映画『zk/頭脳警察50 未来への鼓動』は2020年7月18日(土)より新宿K’s cinemaほかで全国ロードショー
日本のロック界における歴史の中でも異彩を放つロックバンド頭脳警察の50年にもわたる道程を、さまざまな人間の証言とともに検証する『zk/頭脳警察50 未来への鼓動』。
本作は映画『日本犯罪秘録・チ37号事件』『大阪ニセ夜間金庫事件』『長官狙撃』『河内山宗俊』などを手掛けた末永賢が監督を務めた、頭脳警察結成50周年記念プロジェクトの一環として作られたドキュメンタリー・ムービー。
PANTA、TOSHIという2人のオリジナルメンバーの生い立ちから結成より2019年の再始動、そして現在までの軌跡を彼らの証言とともに音楽以外にまで範囲を広げた人間関係によるコメントを交えて描いた作品です。
CONTENTS
映画『zk/頭脳警察50 未来への鼓動』の作品情報
【公開】
2020年(日本映画)
【監督】
末永賢
【企画プロデュース】
片嶋一貴
【出演】
頭脳警察、加藤登紀子、植田芳暁、岡田志郎、山本直樹、仲野茂、大槻ケンヂ、佐渡山豊、宮藤官九郎、ROLLY、切通理作、白井良明、浦沢直樹、木村三浩、桃山邑、春風亭昇太、鈴木邦男、足立正生、鈴木慶一、高嶋政宏
【作品概要】
ロックバンド「頭脳警察」の結成50周年企画として、バンドの過去と現在に迫るドキュメンタリー。
頭脳警察のオリジナルメンバーであるPANTAとTOSHIのほか、澤竜次、宮田岳、樋口素之助、おおくぼけいら“50周年バンド”の新メンバー、さらに加藤登紀子や山本直樹、宮藤官九郎、春風亭昇太、鈴木邦男、足立正生ら幅広い世代の表現者の証言によって、頭脳警察の活動と共に日本のカウンターカルチャーやサブカルチャーの歴史を振り返ります。
映画『zk/頭脳警察50 未来への鼓動』のあらすじ
埼玉・所沢公園に向かう一人の老人の姿がありました。彼は日本の伝説的なロックバンド頭脳警察の中心人物であるPANTA(中村治雄)。
かつてここに米軍の基地があった頃、PANTAの父は日本人職員として働いていた思い出の地でした。当時の面影を残すその場所には、父の同僚・メリック軍曹がハーモニカで聴かせてくれた「ケンタッキーの我が家」の懐かしいメロディが響いていました。
運命的な出会いより頭脳警察という肩書きを長く背負うこととなったPANTAとTOSHI(石塚俊明)。同じ頃に生まれた2人は、戦後の迷走する潮流の中でそれぞれの胸に反骨心と音楽への憧れを育ていきます。そして2人は17歳のとき、とある「農協パーティー」で出会いました。
1968年には大学に進学する2人を吹き荒れる学生運動の嵐が待ち構えていました。そして年が明け東大闘争の鎮圧によってその暴風がようやく静まろうというころに2人は再会し、頭脳警察を結成。
バンドは1975年に一度解散、そして1990年に再結成、さらに2019年には気鋭の若いミュージシャンを迎え新たな血を注いだグループとして再始動します。
この物語は、激動の音楽の歴史を駆け抜けた一つのバンドが築いた50年の軌跡を、歴史上のさまざまな事件とともに幅広い証言をちりばめて振り返り、頭脳警察という存在の真実に迫ります。
映画『zk/頭脳警察50 未来への鼓動』の感想と評価
純粋に「音楽」への追求を描く
1960年代後半、アメリカではベトナム戦争、公民権運動を背景にヒッピーらを中心に反体制的なスタンスをとる一方で、ストゥージズ、MC5といった時代を象徴するサイケデリック・ロックバンドが登場します。
一方のロンドンでは70年代中頃にセックス・ピストルズなどをはじめとしたパンク・ロックムーブメントが勃発。このようにこの時代は、ロック・ミュージックが社会に向けて大きなメッセージを発していた時代でもあります。
日本でもほぼ同時期には世を騒がしたロックバンド外道が登場、さらにアナーキーやザ・スターリンなどの日本のパンクムーブメントにつながり、「世に物申す」音楽ムーブメントが発達しました。
そして数々の伝説的な逸話をもつ頭脳警察もまたその一つ。PANTA、TOSHIという、青春時代を学生運動の中で過ごし、その影響をサウンドに表していました。
「世界革命戦争宣言」「赤軍兵士の詩」といった反体制のアジテイションとも捉えられる曲を発表し「左翼のアイドル」として祭り上げられることもあり、頭脳警察の足取りは少なからず世の大きな動向に重なる向きもありました。
インタビューではこうした動きに対して、PANTA自身が当時アメリカのアーティスト文化に対抗意識をもっていたことを明かしています。
さらに初期の頭脳警察の活動で、もともと彼らは自身が目指していた音楽的指向から違う方向性を世間から求められ、そのギャップにやりづらさを感じていたことを告白しています。
つまり頭脳警察というバンドは当初、純粋に音楽を追究したいという意向があったことを示しています。
バンドの歴史から問う芸術の在り方
一方、頭脳警察のドキュメンタリーとしては2009年に瀬々敬久監督が手掛けた『ドキュメンタリー 頭脳警察』という作品があります。
これは1970年代の頭脳警察、そして1999年の再結成をターゲットとして彼らに密着し作られた作品で、この作品でも上記のようなPANTANらの音楽を追究したい意向がある旨のコメントを発しています。
これに対し本作では彼らが1度目の解散、復活、そして2019年再始動の経緯を彼らのインタビューを中心に明かし、なおかつ彼らを取り巻く人からその時代背景の証言などを映し出しており、彼らの音楽的軌跡と激動の世の流れがある意味並行し、一定の距離を置いた格好で描き出されます。
そんな中で唯一、2018年のロシア・クリミナ半島での音楽祭に招かれたPANTAが、ロックなど知らない現地の人に向けてライブを披露するエピソードを挿入。
世の情勢と交わらない彼らの音楽という存在に対し唯一の接点を示しており、このポイントが社会的な動きと彼ら自身の音楽活動は完全に切り離せない、微妙な関係があることを示しています。
こうした一連の展開は、一概に表面的なイメージでアーティストを特定のジャンルや思想に縛り付けるべきではないと訴える一方で音楽、そして芸術というものが多かれ少なかれ社会生活から何らかの影響を受け、それが作品に表されることは避けられないものであると改めて示唆しているのです。
まとめ
映画のエンディングで、頭脳警察がこの映画のために書き起こしたというオリジナル曲「絶景かな」が流れます。
PANTAはこの曲について「コロナウイルス禍で閉塞する『今』こそ未来を『絶景』として見据える決意を伝えるために」という思いで作り上げた曲であることを表明しています。
一方で作品ではエンディング間際に、コロナウイルス禍にある渋谷の閑散としたスクランブル交差点の姿が映し出されます。
この楽曲の印象と映像との組み合わせは、人によってさまざまな印象を抱くでしょう。その思いは、PANTAの意思とは必ずしも同期したものではありません。
これはまさしく芸術の一つの在り方であり、この作品で描かれた数々の経緯が、この部分に集約されているといえます。
本作はそれが50年という長きにわたり、多くの人々に影響を及ぼし続けた彼らだからこそ成し得たものであることを実感させ、見終わった際にタイトルにある「未来への鼓動」という一文の意味を、改めて考えさせるものとなっています。
映画『zk/頭脳警察50 未来への鼓動』は2020年7月18日(土)より新宿K’s cinemaほかで公開されます