斎藤工らが所属する映像クリエイティブ集団「チーム万力」初の長編映画
コンプレックス社会・日本を、芸人・永野の持つ鋭くもシュールな視点で描いた野心作!
美しい整顔師が経営する美容クリニック。彼は自身の持つ猟奇的哲学に従って、“万力”による小顔矯正施術を行っていた…。
奇妙な設定の下で始まり、あらぬ方向へ躍進する映画『MANRIKI』。その奇天烈な世界が、あなたの頭脳を“万力”で締め上げます。
CONTENTS
映画『MANRIKI』の作品情報
【公開】
2019年(日本映画)
【監督・脚本・編集】
清水康彦
【キャスト】
斎藤工、永野、金子ノブアキ、小池樹里杏、SWAY、神野三鈴、戸塚純貴、前野朋哉、三田尚人、ナタリー・エモンズ、木下ほうか
【作品概要】
永野、斎藤工、金子ノブアキ、清水康彦を主要メンバーとする、映像クリエィティブ集団『チーム万力』が製作した、ブラックコメディ映画。
テレビCM・MV・ファッション映像など、様々な分野の映像ディレクターとして活躍する、清水康彦の初長編映画となる作品。
原作・脚本の永野と共に、企画・プロデュースを務めた斎藤工が主演も自ら務めています。
音楽を担当した金子ノブアキも出演、様々な才能が結集した新感覚ムービーの誕生です。
映画『MANRIKI』のあらすじとネタバレ
とあるスーパーでレジを打つ女(小池樹里杏)。彼女は自分の顔が気になって、ロクに仕事に身が入らない様子です。
年上のパート仲間との会話すると、なにやら見下した態度をとる女。しかし彼女は自分の顔が大きいのではないか、と1人悩んでいました。
喫茶店での恋人(三田尚人)との会話では、他の女性が整形していると揶揄するこの女。しかし整形のおかげでモデル仲間が、仕事を増やしていると彼にこぼします。
私も整形すれば成功する、と切り出す女。それに対して、親からもらった体をいじる事に抵抗はないのか、人は外見より中身が大事だと答える恋人。
女は自分の発言は本気ではなかった、と取り繕います。その一方で自らもモデルとして働いている彼女は、自分の顔が大きさが原因で、オーディションに落ちていると訴えます。
顔の大きさも個性の1つ、気にし過ぎとの恋人の言葉も、全く女の耳には入りません。2人の前のテーブルに、1人の男(斎藤工)が座ります。なぜか視線がその男に釘付けとなる彼女。恋人に声をかけられて、ようやく彼女は我に返ります。
モデルのオーディション会場に現れた女。審査員が、ライバルの小顔を褒める言葉が気にかかります。結局モデルの仕事を得られませんが、彼女は自分の顔の大きさが原因だと信じて疑いません。他にも問題があったようだと、自覚する気配もありません。
広告に登場したモデルの写真、街の人々、そして恋人からも“顔デカ”と言われ、責め立てられているように感じている女。容姿に対するコンプレックスは、もはや強迫観念になっていました。
そんな中、彼女はモデル仲間との合コンに誘われます。集まった男女が中身の無い会話を繰り広げる中、彼女は自分を誘ったモデルが、不自然に顔を隠している事に気付きます。
彼女がふと見ると、そのモデルの鼻が落ちている事に気付きます。自分より人気のモデルも、やはり整形をしていたと気付いた女は、その鼻を拾うとトイレに流して1人大笑いします。
その後、合コンの場を後にしてタクシーに乗り込みますが、モタモタしている地方出身のドライバーを口汚く罵る女。
そんな彼女も地方出身者。故郷の母の心配をよそに、パートをしながら駆け出しモデルを続けているのです。ある日職場のスーパーで、またも顔が大きいとの強迫観念に憑りつかれ、同僚の前で鏡を叩き割ってしまいます。
遂に意を決した彼女は、以前から気になっていた“万力美容クリニック”を訪れます。
看護師(永野)による受付を済ませると、彼女は美容整顔師の部屋に入ります。そこにはかつて喫茶店で見かけた男が座っていました。
彼女は整顔師に、小顔にする方法を訊ねます。彼は骨を削ったりする方法はとらず、24の骨が集まって作られた、頭蓋骨の歪みを矯正する事で、確実に顔を小さくすると説明します。
彼女は自分がモデルであり、他のモデルは整形をしている者が多いと話します。そういった手術を受ける者は、プライドが無いと感じていると彼に打ち明けます。
一方でそれによって仕事を得ている姿を見ると、自分が整形手術を受けない事は、小さなプライドに拘っているだけで、その結果チャンスを失っているのかも、と心境を整顔師に訴える女。
整顔師は自分の仕事は、あなたが美しくなる事で自身を持ち、本来あなたが持っている価値を引き出すことである、と語りかけます。
ですからあなたは、もうすでに美しい。その美しさを生かすきっかけが作りたい。その整顔師の言葉に促され、彼女は小顔矯正施術を受けることになります。
看護師の手で施術室のベットに縛り付けられた女。そこにいた挙動の怪しげな医師(金子ノブアキ)の姿を見て、彼女は不安に襲われます。
彼女は頭を万力に挟まれます。麻酔もかけず万力を締め始めた整顔師。彼の顔に恍惚の表情が浮かびます。彼女は痛みを訴え施術を止める様叫びますが、誰も耳を貸しません。
彼女の顔は巨大な万力によって、ギリギリと締め潰されていきます…。
サプライズ舞台挨拶が実施
2019年11月29日(金)のシネマート新宿での上映初回、入場者に対して斎藤工・永野両氏が、自ら入場者プレゼントを手渡しし、上映前には予定に無かったキャストによる舞台挨拶を実施する、思わぬサプライズなプレゼントがありました。
スクリーン前に登壇した出演者たちは、次のようにファンを前に熱い思いを語ってくれました。
永野さん(以下、永野):映画『MANRIKI』が公開になりました、ご来場ありがとうございます。凄いニュースを一つだけお伝えします。天下のキネマ旬報さんから、なんと“星一つ”を頂戴しました(笑)。
斎藤工さん(以下、斎藤):やめて下さい(笑)。我々が頂いたのは輝ける“一番星”です。
永野:本当に我々の魂のこもった映画ができましたので、ぜひ、最後まで楽しんで下さい。よろしくお願いします。
斎藤:劇場の方にご無理を言って第1回目の上映に、わざわざお越し頂いた皆様の前に立たせて頂き、ありがとうございます。賛否両論ある作品なのですが、映画はそうあるべきだと思っておりますので、良い所に落とし込んだ作品が出来上がったと信じています。
金子ノブアキさん:ありがとうございます。今日はついに、映画『MANRIKI』が我々の手を離れた記念すべき日で、同時にちょっと寂しさもあります。我が子を嫁に出すような感じでしょうか。これからは皆様の手に渡り、様々な反応が起きればとイイなぁと思っています。皆様が楽しんで帰って頂ければとてもうれしいです。
小池樹里杏さん:“小顔願望女”を演じた、小池樹里杏と申します。よろしくお願いします。平日にも関わらず、多くの方々にお集まり頂きま、本当にありがとうございます。ご覧いただいた皆様より、感想など頂けれましたら大変うれしいです。
三田尚人さん:たいへんお寒い中ご来場いただき、誠にありがとうございます。「チーム万力」のプロジェクトに、少しでもたずさわる事ができ感謝の思いしかありません。無事初日を迎えられて、今はうれしさで一杯です。
SWAYさん:(元気よく舞台に登場する)SWAYと申します!宜しくお願いします!
清水康彦監督:監督の清水康彦と申します。お寒い中お越し頂き感謝しています。楽しんで頂けるとうれしいです。本当にありがとうございました!
映画『MANRIKI』の感想と評価
あらすじもネタバレも無力に過ぎない「万力」ワールド
『MANRIKI』について書かれた文章をいくら読んでも、この作品の魅力にたどり着く事はできないでしょう。この映画を前に、文字は全く無力です。
オープニングからエンドロールまで、怒涛の様にイメージが押し寄せる作品。セリフで語られないものが、映像を通じて押し寄せてくる作品です。
登場人物に明確な役名のないこの作品。芸人・永野や金子ノブアキらは、姿と役柄を変え何度も登場します。最初混乱を覚えた方も、やがてこれは映画が意図したスタイルだと、理解出来る構成になっています。
この映画は永野が、ファッションイベントにゲスト出演した時に感じた違和感、そして彼が書き溜めたアイデアから生まれました。
馬鹿馬鹿しくも残酷でシュールな世界。しかしそこにはどこか、虚栄を張り何かに執着して生きる、人間という存在の哀しさ、切なさが描かれています。
その彼の思い描いた世界が、斎藤工ら理解者を得て、映画として昇華された姿こそ『MANRIKI』です。
このように紹介すると、難解な芸術映画を想像する方もいるでしょう。決してそうではありません。お笑い芸人・永野は、人間の愚かさを笑いに変えて観客に提供しています。
そして、このイメージも場所も出演者も飛躍する、奇妙な映画に全編を通じて登場する斎藤工。彼の存在が『MANRIKI』ワールドを1つにつなぎ、軽妙な演技が作品の持つ毒を、笑いに変えているのです。
実験精神を忘れた日本映画にチーム「万力」が物申す!
斎藤工は映画『MANRIKI』を、賛否両論ある映画と紹介すると同時に、映画はそうじゃなくてはならない、と語っています。
無難な予定調和の作品が求められる、現在の日本映画界において勇気ある発言です。彼はこの映画を60年代から80年代に活動していた、非商業主義的な芸術映画を産み出した、ATG(日本アート・シアター・ギルド)の作品に近い製作環境だったとも話しています。
そうして生まれたこの作品、あえて何かに例えるなら「赤塚不二夫のマンガを、デヴィッド・リンチが監督した映画」と表現しましょう。
夜道を車で走るシーンや、登場人物が入れ替わる…『MANRIKI』では同じ俳優が何度も別の役で登場するのですが、そういった部分がリンチ監督の『ロスト・ハイウェイ』を思わせます。
シュールにして残酷な描写もリンチ作品と共通していますが、夜空を描いたシーンや人間の哀愁を描いたムードは、『ストレイト・ストーリー』を思い起こさせます。
この作品を他の言葉で紹介するなら、映画監督としての松本人志が、ついに描く事を断念した世界に、果敢に挑んで提示した作品と紹介する事もできるでしょう。
デヴィッド・リンチの様なスタイルの作品を、壊れた構成の映画であると考えるなら、『MANRIKI』もまた壊れた映画でしょう。
しかし映画とは、人の思い描いたイメージを再現する1つの手段であり、それを更に飛躍させる芸術だと考えるなら、『MANRIKI』は正しい映画の表現形態の1つです。
自分らしくあって欲しいのです。世界も、映画も、既に美しいのだから…。
まとめ
実験的精神で作られた、但しブラックな笑いに満ち溢れた作品が、映画『MANRIKI』です。
それでも、軽い気持ちで観て下さい。すると文字では決して伝えられない、印象的な映像の数々に出会えるでしょう。この映像を作り上げたのは、映像ディレクターとして多くの実績を持つ、本作監督の清水康彦です。
清水監督は、芸人・永野の単独ライブを見て、お笑いの中に人間の真理を切り取って描いていると感じ、彼はお笑いがアートになりうると、気付かせてくれた人物であると語っています。
この作品は永野の、お笑いネタを肉付けして生まれた作品です。その肉付けの過程で、チーム「万力」の様々なメンバーの才能が加わり、見た者の記憶に刻まれる映画が誕生しました。
繰り返しますが、くれぐれも難しく考えないで下さい。斎藤工のファンには、彼のすっとぼけた演技は必見です。
そして人間の哀愁を感じさせる作品なのに、やってる事といえば女性の頭を万力で挟む事ですから。初日・初回の映画館は、笑いに満ち溢れていました。