映画『ひびきあうせかい RESONANCE』は2020年9月5日(土)より新宿K’sシネマ他にて全国順次ロードショー!
人々が一つの場所で輪になり、声を重ね合わせる参加型のイベント「サークル・ボイス」をめぐる旅の軌跡を描いたドキュメンタリー『ひびきあうせかい RESONANCE』。
UAや細野晴臣をはじめ国内外のアーティストから絶大な信頼を寄せられる音楽家・青柳拓次の旅の跡を追うとともに、彼が築き上げた「サークル・ボイス」の真の魅力に迫ります。
作品を手掛けたのは、広島県尾道市在住の田中トシノリ監督。前作『スーパーローカルヒーロー』からの縁で青柳を中心とした映画の製作に至りました。また映画は2020年3月に広島・尾道で行われたシネマ尾道の映画イベントにてプレミア上映されました。
CONTENTS
映画『ひびきあうせかい RESONANCE』の作品情報
【日本公開】
2020年(日本映画)
【監督・脚本】
田中トシノリ
【音楽】
青柳拓次、KAMA AINA +Hochzeitskapelle
【キャスト】
青柳拓次、マーカス・アーチャー、ホッホツァイツカペレ、小原聖子、小原安正
【作品概要】
音楽家の青柳拓次が、人々が輪になり声を重ねる「サークルボイス」を実践する姿を追ったドキュメンタリー。青柳の旅の軌跡をめぐり、各地でさまざまな境遇の老若男女と触れ合いながら「サークルボイス」が作り上げられていくさまを描きます。
『スーパーローカルヒーロー』の田中トシノリ監督が作品を手掛けました。
映画『ひびきあうせかい RESONANCE』のあらすじ
古典楽器店を営む父とクラシックギタリストの母のもとで生まれ育ち、音楽家としてジャンルを超えさまざまな音楽活動に取り組んできた青柳拓次。
彼は2人の娘の父親となった後、音楽を使って国境を越えた調和を生み出したいと考えていました。
そして沖縄、東京、ミュンヘン、ライプツィヒと世界のさまざまな場所を音楽とともにめぐる旅に出発した青柳は、旅の果てに人々が一つの場所に集い声を重ね合わせる「サークルボイス」と出会うのでした。
映画『ひびきあうせかい RESONANCE』の感想と評価
“斬新な感覚”を湧き起こさせる構成
一見、フィクションなどを取り入れないドキュメンタリーのジャンルにカテゴライズされるものに見えますが、これまで発表されているドキュメンタリー作品の感覚で作品を見てしまうと、大きく肩透かしを食らうかもしれません。
そのような感覚に陥る要因は映像で描くこの作品の視点が、過去にあった一つの大きなテーマに対して、統一的な視点で描いているものとは違った形態をとっていることにあります。
いわゆるドキュメンタリー作品は過去の出来事、あるいは、今、存在する出来事に対して客観的な視点、または一つの思想的な観点に立ち、それを基準に物語を紡いでいきます。
その中でテーマというものは全体を包括するものであり、映像ごとに見えるものはその一部、いわば引き算的な位置づけで見えてくる格好となります。
対照的にこの作品では部分的にはミュージシャン・青柳拓次の歴史や、とある一つセッションの出来事など、ドキュメント的な要素も多く見られますが、その映像、対象の置き方が非常に独自で、一つ一つの要素に対して何らか一方向に偏った見え方となっていません。
またその見え方は単一的、に正否を表すような見え方とも違う、いわば足し算的な見え方で、さまざまな思いが発散するように想起させられる印象がもたらされます。そのベクトルは「ああいったやり方もあるのでは」「こういう活用方法もあるな」と非常にアクティブな、前向きな気持ちに向けられます。
この作品の描き方は非常に独自で、いかにこれまでの「ドキュメンタリー映画」の作り方が固まった手法により縛られがちなジャンルであるかを、改めて考えさせられるようでもあり、青柳拓次、「サークルボイス」というテーマの意味、そして青柳をモチーフとして本作を描いた田中監督のセンスにも、斬新なものを感じさせられます。
映画『ひびきあうせかい RESONANCE』プレミア上映 舞台挨拶
本作は2020年3月に広島・尾道のシネマ尾道で行われた映画イベントでプレミア上映され、上映後には田中監督が舞台挨拶に登壇し、映画制作の経緯などを語りました。
東日本大震災を機にイギリスから帰国し、尾道に住むことになったという田中監督。帰国後には災害復興支援活動を行う傍らでさまざまな復興の現場をカメラに収めました。その映像をもとに作った作品が『スーパーローカルヒーロー』であるといいます。
前作はもともとこういった作品を作ろうという意図なくフッテージを集めていたため、当初は映画の構成はなかったことを回想する一方、その意味で本作『ひびきあうせかい RESONANCE』は当初からの明確な意図があって出来上がったと明かします。
本作のメインキャストである青柳は、祖父、母親と続くクラシックのギタリスト家系に生まれた音楽家で、1980年代末より日本のポピュラー音楽に旋風を巻き起こしたオーディション形式のテレビ音楽番組『三宅裕司のいかすバンド天国』で大きな注目を集め華々しくデビューしたバンドの一つであるリトル・クリーチャーズのメンバーでもあることでも知られています。
そんな青柳が本作に参加したきっかけは、田中監督が手掛けた前作『スーパーローカルヒーロー』で、映画音楽を担当したことでした。田中監督は前作参加の謝礼を申し出ると青柳から「そういうのはいらないですよ」と言われ、それでも何かお礼をしたいと申し出たところ「じゃあ何か僕の音楽で映像を作ってください」と返されたことが発端だったといいます。
そして「(テーマとして)何がいいかと考えたときに、青柳さんが2013年から始めたサークルボイスがいいと思ったんです。”輪になって、みんなで声を出して、国籍や言葉が違ってもみんなで一緒の歌を歌える”、そんなプロジェクトを始めた話をうかがい、これがなにか作品になると感じたんです」と青柳の活動をヒントとして発想の発端を見つけたことを明かします。
またこのテーマの発端であるもう一つの出会いとして、田中監督は「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」という催しとの出会いがあったと補足します。
これは、全体を真っ暗闇にした部屋の中で、視覚障害者のサポートのもとで健常者が時間を共にするというもの。徐々に部屋の照明が落とされ、暗闇となっていく中で、最初は強い不安感を覚えるものの、サポート者の補助の手が差し伸べられるとそれが安心に代わり、居心地よく感じたといいます。
そして「サークルボイス」と「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」という二つの体験をとおして「結局視覚により過ぎているということなんですよね。僕たちは目からの刺激により過ぎているということなので、それをちょっと調節するという。それを自分でやるのはすごく難しいんです。頭で考えがちな人にとっては、すごくいい体験だと思います」と、このテーマを描くことに感じた自身の意義を、改めて語りました。
まとめ
プレミア上映後の舞台挨拶で、一人の観客が本作に関して、以下のような感想を語りました。
「最初はすごく混乱しました、『これは何の映画なんだろう』って。一人のミュージシャンに関するドキュメンタリーなのかな、と(おぼろげながら)思う中で(物語が)始まっていったんです。
でも見てきて分かってきたのは『これは別にどこでもいいし、青柳さんでなくても誰でもいい』ということ。最後僕自身が映画で”経験”したことでそれが分かりました。どうしても意味や言葉とかで考えてしまうんですが、そういうものがすべてじゃないということを諭された気分になりました」
本作ではクレジットとして青柳の名はあり、その生い立ちを含む情報も描かれる一方で、彼を明確に”青柳拓次”という固有の人間して描くことを敢えて避けている意向も感じられます。その点においてこの観客が受けた所感はある意味的を得ています。
ブルース・リーの名言ではありませんが、映像からは「考えるな、感じろ」という言葉がそのままぴったりはまるような新鮮な感覚を受け、鑑賞後は心身ともに心地よい浮遊感に包まれることでしょう。
映画『ひびきあうせかい RESONANCE』は2020年9月5日(土)より新宿K’sシネマ他にて全国順次公開されます!