが強い」というパターンも多かったようにも感じてます。忍者、サムライ、芸者、旧日本軍、ジャパニーズヤクザ、コギャルJKなどがその分かりやすい典型です。
ですが本作における日本人キャラクターは、比較的現実感を感じられる、むしろ現実にも存在し得るであろう日本人として描かれています。
本作における渡辺謙の「日本人実業家」というキャラクターは『インセプション』でも演じているので定型的な日本人キャラクターではありますが、ホソカワは「冷徹なビジネスマン」と言うよりは「どこにでもいる中年男性」です。企業の長であるためそれ相応のバイタリティは持ち合わせていますが、決して飛び抜けた個性を持つ人間ではありません。
英語の壁がありますが、もっと普通の日本人が普通に観られるような作品が増えてくるのかもしれません。
まとめ
中盤から展開するテロリストと人質の交流劇は、よど号事件やパトリシアハースト事件などでも見られたと言われている「スットクホルム症候群」やモデルになった事件から名付けられた「リマ症候群」、極度の緊張状態における「つり橋効果」などの言葉で語ってしまえばそれまでのことです。
ただ、そこにあったのは「人の心と心の触れ合い」であったこともまた真実です。
本作はフィクションであることからもよりドラマティックになっていますが、根本の部分では決して変わっていないのでしょう。それゆえに、突撃後のテロリストの表情の切なさが際立ちます。
実際の事件では全員死亡し、人質にも死者が出ていますが、映画ではテロリストグループの少女・カルメンが生き残ります。そこからは、「せめてフィクションの中では一筋の希望の光を残しておきたい」という作者の想いを感じることができます。