世の中は「クソムシ」と「変態」で出来ている。
あなたはどっち!?
テレビアニメ化もされるほどの人気コミック、押見修造の『惡の華』が、伊藤健太郎と玉城ティナの共演で実写映画化となりました。
原作に惚れ込んだ井口昇監督が、実写化を熱望。原作から抜け出したようなキャラ設定と、世界観が見どころです。
ボードレールの詩集「惡の華」を心の拠り所に生きる中学生の男の子。自分を理解できる人間はこの町にいない。
そんな彼が、ひとりの少女と交わした「契約」によって、その関係に心酔していくことに。
思春期のぐちゃぐちゃどろどろの感情が溢れだす。映画『惡の華』を紹介します。
映画『惡の華』の作品情報
【日本公開】
2019年(日本映画)
【原作】
押見修造
【監督】
井口昇
【キャスト】
伊藤健太郎、玉城ティナ、秋田汐梨、飯豊まりえ、北川美穂、佐久本宝、田中偉登、松本若菜、黒沢あすか、高橋和也、佐々木すみ江、坂井真紀、鶴見辰吾
【作品概要】
2009年から別冊少年マガジンで連載され大きな話題を呼び、テレビアニメ化、舞台化と続いた、押見修造のコミック『惡の華』が待望の実写映画化。
監督は原作に惚れ込み実写化を実現した井口昇監督。キャストには、伊藤健太郎、玉城ティナほか、旬な若手俳優が揃いました。
伊藤健太郎は少女コミック原作の『覚悟はいいかそこの女子』に続く、井上監督作品2度目の出演となりました。
映画『惡の華』のあらすじとネタバレ
「春日君。バイバイ」。僕は、あの時死んだ。
高校生になった春日高男は、灰色にしか見えないこの町でただ生きていました。3年前のあの日から止まったまま。
3年前。中学生の春日は、ボードレールの詩集「惡の華」を愛読する文学少年です。山に囲まれた閉鎖的なこの町に、自分ほどボードレールを理解できる者はいない。そして、自分を本当に理解できる人間はいない。思春期の閉そく感に苛まれていました。
春日はクラスの人気者・佐伯奈々子をミューズと崇め、密かに思いを寄せています。体育の時間、佐伯のブルマー姿にざわつく男子達を止めながらも、目で追ってしまう春日。
その日の帰り道、「惡の華」を教室に置き忘れた春日は、ひとり教室に戻ります。教室には、佐伯の体操着が落ちていました。
春日は立ち去ろうとするも、衝動的に手を出してしまいます。佐伯と名前が縫い付けらた上着、そして見惚れた紺のブルマーが手の中に。顔を寄せ、嗅ぐ匂い。「シャンプーの匂い」。
その時、物音が聞こえます。慌てた春日は佐伯の体操着を持ち帰ってしまいます。まさに、惡の華。春日は体操着を広げ、返そうと決意します。
次の日の学校では「変態が出た」と問題になっていました。タイミングを逃した春日は、自転車に乗り帰宅を急ぎます。
そこに現れたのは、クラスメイトの仲村佐和でした。「春日くーん。私見てたんだよ。バラされたくなかったら、契約しよ」。
眼鏡女子で一見おとなしそうに見える佐和でしたが、担任にむかって「うるせえ!クソムシが!」と怒鳴り散らす問題児でした。
佐和から出された課題は、変態としての気持ちを作文にして提出しろというものでした。「これにすべてがある」。と惡の華を差し出した春日に、佐和はイライラをぶちまけ、春日の服を脱がします。
そして、佐伯の体操着を無理やり春日に着せる佐和。「この変態が!私はすべてを私の中でどろどろにぐちゃぐちゃにしたい。私も変態なんだよ」。
変態と罵られ、侮辱され、辱められた春日。放心状態の中で味わったことのない感情が渦巻きます。
そんな中、春日は佐伯と本屋デートにこぎつけました。「惡の華」を佐伯にプレゼントした春日は、告白します。はいと返事をする佐伯。
憧れの彼女と付き合えることになった春日。白シャツの下には、佐伯の体操着を着ていました。
「春日君のすべてを受け入れたい」と言ってくれる佐伯の純真さに、自分の罪に耐えきれなくなった春日は、佐伯にすべてを告白してしまいたいという思いに苦しみます。
佐和は、そんな猛烈に悩む春日を連れ、夜の学校へとやってきます。
「黒板に懺悔を書け」と命令する佐和。「普通に戻りたい」と泣く春日に佐和は、「つまんない」を連呼。「契約は終わり。二度と口聞くな」。
帰ろうとする佐和を引き留めたのは春日でした。荒れ狂う感情のまま、教室中に文字を書きまくる春日。佐和も墨汁を持ち出し参戦します。「もっと、もっと!」味わったことのない高揚感。
「春日君は本当に変態だね」。教室の中央に書かれた目玉の付いた「惡の華」。2人は寝そべり、手を繋ぎ合うのでした。
次の日、学校中は大騒ぎとなりますが、誰の仕業かは分からないままでした。たまらず逃げ出す春日。どこにも俺の居場所はないんだ。
待っていてくれたのは、やっぱり佐和でした。「行こう。山の向こうへ」。自転車に乗り、町を抜け出そうとする2人。
途中の大雨で雨宿りをしていた2人の元に、「惡の華」を持った佐伯がやってきます。「付き合ってるのに、何で仲村さんの所に行くの?」。佐伯の心の叫びです。
「春日君は変態なんだよ」。佐伯の前で、佐和に服を脱がされる春日。体操着を盗んだことも、それを着ていたことも暴露されます。「それでも変態とは思わない」と佐伯も意地です。
「うわー!」全裸で叫ぶ春日。「惡の華だって本当はわからない。読むことで自分に酔っていただけ。生身の佐伯さんと向き合うのが怖かった。でも、変態ですらないんだ。僕は空っぽなんだ!」
「もういい」。佐伯は去ります。「これ以上、私の魂をヅクヅクにしないで」。惡の華を破き捨て、佐和も去っていきました。
春日は、佐和を向こう側に連れて行けなかったことを後悔していました。春日の本当の目覚めはここからです。
映画『惡の華』の感想と評価
絶望の思春期を突き進む超変態狂騒劇『惡の華』。一人の少女との出会いが、自分の中に眠る欲望を目覚めさせる。
かつて、思春期の思いとは、これまで激しく燃え上がり、ぐちゃぐちゃでどろどろで、刺激的なものだったでしょうか。
欲望は人それぞれ違えど、思春期のややこしい感情を抱いた経験のある人には、共感できる変態部分がきっとあるはずです。
主人公・春日と佐和が目指していた「向こう側」。中学生の頃、住んでいる町や学校が世界のすべてで、そこで起こる小さな出来事に、いちいち心揺さぶられて過ごしていた、あの頃の閉塞感を思い出しました。
思春期の原動力。成長の段階で通る、性的欲望としての心的エネルギー、ビルドーの目覚め、そして解放。
この経験を通して人は、人間関係の適切な距離感を覚え、理性と感情のバランスが取れる大人へと成長していく…はずです。
実際は、自分の中の変態を上手く隠す方法を身に着けることが、大人になるということなのかもしれません。
本作には、様々なタイプの女子が登場します。変態女王様・仲村佐和。アイドル気質・佐伯奈々子。良き理解者・常盤文。
どのキャラもどうしようもなく愛しく、そしてリアルです。
佐伯奈々子は、春日の変態さも許す寛容さを持ち合わせていますが、その矛先が自分に向けられた感情なら受け入れられるも、他の女子に寄せる想いは許しません。クラスのマドンナ的存在がゆえに常に自分が注目されたいという願望が見えます。
佐伯奈々子役を演じた秋田汐梨が、まさにクラスのマドンナっぽい初々しさを見せてくれます。優等生がプライドをはがされ、病んでいく姿が痛々しいです。
常盤文は、理解力と寛容さに母性を感じます。結婚するなら、常盤文と思う男性が多そうです。春日と出会ったことで周りに合わせていた自分に気付き、共に成長して行こうとする姿勢が健気です。春日の過去の出来事も、急かさず言ってくれるのを待ちます。
常盤文を演じたのは、モデルに声優にバラエティー番組にと幅広い活躍を見せる飯豊まりえ。春日が最後に出会った人がこの子で良かったと思わせてくれる安心感、さすがです。
そして、仲村佐和の無邪気さと変態さのギャップに、振り回されたいという男性も多いことでしょう。屈折する愛情は、どんなに罵り冷たくしても、手を差し伸べてくれる優しさが垣間見えます。
何と言っても、仲村佐和役の玉城ティナを失くしては成り立たない本作。突き抜けた「ドS」っぷり、見下す目力、急変する声色、孤高の女王様を楽しそうに演じています。
また、主人公・春日高男を演じた伊藤健太郎との主従関係がしっくりくる、ナイスコンビでした。
話題のドラマや映画に次々と出演し、最も旬な俳優のひとりである伊藤健太郎。爽やかな好青年というイメージを打ち破り、真面目な変態という新境地を開拓しました。
まとめ
熱狂的な共感と支持を集め続けている押見修造の伝説的コミックを、井口昇監督が完全実写映画化した『惡の華』。
思春期のグチャグチャドロドロした言い表せない感情、暗黒面をえぐり出した作品です。
伊藤健太郎、玉城ティナの共演で映画化された『惡の華』は、コミックファンも満足する映像化になったのではないでしょうか。
自分のすべてをさらけ出すことは難しいことです。そして、そんな自分をも理解してくれる人との出会いは、とても貴重なのだと改めて感じました。
あなたも仲村佐和に出会い、眠っていた変態に気付くかもしれません。