映画『アルプススタンドのはしの方』が2020年7月24日(金)シネマカリテほか全国順次公開
映画『アルプススタンドのはしの方』は、2019年6月に浅草九劇で上演され、同年度内に上演された演劇から選出される‟浅草ニューフェイス賞”を受賞した舞台『アルプススタンドのはしの方』の映画版です。
原作は兵庫県東播磨高校演劇部が上演し、第63 回全国高等学校演劇大会で最優秀賞に輝いた名作戯曲。監督はピンク映画、Vシネマの名作を100 本以上手がける業界注目の名匠・城定秀夫が務めます。
小野莉奈、西本まりん、中村守里、目次立樹が舞台に引き続き出演、平井亜門、黒木ひかりが新たに参加し、舞台版とは異なる趣を出しています。第15回大阪アジアン映画祭正式出品作品です。
CONTENTS
映画『アルプススタンドのはしの方』の作品情報
【公開】
2020年(日本映画)
【原作】
籔博晶、東播磨高校演劇部
【監督】
城定秀夫
【脚本】
奥村徹也
【キャスト】
小野莉奈、平井亜門、西本まりん、中村守里、黒木ひかり、目次立樹
【作品概要】
2019年6月に浅草九劇で上演され、同年度内に上演された演劇から選出される”浅草ニューフェイス賞”を受賞した舞台『アルプススタンドのはしの方』の映画版となります。
原作は兵庫県東播磨高校演劇部が上演し、第63 回全国高等学校演劇大会で最優秀賞に輝いた名作戯曲。監督はピンク映画、Vシネマの名作を100 本以上手がける業界注目の名匠・城定秀夫が務めます。小野莉奈、西本まりん、中村守里、目次立樹が舞台に引き続き出演、平井亜門、黒木ひかりが新たに参加し、青春時代を謳歌し損ねた大人たちのための青春映画の傑作が誕生しました。
映画『アルプススタンドのはしの方』のあらすじ
高校野球夏の甲子園大会一回戦。夢の舞台でスポットライトを浴びている選手たちを観客席の端っこで見つめる冴えない4人。
夢破れた演劇部員・安田と田宮、遅れてやってきた元野球部・藤野、帰宅部の成績優秀女子・宮下。安田と田宮はお互い妙に気を使っており、宮下はテストで吹奏楽部部長・久住に学年一位を明け渡してしまったばかりです。
藤野は野球に未練があるのかふてくされながらもグラウンドの戦況を見守っています。
口癖のように「しょうがない」を連発し、最初から諦めていた4人でしたが、それぞれの想いが交差し、先の読めない試合展開とともに、いつしか応援に熱を帯びていきます。
映画『アルプススタンドのはしの方』の感想と評価
抜群の間の取り方で繰り広げる会話劇
埼玉県の公立高校に通う安田あすは(小野莉奈)と田宮ひかる(西本まりん)は、演劇部に所属する高校3年生です。自分たちの高校が夢の甲子園へ出場したので、はるばる応援にやってきました。
しかし演劇部と違い、華やかな舞台で活躍をする野球部に対して半分やっかみがあるのか、いまひとつ応援に力が入りません。
二人は応援席から少し離れたアルプススタンドのはしの方へ移動し、試合を見ながら他愛もないことを話し始めます。
彼女たちは野球の知識があまりなく、犠牲フライで点が入ったことが不思議な様子。「なんでボールを取ったのに、キャッチャーに投げるの? ボールを取った時点でアウトでしょ?」と、とんちんかんなやり取りをします。
そんな二人のもとに、遅れて元野球部の藤野富士夫(平井亜門)が現れ、少し離れた場所に学年トップの成績を誇りながら、いつも一人で行動をしている宮下恵(中村守里)が立っています。
甲子園へ応援に来ているのに試合の様子は一切映らず、安田、田宮、藤野、宮下の4人を中心に、時折、熱血教師・厚木や吹奏楽部の部長・久住智香(黒木ひかり)と吹奏楽部のメンバーが加わり、物語が進んでいきます。
いかにもいまどきの高校生といった会話が繰り広げられるのですが、彼女たちの会話は間の取り方が面白く、クスッと笑えるところが多々あります。
冒頭で安田と田宮が交わす野球に関するやり取りは、まるでコントのようです。
元野球部の藤野は、そんな安田と田宮に対して優しく試合の解説をしていきます。額に汗をしながらゼスチャーを交えて一生懸命解説するのですが、「よくわかんない」と一蹴されてしまうところは、思わず吹き出してしまいます。
そこに熱血教師である厚木修平(目次立樹)が加わると、さらにお笑い要素がパワーアップしていきます。
アルプススタンドのはしの方で、覇気なく座っている安田、田宮、藤野に対し「もっと声を出して応援しろーー!」と叫ぶ厚木の熱血教師ぶりは、大人からみても暑苦しいです。
「先生、うぜーよ」とでも言われるんだろうなあ……と思っていたら、「先生は腹から声が出ていないから、のどをやられますよ」と演劇部員らしい冷静なコメントをする安田に、ニヤリと笑ってしまいます。
そして5人それぞれの表情をうまくとらえるカメラワークで、じわじわ笑いがこみ上げる場面もあります。
安田と田宮が少し込み入った話をしている時に出くわしてしまい、気まずそうに立っている藤野に少しずつフォーカスしていく場面はとてもおかしく、こうした映像を撮ることができるのは、映画ならではの醍醐味でしょう。
考え、悩み、行動する等身大の高校生を表現
高校生がよく使う言葉として、「うざい」「マジで?」「超おかしいんだけど」といったものがありますが、安田、田宮、藤野、宮下は、こうした言葉遣いを一切しません。代わりに安田と藤野がよく使う言葉が「しょうがない」。
この言葉を使ってしまう、使わざるを得なくなってしまった理由が二人にはあり、物語が進んでいくうちに、この言葉が重要な意味を持つようになります。
演劇部の安田と田宮は仲が良いのですが、田宮が安田の顔色をうかがいながら話している印象があり、そのことに安田も気付いている様子。
二人の間に何かがあったことは間違いなく、安田は田宮に「こういうの、もうやめよう。しょうがないことだったんだから」と訴えます。
元野球部の藤野は、野球が好きなはずなのに、どこか冷めた目で試合を眺めています。野球部を辞めた理由を聞いてくる安田に対し「俺は正しいよね。しょうがないことだもん。」とその理由を、堰をきったように話し出します。
離れたところに立っていた宮下は、物語が進んでいくうちに3人との距離が縮まり、一緒に試合を見ることになります。
学年トップの成績を誇り、野球に興味のなさそうな宮下がなぜ応援に来たのか、安田と田宮は不思議に思っていたのですが、その謎が次第に明かされていきます。
そして物語の終盤、おとなしい宮下が「しょうがない」という言葉に対して、激しく反応をします。
物語に登場している高校生を見ていると、彼女たちは立派な大人なんだなとしみじみ感じます。相手の顔色を見て言葉を選んで会話をし、それぞれが自分の考えを持って悩み、苦しみながら行動しているからです。
この物語は、クスッと笑える中にも、高校生たちの繊細で切ない想いもふんだんに表現されているのです。
暑苦しい厚木から感じる大切なものとは?
しかし高校生は立派な大人だと感じる反面、まだまだ大人になりたてのいわゆる「新米」であることは否定できません。
そんな彼女たちが、甲子園のアルプススタンドであることに気付くきっかけを与えるのは、教師の厚木です。
茶道部の顧問で、野球部とはかかわりがないのに、甲子園で奮闘する野球部のメンバーに熱い応援を送り続ける厚木。
冷静に試合を見ている安田、田宮、藤野に対しては、何度も「声を出せ!」と大声で訴え、一方、一人で試合を見ている宮下に対しては、優しく声を掛けます。
厚木が単に熱血教師というのではなく、生徒一人ひとりをきちんと見つめている教師だということが分かります。
厚木がなぜそこまで熱い応援ができるのか、安田、田宮、藤野、宮下は不思議に思うのですが、次第にその想いが彼女たちに通じていきます。
最初は「この暑苦しい教師は一体なんだ?」と思うのですが、次第に彼の姿から、遠い昔に置き忘れてきた大切な何かに気付いている自分がいました。
まとめ
画像:コミカライズ版作者・森マシミによるイラスト
映画版では、アルプススタンドのはしの方で会話をする4人の他に、吹奏楽部の部員たちの様子も描かれています。
中でも吹奏楽部の部長である久住が絡んでくることで、物語に盛り上がりを見せ、より青春っぽさが増していきます。
野球部、演劇部、吹奏楽部、そして帰宅部。それぞれに所属する高校生たちが、何を想い、何に傷つき、何を見出していくのか。
その過程を見届けた時に、鼻の奥が少しだけツーンとして、胸に熱いものがこみ上げてくる感動を味わうことができるでしょう。
映画『アルプススタンドのはしの方』は、2020年7月24日(金)シネマカリテほか全国順次公開。
(*当初予定だった6月19日より変更)