ドキュメンタリー映画『いのちの深呼吸』9月8日(土)よりポレポレ東中野にて公開!
ニュースの日常に見え隠れする影の部分に、“虐め、リストラ、引き籠り、貧困、介護といったワードを見出せ、誰もが生き辛さを感じるている国、ニッポン。
今の社会で「自死」は若者の死因の第1位となり、SNSには「死にたい」「消えたい」などの魂の吐息が溢れています。
なぜ日本人は死に急ぐのか?エミー賞を受賞したラナ・ウィルソン監督は、自死防止活動に取り組む僧侶の根本一徹の日常を見つめることで、日本社会に隠れた現実を光に晒していく。
CONTENTS
映画『いのちの深呼吸』の作品情報
【公開】
2018年(アメリカ映画)
【原題】
The Departure
【監督・製作】
ラナ・ウィルソン
【キャスト】
根本一徹
【挿入曲】
クリスチャン・フェネス、坂本龍一
【作品概要】
エミー賞の受賞歴をもつアメリカ人女性監督ラナ・ウィルソンが、自殺防止活動に取り組む日本人僧侶に3年半にわたり密着したドキュメンタリー。挿入曲として坂本龍一とクリスチャン・フェネスのコラボ曲が使用されている。
映画『いのちの深呼吸』のあらすじ
岐阜県の関市。
大禅寺の住職である根本一徹、46歳のもとには、全国各地の自死志願者から日々、インターネットや携帯電話を通じて、救いを求めるSOSが届きます。
自死未遂を繰り返し、自暴自棄になって大量の精神薬に逃げ込む男や女たち…。
彼らに共通するのは、日常生活で追いつめられ、家族や友人を頼ることさえできず、自分を不要な人間だと思い込む“孤独な心”。
かつて、身近な3人が自死を行なった壮絶な体験をした根本は、彼らが絞り出す言葉に静かに耳を傾けるが、すべてを犠牲にする彼の活動は限界にきていた…。
映画『いのちの深呼吸』の感想と評価
本作品『いのちの深呼吸』の取材対象となったのは、大禅寺の住職の根本一徹。
日本の岐阜県に住む根本に興味を抱いたのは、アメリカ人のラナ・ウィルソン監督。
さかのぼる2013年にラナ監督は、雑誌「ニューヨーカー」に掲載された、自死防止活動に勤しむ僧侶の根本に関する記事に目を留めました。
どのように自暴自棄の人を説得し、一歩前に進み出させるのかに疑問を抱いたそうです。
そのことがきっかけとなり、根本へのドキュメンタリーのアプローチの源です。
監督のラナ・ウィルソンとは
監督作作品『After Tiller』(2013/Martha Shaneと共同監督)
ラナ監督は大学で、映画とダンスを学んだ後、現在はニューヨークを拠点にドキュメンタリー映画を製作しています。
彼女の初めての監督作作品『After Tiller』(2013/Martha Shaneと共同監督)は、アメリカで注目されている4人の人工中絶医の生活に密着した映画で、2013年にサンダンス映画祭でプレミア上映されました。
この作品を見た観客は、感動的で複雑な様相を映画に収めたと高く評価しました。
この作品は全米50の都市で上映された後、PBSで米国全土に放送され、2015年エミー賞最優秀ドキュメンタリー賞をはじめ数々の映画賞を受賞しています。
また、ナショナル・ジオグラフィック・チャンネルのミニ・シリーズ、 “I Am Revel”のエピソード1“Jacked”で脚本/製作を務めるなど、テレビでも活躍中しています。
また、根本一徹の日常を追った本作『いのちの深呼吸』は、2017年のトライベッカ映画祭でプレミア上映され、インディペンデント・スピリット賞にノミネート。世界各地の映画祭で上映され、高い評価を受けています。
ラナ・ウィルソン監督の惹きつけられたもの
ラナ監督は、根本一徹が自死願望を持つ者を集めて行った、根本独自のオリジナルな瞑想法のワークショップ「看取りと旅立ち」に惹かれたそうです。
その様子は本作のなかで何度となく描かれており、根本自身のライフワークでもあるのです。
僧侶の彼が他者と向き合うことを通して、自己と向き合う時間であり、修行のひとつなのは明らかです。
映画を見た者なら、根本のもとを訪ねてみたくなるのも不思議ではないでしょう。
そんなことを、いとも簡単に思わせるほど、根本のキャラクターは魅力的です。
ラナ監督が被写体として、根本に抱いた人間としての興味が、本作では直接的に肌感覚で感じさせてくれるはずです。
そのさりげなく、懐に入ってしまう感覚は作品の大きな魅力と言えるでしょう。
僧侶の根本一徹とは
ラナ・ウィルソン監督が惹きつけられた僧侶根本一徹は、実のスクリーン映えするキャラクターです。
本作の冒頭に登場する深夜に通うクラブでのダンスや、その後に明け方に寺に帰るバイクにまたがる場面を見ているだけで、不思議と亡き名優松田優作の『ブラックレイン』(1989)を彷彿させてくれます。
何かが映画的に類似しているということではなく、根本自身の魅力に松田優作と同じ匂いである、“陰の中の陰”のような影が見え隠れします。
それは僧侶であるということよりも、根本自身がそれまで生きてきた、“ギリギリの人生で身に纏った念”のようなものといえば良いでしょうか。
そのような僧侶はあまり見たことがなく、彼自身の気迫ともいうべき生き物としての魅力が、どこか松田優作の内面と似て見えるのかもしれません。
根本一徹は、1972年1月21日東京生まれ。現在は臨済宗妙心寺派大禅寺住職で、「いのちに向き合う宗教者の会」の代表を勤めています。
1998年に出家し、2004年より自死防止活動を開始。2007から18年には毎年、国内や海外の国際会議で「世界仏教徒会議」日本代表発表者として登壇しています。
また2010年に、フジテレビ系列のドキュメンタリー『ザ・ノンフィクション 人を救えるのか ~僧侶 一徹の四季~』が放映されたことで目にした視聴者も多いかもしれません。
2011年に、第35回正力松太郎賞青年奨励賞を受賞。
2013年11月には増上寺で開催された「悲しみから希望を紡ぐ ダライ・ラマ法王14世と若手宗教者100人の対話」で、ダライ・ラマ法王とともに登壇も果たします。
近年はラナ監督も目にした雑誌「The New Yorker」にて活動が掲載され、ブログやSNS等を利用したオープンな活動が着目され、読売新聞などをはじめ、多くの国内外のメディアに取材を受けています。
根元一徹の境地
根本一徹は映画『いのちの深呼吸』を見た観客に伝えたいことをこのようにインタビューで語っています。
「私自身も生きている意味を探していて、人生をかけて探していくものだと思っています。それは日替わりかもしれないですし、そうじゃないかもしれない。探すこと自体が、人として尊いことだと思います。頑張って悩んで、その悩みが報われるように生きていて欲しいのですね。家族や仕事、目的であったり、「生きている意味探し」そのものが生きている意味であったりするということなのです」
根本は生きること自体が「生きている意味探し」と述べています。
そして彼の考える時間軸の価値観では、「未来は変えられないけど、過去は変えられる」と心に留め置いてるようです。
どんな苦しい過去でも、捉え方次第で過去は変えられ、未来を変えるのでなく、過去の見方を深めていくことで、未来は開かれると信じています。
そのようなことが映画の端々に感じられ、今を楽しみ、今に苦悩し躓きながらも根本一徹は、今を“完全燃焼”でありたいとしています。
今の忙しない時代のなかで自分は、“完全燃焼”という野暮ったくも魅力的な言霊を忘れかけていました。
若者たちと根本一徹が自身の寺内で酒を呑み、踊り明かした後に、300年前に切り出された寺の一部の木材の柱などを燃やした護摩業のようなキャンプファイヤーの火炎を見つめた後、“完全燃焼”が見えたような気がしました。
まとめ
本作品『いのちの深呼吸』で単独で監督を務めたラナ・ウィルソンは、自身の作品を「人の繋がりの大切さを映画にした」と語っています。
そのうえでラナ監督は、こうも述べています。
「根本さんと彼を訪ねる人とのつながりであり、私と彼のつながりであり、人が人生で出会うすべてのつながりでもあります。つながりこそが人生に生きる価値を与えるものです」
岐阜県大禅寺で住職を務める根本一徹のもとには、全国の自死志願者からのメールや、電話が昼夜を問わず届きます。
追いつめられて誰も頼ることができない人の声を受け、根本は“完全燃焼”で前にいる者に静かに笑いかけ、“死の淵”に立つ彼らと寄り添っています。
スクリーンを通して、そんな空気感に繋がれる映画。それがドキュメンタリー作品『いのちの深呼吸』です。
ドキュメンタリー映画『いのちの深呼吸』9月8日(土)よりポレポレ東中野にて公開!
本作を上映する劇場情報
【北海道・東北地区】
北海道 シアターキノ 上映予定
【関東地区】
東京 ポレポレ東中野 9月8日(土)~
【中部地区】
名古屋 シネマスコーレ 9月下旬
名古屋 あいち国際女性映画祭
岐阜 Cinex 上映予定
【近畿地区】
大阪 シネ・ヌーヴォ 9月15日(土)~
三重 伊勢進富座 10月20日(土)~
京都 京都シネマ 10月
*上記の上映館情報は7月23日現在のものです。作品の特性からセカンド上映や順次公開されることが予想されます。お近くの映画館をお探しの際は必ず公式ホームページを閲覧してお出かけください。