中国、香港、台湾、マレーシア、フィリピン、ベトナム…8つの国と地域でタイ映画史上歴代No.1の大ヒットを記録!
中国で実際に起きたカンニング事件を題材にしたクライム青春エンタテインメント、『バッド・ジーニアス 危険な天才たち』をご紹介します。
映画『バッド・ジーニアス 危険な天才たち』の作品情報
【公開】
2018年(タイ映画)
【原題】
Bad Genius
【監督】
ナタウット・プーンピリヤ
【キャスト】
チュティモン・ジョンジャルーンスックジン、チャーノン・サンティナトーンクン、ティーラドン・スパパンピンヨー、イッサヤー・ホースワン、タネート・ワラークンヌクロ
【作品概要】
中国で実際に起こった集団不正入試事件をモチーフに、カンニングという題材をスリリングに描いたタイ産学園クライム映画。
長編第一作『Countdown』がいきなり第87回米アカデミー賞外国映画賞タイ代表に選ばれたナタウッド・プーンピリヤがメガホンを撮り、世界16の国と地域で大ヒットを記録。そのうち、8つの国と地域でタイ映画史上歴代興収第一位の座についた。
第27回タイ・アカデミー賞(スパンナホン賞)史上最多12部門授賞をはじめ、日本・アジアフォーカス福岡国際映画祭観客賞、カナダ・ファンタジア映画祭作品賞&監督賞など世界各国の映画祭で多数の賞を授賞。
映画『バッド・ジーニアス 危険な天才たち』のあらすじとネタバレ
小学校一年生からオールAの女子高生リンは、彼女を外国留学させてやりたいという父の希望で、進学校に転校します。
父は教師で決して裕福な家庭ではありませんでしたが、天才的な頭脳を持つ彼女を見込んだ学校は“特待奨学生”として入学を認めてくれました。
学生証の写真撮影時に仲良くなったグレースは将来女優になることを夢見て演劇部に在籍しています。ところが、成績が悪くこのままでは大好きな舞台に立てないと悩んでいました。
グレースに頼まれてリンは彼女の家庭教師になります。
テストの日、一緒に勉強した問題が出題されていました。ところが、後ろの席に座ったグレースは、すっかり忘れてしまったらしく、まったく解けていないようです。
劇に出られないのは可愛そうだと思ったリンは、消しゴムに答えを書き付けて靴に隠すと、後ろにいる彼女に向かって靴を蹴りました。
彼女も自分の靴を蹴ってリンに届けようとしましたが、靴は場違いなところに行ってしまいます。
緊張が走る中、リンは立ち上がって靴に歩み寄り、靴を履くとそのまま解答用紙を提出しに教壇に向かいました。
グレースはその間に、靴から消しゴムを取り出し、解答用紙のマークシートを黒く塗りつぶし始めました。
優秀な成績をとったグレースは、無事舞台に立つことが出来、リンに感謝します。
ところが、事はそれでは終わりませんでした。グレースのボーイフレンド、パットが自分もカンニングさせてくれと頼んできたのです。
良い成績をとれば親に車を買ってもらえるといいます。
しかも彼の友だち5人分もお願いしたいと頼まれます。最初は断っていたリンでしたが、パットは一回につき一人3000バーツ支払うと持ちかけてきました。
ためらうリンに、パットは自分の親だって学校に賄賂を払っているんだ、これはビジネスだと言ってリンを説得します。
話に乗ったリンは大勢の生徒にどのように解答を教えたらいいか悩んでいましたが、いいアイデアを思いつきました。“ピアノ・レッスン”方式という指の動きを暗号化して解答を教えるというものです。
この方法で、パットたちは高得点を上げることが出来、パットは自家用車を手に入れました。
テストのたびに、参加人数は増えていきました。リンが指を動かすと、近くの生徒が同じように動かし、遠くに座っている生徒も答案を知ることが出来るというふうに、“ピアノ・レッスン”方式は進化していました。
リンが手にいれる報酬もうなぎのぼりに増えていきました。
ある日、リンのあとに“特待奨学生”として入学したパンクという男子生徒に、一人の生徒がカンニングさせてくれと切羽詰まった様子で頼みにやってきました。
真面目なパンクはきっぱり断りますが、生徒は「ピアノ・レッスン方式は俺には読み取れないんだ」と思わず口走ります。パンクにはなんのことだかわかりませんでしたが、彼は不信感を持ちました。
テストが始まりました。ところがテストは二種類あり、ランダムで配られていました。リンには“テスト1”が配られており、その分は解答できますが、“テスト2”に関しては答えを送ることができません。
取り敢えず、大急ぎでテスト1の問題を全て解き、首の後ろに手を回し、人差し指を示し「テスト1」の解答を送る合図を出しました。
それを終えるとテスト2の問題用紙を持っている隣の生徒と用紙を交換し、テスト2の問題を解いていきますが、時間が残り僅かになってきました。
テスト2の解答を暗号で送り、なんとかぎりぎりで全て送ることが出来ました。
隣の席の男子生徒は、パンクにカンニングさせてくれるよう頼んだ生徒でした。まったく問題が解けずに困っていた彼は、思いがけずリンの解答が手に入り、自分の名前に書き換えて提出していました。
テストの後、校内放送でリンは呼び出されます。校長のところに行くと、パンクと男子生徒が座っていました。
パンクは男子生徒がカンニングをしていたと校長に告げたのです。
リンは彼に解答を教えたと校長に疑われますが、二人の問題は「1」と「2」の別の問題で、一旦は関係ないと判断されます。
ところが、リンの解答用紙に、「1」と「2」の両方の問題の計算が残されていたため、そのことを追求され、リンは弁明することができませんでした。
父親を呼び出され、退学にはしない代わりに奨学金を取り消されてしまいます。
シンガポール大使館が募っていた奨学生の資格も剥奪され、パンクに譲る羽目となってしまいました。
リンたちは高校3年生になりました。
グレースはパットの両親から、あなたがパットの勉強を見てくれるようになってから息子は見違えるほど成長したと褒められます。
「そこで提案があるのだが…」とパットの父は言いました。「息子を私と同じボストン大学に行かせたいと思っている。君も留学して息子の勉強を助けてやってほしい。費用は勿論私達が持つ」
そのためには世界各国で行われる大学統一入試<STIC>を二人共受けなくてはいけません。グレースは再びリンに頼ってきました。
「もう危ない真似はいや」とリンは断りますが、グレースから「パットは60万バーツ払うと言っているわ」と聞かされ、気が変わります。
リンは、このビジネスに乗る人をもっと集めてとパットに言うのでした。同じリスクを被るのなら利益は多い方が良い、と。
リンの作戦は時差を利用するというものです。オーストラリアとタイでは4時間の時差がある。リンがシドニーに飛んで先に問題を解き、答えを送るという作戦です。
「どうやって答えを会場から持ち出すんだ?」と尋ねられ、リンは答えました。「(答えを)記憶するわ。でも一人ではできない。仲間がほしい。」
パンクの実家は小さなクリーニング店を営んでいますが、機械が壊れて、母は手洗いで仕事をしている状態です。彼も仕事を手伝いながら、勉学に励む毎日でした。
ある日、パンクは家の前で、当て逃げをしただろうと男二人組に囲まれ、暴力を受けた上に、拉致されゴミ捨場に捨てられてしまいます。
入院したため海外留学への奨学金の選考会に行くことができず、夢だった留学を諦めなくてはなりませんでした。
ようやく退院して家に戻ったパンクのところにリンが訪ねてきました。彼女はカンニングビジネスの話を持ちかけますが、生真面目な彼は話にのりません。
「私達は生まれつきの負け犬。不公平じゃない? こっちが騙さなきゃ世界に騙されてしまう」
チャンスを失い、家のおんぼろ洗濯機を見たパンクはついに協力する決心をします。
彼女たちの計画は次のようなものでした。
携帯をトイレのタンクに隠し、休憩時間に携帯で解答を送る(リンとパンクが問題の半分ずつを覚えてそれぞれ送信する)。答えを示すのはバーコードの太さ。4セクションごとにそれぞれ鉛筆を用意し、そこに貼られたバーコードが解答になっている。
抜け目のないリンは、もしも疑いがかかったときの言い分まで練習していました。そこでパットが何気なく語った言葉から、パンクを二人組に襲わせたのが彼だとわかり、パンクは猛然と彼に殴りかかります。
パンクは計画を降り、リンもその事実を知って計画を中止しようと考えますが、パンクが戻ってきます。
「このままでは殴られ損だ。お金はもらう。お前が巻き込んだんだからお前が責任をとるんだ」とパンクはリンに言うのでした。
映画『バッド・ジーニアス 危険な天才たち』の感想と評価
カンニングの話と聞いて、コメディタッチの学園ものかと思っていたら、スリリングなサスペンス映画のような緊張感を味わいました。
カンニングの方法も、古典的なものから極めてユニークで独創的なものまで、その想像力に感心せずにはいられません。各国のメディアから“高校生版『オーシャンズ11』だ”と絶賛されたのも納得です。
始めは友だちのために行ったささやかな行為だったのですが、次第にエスカレートしていき、やがてそれは金銭が絡んだビジネスへと変わっていきます。
背景には、富裕層のクラスメイトと、奨学金をもらって学校に通うヒロイン・リンたちとの経済的、社会的格差があります。
娯楽映画としての面白さと、若者たちの未来への不公平さという社会問題提起が巧みにクロスし、監督の手腕を感じさせます。
ナタウット・プーンピリヤ監督は本作が二作目ということですが、『Countdown』(2012)というタイトルの長編デビュー作がいきなり米国アカデミー賞外国映画賞タイ映画代表に選ばれたという才人。
とりわけ、時差を使った、大学統一入試<STIC>での28分間に及ぶカンニングシーンは手に汗握る展開で、計画通りにいかないハプニングの連続に引き込まれずにはいられません。
試験を受けている苦学生の二人は天才的な能力を使い、果敢に挑みますが、彼らが直面するハードな事態と、その一方で、のんびりと、決して悪気はないのですが遊び半分で待機している富裕層の同級生たちとの落差があまりにも激しく、格差社会の象徴を見た気がします。
さらに、リンにとって、一連の行為は倫理感との闘いでもあり、その倫理観が、外側の甘い誘いで揺れ動いていくさまは“犯罪映画の面白さ”と“青春映画の危うさ”の両方を兼ね備えており、そんな複雑なヒロインを演じるチュティモン・ジョンジャルーンスックジンが大変魅力的です。
彼女がラストにとった行動は賛否を呼ぶでしょうが、これは自分自身の罪悪感からの開放ではなく、他者の救済を目的にしたものだと解釈しています。
他者とは勿論、自分が引っ張り込み、道を外してしまったあの友人です。そもそも彼女がカンニングに関わったのも、(別の)友だちを助けたいという善意からでした。
救済から始まった物語は紆余曲折を経て再び救済で閉じるのです。
まとめ
リンを演じたチュティモン・ジョンジャルーンスックジンはもともとモデルをしていたそうで、手足の長いスレンダーなスタイルが画面に映えます。
最初はいかにも垢抜けない高校生という姿で登場しますが、次第にたくましい顔つきになり、したたかさえ身につけた雰囲気をまとい始めます。
本作が大ヒットしたことで、現在は中国映画の撮影に参加しているとのことで、タイ国内のみならず、世界的に活動する女優に成長するかもしれません。
これをきっかけにタイ映画を観る機会が増えることでしょう。まずはナタウット・プーンピリヤ監督の長編第一作『Countdown』が観てみたいものです。