Cinemarche

映画感想レビュー&考察サイト

ドキュメンタリー映画

Entry 2023/06/28
Update

『フラメンコの魔性と神秘』あらすじ感想と評価解説。スペイン南部アンダルシア地方で暮らす人々共に“伝統舞踊の真髄”を魅せる!

  • Writer :
  • 谷川裕美子

映画『フラメンコの魔性と神秘』は2023年7月28日(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷ほか限定上映

2023年7月28日(金)より、“史上最高のフラメンコ映画”との世界的評価を集めているドキュメンタリー『フラメンコの魔性と神秘』が、ヒューマントラストシネマ渋谷、シネ・リーブル梅田、シネ・リーブル神戸にて限定上映されることが決定しました。

2022年12月17日と18日の2日間限定で開催された、新旧フラメンコ映画の傑作を上映したラテンビート映画祭 presents 「フラメンコ!フラメンコ!」で募った映画館での再上映リクエストから、特に人気の高かった『フラメンコの魔性と神秘』と『ロスタントス~バルセロナ物語~』をアンコール上映することとなりました。

1953年のカンヌ国際映画祭で特別賞・ダンス賞を受賞した本作の魅力について、ご紹介します。

映画『フラメンコの魔性と神秘』の作品情報

【公開】
2022年(スペイン映画)

【監督・製作・脚本】
エドガー・ネヴィル

【出演】
グラン・アントニオ、ピラール・ロペス、ベルナルダ・デ・ウトレーラ

【作品概要】
スペイン南部・アンダルシア地方で暮らす人々の姿を織り交ぜながら、フラメンコの様々なスタイルを紹介していくドキュメンタリー作品。

監督・製作・脚本をエドガー・ネヴィルが務め、1953年のカンヌ国際映画祭で特別賞・ダンス賞を受賞しました。

当時失われてしまっていた尊厳をフラメンコに再び与えた傑作として、“史上最高のフラメンコ映画”との世界的評価を集めています。

当時のスペインを代表するフラメンコ・ダンサー=グラン・アントニオ、ピラール・ロペス、マリア・ルスらとバレエ・エスパニョールのメンバーによる珠玉のパフォーマンスが、アルマデン、アントニオ・マイレーナ、ベルナルダ・デ・ウトレーラほかによる演奏とともに、壮大な景色に彩られて映し出されます。

映画『フラメンコの魔性と神秘』のあらすじ

アンダルシアの民が哀感を表現したカンテ(歌)はやがてカンテ・グランデと呼ばれるようになりました。19世紀半ばに原型が生まれ、そこから別の曲種が派生していきます。その総称がカンテ・フラメンコです。

カンテ・グランデの母とも言われる、フラメンコの悲哀がすべて凝縮されている最も重要なシギリージャを皮切りに、さまざまなカンテが紹介されます。

超人的なグラン・アントニオのソロダンス、壮大な景色をバックに踊るマリア・ルス、カスタネットを操りながら華麗なステップを踏むピラール・ロペス、ウトレーラ姉妹の哀調を帯びた独特の歌声など、観る者を圧倒する演技・演奏が次々に披露されます。

映画『フラメンコの魔性と神秘』の感想と評価

情熱の国スペインで受け継がれてきた芸術舞踊のフラメンコの歴史を、素晴らしい演技とともに紹介する稀有な一作です。

歌声「カンテ」から生まれたフラメンコの歴史をカンテの種類から紐解き、年月を経て新たに生まれた踊りなども映し出されていきます。

ぎっしり思いのつまった情熱的で悲哀に満ちた歌声にまず圧倒されます。この乾いた土地にこれほどの情熱がほとばしっていることに、畏敬の念を抱かずにはいられません。

舞台芸術として人気のフラメンコですが、当初は土着の踊りだったことでしょう。村の広場にみんなで集い、歌と踊りを楽しむところから始まったであろうことが見てとれます。

フラメンコはとてもドラマチックな舞踊です。哀愁こもった歌声、鳴り響くヒールのタップ音、自在に打ち鳴らすカスタネットの響き、翻るフリルたっぷりのスカート。

歌声一本とともに超絶的技巧を披露するグラン・アントニオのダンス、壮大な景色やアルハンブラ宮殿をバックに踊るマリア・ルス、ステージで圧巻の華麗なステップを踏むピラール・ロペスら、超一級の演技に思わず魅せられることでしょう。

激しい踊りに耐えうる強靭な肉体と、彼らが醸し出す色気にただただ圧倒されます。

葬儀に集まる大勢の人々や、インドの流れをくみ裸で暮らす子どもたちの姿など、ドキュメンタリーでありながら映画のワンシーンのような味わい深い映像も映し出されます。

老若男女問わず誰もが自然にフラメンコを踊る様子から、いかに生活に密着した文化であるかも伝わってきます。

まとめ

日本でも人気の高いスペインの芸術舞踊フラメンコの歴史を、素晴らしいダンサーの演技とともに映し出す名作ドキュメンタリー『フラメンコの魔性と神秘』。

ルネサンスの教会音楽と同じく、まず初めに人の歌声から始まり、やがてその種類が増えるととともに自然発生的に踊りが生まれたことがよくわかります。

乾いた大地に暮らす貧しい人たちにとって、歌も踊りも祈りと同じ意味を持っていたに違いありません。

文明の発達とともに舞踊も洗練され舞台芸術へと進化しても、フラメンコは市井のスペインの人たちの魂を映し出す存在であり続けることでしょう。

ラテンビート映画祭 presents 「フラメンコ!フラメンコ!」で募った映画館での再上映リクエストから、特に人気の高かったドキュメンタリー『フラメンコの魔性と神秘』は、2023年7月28日(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷、シネ・リーブル梅田、シネ・リーブル神戸にて限定上映です。


関連記事

ドキュメンタリー映画

映画『長岡大花火 打ち上げ、開始でこざいます』感想評価。大輪の花々が苦難を乗り越えた町を彩る

『長岡大花火 打ち上げ、開始でこざいます』は2024年6月28日(金)より全国公開 日本三大花火のひとつ「長岡花火」の全貌と世界の人々を惹きつけてやまない魅力に迫った、中越地震復興20年祈念ドキュメン …

ドキュメンタリー映画

映画『イメージの本』あらすじネタバレと感想。ゴダールの希望とは“ささやかな愛のイメージ”

映画『イメージの本』は、2019年4月20日(土)より、シネスイッチ銀座ほか全国順次公開。 生ける伝説、ジャン=リュック・ゴダール。 齢88歳、フランスに生まれスイスで育った大巨匠が私たちに投げかける …

ドキュメンタリー映画

映画『ヨコハマメリー』ネタバレ感想と結末解説。伝説の娼婦を見つめ返すことは横浜の歴史を知ることに等しい

かつて絶世の美人娼婦として名を馳せた“ハマのメリー”の物語 映画『ヨコハマメリー』は、戦後50年間に渡り娼婦として街角に立った、“メリーさん”と呼ばれた女性の半生を追い、その生き様に迫る作品です。 “ …

ドキュメンタリー映画

映画『ヨーゼフ・ボイスは挑発する』ネタバレ感想レビュー。現代美術作家は疾走と膨大な記録によって蘇る

映画『ヨーゼフ・ボイスは挑発する』は、2019年3月2日(土)より、UPLINkほか全国順次公開。 “ヨーゼフ・ボイス”=”社会を彫刻する芸術家” アン …

ドキュメンタリー映画

ドキュメンタリー映画『ギフト 僕がきみに残せるもの』あらすじとキャスト

ドキュメンタリー映画『ギフト 僕がきみに残せるもの』は、2018年2月2日(金)よりDVD発売&レンタル開始! 難病ALSを宣告された元アメリカン・フットボールのスター選手のスティーヴ・グリ …

【坂井真紀インタビュー】ドラマ『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』女優という役の“描かれない部分”を想像し“元気”を届ける仕事
【川添野愛インタビュー】映画『忌怪島/きかいじま』
【光石研インタビュー】映画『逃げきれた夢』
映画『ベイビーわるきゅーれ2ベイビー』伊澤彩織インタビュー
映画『Sin Clock』窪塚洋介×牧賢治監督インタビュー
映画『レッドシューズ』朝比奈彩インタビュー
映画『あつい胸さわぎ』吉田美月喜インタビュー
映画『ONE PIECE FILM RED』谷口悟朗監督インタビュー
『シン・仮面ライダー』コラム / 仮面の男の名はシン
【連載コラム】光の国からシンは来る?
【連載コラム】NETFLIXおすすめ作品特集
【連載コラム】U-NEXT B級映画 ザ・虎の穴
星野しげみ『映画という星空を知るひとよ』
編集長、河合のび。
映画『ベイビーわるきゅーれ』髙石あかりインタビュー
【草彅剛×水川あさみインタビュー】映画『ミッドナイトスワン』服部樹咲演じる一果を巡るふたりの“母”の対決
永瀬正敏×水原希子インタビュー|映画『Malu夢路』現在と過去日本とマレーシアなど境界が曖昧な世界へ身を委ねる
【イッセー尾形インタビュー】映画『漫画誕生』役者として“言葉にはできないモノ”を見せる
【広末涼子インタビュー】映画『太陽の家』母親役を通して得た“理想の家族”とは
【柄本明インタビュー】映画『ある船頭の話』百戦錬磨の役者が語る“宿命”と撮影現場の魅力
日本映画大学