映画『ジョジョ・ラビット』は2020年1月17日より日本公開。
今回取り上げる作品は2019年で一番の突飛なアイディアで作られた映画と言っても過言ではないかもしれません。
「イマジナリー・フレンドがアドルフ・ヒトラー」。
どんなストーリーなのか全く想像もつかない映画『ジョジョ・ラビット』のあらすじと内容、合わせて観たい映画もたっぷりご紹介します!
CONTENTS
映画『ジョジョ・ラビット』の作品情報
【日本公開】
2020年(アメリカ映画)
【原題】
Jojo Rabbit
【監督】
タイカ・ワイティティ
【キャスト】
ローマン・グリフィン・デイビス、トーマサイン・マッケンジー、アドルフ・ヒトラータイカ・ワイティティ、レベル・ウィルソン、スティーブン・マーチャント、アルフィー・アレン、サム・ロックウェル、スカーレット・ヨハンソン
【作品概要】
監督を務め、ヒトラーを演じるのは『マイティ・ソー バトルロイヤル』(2017)のニュージーランド出身の監督、俳優であるタイカ・ワイティティ。
主人公ジョジョの母ロージーを演じるのは『ロスト・イン・トランスレーション』(2003)で英国アカデミー賞とゴールデングローブ賞主演女優賞受賞、「アベンジャーズ」シリーズのブラック・ウィドウ役でおなじみスカーレット・ヨハンソン。
主人公ジョジョが所属する青少年集団“ヒトラーユーゲント”のキャプテン・クレンツェンドルフを演じるのは『スリー・ビルボード』(2018)でゴールデングローブ賞始め三つの賞で助演男優賞を獲得したサム・ロックウェル。
ユダヤ人少女エルザを演じるのは『足跡はかき消して』(2018)でナショナル・ボード・オブ・レビュー賞のブレイクスルー演技賞を受賞した19歳の新星トーマサイン・マッケンジー。
ヒトラーユーゲントの女性教官フロイライン・ラムには『ブライズメイズ 史上最悪のウェディングプラン』(2011)『ピッチ・パーフェクト』(2012)のレベル・ウィルソンです。
本作は第44回トロント国際映画祭で世界初上映され、ピープルズ・チョイス・アワードを受賞しました。
映画『ジョジョ・ラビット』のあらすじとネタバレ
ヨハネス・“ジョジョ”・ベツラーは第二次世界大戦時にドイツに住んでいる10歳の少年です。
ジョジョの父親は軍で勤務しており、姉は最近インフルエンザで亡くなったため母のロージーと二人暮らし。
そんなジョジョのイマジナリー・フレンドはアドルフ・ヒトラー。
ジョジョにとってヒトラーは友人であり父親のような存在で、彼は元気に「ハイル・ヒトラー」を練習して“ヒトラーユーゲント”のキャンプに向かいました。
キャンプを仕切るのはいつも酔っ払ってハイテンションのキャプテン・クレンツェンドと部下のフィンケル。
ジョジョとぽっちゃりした彼の親友ヨーキー、他の少年たちはユーゲントのメンバーの証としてナイフをプレゼントされます。
次の日、ジョジョは意地悪な上級生にウサギを殺すように命令されますが彼は逃し、みんなから弱虫の“ジョジョ・ラビット”とからかわれます。
泣きながら逃げ出したジョジョのところにまたヒトラーが現れ元気づけます。
自信を取り戻したジョジョは走って訓練に戻り、キャプテンから手榴弾をとって投げつけました。しかし自分の足で跳ね返ってしまい、ジョジョは顔に傷を負います。
母のロージーは何とか回復したジョジョをユーゲントに連れて行き、何か彼にもできることはないかとキャプテンに頼みます。
ジョジョはポスターを町中に貼るなど雑用が任せられました。ジョジョはロージーと帰る途中、街の広場で絞首刑に処されている人々を見つけました。
ロージーが帰ってくるまでの間一人家で留守番していたジョジョは、屋根裏で何やら物音がするのを聞きつけます。
姉の部屋の壁裏の狭いスペースには何と10代の少女が。ジョジョは最初お化けだと思って逃げ出しますが少女がユダヤ人ということに気がつきます。
ジョジョはゲシュタポに引き渡すと言いますが、少女・エルザはジョジョにこのことを誰かに言ったらロージーも安全じゃいられないと脅し、ジョジョのナイフを奪ってしまいます。
ジョジョはキャプテンのユダヤ人研究書を手伝うためエルザから“ユダヤ人の秘密”を聞きだそうと思い、秘密を守ることに同意します。
エルザはジョジョの姉の友人だったのです。
ジョジョは母親が愛国心を抱いていないこと、ユダヤ人が匿われていたこと、父がいないこと、自分がユーゲントで活躍できないことに憤りますが、そんな彼にロージーは人生を楽しく生きる彼女の信念を説きます。
相変わらずヒトラーはジョジョの前に現れ、ジョジョに反ユダヤ主義を語ります。
映画『ジョジョ・ラビット』の感想と評価
カラフルなブラックジョークの奥にあるもの
子どもを主人公にした第二次世界大戦下ドイツの物語というと、父親がナチス党であり、3歳で成長を止めた少年の数奇な人生『ブリキの太鼓』が挙げられます。グロテスクなイメージに満ちた『ブリキの太鼓』とは異なり『ジョジョ・ラビット』は華やかなおとぎ話のような色を持つ作品です。
「ヒトラーがイマジナリー・フレンドで、主人公は愛国者のユーゲントの少年」という非常に大胆なアイディアを、ワイティティ監督はブラックジョーク満載のコメディとして映画化に成功しました。
「ハイル・ヒトラー」の練習や現代のパリピのようなキャプテンとフィンケル、抜群にチャーミングなスカーレット・ヨハンソン演じるロージーのジョーク。
ジョジョにエルザが「私はユダヤ人よ(Jew)」と告げるシーンがあるのですが、それに対してのジョジョの答えは「Gesundheit」。これはドイツでくしゃみをした後にいう言葉で(英語での「Bless you」に当たる)、アメリカの劇場は大うけしていました。
冒頭、ビートルズの『I want to hold your hands』のバックにはハイル・ヒトラーの敬礼をする人々の実際の映像が流れ、ユーゲントのキャンプはまるでウェス・アンダーソン監督の『ムーンライズ・キングダム』のよう。
ナチスを扱う戦争映画とは思えないほど街はカラフルでファッションも可愛らしく、甘美でファンタジックな世界が広がります。
10歳の少年ジョジョにとってはヒトラーも戦争もまだ理解はできないもので、キャンプも楽しい行事の一つ。
しかし少年の目から見た楽しげな世界も母ロージーの死から一転、荒廃した街が映し出され一気に現実の重苦しさがのしかかります。
厳しい現実を子どもの目から描いた作品として『フロリダ・プロジェクト』と映像の類似点が見られます。
本作が焦点を当てるのはナチスやヒトラーの蛮行の批判ではなく、憎悪が生む悲劇と家族の肖像についてです。
ヒトラーの手下に当たるユーゲントの教官たち、キャプテンやその部下も滑稽で酒飲みな“普通の男”であり、キャプテンはジョジョにとってももう一人の父親的存在のように描かれています。
ユダヤ人を大量虐殺したナチスの人間が最後主人公のヒーローのように死んでいくのは大胆で興味深いアイディアです。
ジョジョもまた盲目的に政権を信じているだけに過ぎず、それでも彼が愛するもの、信じるものは思わぬ隣人となった少女エルザの民族を迫害している。
『ジョジョ・ラビット』は民族性で人々を迫害し憎悪を煽り立てるナショナリズムへの批判として完成されています。
ドイツの頂点であり絶対的な存在であったヒトラーをいち少年の架空上の友人であり父親のポジションに置くというのは素晴らしいアイディアです。
基盤となる喜劇王チャップリンの物語
2019年、悲劇を笑いと共に描く映画がもう一作。トッド・フィリップス監督の『ジョーカー』が大ヒットしています。
『ジョーカー』『ジョジョ・ラビット』両作の基盤となっているのは喜劇王チャップリンの物語です。
『ジョーカー』劇中で流れるのはチャップリン演じる労働者の男が機械と同然に扱われる物語『モダン・タイムス』(1936)。
またチャップリンは彼の人生初めてのトーキー映画『独裁者』(1940)でヒトラーを演じ、ナチス台頭の第二次世界大戦時に彼を強く批判しました。
『ジョーカー』の主人公は笑ってしまう病気を抱えながらコメディアンを目指す男であり、生活保護も打ち切られ貧困にあえぐ状況。
『ジョジョ・ラビット』も『ジョーカー』も『モダン・タイムス』も『独裁者』も“笑い”を強く描いていますがどれもキャラクターたちが陥っている状況は全く笑えないものです。
自分の内であろうが外界であろうが、本当に悲惨で地獄のような状況だから“笑わなくてはいけない”“笑わざるをえない”という事実を描いた映画が今日ヒットしていることは世界全体の現状を示しているといえるでしょう。
『ジョジョ・ラビット』に通じる映画はもう一つ、ロベルト・ベニーニ監督によるイタリア映画、平和な日常を送っていたユダヤ人家族がホロコーストに連れて行かれる姿を描いた『ライフ・イズ・ビューティフル』(1997)です。
この作品に登場する父親はどんな苦境にあってもユーモアを忘れない存在。彼の姿は『ジョジョ・ラビット』でスカーレット・ヨハンソン演じるダンスと歌とワインが好きな母ロージーの姿に重なります。
悲惨なことばかりが続く世の中で、ジョジョいわく「馬鹿みたい」と言われても「人生は美しいもの、楽しむべきもの」とうたう彼らの真の強さが胸を打つのです。
そして平穏とユーモアが溢れる中で突如として訪れる残酷な現実が一層凄まじい印象を残し、映画表現としても成功しています。
最後、戦争が終わり外に出たジョジョとエルザがダンスをする曲はデヴィッド・ボウイがベルリンの壁崩壊前にドイツで収録を行った『Heroes』(1977)。
再び美しく柔らかな色に包まれた街が若い彼らの未来を示す、力強いラストシーンです。
まとめ
ナチス、ヒトラー、戦争というテーマを大胆不適にタイカ・ワイティティは自分色のギャグで染め上げ、ヒューマニズムをうたった一種のファンタジーのような唯一無二の映画を作り上げました。
家族の話であり、切ない初恋の話であり、父と子の話でもある本作は“笑い”があるからこそ痛烈に負の歴史と憎悪批判のメッセージも突き刺さるでしょう。
映画『ジョジョ・ラビット』は2020年1月17日より日本公開です。