映画『すくってごらん』は2021年3月12日(金)より全国公開。
大谷紀子による、世界初の金魚すくいマンガ『すくってごらん』が、『ボクは坊さん。』(2015) で高い評価を受けた真壁幸紀監督により、実写映画化されました。
歌舞伎界の若手ホープ・尾上松也が、本作で映画初主演を果たし、左遷された大手メガバンクの銀行員役を務めます。
また、百田夏菜子(ももいろクローバーZ) が、謎多き美女・吉乃を演じ、実写映画初ヒロインに挑みました。
金魚すくいという、一見地味なテーマの本作ですが、歌あり踊りありの、躍動感あふれるカラフルな作品に仕上がっています。
本記事では、映画『すくってごらん』のストーリーをラストまでネタバレありでご紹介します。
映画『すくってごらん』の作品情報
【日本公開】
2021年(日本映画)
【原作】
大谷紀子『すくってごらん』(講談社)
【監督】
真壁幸紀
【キャスト】
尾上松也、百田夏菜子、柿澤勇人、石田ニコル、矢崎広、大窪人衛、清水みさと、辻本みず希、北山雅康、鴨鈴女、やのぱん、竹井亮介、川野直輝、笑福亭鶴光
【作品概要】
大谷紀子の同名コミックの実写映画化。
本作が映画初主演となる歌舞伎俳優の尾上松也と『ももいろクローバーZ』の百田夏菜子が共演。
ヒロインの吉乃を演じる百田が、役名の生駒吉乃として主題歌を歌っています。
監督は『ボクは坊さん。』『ラスト・ホールド!』の真壁幸紀。
映画『すくってごらん』のあらすじとネタバレ
大手メガバンクのエリート銀行員・香芝誠は、東京の本社から左遷され、片田舎へやってきました。
キャリーバッグを転がしながら、田んぼしか見えない道を歩く香芝。金魚を乗せたトラックがやって来て、香芝の前で止まります。
運転していたのは、帽子を被ったあやしい男・天寺。彼に強引に車に乗せられ、香芝は下宿先の近くまで送ってもらいました。
天寺と別れ、古い街並みを歩く香芝。目の前を走り去った、赤い着物の女性の後ろ姿に惹かれた香芝は、彼女の後を追っていきます。
彼女が入って行ったのは、艶やかな紅色に彩られた店『紅燈屋』。出迎えてくれたのは、香芝が追っていた女性・吉乃でした。
「紅燈屋」は金魚すくいの店なんですが、遊女屋と勘違いした香芝はタジタジ。女性に心を奪われることも、金魚すくいのような遊びに夢中になることも、香芝にとっては無用のものでした。
香芝は下宿さきのアパートの部屋で、落ちぶれた自分の境遇と孤独を歌います。
あくる日。異動先の銀行に出社した香芝は、感情を殺して、上司や同僚に挨拶。彼にとって信じられるのは数字だけ。ひたすらお金と書類に向き合い、新規の契約をどんどん取っていきます。
先輩の川西に連れられ、香芝は顧客の元を訪れます。そこは、兄妹で経営しているカフェバー『Lanchu』でした。
オーナーである兄は経営に興味はなく、暇さえあれば店内のドラムを叩いており、実際に店を切り盛りしているのは、妹の明日香ひとり。
香芝は、店内のインテリアの統一のなさや、ランチの原価に対して金額が安いことなどを指摘しますが、明日香は「地元に愛される店だから」と譲りません。
しかし、香芝が東京の人間だと聞いた途端、明日香の態度は一変。香芝に猛アプローチをかけて来ます。
その晩、香芝の歓迎会が『紅燈屋』で開かれます。支店長も同僚も部下も、みんな夢中で金魚をすくいますが、香芝には何が楽しいのかわかりません。
体調がすぐれないと言って歓迎会を抜けた香芝は、自分の部屋へ戻りました。
味噌汁を作ろうと、出汁用の煮干しを水に浮かべた彼は、煮干しが泳いでいるような気がして、煮干しをすくおうとします。
そこへ、吉乃が手作りのおはぎを持ってお見舞いに来ます。「このおはぎは商売になる」と電卓う片手におはぎを頬張る香芝を、吉乃は笑いながら見つめました。
日は変わり、『Lanchu』へ訪れた香芝。明日香は、かつて女優を目指して東京で暮らしていたことがありました。しかし夢破れて地元に帰って来たと、明日香は歌いながら打ち明けます。
香芝は、真っ直ぐに気持ちを届ける明日香の歌に涙を流します。彼が左遷されたのは、自分の気持ちに蓋をして来たからでした。
左遷前、本社で新規の取引先の融資を上司に提案した香芝。しかし、上司は、書類に目も通さずに突っぱねます。
香芝は反論したい気持ちをグッと堪えていたんですが、つい口から暴言が出てしまいます。そのせいで、左遷されることになったんです。
ある日、香芝は、崩れかけた蔵の中からピアノが奏でられているのを耳にし、蔵の中へと入ります。
そこでは吉乃が楽しそうにピアノを弾いており、香芝は心を奪われます。
吉乃の勧めもあって『紅燈屋』で金魚をすくう香芝。「逃げたのは追ってはいけない、来るまで待つ」という吉乃のアドバイスを受け、香芝はじっと金魚から来るのを待ちます。
香芝は初めて金魚を1匹すくいます。笑顔を浮かべる香芝。嬉しさのあまり、記念に持って帰りたいと申し出ますが、捕まえた金魚は水槽の中で、他の金魚と混ざってしまいました。
ですが、香芝はそんな中でも、自分がすくった金魚をすぐに見つけて、持って帰ることにします。
高揚感で、香芝は町を散歩します。見晴らしの良い丘に来ると、そこには天寺がいました。
天寺のトラックには、大きな金魚が泳いでいます。天寺は、大きな水槽で泳がせれば金魚は大きく育つと言い、香芝に水槽をプレゼントしてくれました。
映画『すくってごらん』の感想と評価
原作コミックとの違い
金魚すくいという、静かながら熱情を秘めたスポーツを漫画にした大谷紀子のコミック『すくってごらん』。香芝が、金魚すくいへのめり込んでいき「救われる」姿と、彼によって「救われる」周囲の人々を描いた作品です。
原作でも、香芝から吉乃への想い、吉野から天寺への想い、飛鳥から香芝への想いは描かれていますが、恋愛がメインではなく、スポーツを交えた人間ドラマとなっています。
映画化である本作は、4人の恋愛模様をメインに、原作を再構築。別作品としても、原作のエッセンスを抽出した作品としても楽しめます。
原作では、金魚屋を営んでいるのは天寺であり、彼を過去の出来事から香芝が救い出すのがクライマックスとなっていました。
本作では天寺のことにはほとんど触れず、彼を待ち続ける吉乃をすくうことが、香芝の役目になっています。
香芝のキャラクターは、ポジティブな原作とは異なり、映画ではかなりネガティブ。ですが、そのネガティブさを尾上松也が美声で歌い上げるんですから、反則級に面白いキャラクターに仕上がりました。
尾上松也らキャストが本領発揮
尾上松也の振り切った演技があったからこそ、本作はただのミュージカル映画とは一線を画しました。『モアナと伝説の海』(2016)でも抜群の歌声を披露し、イケメンすぎるマウイを作り上げた尾上松也。
本作ではコメディアンとしての才能も発揮。歌舞伎で培った絶妙な呼吸の間合いと、リアルなのにコミカルな表情や身のこなしに、誰しも笑顔にさせられるはず。
本作は、香芝の考えや気持ちが、テロップのように流れ、歌として流れます。観客には常に香芝の脳内がダダ漏れです。
はじめは映像効果として使われていた「歌」が、香芝が自分の気持ちを吐露できるようになってからは、現実で聞こえてくるものと変化していくのも興味深い点でした。
初ヒロインを務めた百田夏菜子も、儚げで華奢な吉乃を体現。ふとした瞬間に見せる笑顔の愛らしさに、「この笑顔、守りたい」と、香芝でなくても思わされてしまう説得力がありました。
また、本作のためにレッスンを重ねたという、力強いピアノの演奏風景も必見です。
天寺を演じた柿澤勇人は劇団四季出身の多彩さを見せ、石田ニコルは夢破れた明日香の切なさが色気につながっていました。
まとめ
原作とは違う楽しみに満ちた映画『すくってごらん』。
ラストで立ち去っていく香芝の背中は、好きな人の幸せこそが自分の幸せという、さっぱりとした決意に満ちており、寅さんの姿と重なりました。
ぜひ、尾上松也演じる香芝が、日本各地でさまざまなひとを救っていくシリーズとして、続編を制作して欲しいものです。
多幸感に満ちた本作を、ぜひ劇場でお楽しみください。
映画『すくってごらん』は2021年3月12日(金)より全国ロードショーです。