実在の天才数学者の波乱万丈の人生
ノーベル賞を受賞した実在の数学者ジョン・ナッシュの半生を、『アポロ13』(1995)の名匠ロン・ハワードが映画化。
『グラディエーター』(2000)の名優ラッセル・クロウが主演を務めます。
狂気の世界を生きる天才数学者の苦悩と彼を支え続けた妻の愛を描き、2002年・第74回アカデミー賞で作品賞を含む4部門を受賞しました。
優れた頭脳で華々しい活躍を遂げ、愛する女性と結婚して幸せいっぱいだったはずの数学者が陥った不運とはどんなものだったのでしょうか。
人間の幸せとは何かについて考えさせられる名作ヒューマンドラマの魅力をご紹介します。
CONTENTS
映画『ビューティフル・マインド』の作品情報
【公開】
2002年(アメリカ映画)
【原作】
シルビア・ネイサー
【監督】
ロン・ハワード
【脚本】
アキバ・ゴールズマン
【編集】
マイク・ヒル、ダン・ハンリー
【出演】
ラッセル・クロウ、ジェニファー・コネリー、エド・ハリス、クリストファー・プラマー、ポール・ぺたにー、アダム・ゴールドバーグ、ジョシュ・ルーカス、ビビエン・カーダン、アンソニー・ラップ、ジャド・ハーシュ
【作品概要】
『アポロ13』(1995)のの名匠ロン・ハワード監督と、『グラディエーター』(2000)でアカデミー主演男優賞を受賞したラッセル・クロウがタッグを組んだヒューマンドラマ。
米ソ冷戦を背景に、ノーベル経済学賞を受賞した実在の天才数学者ジョン・ナッシュの苦悩と、彼を支え続ける妻の愛をサスペンスフルに描き出します。
2002年・第74回アカデミー賞で8部門にノミネートされ、作品賞を含む4部門を受賞しました。妻アリシアを好演したジェニファー・コネリーがアカデミー助演女優賞を受賞しています。
共演はエド・ハリス、クリストファー・プラマーほか。
映画『ビューティフル・マインド』のあらすじとネタバレ
1947年、プリンストン大学院の数学科に入学した優秀な学生ジョン・ナッシュは、周囲から変人扱いされながらも研究に没頭していました。
ナッシュは仲の良いルームメートのチャールズに向かい、この世を支配できる理論を見つけ出したいと話します。その後、ナッシュは画期的な「ゲーム理論」を発見し、功績を認められてマサチューセッツ工科大学のウィーラー国防研究所に採用されました。
それから5年後。授業を受け持つようになったナッシュは、生徒のひとりだった利発で美しいアリシアと出会います。
同じ頃、ナッシュは国防省の諜報員パーチャーからソ連の暗号解読という極秘任務を受け、そのプレッシャーにより次第に精神のバランスを崩していきました。
アリシアから夕食に誘われたことをきっかけにナッシュは彼女と心を通わせるようになり、やがてふたりは結婚します。
映画『ビューティフル・マインド』の感想と評価
二転三転するサスペンスフルなストーリー
名匠ロン・ハワード監督が実在の天才数学者ジョン・ナッシュを主人公に描き出すヒューマンドラマ『ビューティフル・マインド』。
これまで猛者を数多く演じてきたラッセル・クロウが、統合失調症を患い狂気の世界に生きる天才の苦悩を見事に表現しています。
学生時代から変わり者として知られながらも、その天才的頭脳を高く評価されてきたジョン・ナッシュは憧れのウィーラー研究所に採用され、そこで国防総省エージェントのパーチャーからソ連の暗号解読を任じられます。
米ソ冷戦の中での緊迫感あるやりとりや、銃で襲われる恐怖のカーチェイスなどのサスペンスフルなシーンが連続する中、キーパーソンであるパーチャーを演じる名優エド・ハリスの存在感に目を奪われます。
前半の特殊任務から一転し、本作のサスペンス要素は後半まったく異なる形で姿を現します。
実は、パーチャー、学生時代のルームメートのチャールズ、そして彼の幼い姪の存在すべてがナッシュの妄想でした。
コードを読み取るために壁一面に貼られた雑誌の切り抜きは、ナッシュの内面の狂気を物語っていました。部屋を見た妻のアリシアは戦慄し、夫が別の世界に生きていることを認めざるを得ませんでした。
どこまでが現実でどこからが幻想なのかわからない恐怖。その恐ろしさを知りながらも、薬の副作用を嫌ってナッシュは服薬を勝手にやめてしまいます。
ナッシュの病気が再発したことをアリシアが知って衝突するシーンは、大きなクライマックスです。幼い我が子をバスタブに入れたまま別のことに気をとられてしまうナッシュ。アリシアがバスルームに飛び込み子どもを救出するシーンは、思わず手に汗握る緊迫感に満ちています。
とうとう夫婦が決裂するかと思われたその時、ナッシュは自分の見ていたものが幻影だと突如認めます。理論を重んじる彼は、チャールズの姪が何年たっても少女のままであるのに気づき、現実にはあり得ない存在だと自力で理解したのです。
その後も、幻影の3人は昔のままの姿で延々と姿を現し続けます。いつまた同じ狂気に陥るのかというサスペンス要素を残しつつも、ナッシュは彼らを無視しながら共存するという方法で穏やかな生活を手に入れるのでした。
夫を支え続けた妻の覚悟
天才ノーベル賞学者のナッシュの波乱万丈の人生とともに、大きな見どころとなっているのは彼を支えた妻・アリシアの存在です。
少女時代に『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ』(1984)で鮮烈なデビューを飾ったジェニファー・コネリーが、素晴らしい演技でアカデミー助演女優賞ほか数々の賞を受賞しました。プライベートでは本作でチャールズを演じたポール・ベタニーと結婚しています。
社会性がなく、単刀直入にしかものが言えないナッシュ。そんな部分も含めて、純粋な彼の魂をアリシアは深く愛するようになります。
ナッシュがアリシアの手をとり、彼女が好きだと言った傘の形を夜空の星をたどって作り出して見せるシーンは、とても素敵なシーンです。堅物の数学者が見せるロマンチックな愛情表現に感動することでしょう。
結婚に対して不安を抱くナッシュに、アリシアはやさしく「愛は宇宙と同じ」だと教えて安心させます。ナッシュにとって、アリシアは人生の羅針盤となってくれる存在でした。
しかし、残酷にもナッシュの狂気は加速していきます。アリシアが気づいた時には、病はかなり進行していました。
自分の愛した人が、まったく異なる世界を生きていたという事実は、アリシアの心を引き裂きます。それでも彼女は踏みとどまり、夫を支えることを決心しました。
「何が現実か区別するのは、頭ではなくここかも」そう言ってナッシュの胸を示すアリシア。「人間の力を超えたことだって可能だと信じたい」という妻の言葉を聞いたナッシュは、幻想と共存しながら現実世界を生きていく決意をします。
よく知っている環境と人々に囲まれて過ごすのが大切だと言って、彼女は毎日ナッシュを母校プリンストン大学へ送り出しました。ナッシュはコツコツとゆっくり回復していき、とうとうノーベル賞受賞という晴れの日を迎えます。
ふたりにとってはこれまでの苦労が報われた日だったことでしょう。これ以上ないほどの華々しい快挙でしたが、夫妻にとっては苦しみの末に手に入れた今の穏やかな生活の方がずっと価値あるものだったに違いありません。
まとめ
天才数学者ジョン・ナッシュの苦悩に満ちた人生を、輝きとともに映し出した名作『ビューティフル・マインド』。
主人公夫婦役のラッセル・クロウ、ジェニファー・コネリー、冷酷なエージェント役のエド・ハリスらキャスト陣が、名匠ロン・ハワード監督の期待に見事に応え、アカデミー賞をはじめ数々の映画賞を受賞する快挙を成し遂げました。
ノーベル賞受賞という晴れの舞台を迎えたナッシュ。愛し愛される環境に夫を毎日送り出した賢明な妻アリシアの存在や、幻覚との境目で苦しむナッシュを見守り続けた友人たちの温かさに心を打たれます。
困難を抱えながらも、ひたむきに毎日を生きることの貴さを教えてくれる一作です。