映画『マルセル・マルソー 沈黙のアート』は2023年9月16日(土)よりシアターイメージフォーラムにてロードショー!
ボロボロのシルクハットと赤いバラ、白塗りメイクで世界に知られる道化師“ビップ”(BIP)は、世界的なパントマイム・パフォーマーであるマルセル・マルソーの代名詞ともいえる人物。
マルソーが歩んできたパフォーマンスの道とともに、「沈黙のアート」であるパントマイムの神髄に迫る映画『マルセル・マルソー 沈黙のアート』。
本作では彼の生涯の重要なポイントとして、彼とともにした関係者や家族の証言を、実際の彼の生き様やイメージ映像とともに公開。マルソー自身とともにパフォーマンスの真実に迫っていきます。
CONTENTS
映画『マルセル・マルソー 沈黙のアート』の作品情報
【日本公開】
2023年(スイス、ドイツ合作映画)
【原題】
L’art du Silence
【監督・脚本】
マウリッツィウス・スタークル・ドルクス
【出演】
マルセル・マルソー、クリストフ・シュテルクレ、アンヌ・シッコ、カミーユ・マルソー、オーレリア・マルソー、ルイ・シュヴァリエ、ロブ・メルミン、ジョルジュ・ロワンジェ、ダニエル・ロワンジェほか
【作品概要】
「パントマイムの神様」といわれ、現代パフォーマンスにまで大きな影響を及ぼしているフランスのアーティスト、マルセル・マルソーの真実に迫るドキュメンタリー。
ドイツのマウリツィウス・シュテルクレ・ドルクス監督による長編ドキュメント3作目である本作では、マルソー自身の貴重なパフォーマンス、プライベート映像などを満載。
またマルソーのパフォーマンスは、世界的なシンガー、パフォーマーであるマイケル・ジャクソンにも影響を与え、有名なパフォーマンスである「ムーンウォーク」の着想のもとになったと言われており、本作でもマルソーと時をともにする姿が映し出されています。
映画『マルセル・マルソー 沈黙のアート』のあらすじ
1947年に生まれた道化師“ビップ”をはじめ、言葉をひと言も発さず、身ぶりと表情だけですべてを表現するマルソーの舞台は、現代にまで大きな影響を及ぼしています。
彼が見せた沈黙の表現は、なぜこれほどまでに人びとを惹きつけ続けたのか?
本作ではマルソーと共にレジスタンスに参加した従弟ジョルジュ・ルワンジェ、遺志を継ぐ家族、ろうのパントマイマー、クリストフ・シュテルクレら、マルソーを知る人物の証言を収録。
そして豊富なアーカイブ映像を織り交ぜ、マルセル・マルソー自身の真実、そしてパントマイムの神髄に迫っていきます。
マルセル・マルソー プロフィール
1923年、フランス生まれ。チャーリー・チャップリンの演技を見たことがきっかけで1946年に演劇学校に入門、マイム劇『パディスト』の道化役でデビューを果たす。
1949年には無言劇『夜明け前の死』で「ドビュロー賞」を受賞、フランス・パリを中心に活動を広げていく。
1955年にはアメリカでのデビューを果たし、大きな反響を浴びたことで2006年まで精力的にワールドツアーを続ける。一方でテレビや映画などの出演も果たし、さらにその影響範囲を広げその知名度を絶対的なものとしていく。
また1978年にはパリに自身が主宰するパリ国際無言劇学校を創設、1996年はニューヨークにマルセル・マルソー財団を設立と、後進の指導にも精力的な活動を見せた。
2007年9月22日84歳で死去。
映画『マルセル・マルソー 沈黙のアート』の感想と評価
第二次世界大戦前に生まれパントマイムの道を目指しながらも、ユダヤ人として迫害を受けながらレジスタンスとして多くのユダヤ人を救ったマルセル・マルソー。
その活躍は2019年に発表された映画『沈黙のレジスタンス~ユダヤ孤児を救った芸術家』でも描かれています。
しかしその戦時中のエピソードなどについては、本作の中ではほとんど取り上げられておりません。
さらに「祖父のことをほとんど知らない」という孫、「戦時中のことはほとんど語られなかった」という娘。
大戦中のレジスタンスとしての活躍が取り上げられることも多いマルソーの生き様ですが、本作でこのポイントにあまり言及しないという点から見ると、自分自身の胸の内にあるパフォーマンスへの思いと、それ以外の思いは何か完全に隔てられた空間に存在するものとも見えてきます。
その意味で本作の主軸には彼が現代のパントマイムや舞踏の世界に残してきた足跡などが重点的に描かれており、あくまで「沈黙のアート」、彼のパフォーマンス表現という点に強く言及しているといえるでしょう。
本編映像の中では、彼が代表的なキャラクターである“ビップ”を演じる中で、その視点を中心にさまざまなものの存在を表現している様子が映し出されます。
その姿は、とある自然界の一場面を切り取ったというものではなく、見ている側に感情の変化を起こさせるような、ストーリー性のある表現を施したもの。
パントマイム=無言劇という表現とは切っても切れないマルソーだけに、その可能性はまさしく「言葉では表せないもの」であったのかもしれません。
チャールズ・チャップリンからの影響もあり、喜劇的要素の表現が強いマルソーの芸風ですが、その表現には言葉のないことが逆に強い力を示しているようにも感じられます。
同時にマルソーを取り巻いていた数々の人たちが彼から学んだ表現技法を披露し、多くの人の感情に影響を及ぼす姿も映し出されており、いかにマルソーが築いてきたものが大きな広がりを形成するものとなったかを感じられます。
本作はまさに彼が生涯をかけて築き上げてきたものこそが、文字通り「芸術」の一つとして語られるべきものであるということを、印象的な彼の表現とともに示しているわけです。
まとめ
本編の登場人物では、マルソーの孫にあたるダンサーのルイ・シュヴァリエの発言や映像の中に、非常に印象深いポイントが見られます。
5歳の時にマルソーは亡くなり、彼自身はほとんどマルソーのことを知らないと語るルイ・シュヴァリエは、現在ダンスを学ぶパフォーマーの卵。
本作でマルソーは生前「自身の築き上げてきたものが自身の死とともに消えてしまうことを恐れていた」と語ったといわれていますが、一方ででシュヴァリエは母やマルソーの妻、つまり祖母らからさまざまな思想を受け継ぎつつ、自身も苦難を乗り越えながら自然とパフォーマーとしての道を歩んでいる様子が描かれています。
そんな場面からも、本作は彼の築き上げてきたものが一過性のものとして終わらない、芸術という分野で必然的に引き継がれていくものとして非常に意味のあるものとなっていることを強くアピールしていると言えます。
映画『マルセル・マルソー 沈黙のアート』は2023年9月16日(土)よりシアターイメージフォーラムにてロードショー!