新年初めの映画のご紹介は、シネマ歌舞伎『人情噺 文七元結』です!
2016年大晦日は、さいたまアリーナへ行き、格闘技「RIZIN」を観戦したのですが、ライブで所英男選手やRENA選手のKOシーンの迫力は素晴らしいものでした。それでもイベント終了後は、自宅でテレビ視聴。
アスリートの臨場感ある表情や、細かい技の応酬は映像で確認したいもの。
『人情噺 文七元結』でも、今は亡き中村勘三郎の泣き笑いの表情の演技は、映像でじっくりと見られるのがシネマ歌舞伎が最高!
今回は山田洋次監督の演出による、歌舞伎ビューイングをご紹介です!
映画『人情噺 文七元結』の作品情報
【公開】
2008年〈シネマ歌舞伎公開〉(日本映画)
【監督】
山田洋次
【キャスト】
十八世中村勘三郎、中村扇雀、中村勘九郎、中村芝のぶ、片岡亀蔵、坂東彌十郎、七世中村芝翫
【作品概要】
原作は、三遊亭圓朝の世話もの噺、2007年10月に新橋演舞場にて、十八世中村勘三郎の要請によって、『男はつらいよ』の寅さんシリーズでお馴染みの山田洋次監督が、シネマ歌舞伎を初監督しました。
映画『人情噺 文七元結』のあらすじとネタバレ
江戸の本所達磨横町に住む左官屋の長兵衛は、腕は確かですが、博打好きが高じて、年の瀬が迫るというのに、博打の負けがこんで多額の借金を抱え込んで、身ぐるみはがされ半纏1枚で賭場から長屋に帰宅。
真っ暗な部屋には長兵衛を待っていた、女房のお兼が泣いています。長兵衛が訳を尋ねると、娘のお久がいなくなってしまったと、夫婦喧嘩が起こります。
そんなところへ、吉原の女郎屋の「角海老」から使いがやって来ます。長兵衛は、取り込み中だから応じませんが、使いの者は、角海老の女将が、のっぴきならない用件だと言うのです。
長兵衛は、女房お兼の着物を一枚羽織って角海老へ行って観ると、娘のお久は、身売りをして金を工面に頼み込んだと、女将は言いながらできた娘と話します。
女将は、身の回りの世話をさせ奉公させ、店には出さないから次の大晦日までお金を貸してやると言います。でも、大晦日の期限を1日でも過ぎたら、女郎として店に出す約束で長兵衛に50両の渡します。
情けない父親でしたが、娘のお久の親孝行ぶりと、女将の人情に絆され改心をしたしきった長兵衛。
帰り道に大川橋のたもとにさし掛かると、川に身投げをしようとしている男に出くわすと、長兵衛は、必死に男を引き止めると、自死する訳を聞きます。
男は奉公人で、本田様の屋敷へお使いを頼まれ、集金した帰りに50両をスラれたので、死んで大旦那にお詫びをしようしたのだと告白します。
悩んだ長兵衛は、娘のお久が身を売って工面して50両で、若い男の命が助かるのなら、娘は死ぬわけではないのでと、江戸っ子の義侠心で、無理矢理50両をその男に投げ押し付けて、逃げるように去って行きました…。
映画『人情噺 文七元結』の感想と評価
中村勘三郎の魅力を思う存分見せてくれる演目のひとつ、『文七元結』は、元々は落語の小噺です。
最近では、NHKの人気番組の「超入門!落語THE MOVIE」など、初心者でも面白くわかりやすく落語を楽しむ番組もありますが、この映画は、中村勘三郎たちが臨場感たっぷりに落語を歌舞伎で演じた姿が味わえます。
原作は落語の世界で、永久欠番のように唯一の1代限りの名前を持つ、三遊亭圓朝。
『文七元結』の他にも『怪談牡丹灯籠』などでも知られ、世話物だけではなく怪談話でも知られています。
それを映画『男はつらいよ』の山田洋次監督が、落語を見事に舞台としての歌舞伎で再現。
噺家同様に、内容は山田監督流に細部はこだわりを見せるように、例えば、古今亭志ん朝や三遊亭圓生の演目とは、変えられた設定が試みがなされています。
鑑賞ポイントを2つあげるなら、まず、1つ目は、女役の演技の素晴らしさです。
妻お兼役の中村扇雀の苦しい生活を耐えてきた女性の姿の所作は目をクギ付けする演技力の高さです。
また、娘お久役の中村芝のぶの可憐な乙女の姿は、女子の持つ所作に誰もが女性だと見間違えるばかりです。
まさしく、これは、山田洋次監督の『男はつらいよ』のおばちゃん役の車つねを演じた三崎千恵子と、妹諏訪さくら役を演じた倍賞千恵子を想像させるようになっています。
それが証拠に、妻お兼と娘お久は、古今亭志ん朝などの落語解釈とは違い、血の繋がらない親子設定に変更されています。
このことで、山田洋次ファンは、寅さんだなと膝を打つことでしょう。
この2人の素晴らしい女役の演技で、時おり、中村勘三郎が寅さんこと渥美清に見えてくるのも、山田洋次監督のファンサービスとしての遊び心ではないでしょうか。
歌舞伎は見たことがないと方でも、中村勘三郎の演じる主人公の長兵衛の様子は、寅さんキャラに見えることで、どなたでも観ても笑って泣ける内容になっています。
2つ目は、最重要なシーンである大川橋の身投げ場面です。
中村勘三郎と中村勘九郎の親子での共演シーンは、舞台の演出上でも入れ子関係を見せています。
演目の役柄でも、長兵衛と文七は親子ほどに年齢が離れた関係で身投げシーンを進行しますが、これを実際の中村親子が演じることで、観客に一種の緊張感を増幅させています。
中村勘三郎は息子に対して厳しい演技指導を行ってきたことでも知られていて、この舞台当時の2007年、勘九郎はまだまだ駆け出し。
先に述べた、女形の素晴らしい演技や、実の父親の勘三郎バイタリティのある演技力には、まだまだ及ばないの本当のところですが、それを父親の勘三郎が、濃厚なな掛け合いの中で盛り上げていきます。
その迫真の勘三郎の舞台愛や親子愛が、どこか頼りない演技力を一定の高みに揚げて、育んでいる様子がしっかり映像に残っています。
これは、映画の持つ記録性というドキュメンタリータッチな一面も覗かせています。
山田洋次監督は、8台のカメラによってこの舞台を撮影したそうです。
ショットの中には、決して新橋演舞場の座席からは見ることのできない、中村親子の緊迫の表情をカメラに収めていて、シネマ歌舞伎の魅力言えるのではないでしょうか。
まとめ
噺家の世界では亭号だけではなく、名前も真打を経て一門の弟子や子孫で継がれていくものです。しかし、三遊亭圓朝だけは違いました。
そんな圓朝師匠の代表作が、『文七元結』なのです。
それを、一子相伝である口伝だった噺家の芸を語りだけではなく、書くことによって、出版として次世代や後世に残しました。
席亭のライブで耳や目で楽しむ落語を、後に読んでも楽しめる落語にしたのです。
落語を記憶するものから記録へと転換させたことで、舞台を映像に転換させたシネマ歌舞伎に通じるものがあります。
また、主人公の中村勘三郎は、チャレンジ精神が旺盛だったやはり歌舞伎界では別格の人物でした。
コクーン歌舞伎や平成中村座を立ち上げ、ニューヨーク公演などを精力的に行うなど、その演劇活動は常に歌舞伎界の進取的役割でした。
このシネマ歌舞伎の演出を山田洋次監督にお願いしたのも、中村勘三郎です。
歌舞伎は元より、落語や映画の楽しみも詰まった、シネマ歌舞伎『人情噺 文七元結』をぜひご覧ください。
笑って泣けるエンターテイメントのシネマ歌舞伎!女形の所作の美しさは、多くの女性に観ていただけらご堪能は間違いなし!
ぜひ、現在公開中の作品ご覧ください!