揺れ続ける思いを抱きながらも、懸命に生きる。
「いわての復興」10年間の記録。
東日本大震災から10年。テレビ岩手は、これまで取材し続けた映像をもとにドキュメンタリー映画『たゆたえども沈まず』を制作しました。
東日本大震災で多大な被害をうけた岩手県沿岸地域の、これまで撮り続けた1850時間に及ぶ映像からひとつひとつの「声」を丁寧に紡ぎ、岩手が歩んできた10年間の復興の記録を刻みます。
震災当時避難所にいた「安否ビデオメッセージ」のあの人はいま。ほぼ壊滅状態のなか、「地域の足であり続けたい」と震災後5日目に走り出した三陸鉄道。
被災地で暮らす人々の10年間の生きざまを切り取った真実の記録が、そこにはありました。
映画『たゆたえども沈まず』は、2021年5月29日(土)よりポレポレ東中野で上映となります。
映画『たゆたえども沈まず』の作品情報
【日本公開】
2021年(日本映画)
【監督】
遠藤隆
【ナレーター】
湯浅真由美
【構成・編集】
佐藤幸一
【作品概要】
テレビ岩手が東日本大震災から10年間に渡り取材し続けた「いわての復興」を刻むドキュメンタリー映画。
遠藤隆監督は、現在もテレビ岩手シニア報道主幹兼コンテンツ戦略室長としてドキュメントの取材や編集、番組制作を続けるベテランテレビマン。
かつて手がけた、岩手の山あいで酪農を営む大家族の25年間を追ったドキュメンタリー『山懐に抱かれて』(2019)は、地元だけにとどまらず上海国際映画祭にも招待されるなど、多くの地域で上映され続けています。
今作は、被災地の放送局として「震災の記録と人々の想いを後世につないでいく」という監督の想いが込められています。
映画『たゆたえども沈まず』のあらすじ
「テレビ岩手のニュースです」「今日、三陸沖を震源とする強い地震がありました」「これにより岩手県沿岸に津波注意報が出ています」。
2011年3月9日。その後、津波注意報は解除されたものの、大船渡市をはじめ沿岸各地域で津波が観測されていました。
それから2日後の3月11日、午後2時46分。大きく長い揺れがやってきます。
地震時のテレビ岩手フロアの映像には、机の資料が床に散乱し、崩れそうな機材を抑えるスタッフ、そして地震速報を大声で伝えるアナウンサーの姿が映っていました。
そして、沿岸地域では想像を絶する光景が広がっていました。「はやぐ、はやぐ、もっとはやぐ!」叫びながらも高台へと避難する人々。
すぐそこまで津波が押し寄せています。ゴォーメキメキ。嫌な音とともに黒い水がうねりをあげ、車も何もかも飲みこみ、家を壊しながら住居地区に侵入してきました。
呆然と立ち尽くす大人たち。恐怖で泣き出す子供たち。濁流が渦巻き、壊れた車のクラクションが鳴り続けています。「もうだめだ……」一瞬にして奪われた日常。
3月11日の夜は、とても寒いものでした。避難所へとたどり着けた人々は、肩を寄せ合い暖をとります。地元の旅館の女将を頼って集まった人たちもいました。
テレビ岩手では、避難所にいる人々の名簿を取り「安否ビデオメッセージ」を集め出します。被災地の連絡経路が途絶えたことで、安否の問い合わせが局に殺到したためです。
寄せられたメッセージからは、現地の様子、悲しみや不安、そして気丈に一念発起しようとする被災者の決意が伝わってきました。
そして、誰もが辛い思いを抱え、先々の暮らしに不安を覚える中、震災から5日後に三陸鉄道が運転を再開させます。
崩壊していない区画運転となりましたが、そこには「地域の足であり続ける」という強い想いがありました。移動手段がない被災地にいち早く芽生えた、復興の兆しでした。
その後、被災地には仮設住宅や仮設店舗が建てられ、瓦礫の撤去にかさ上げ工事と、復興作業が進んでいきます。
東日本大震災から10年。当時「安否ビデオメッセージ」を残してくれた人々に、映画『たゆたえども沈まず』はあの時の「声」を再び届けます。
決して、10年がひと区切りではありません。今もなお被災地は、様々な問題を抱えています。
揺れる心で、それでも懸命に歩み続けてきた。そして、これからも希望を持って歩み続けようとする人々の姿を映画は映し出します。
映画『たゆたえども沈まず』の感想と評価
テレビ岩手が、東日本大震災から10年に渡り取材し撮り続けてきた映像とともに、沿岸地域で暮らす人々の復興の真実を伝えるドキュメンタリー映画『たゆたえども沈まず』。
まずは、テレビ局ならではの映像の数々に衝撃を受けます。目を覆いたくなる大津波の映像。逃げ惑う人々の様子。泥だらけとなった町。家の中に船が乗り上げています。
映画作中、沿岸地域の変わり果てた姿を目にし、現地を訪れたリポーターは思わずこぼします。「あぁ、なんてこった」。当時を思い出し、涙があふれます。
しかし、苦しい現実を映し出す映像は同時に、被災地の人々の力強さも記録していました。避難所で撮影された「安否ビデオメッセージ」には、気丈に話す人々の姿がありました。
「お父さんが大波にさらわれました」「大丈夫、元気ですと伝えて下さい」「女房が流されました。今探しに行ってきたとこです」「自宅も流され、生き地獄が待ってる」「子供用品が必要です」。
辛い状況の中にあっても他人を思いやり、その場で協力し共に生きようとする人々の頼もしい姿。当時、物資を届けた際も、「よく来たね」と気遣ってくれた人たちの顔が浮かびました。
映画では、映像を通して津波の恐ろしさを伝える他にも、10年間のいわての沿岸復興を追い続けます。作中では震災後すぐに旅館を解放し、炊き出しを届け続けた「宝来館」の女将さんなど、多くの人々の震災後の生活を映し出していきます。
3年後、何一つ残っていない町で「辛くなる」と涙を流す人。6年後、「まだ夫の死亡届は出せない」と亡き夫に手紙を書き続ける人。
ビデオメッセージを残してくれた人の中にも、時が経ち亡くなった方もいます。しかしその方が生前経営していた店は、息子さんが意思を受け継ぎ、再開に至ります。
亡くなる命もあれば、産まれる命もあります。震災の年に産まれた息子さんの双子の子どもたちは、すくすくと元気に育っていました。「被災地で生きることの難しさを感じるよね」工面して新しいお店をオープンさせた両親は、それでも笑顔です。
9年後、三陸鉄道リアス線が開通。そこでは震災当時、中学生だった男の子が鉄道運転士として頑張っていました。
震災後5日にして区域運行を決行した三陸鉄道は、その後も被災地の人々の暮らしと共に10年間を歩んできました。
三陸縦貫鉄道の完成を目指し、日本初の第三セクター鉄道として開業した三陸鉄道は、震災を乗り越え遂にその偉業を成し遂げます。
沿岸を一本で繋ぐリアス線の開通は、復興のシンボルとなり、多くの人々の心を勇気づけました。
東日本大震災から10年、復興は終わったわけではありません。直面する人口減少に埋まらない新住居区域、経営困難な自営業、高齢者の支援問題、新しい町づくりの方向性。被災地は、まだまだ問題を抱えています。
それでも生きる希望を持ち、前に進んでいる人々の姿に、私たちが「今を生きる力」を与えてもらったような気がします。
まとめ
テレビ岩手が、東日本大震災から10年間、取材し撮り続けてきた映像で「いわての復興」の記録を紡いだドキュメンタリー映画『たゆたえども沈まず』。
2021年現在、テレビ岩手では「つづけよう、復興ハート!」というキャッチコピーで、復興支援を呼び掛け続けています。そしてこの映画の収益金も、岩手県の被災した児童学生を支援する「いわての学び希望基金」に全額寄付されます。
ドキュメンタリー映画『たゆたえども沈まず』を通し、東日本大震災をいまいちど振り返り、震災の教訓を受け取って欲しいと思います。そして、映画『たゆたえども沈まず』は、2021年5月29日(土)よりポレポレ東中野で上映。