映画『アルプススタンドのはしの方』は2020年7月24日(金)より、シネマカリテほか順次全国ロードショー
映画『アルプススタンドのはしの方』は、兵庫県の東播磨高校の演劇部が第63回全国高等学校演劇大会で文部科学大臣賞を受賞したのち、全国の高校で上演され続け、浅草九劇での舞台化が反響を呼んだ名作戯曲を映画化した作品です。
監督は、『味見したい人妻たち』(2003)でデビューし、ピンク大賞の新人監督賞を受賞した城定秀夫。脚本を務めたのは奥村徹也。コメディ作品を多く上演し、その笑いのセンスとテンポの良さは本作の魅力の一つです。
映画『アルプススタンドのはしの方』は、それぞれ悩みを抱えながら自分を見つめ直す高校生たちの姿から、勇気と癒しをもらえる青春映画となっています。
CONTENTS
映画『アルプススタンドのはしの方』の作品情報
【公開】
2020年(日本映画)
【原作】
東播磨高校の演劇部教師 籔博昌による戯曲
【監督】
城定秀夫
【キャスト】
小野莉奈、平井亜門、西本まりん、中村守里、黒木ひかり、目次立樹
【作品概要】
監督を務めたのは城定秀夫。『味見したい人妻たち』(2003)でデビューし、ピンク大賞の新人監督賞を受賞。
その後『ガチバン』(2008)や『静かなるドン 新章』(2009)など映画作品をはじめ、数々のビデオ作品で監督、脚本を務めています。2017年から2019年までピンク大賞の作品賞を連続受賞し、100タイトルをも越える作品の監督を務める実力者です。
最近では、俳優佐藤二朗の演劇ユニット「ちからわざ」の舞台劇を、山田孝之主演で映画化した『はるヲうるひと』(2020公開予定)に、脚本協力で携わっています。
脚本を務めたのは奥村徹也。2014年に劇団献身を旗揚げし、コメディ作品を多く上演しています。その笑いのセンスとテンポの良さは本作の魅力の一つとなっています。
『アフロ田中』(2012)や『君が君で君だ』(2018)の監督を務めた松井大吾が率いる劇団ゴジゲンのメンバーとしても活躍中です。
舞台の映画化である本作は、安田あすは役の小野莉奈、田宮ひかる役の西本まりん、宮下恵役の中村守里がメインキャストとして続投しており、息の合った演技を見せています。
そこに、男子生徒役として絶妙なスパイスを加えているのが、藤野富士夫役の平井亜門。『左様なら』(2019)や『レイのために』(2020)などに出演している期待の若手俳優の一人です。
映画『アルプススタンドのはしの方』のあらすじ
夏の甲子園大会の観客席。吹奏楽部や応援団が賑わう中、人があまりいない隅の方に座った演劇部員の安田と田宮。事情により演劇の大会に出られなかった2人には、ぎこちなさが漂っていました。
野球のルールがよくわからない安田と田宮が何とはなしに観戦しているそばで、元野球部の藤野が腰を下ろし、いつの間にか3人で戦況を見守るようになります。
その少し離れた場所にいた宮下は、成績優秀ながら人付き合いが下手で遠慮がちに試合を見ていました。強豪校との試合で苦戦する母校の野球部を見つめながら、それぞれの本音がこぼれはじめます。
映画『アルプススタンドのはしの方』の感想と評価
アルプススタンドだけで見せる75分間のドラマ
本作は甲子園の試合を一切見せることなく、観客のセリフと目線だけで試合運びを伝えます。はじめは全く野球に興味がなかった女子高生がしだいに興奮して観戦する姿は臨場感に溢れています。
また、はじめはルールも分からなかった女子高生が会話の中で少しずつルールを覚えていくので、普段野球を見ない人でも理解できるようになっています。
解説というほど堅くなく、興奮交じりの実況術がとても巧みで思わず目の前にマウンドが見えるような気がしてしまうのです。
登場人物それぞれの背景や悩みを描きつつ、甲子園の一試合のなかでクライマックスを迎える凝縮された75分間は無駄がなく見事です。
諦めて生きている大人たちに刺さる
本作の主人公は高校生ですが、これは青春時代を既に通りすぎた大人たちに向けられた映画といえます。
自分の能力の限界を勝手に決めて諦めてしまったり、自分よりできる他者と比べて頑張っても無駄だと投げ出したりすることは、社会生活を送る大人たちにとってよくあることではないでしょうか。
沢山の壁にぶつかって失敗や挫折を繰り返すうちに良くも悪くも学んでしまう。それでも、自分が今できることを精一杯することで、他の誰かに対してではなく自分を納得させることができるということを本作は思い出させてくれます。
単純に爽やかな青春映画ではなく、社会を生き抜く大人たちへのエールと受け取ることができる映画です。
そして本作では、「できる」側の心境にも触れているところがポイントです。あるキャラクターが思わず叫んだセリフは正論過ぎて頷かずにはいられません。
このキャラクターの他にも様々な立場の人物が登場するので、観る人によって違った捉え方ができる作品になっているといえます。
まとめ
画像:コミカライズ版作者・森マシミによるイラスト
『アルプススタンドのはしの方』は、劣等感やコンプレックスで身動きが取れなくなっている大人たちに、深呼吸する余裕と挑戦する勇気を与えてくれるような映画です。
アルプススタンドの隅っこで汗をかき、それぞれの思いに胸を震わせる彼らの顔に爽やかな風が当たるのを見ていると清々しい気持ちになるでしょう。
また、3 月19日から無料WEB漫画サイト“やわらかスピリッツ”誌上で森マシミによって、本作のコミカライズ版が連載されているのも注目です。
映画『アルプススタンドのはしの方』は2020年7月24日(金)より、シネマカリテほか順次全国ロードショー。(*当初予定だった6月19日より変更)