映画『セルジオ&セルゲイ 宇宙からハロー!』は、12月1日から新宿武蔵野館ほか全国で順次公開。
“キューバと宇宙とNY”、映画の舞台は一見共通点がなさそうな3つの場所。
そこから境遇の違う3人のおっさんが時代の波によって結びつき、彼らは力を合わせて「過去」に立ち向かうことに…。
今回はヒューマンドラマをコミカルに描いた映画『セルジオ&セルゲイ 宇宙からハロー!』のあらすじと感想をご紹介します。
映画『セルジオ&セルゲイ 宇宙からハロー!』の作品情報
【公開】
2018年(アメリカ・キューバ・スペイン合作映画)
【原題】
Sergio and Sergei
【監督】
エルネスト・ダラナス・エラーノ
【キャスト】
トマス・カオ、ヘクター・ノア、ロン・パールマン、ユリエット・クルス、マリオ・グエッラ、アナ・グロリア・ブデュン、アルマンド・ミゲル・ゴメス、カミラ・アーティッシュ、イダルミス・ガルシア、アイリン・デ・ラ・カリダー・ロドリゲス、A・J・バックリー、ローランド・レイムヤノフイ、マヌエル・アルバデス
【作品概要】
実在した旧ソビエトの宇宙飛行士セルゲイ・クリカレフをモデルしながら、冷戦終結の最中に振り回された男たちを描くコメディ映画。
1991年、ベルリンの壁が崩壊し、ソビエト連邦の存続が危ぶまれ、社会主義国家のキューバもその煽りを受けることになります。
本作はキューバが経済危機に陥ったシリアスな時代を背景にしていますが、それでもラテン気質のゆるく明るい雰囲気が常に漂っています。
演出は『ビヘイビア』などを手がけたキューバ人のエルネスト・ダラナス・セラーノ。この時代を“幸せな時代”と語る彼が、前向きで楽天的なラテンの雰囲気を彩った作品になっています。
映画『セルジオ&セルゲイ 宇宙からハロー!』のあらすじとネタバレ
1991年、ベルリンの壁が崩壊。
ソビエト連邦の終焉が近づく中、社会主義国家のキューバは経済危機に陥ってしまいました。
エリート共産主義者の大学教師として、マルクス主義哲学を教えるセルジオは、モロにその風を浴びて苦境に立たされます。
さらに彼は、幼い一人娘のマリアナと母を養わなければいけませんでした。
そんな中、もう一人時代の波に飲み込まれた男が“宇宙”にいました。
彼はセルゲイという宇宙飛行士でソ連人でした。国際宇宙ステーション「ミール」で一人任務に励んでいたセルゲイは、ソ連の危機をビデオ通話で知ります。
さらにこの一大騒動のせいで、母国へ帰る予定は白紙になり、帰還は無期限延期になります。
セルゲイは地球にいる二人の子供と妻を心配し、宇宙ステーションに貼った彼らの写真を眺めていました。
一方セルジオは、大学教師をやる傍、趣味でアマチュアの無線士をしていました。
騒乱状態のソ連に無線を入れ、徐々に現状を把握し始めます。
彼は将来を不安に思いつつ教壇に経ちますが、生徒側から「時代遅れ」のレッテルを貼られます。
特に美術を志す一人の生徒は、セルジオの指導に反対し、論文提出さえも拒否する事態。
そんなセルジオでしたが、彼はかつての無線仲間だったニューヨーク在住のピーターと無線通信のやり取りとを始めます。
近くて遠い存在だったアメリカとキューバでしたが、彼らは野球やたわいもない話をお互い英語を使って話すフレンドリーな仲でした。
ある日、セルジオの無線がなにやら不思議な暗号をキャッチします。
「CQ CQCX U5MIR」なんとそれは宇宙にいるセルゲイからの通信でした。
まさか宇宙からの通信だとは思わなかったセルジオは大興奮し、まさか応答があると思ってもいなかったセルゲイも大興奮。
雑音まじりの中、彼らは英語で会話を始めますが、セルゲイがソ連人だとわかると、セルジオはロシア語で話を始めます。
彼はマルクス主義哲学を学びにモスクワに留学していた過去を持っていました。
セルゲイにとって、母国語で仕事関係以外の人と交流を持てていることに感動し、家族のことや宇宙のことなど様々なことをセルジオに話します。
しかし、このやりとりをキューバ当局が盗聴していました。
既に、ソ連がロシアに変わり、時代の変化についていけないキューバは、このやり取りが宇宙に関する秘密のやり取りなのではないかと警戒しだします。
思いがけないやり取りに興奮したセルジオでしたが、学校側の給料では家族を養えないことや時代の波に飲み込まれてしまうことを理由に学校を去ろうとします。
セルジオの母は、若い頃やっていた葉巻作りの仕事を再開し、死んだ妻の分まで頑張る息子の負担を少しでも減らそうとします。
苦しい状況のセルジオはピーターにキューバや自分の実情を伝えます。
しかし、ピーターにも辛い過去がありました。彼はもともとポーランド生まれのユダヤ人でした。
彼の家族は戦時中、ヒトラーではなく、当時のソ連のトップ、スターリンによって殺されていたのです。
そのためピーターにとっては、共産主義思想を信じるセルジオが許せなくなっていました。
その後、ピーターはセルジオの無線に応答しなくなります。
映画『セルジオ&セルゲイ 宇宙からハロー!』の感想と評価
本作はストーリー展開が断片的であるものの、映画の持つテーマは観客に分かりやすく伝わってくる作品です。
劇中の中に多くの言語が登場しており、スペイン語、ロシア語、英語、そして、冒頭の曲にはフランス語が使われています。
当時のキューバの政府は、過去を切り離すことを頑なに拒んで、世界からの孤立を選ぼうとしていました。
グローバルという言葉が無縁な土地で、国際的な言語が映画内で飛び交っていました。
それはいつまでも過去にしがみつこうとし、多様性を無視することに対してのアンチテーゼと捉えることができます。
映画の最後には、その時代に取り残されたキューバ人が一人宇宙に投げ出されてしまいます。
まさに、時代に取り残されたキューバの国際的孤立を比喩を表した描写だといえるでしょう。
この場面は、エルネスト・ダラナス・エラーノ監督の伝えたいことが、上手く表現されています。
そして、セルジオの娘マリアナが最後に言った通り、キューバ、ロシア、アメリカが繋がり合うことも示唆されています。
実際のキューバでも、オバマ政権下のアメリカと友好的な関係を築き始めました。
地球の裏側に住む日本人として、本作の鑑賞を通して過去のキューバの状況や、キューバ人の気質を感じることができることは、なかなか新鮮で、良い体験だったといえるでしょう。
まとめ
実在した旧ソビエトの宇宙飛行士セルゲイ・クリカレフをモデルにした映画『セルジオ&セルゲイ 宇宙からハロー!』。
暗い時代背景をあえて、楽観的に暖かく描こうとするラテン系のノリは、心地よいものです。
“最後のソビエト連邦国民”とも言われた実在の人物を中心に、冷戦終結に振り回された男たちを描いた異色コメディです。
アメリカとキューバ、そしてスペインの合作映画『セルジオ&セルゲイ 宇宙からハロー!』は、12月1日から新宿武蔵野館ほか全国で順次公開です。
日本人にとっては地球の裏側で、あまり知らない国キューバ。この機会にぜひ、お見逃しなく!