映画『アメリカン・ビューティー』でアカデミー賞を受賞!
『007スカイフォール』『007スペクター』 のサム・メンデス監督最新作
映画『1917 命をかけた伝令』は、第一次世界大戦を舞台に英国陸軍の若き兵士が辿るある1日を描いた物語です。
監督サム・メンデスと撮影監督ロジャー・ディケンスは、演出力と映像技術を駆使し、主人公と観客がシンクロする圧巻の映像を実現。
主演を務めたジョージ・マッケイは、『マローボーン家の掟』(2017)の好演に続き本作でブレイクスルーの演技を披露。ベネディクト・カンバーバッチやコリン・ファース等実力派俳優も出演。歴史の知識無しで醍醐味を味わえるタイムリミット・スリラー。
映画『1917 命をかけた伝令』の作品情報
【公開】
2019年(イギリス・アメリカ合作映画)
【原題】
1917
【監督】
サム・メンデス
【キャスト】
ジョージ・マッケイ、ディーン・チャールズ=チャップマン、アンドリュー・スコット、ジェイミー・パーカー、マイケル・ジブソン、クレア・デバーク、マーク・ストロング、マーク・ストロング、リチャード・マッデン、ベネディクト・カンバーバッチ、コリン・ファース
【作品概要】
2019年12月末に北米で限定公開された後大反響を呼び、『アイリッシュマン』や『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』を抑えゴールデングローブ賞作品賞及び監督賞に輝いた他数々の映画祭でも賞を受賞。
監督を務めたサム・メンデスの脚本執筆デビュー作品であり、第一次世界大戦に17才で従軍した祖父の実体験を基に脚色して映画化。メンデスとは今回で4回目のタッグを組む撮影監督のロジャー・ディケンスは、『ショーシャンクの空に』(1994)、『バーバー』(2002)、『ノーカントリー』(2008)、そして『ボーダーライン』(2015)等を手掛け伝説と呼ばれる撮影技師。半年に及ぶリハーサルを敢行しイギリスで撮影。
映画『1917 命をかけた伝令』のあらすじネタバレ
1917年4月、フランス北部。トム・ブレイクとウィリアム・スコフィールドは英国陸軍の若き兵士。
ある日、ブレイクはパートナーを1人選び、陸軍司令官・エリンモアに会うよう命じられます。傍でうたた寝をしていたスコフィールドを起こし、2人はエリンモアの所へ。
1600人の歩兵から成る英国第二大隊の指揮官・マッケンジーは後退するドイツ軍を翌朝攻撃する作戦を準備していました。
しかし、上空を偵察した空軍からもたらされた情報により、ドイツ軍が英国軍をおびき寄せる為に敢えて撤退し待ち伏せて奇襲する作戦だとエリンモアは説明。
通信網が破壊されている為、マッケンジーへ攻撃中止を直接伝える任務を司令官は2人に託します。
第二大隊に兄・ジョセフが居るブレイクは、緊張の面持ちでエリンモアに敬礼。「諸君等が任務に失敗すれば、ブレイクの兄も含め1600人全員皆殺しになる」、双方こう着状態にある土地を越え、ドイツ軍支配下のテリトリーを抜ける厳しいミッションでした。
2人は地図、信号灯、そして缶詰を渡されます。スコフィールドは日が暮れるのを待って進んだ方が敵に察知されにくいと提案しますが、兄の命が懸かっているブレイクは勇み足。
「およそ8時間の距離だ。まだ余裕がある」そう言葉をかけるスコフィールドに対し、「そんな悠長なことを言うのは、お前の兄じゃないからだ」とブレイクは速足で塹壕を進んでいきます。
隊の最前線に着き梯子を上って首を出した2人は、ほふくで進み死んだ馬にたかる無数の蠅を横目に有刺鉄線が張り巡らされたバリケードを抜け、隊の陣地から踏み出します。
カラスやネズミが群がる兵士の遺体が転がるクレーターを、身を屈めながら進むブレイクとスコフィールド。粘土化した足場の悪い地を周囲に視線を走らせながら前へ足を動かし、ドイツ軍が陣取っていた塹壕へ到着。情報通りもぬけの殻だと分かった2人は息を整え、身を隠して進める塹壕内のトンネルを抜けることにします。
ドイツ兵士達が生活をしていたであろう様子が窺える内部は簡易ベッドがたくさん備えてあり、家族の写真が残されていました。しかし、ドイツ軍が仕掛けていった爆弾が爆発。ブレイクは吹き飛ばされ、スコフィールドは崩れた瓦礫の生き埋めに。
ブレイクは埋もれたスコフィールドの腕を引っ張り出し、2人は連鎖崩壊を始めたトンネルを何とか脱出。
危うく死にかけたスコッフィールドは、なぜ自分をパートナーに選んだのかと恨み節。ブレイクは、任務の内容を知らなかったと言い返し、戻りたければ好きにしろと反論しながらも、不安げな表情。
水筒に入っていた水を使い切って目を洗浄したスコフィールドは、ブレイクから貰った水で喉を潤し、気を取り直します。
先を進んでいくと、目の前に大平原が広がり、荒れ果てた民家が見えてきます。2人は念のため偵察することに。無人で人の姿は無く、1頭の牛だけが取り残されていました。バケツに入ったミルクを口に含むとまだ飲める状態です。
スコフィールドが空になった水筒にミルクを入れていると、上空で戦闘機が飛来する音が聞こえてきます。母屋から出てきたブレイクも空を見上げます。英国軍とドイツ軍の戦闘機が低空で交戦中でした。
英国の攻撃に被弾したドイツ軍戦闘機は落下し一瞬平原の向こう側へ姿を消すものの、再び浮上し2人が佇む民家に向かって墜落。
ブレイクとスコフィールドは、操縦席で身動きが出来なくなっているドイツ兵を救助します。
大怪我をしているドイツ兵を見たスコフィールドは、慈悲の殺害を示唆しますが、ブレイクは水を飲ませるべきだと主張。しかし、水を汲みに井戸へ行ったスコッフィールドが目を離した瞬間、ドイツ兵は隠し持っていたナイフでブレイクの腹を刺してしまいます。
振り向きざまにドイツ兵を銃殺したスコフィールドは直ぐ駆け寄りますが、致命傷を負ったブレイクは顔面蒼白。「しっかりしろ。兄貴を見つけるんだろう?」「僕とそっくりだから直ぐ分かる。僕の代わりに母へ手紙を書いてくれないか?」
スコッフィールドが大きく頷くと、「怯えてなんかいなかったって、家族を愛しているって、そう伝えてほしい」そう絞り出したブレイクは、第二大隊の駐屯地までの道のりをスコフィールドに復唱させます。
必ず任務を遂行し、ブレイクの兄を見つけると約束するスコフィールドの腕の中で、ブレイクは静かに息を引き取ります。
スコフィールドは唇をかみしめ、ブレイクが司令官から受け取った伝令書を胸にしまい、ブレイクが身に着けていた指輪を外してポケットにねじ込みます。
そこへ墜落した戦闘機の黒煙を追ってきたスミス大尉率いる英国部隊がスコフィールドを発見。
任務の内容を聞いた大尉はスコフィールドを途中までトラックに乗せます。同年代の兵士達が交わす世間話を聞き流しながら、民家の庭へ残したブレイクに思いを馳せ、肩を落とすスコフィールド。
橋が破壊されていた為大尉の部隊は迂回しなければならず、その時間を失えないスコフィールドは単独で橋の欄干を渡って先を急ぐことにします。
そこへスナイパーから狙撃され、スコフィールドは応戦しながら建物の中へ。狙撃手を仕留めるものの相討ちになり、スコフィールドは跳弾を受けて気絶。
映画『1917 命をかけた伝令』の感想と評価
『1917 命をかけた伝令』は、1917年の第一次世界大戦下、援軍無しに敵が支配する地帯を抜け伝令を届ける任務を命じられた若き陸軍兵士・スコフィールドがミッションを完遂するまでを描いた物語です。
草が生えた平原に全てのセットを建築し全行程野外撮影を敢行した監督・脚本のサム・メンデスは、物語を語る最良の方法はリアルタイム且つワンショットで撮ると決めます。
脚本完成後、最初に送った相手は、4度目のタッグを組むことになる撮影監督のリチャード・ディケンス。「ワンショットで撮影」という追記を読んだディケンスは、それまで得た経験値を駆使しワンショットになるよう撮影方法をデザイン。
クレーン、ジープ、オートバイ、ドローン、そして鉄棒にカメラを固定し両側から担いで撮る等様々な方法で撮影されています。
本作は、①所属部隊を出発する冒頭からスコフィールド単独任務への移行 ②夜間の敵地 ③目的地へ辿り着いてから戦闘中止まで ④ブレイクの兄・ジョセフを探すエンディングの4部構成。それぞれの撮影秘話をご紹介します。
①ブレイクとスコフィールドが塹壕から所属部隊を出発する場面から長回しが始まるカメラは2人にぴったり着いて移動。戦闘機が墜落しスコフィールド達の目の前に迫るシーンはCGゼロです。
②まるで遺跡の様に浮かび上がる戦闘で崩壊した町。壊れた壁の間を縫うように主人公が敵の銃撃を掻い潜る緊迫した場面です。
ディケンスは、信号灯を点火して影が動く速度を計算し、メンデスが捉えたいイメージをビジュアル化できるカメラワークを決めたと説明。信号弾、照明、火で光と影を生み出しサスペンス効果を創出した息を呑む連続シーンです。
③本作の佳境となるのが第3部。攻撃は開始され、第1部隊が塹壕から飛び出していく中、スコフィールドが指揮官を必死に探す場面です。この撮影の為、掘って造った塹壕の距離は1.7キロ。
砲弾を受けながら突進する歩兵達に対し、衝突・転倒を繰り返しながら主人公が疾走するシーンは、CGも振り付けも無い実際の爆発と偶然の衝突です。
「カットまで動きを止めるな」という指示だった為、とにかく全速力で走ったとスコフィールドを演じたジョージ・マッケイは明かしています。
撮影現場では「3、2、1、ゴー、ゴー、ゴー‼」というスピーカーを通し掛け声が響いた途端、数百人にのぼる兵士役のエキストラも平原を突進。
スコフィールドがブレイクの死を無駄にしたくない思いだけで走るこの1分弱のシーンは、観客が主人公の呼吸と運命さえ同化したような感覚を覚える大変パワフルなワンショットです。
④エンディングは、『ロケットマン』(2019)やテレビドラマ『ボディガード』(2018)で大きな注目を集めているリチャード・マッデンがブレイクの兄・ジョセフ役で登場。
劇中を通し、コリン・ファース、マーク・ストロング、そしてベネディクト・カンバーバッチ等そうそうたる俳優陣が要所をしっかり締めています。
また、①でドイツ軍が放棄したトンネルを進むスコフィールドが残された家族の写真を見つける短い場面があります。
このシーンは、スコフィールドが自分の家族写真を見て思いを馳せる最終場面の伏線になっており、敵味方なく双方の側に家族の下へ生還できる者と命を落とした者が存在する戦争を描写。
本編全体を通じ、最小限の台詞を用いひと続きの映像でストーリー展開を成功させた過去に類の無い映画です。
まとめ
1917年、フランス北部。ドイツ軍に対する攻撃を翌朝に控えていた英国陸軍は、奇襲を狙う相手の罠だと察知。通信網が破壊されていた為、ブレイクとスコフィールドは攻撃中止命令を直に伝える指令を受けます。
しかし、ブレイクは死亡。彼の遺言を聞いたスコフィールドは、死ぬことが許されないミッションを胸にたった1人敵地へ足を踏み入れます。
伝令係として従軍した祖父の経験を伝えようとメンデスが初めて脚本を書き、圧巻の撮影技術でディケンスが映像化し、トーマス・ニューマンの荘厳な音楽で臨場感を高めた『1917 命をかけた伝令』は、映画は観るものではなく実感するものだと世に知らしめた大作です。心からおすすめ。