日本には真のサイレント映画はなかった。
なぜなら、活動弁士(カツベン)がいたから。
『Shall we ダンス?』『それでもボクはやってない』の周防正行監督、5年ぶりの待望の新作が上映となりました。
大正時代、無声映画に独自の語りを入れ、身振り手振りの派手なパフォーマンスで観客を魅了した「活動弁士(カツベン)」に、スポットを当てた映画、その名も『カツベン!』。
今作は、パリで開催された第14回KINOTAYO(キノタヨ)現代日本映画祭にて、観客賞にあたるソレイユ・ドール賞を受賞しました。
恋も、笑いも、アクションも、語って魅せます映画『カツベン!』を紹介します。
映画『カツベン!』の作品情報
【日本公開】
2019年(日本映画)
【監督】
周防正行
【キャスト】
成田凌、黒島結菜、永瀬正敏、高良健吾、音尾琢真、徳井優、田口浩正、正名僕蔵、浜本祐介、森田甘路、酒井美紀、シャーロット・ケイト・フォックス、上白石萌音、城田優、草刈民代、山本耕史、池松壮亮、竹中直人、渡辺えり、井上真央、小日向文世、竹野内豊
【作品概要】
周防正行監督が、日本の無声映画時代に活躍していた活動弁士に注目し、自ら書き下ろしたオリジナル脚本により製作した映画『カツベン!』。
活動弁士に憧れる主人公・俊太郎役を演じるのは、話題作の出演が続く成田凌。本作が映画初主演となりました。ヒロインの梅子役には、黒島結菜。そして、周防監督常連組の竹中直人、渡辺えり、小日向文世の他にも、永瀬正敏、高良健吾、井上真央、竹野内豊など豪華キャストが勢揃いです。
映画『カツベン!』のあらすじとネタバレ
大正4年(1915年)。映画が「活動写真」と呼ばれ、人々の娯楽として人気を集めていた頃。
村では映画の撮影が行われています。チャンバラシーンに監督の指示の声が飛びます。撮影は、悪ガキたちが犬を放し、犬が鳴いても、警官の怒鳴り声がしても、子供たちが写り込んでも続きます。
無声映画では、音は関係ありません。あとは、活動弁士(カツベン)が、楽士の演奏と共に、独特の語りで内容を説明し、写真を盛り上げてくれるのです。
そんな、カツベンに憧れる少年・染谷俊太郎は、活動写真の役者に憧れる幼なじみ・梅子と一緒に、活動写真小屋にこっそり忍び込みます。
活動弁士・山岡秋馨の弁を聞き興奮する2人。盗んだキャラメルを食べながら、写真の話で盛り上がります。淡い初恋でした。
それから月日は流れ、大人になった俊太郎。なぜか、山岡秋馨を名乗り、村々で活動写真の上映をしていました。
俊太郎の今の姿は、ニセ弁士。カツベン募集に踊らされ、泥棒一味の安田虎夫に雇われた俊太郎は、金持ちの家で弁士をしては、盗みに加担していました。
そんなインチキに嫌気がさしていた俊太郎は、警察の追っ手から逃れる隙に、一味から逃亡を図ります。車の荷台から俊太郎と一緒に転がり落ちたのは、大金が入った鞄でした。
俊太郎は、町の活動写真小屋「靑木館」に流れ着きます。館主の青木富夫は、俊太郎を雑用係として住み込みで雇ってくれました。
与えられた部屋は、写真のフィルム置き場でしたが、俊太郎はイチからやり直す決意をします。大金の入った鞄は天井裏に隠しました。
靑木館には、3人の活動弁士がいました。一人目は、俊太郎の憧れだった山岡秋馨。彼は、飲んだくれの落ちぶれ弁士に変わっていました。
二人目は、汗かきの活動弁士・内藤四郎。服を脱ぎながら弁を振るうも、終わりには元通り。容姿はいまいち、人気もいまいち。
そしてもう一人、「客は俺を見に来てんだよ」と、まるで人気俳優気取りの活動弁士・茂木貴之。彼の流し目に女性客が熱狂。隣町のライバル「タチバナ館」への、引き抜きの噂もあります。
俊太郎は、曲者ばかりの靑木館で、幕引きから売り子まで真面目に働きます。
その頃、泥棒一味の安田が、タチバナ館へ出入りしていました。社長の橘重蔵はヤクザの元締めでもあり、安田の親分でもあります。
重蔵の娘・琴江は、タチバナ館の経営のため、茂木に近付き隙を狙っていました。
ある日、酔っ払って眠ってしまった山岡が、上映時間になっても起きてきません。俊太郎は、代わりにカツベンをかって出ます。
全盛期の山岡を声真似した俊太郎のカツベンは、すこぶる評判が良く、会場は大盛り上がりです。その中には、成長し映画俳優となった梅子の姿もありました。
俊太郎の弁を聞き、幼なじみの彼だと確信した梅子は、終了後、声を掛けます。俊太郎も、すぐに梅子に気付きます。再会を喜ぶ2人。
そして、俊太郎は山岡のアドバイスで、声真似ではなくオリジナルのカツベンを見出し、茂木にも負けないほどの人気弁士となっていきます。
人気絶頂の俊太郎でしたが、タチバナ館の安田に見つかってしまいます。おまけに、ニセ弁士の泥棒一味を追う警官・木村も姿を現すのでした。
映画『カツベン!』の感想と評価
日本では、明治から大正時代にかけて、活動写真館での映画の上映に合わせて、活動弁士と呼ばれる人たちが、語りを入れ説明をしていたというから驚きです。
その通称「カツベン」は、身振り手振りの派手なパフォーマンスと、俳優さながらの声色で観客を魅了していたという事です。
そんな実際に活躍していたカツベンをモデルにし描かれた映画『カツベン!』。浄瑠璃、歌舞伎なども含め日本の話芸の素晴らしさを改めて感じる作品です。
映画界を支えてきた活動弁士の存在に、映画鑑賞の楽しさの原点を知って欲しいと願う周防監督の映画愛に、観ている者も笑顔になること間違いなしです。
後に、映画の技術が発達し、音声入りの「トーキー映画」時代へと移り変わっていくものの、音声も音楽も生で聞けたこの時代の映画は、また特別な面白さがあったと想像できます。
その後の、映画の移ろいを物悲しくも案ずるような山岡秋馨のセリフが印象的です。
「写真はすでに説明なしでも成り立つように出来上がっているんだよ」。山岡のセリフには、前を見据えたものがありました。
そして、映画の最大の見どころと言っても過言ではない、カツベンシーンに注目です。
映画には、山岡秋馨(永瀬正敏)、茂木貴之(高良健吾)、内藤四郎(森田甘路)、染谷俊太郎(成田凌)の4人のカツベンが登場します。それぞれが、独自の語り口を持ち、得意とする分野が分かれています。
噛まずにリズム良く、男女の声色を変え、観客を感動に導く、それぞれのカツベンを演じた役者たちの見事なしゃべりっぷりに、見入ってしまいます。
また、映画の中で上映される活動写真にも注目です。『ノートルダムのせむし男』『十戒』『不如帰』など実在作品をもとにしたものから、周防監督のオリジナルサイレント映画まで、オマージュが感じられるシーンとなっています。
出演する役者には、『椿姫』に草刈民代と城田優が登場。『金色夜叉』のお宮役には、上白石萌音。『南方のロマンス』には、シャーロット・ケイト・フォックス。と、これまた豪華キャストが面白おかしく演じています。
映画『カツベン!』には、物語と役者、映像と音楽、そしてそれを楽しむ観客があってこそという、映画の原点がありました。
まとめ
今からおよそ100年前、無声映画に声を吹き込む、活動弁士(通称「カツベン」)と呼ばれる人たちがいました。
そんな「カツベン」にスポット当てた物語。周防正行監督、5年ぶりのオリジナル映画『カツベン!』を紹介しました。
個性的なキャラクターたちが織り成す、笑いあり、涙あり、アクションありの、極上エンタテイメント。
ネットで誰もが手軽に映像を作成できる時代に、『カツベン!』は、映画の新たな楽しみ方、「アフレコ」時代到来!?を予言する映画となるのかもしれません。