ジーン・ケリーとスタンリー・ドーネン監督による
ミュージカル映画の傑作『雨に唄えば』。
誰をも笑顔にし、誰もが幸せな気持ちになる…そんな映画はいかがですか?
無声映画からトーキーへと移りゆく頃のハリウッド。人気俳優のドンとリナは何度も共演し、結婚を噂される間柄ですが、ドンはつけ上がった態度のリナに愛想を尽かす。そんなある夜、ドンは歌声良し、踊りも上手い、新人女優キャシーと恋に落ちる…。
言わずと知れたミュージカル映画の金字塔、映画『雨に唄えば』をご紹介します。
映画『雨に唄えば』の作品情報
【公開】
1952年(アメリカ)
【原題】
Singin’ in the Rain
【監督】
ジーン・ケリー、スタンリー・ドーネン
【キャスト】
ジーン・ケリー、デビー・レイノルズ、ドナルド・オコナー、ジーン・ヘイゲン、ミラード・ミッチェル、ダグラス・フォーリー、シド・チャリシー、リタ・モレノ
【作品概要】
1953年、第25回 アカデミー賞 助演女優賞ノミネート(ジーン・ヘイゲン)、ミュージカル部門作曲賞ノミネート(レニー・ヘイトン)。
同年、第10回ゴールデングローブ賞 コメディ/ミュージカル部門 最優秀主演男優賞 受賞(ドナルド・オコナー)、コメディ/ミュージカル部門 最優秀作品賞ノミネート。
映画『雨に唄えば』のあらすじとネタバレ
サイレント映画全盛の時代、新作の初日舞台挨拶に登場するトップスターのドンとリナ。その場でドンが振り返った下積み時代の思い出によって、音楽担当の親友コズモとの関係や、ドンがいかにしてスターとなっていったか、そしてリナとの出会いが語られていきます。
一方的に聴衆に向かって語るドン。実はこれには深い訳が。それはリナの声、金切り声のような耳につく声に原因があったのです。イメージを損なわせないため、宣伝部が泣く泣く取った手段でした。
そんなドンとリナは熱愛関係にあると世間ではもっぱらの噂。実際にはそんな関係など全くなかった二人でしたが、ドンとの交際でさらなる出世を目論むリナはその噂に大乗り気。一方、そんな彼女の高飛車な態度に我慢がならないドンは、彼女を拒絶し続けます。
新作映画のパーティーへと向かう途中、ドンが熱狂的なファンたちに囲まれてしまい、たまたま通り掛かった女性キャシーの車に乗り込み、その場をしのぎます。
ドンから事情を聞いたキャシーは舞台女優の卵。体の動きだけで表現するサイレント映画の俳優に対して辛辣な意見をドンにぶつけます。
その言葉に憤懣やるかたない思いを抱くドン。パーティー会場に着くと、舞台女優を見下すような捨て台詞を残して車を降りていくのでした。
会場で噂されていたのは、『ジャズ・シンガー』という新作映画のこと。世界初のトーキー映画という触れ込みのその作品のことを知ったドンでしたが、今のサイレント全盛の潮流がそう簡単に変わるわけはないと歯牙にもかけない様子でした。
やがてナイトクラブから派遣されたダンサーたちが登場し会場は沸き立ちますが、ダンサーの中の一人を見て驚くドン。そこにいたのはキャシーだったのです。
余興のダンサーの分際で、サイレント俳優を見下すような発言をしていたのかとキャシーをからかうドン。頭にきたキャシーは大喧嘩を繰り広げ、その場を足早に去っていきました。
映画『雨に唄えば』の感想と評価
『雨に唄えば』をより深く知っていく上で、サイレントとトーキーの歴史を語ることは避けて通れません。
文字通り無声映画を指すサイレントは、フィルム自体に音声トラックが存在しないため、セリフやト書きを字幕で表したり、バンドやオーケストラがその場で音をつけたりすることで成立していたものです。
チャップリンやバスター・キートンに代表されるように、身体全体を使った大きなアクションでの表現に頼らざるを得なくなるものの、数々の制約が逆に高度な映画的テクニックを育んでいった時代であるともいえます。
そんなサイレントに取って代わる存在となったのがトーキーです。無声映画に対し、発声映画を指すトーキーは、今まで難しかったフィルムとサウンドの同期を可能にしたサウンドカメラの発明により、これまでの常識が覆されました。
1927年、そんなトーキーの世界初の長編映画として誕生したのが『ジャズ・シンガー』。そう、本作に登場する『ジャズ・シンガー』は実在する映画だったのです。
まさにこの時代、この映画界の過渡期を描いたものが本作『雨に唄えば』です。その中で繰り広げられる名シーンの数々。
誰もが一度は耳にしたことがある主題歌「Singin’ in the Rain」を、土砂降りの雨の中で唄い、踊るドン(ジーン・ケリー)。
コズモ(ドナルド・オコナー)による「Make ‘em Laugh」では、コメディタッチで表現しながらも見せつけられるダンステクニックと身体能力の高さ。
キャシー(デビー・レイノルズ)とドン、コズモの3人で見せる息の合ったタップダンス「Good Morning」。
そのどれもが、ミュージカル映画にありがちなストーリーの流れを無視した突発的なものではなく、あくまで彼らの感情を表現するための一つの手段として描かれています。
映画界の変遷の歴史そのものを主軸としながら、ドン/キャシー/リナの三角関係や、最後にリナが迎える結末に至るまで見事に組み立てられた構成のおかげで、ミュージカルが苦手という方にもお薦め出来る作品となっています。
まとめ
アカデミー賞のノミネートやゴールデングローブ賞の受賞(ドナルド・オコナー)のみならず、アメリカ映画協会が発表したミュージカル映画第1位、アメリカ映画主題歌ベスト100の第3位、アメリカ映画ベスト100の第10位などに選出されるなど、この作品のアメリカ映画における地位の高さが窺えます。
さらには、これらが選出されたのが2000年前後であるというのですから驚きもひとしおです。それだけ深くアメリカ文化に根付いたものだと言えるのかもしれません。
その影響は、スタンリー・キューブリック監督が『時計じかけのオレンジ』(1971)でいささか奇妙な手法で引用するに至ります。(卑劣な暴力をふるいながら「Singin’ in the Rain」を主人公が口ずさむシーン)
裏話としては、キューブリックに好きな歌を歌うよう求められた主演のマルコム・マクダウェルが、唯一歌詞を覚えていたのがこの曲であったとのこと。イギリス人であるマクダウェルの頭にもこの曲が染みついていたことを示す貴重なエピソードです。
このように、アメリカのみならず全世界的にも影響を与えた『雨に唄えば』。ふと気付けば、きっとあなたもこの唄を口ずさんでいることでしょう。