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『テルアビブ・オン・ファイア』あらすじと感想。映画監督とキャストがコメディに込めたイスラエルの状況

  • Writer :
  • シネマルコヴィッチ

2018年10月に開催された第31回東京国際映画祭コンペティション部門に出品されたイスラエル映画『テルアビブ・オン・ファイア』

10月29日に東京・TOHOシネマズ 六本木ヒルズで行われ上映後にサメフ・ゾアビ監督と、俳優のヤニブ・ビトンが出席して記者会見が行われました。

今回は同映画祭で「イスラエル映画の現在2018」と特集まで組まれたイスラエル映画の現状と、コメディ映画『テルアビブ・オン・ファイア』のあらすじと感想をご紹介します。

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映画『テルアビブ・オン・ファイア』の作品情報


ⒸSamsa Film – TS Productions – Lama Films – Artémis Productions Ⓒ Patricia Peribañez – Samsa Film – TS Productions – Lama Films – Artémis Productions

【公開】
2018年(ルクセンブルク・フランス・イスラエル・ベルギー合作映画)

【原題】
Tel Aviv on Fire

【監督】
サメフ・ゾアビ

【キャスト】
カイス・ナーシェフ、ルブナ・アザバル、ヤニブ・ビトン

【作品概要】
サメフ・ゾアビ監督の『テルアビブ・オン・ファイア』は、第31回東京国際映画祭のコンペティション部門にエントリーされ、コメディ映画の特性を活かし、イスラエルとパレスチナの問題をユーモアと風刺を効かせた秀作。

主人公のパレスチナ人のサラム役を『パラダイス・ナウ』(2005)で深刻な役を演じたカイス・ナシェフが演じています。

映画ファン必見のイスラエル映画


©︎Cinemarche

映画ツウのあいだではイスラエル映画が熱い昨今。

作品性のテーマ選びや、登場人物の明確な描写に至るまで、映画界の次世代を担う作家たちが次々に育っています。

2018年10月に開催された第31回東京国際映画祭では、イスラエル特集「イスラエル映画の現在2018」が組まれたほどです。

この映画祭の参加にあたり、イスラエル・フイルム・ファンドで活躍を見せる、エグゼクティブ・ディレクターのカトリエル・シホリは、今日のイスラエル映画について、「この数十年間で映画はイスラエル文化の極めて重要で不可欠な存在になり、世界の映画界の中心的プレイヤーの役割を担った」と述べています。

カトリエル・シホリはこのようにも述べています。

「2000年の映画法成立から10年余りが経った現在、イスラエル映画は今日的な課題に向き合い、困難にめげず、時には議論を呼ぶようなテーマや物語に取り組み、国内の主要かつ代表的な芸術として位置づけられています。イスラエルの映画人はこの国の多文化的構造を描くにあたり、実に様々な物語や声、場所、文化をスクリーンで表現してきました」

世界的に注目を集めはじめたイスラエル映画は、2018年の東京国際映画祭では、コンペティション部門に選出された本作『テルアビブ・オン・ファイア』をはじめ、イスラエル映画特集に『靴ひも』『赤い子牛』『ワーキング・ウーマン』『彼が愛したケーキ職人』が選出されています。

カトリエル・シホリがイスラエル映画について語った、「今日的な課題に向き合い、困難にめげず、時には議論を呼ぶようなテーマや物語に取り組み、国内の主要かつ代表的な芸術」というのは的確な解説です。

映画『テルアビブ・オン・ファイア』のサメフ・ゾアビ監督


©︎Cinemarche

しかも本作『テルアビブ・オン・ファイア』は、コメディ映画です。

主人公のパレスチナ人サラムと、検問所で働くイスラエル人のアッシの出会いを通して、難しい状況下に暮らす民族の異なる人たちをユーモアと希望を持って見つめています。

サメフ・ゾアビ監督はイスラエルとパレスチナの問題を描くことについて次のように述べています。

「自分の映画では観客を楽しませると同時に、登場人物が暮らしている状況を極力、正直に伝えようとしている」

イスラエル映画や国内状況に馴染みのないあなたにも、コメディ作品の持つ芸術的な品格で、どなたにもオススメの秀作に仕上がっています。

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映画『テルアビブ・オン・ファイア』のあらすじ


ⒸSamsa Film – TS Productions – Lama Films – Artémis Productions Ⓒ Patricia Peribañez – Samsa Film – TS Productions – Lama Films – Artémis Productions

パレスチナのアラブ人である30歳のサラムは、エルサレムに暮らしていました。彼は金なし、彼女なし、仕事もなし…。

何をするにも上手く立ち回ることができないサラムは、自分の意思を他人に伝える言葉を持っていませんでした。

そんなサラムは、テレビドラマの番組プロデューサーをしている伯父に頼み込み、『テルアビブ・オン・ファイア』という、国民的人気メロドラマの現場で働いています。

彼はパレスチナ人としてアラブ式な微妙な言葉のイントネーションや言い回しなどを、フランス人の女優にアドバイスするのが役割です。

しかし、脚本の台詞のおかしさを指摘するも、大物の女性脚本家が執筆した脚本の台詞を書き換えるのは一苦労。

正直なところをいえば、サラムは居てもいなくてもいい存在。伯父は一族のよしみでサラムに仕事を与えていたのです。

それでもサラムは、毎日、自宅から撮影所に通うため、面倒なイスラエルの検問所を通り向かいます。それはパレスチナのアラブ人の彼には、自国というものがないから仕方ないことでした。

今日もプロデューサーの伯父に給料の前借りをし、ツケの溜まった店に借金を返して回ります。

ある日、サラムは検問所の主任を務めたイスラエル人のアッシから尋問にあいます。

そこでサラムは自分の職業を人気メロドラマ『テルアビブ・オン・ファイア』の脚本家だと偽りました。

するとアッシは、ドラマの熱烈なファンでの妻に自慢するため、サラムから脚本を奪い取ります。

その後、たびたびサラムをアッシは検問所で引き止めるうちに、やがて2人はお互いの興味を補うようにドラマの脚本に関わることになります。

しかも軍人であるアッシの脚本アイデアはリアルなだけでなく、ラブロマンスの機微も、女との交際経験のないサラムよりも数段上の台詞回しを見せたことで、サラムは正式脚本家に出世します。

サラムは撮影所でのキャリアアップに火が付き、仕事を得た彼はかつての恋人とも再会を果たしますが、そんな矢先、イスラエル人のアッシとスポンサーが人気メロドラマ『テルアビブ・オン・ファイア』の結末をめぐり、不満を抱き降板をすると言い出します…。

映画『テルアビブ・オン・ファイア』の感想と評価


ⒸSamsa Film – TS Productions – Lama Films – Artémis Productions Ⓒ Patricia Peribañez – Samsa Film – TS Productions – Lama Films – Artémis Productions

喜劇王チャーリーやアレンのようなパレスチナ人のサラム

イスラエル映画は、今や日本の映画ツウの間でも知れ渡ってきた良作を生み出す国のひとつだと紹介しましたが、本作『テルアビブ・オン・ファイア』の秀でた点は、まずは脚本でしょう

コメディ映画の王道として、マイノリティである弱い立場のキャラクターを主人公に配して、これまた定番のイケてない主人公がストーリー展開を引っ張っていくパターンは、とても分かりやすく、誰にでも馴染みがあるでしょう。

それは何といっても喜劇王チャーリー・チャップリンが作り上げた定番のキャラクターであり、その後、それをコメディアンとして引き継いだ初期のウッディ・アレンが成熟させた要素に似ています

そこで本作『テルアビブ・オン・ファイア』のパレスチナ人のサラムのイケてなさ、モテないダメな男ぷりをそのように見ると、はじめのうちはイライラするかもしれませんが、愛らしく思うはずです。

アレンと唯一異なるのはオシャベリが下手。ここが大きな見どころのポイント。むしろ喋れないことはサイレント映画の喜劇人だと言えば言い過ぎでしょうか。

そんなサラム役は、2005年の映画『パラダイス・ナウ』で深刻な役を演じたカイス・ナシェフが飄々と演じていまから、そこが笑いのツボとなるわけです。

物語が進むに連れてパレスチナ人の主人公サラムは、撮影所でアラブ言葉のイントネーション監修係として働いていましたが、やがてイスラエル人のアッシを利用し、他力本願で脚本家になっていきます。

仕事を得てお金を得る、信用をつけると自信を持つようになってきたサラムは、昔の恋人とも再会を果たします。

この辺りのイザコザのすれ違いも、何ともアレン作品のようです。

それでも最後には自分の努力のみで脚本を書き上げ、言葉を習得していきます。

まあ、それも他力本願の要素はあるのですが、その状況下はパレスチナ人のイスラエルという国で乗り越える可能性なのでしょう。

また、1972年のアレンの初期のコメディ映画『ボギー!俺も男だ』をご存知な方は、本作でも『カサブラン』や『マルタの鷹』などのモチーフにイスラエル映画界のシネフィルなのねと、映画という共通の言語は言葉の壁を超えて嬉しくなりますよ。

パレスチナ人のサラムに脚本を教えるイスラエル人のアッシ


©︎Cinemarche

アッシ役のイスラエル人であるヤニブ・ビトンは、サメフ・ゾアビ監督とともに東京国際映画祭に来日をしました。

一足先に日本を訪れていたサメフ監督を追うように来日をしたのですが、本作『テルアビブ・オン・ファイア』を日本の映画祭で紹介することに当初、「遠く離れた東京の観客が、僕たちが抱えている問題をどれだけわかってくれるか心配だった」と振り返りました。

しかし、一般上映後には観客から多くの質問や反響の大きさに、マスコミ取材の際に「やはり、コメディは万国共通」だと納得の笑みを花咲かせます。

ヤニブは脚本を読んだりやサメフ監督のアイデアなどを聞いた際に、パレスチナとイスラエルのことをコメディ映画で描くことにとても驚いたそうです。

「実際の問題は決して笑えるものではありません。ただ映画の政治的な視点、ストーリー性、キャラクター、その意図のすべてに共感できた。だからこそ、この役はどうしても演じたいと思った」

ヤニブは演じた達成がこみ上げたのか、とても熱っぽく語っていました。

この作品をご覧になるととてもよく分かりますが、おちゃめなヤニブ・ビトンは検問所の主任であるアッシ役をとても楽しんで演じていたのが、スクリーンからよく伝わってきますよ。

「言葉」を持ちたいから映画を作るサメフ・ゾアビ監督


©︎Cinemarche

サフメ・ソアビ監督はパレスチナ人として、イスラエルの都市テルアビブに暮らしています。

彼は自身の映画スタイルはコメディという作風を取っており、それだからこそ、パーソナルな本質があると語っていました。

この作品で描いている主人公サラムが置かれている状況や様子は、彼自身のことを反映させて描いているのです。

「イスラエルの人たちと共存しながら、毎日のように闘争を間近に感じています。常に自分が何を表現するべきなのかという声に耳を澄ませたり、我々が抱える問題をどのように映画にできるか聞き分けています」

このようなことを強く意識することこそ、彼のパレスチナ人としてのアイデンティティに他なりません。

本作には中東で食べられるアラブ料理のフムスが何度も登場し、サラムとアッシの関係を結ぶ重要なモチーフの1つになっています。

サメフ監督はフムスを政治的な意味を持つ土地のメタファーだと語りました。

1948年のイスラエルの建国から、パレスチナ人は土地を失い、文化も吸収されていきましたといい、フムスもその1つ象徴だと説明します。

今ではパレスチナ人の家庭料理だったフムスを、イスラエル人も外食として食べるようになり、まるで自分たちの食事になったのだと解説しました。

そしてサフメ監督は確信的に「自分たちのアイデンティティを維持するためには、他のアイデンティティを奪う」と述べました。

さらにマスコミ取材の最後にパレスチナ人のサメフ監督は、こう締めくくります。

「描きたかったのは軍事的に占領されている状況ではなく、精神的な占領。映画に登場する検問所の先にあるものを見ていかなくてはないのです。それはパレスチナ人もイスラエル人も、お互いに持っているものです。

オスロ合意は僕ら世代にとってもはやジョーク。我々パレスチナ人は国もないし、土地もない、市民権もありません。若い世代は将来が見えないのです。

我々は言葉を持ちたいのです」

本作『テルアビブ・オン・ファイア』の主人公サラムが、アラブ語の指導係から脚本家になっていった意味はここにあります

サラムが脚本家として自分の言葉を求めていく姿こそ、アイデンティティ確認です。

街角のカフェで恋人たちの様子を盗み聞きして、検問所主任のイスラエル人のアッシの教えによく聞き、元恋人との言葉やり取りを思い起こします。

サラムの唯一の特技は、「耳の良いこと」でした。他人の話した言葉をよく聞き分けられる才能です。

その才能が開花したとき、脚本家としてテレビドラマを先行き(将来)が予測できるようになり、また言葉(アイデンティティ)を掴むことができました。

サメフ・ゾアビ監督が映画制作を行う真意は、パレスチナ人として生まれ、国がなく、土地もない、また市民権もないからこそ、言葉(映画)を持つことこそに意味があるのです。

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まとめ


ⒸSamsa Film – TS Productions – Lama Films – Artémis Productions Ⓒ Patricia Peribañez – Samsa Film – TS Productions – Lama Films – Artémis Productions

本作『テルアビブ・オン・ファイア』は、ただただ笑ってストーリー展開を楽しめる映画です。

パレスチナ人の俳優カイス・ナーシェフ演じる主人公サラムや、イスラエル人のヤニブ・ビトンが務めた検問所主任のアッシのほかにも、魅力にあふれるキャラクターが揃っています。

それもまた、コメディ映画の強みです。そして登場人物の誰もが最後の最後には納得を見せるハッピーエンドこそ、言葉を持ったサメフ・ゾアビ監督が雄弁に語る未来像なのでしょう

さて、マスコミ取材の際に政治的な意味を持たせたフムスについて、こんなジョークも飛び出していました。

サメフ・ゾアビ監督は「パレスチナ人にとっては、フムスは家で作るもので外に食べに行くものではないんです。でも、ヤニブにはフムスが美味しいレストランによく誘われますし、イスラエル人も本当にフムスが好きなんです」と、笑顔をみせます。

ヤニブ・ビトンはそれに対して、「撮影所で食べたフムスは本当にまずかった」とジョークで返しました。

仲の良いイスラエル人のヤニブ・ビトンと、パレスチナ人のサメフ・ゾアビ監督は、きっとこれからも互いの話にい耳を傾け、話し合いながらゆっくりと一緒の答えとなる未来を作っていくのでしょうね

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