連載コラム「シネマダイバー推薦のNetflix映画おすすめ」第94回
今回紹介する映画『運命のイタズラ』は、別荘に強盗に入った男と、その別荘の夫婦が不運にも鉢合わせしてしまい、思いがけない事態に展開していく物語。
『Our Friend/アワー・フレンド』のジェイソン・シーゲル、Netflixドラマ「エミリー、パリへ行く」のリリー・コリンズ、『パワー・オブ・ザ・ドッグ』のジェシー・プレモンスが出演しています。
そのあらすじと見どころについて解説していきます。
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映画『運命のイタズラ』の作品情報
【公開】
2022年(アメリカ映画)
【監督】
チャーリー・マクダウェル
【キャスト】
ジェイソン・シーゲル、リリー・コリンズ、ジェシー・プレモンス、オマー・レイバ
【作品概要】
リリー・コリンズは、『心のカルテ』(2017)や『Mank/マンク』(2020)、Netflixドラマ「エミリー、パリへ行く」(2020~)などに出演。本作の監督チャーリー・マクダウウェルとは2021年に結婚しています。
チャーリー・マクダウウェルは、ジェイソン・シーゲル、ルーニー・マーラ、ジェシー・プレモンスら出演の映画『ザ・ディスカバリー』(2017)の監督、脚本、製作総指揮を務めています。キルスティン・ダンスト主演のテレビドラマ「ビカミング・ア・ゴッド」(2019)や、テレビドラマ「レギオン」のシーズン2(2018)でも監督を務めています。
ジェシー・プレモンスは『ザ・マスター』(2012)、『バイス』(2018)などに出演。『パワー・オブ・ザ・ドッグ』にて2022年アカデミー賞助演男優賞にノミネートされています。
ジェイソン・シーゲルは、『ハッピーニート おちこぼれ兄弟の小さな奇跡』(2011)や『バッド・ティーチャ―』(2011)などコメディ作品で広く知られ、最近では『Our Friend/アワー・フレンド』(2021)にメインキャストとして出演しています。
映画『運命のイタズラ』のあらすじとネタバレ
ある男(ジェイソン・シーゲル)は見晴らしの良い別荘の中のテラスでオレンジジュースを飲んでいました。飲み干したグラスを水ですすいだ後勢いよく崖へと投げ捨てます。
家の中を物色しているとそこへ、一組の夫婦が帰ってきました。別荘はその夫でテック界のCEO(ジェシー・プレモンス)の所有物でした。妻(りりー・コリンズ)と仲良さそうに会話しています。
男はこっそりと別荘を出ようとしたものの、妻に見つかってしまい慌てて妻を人質に取りました。夫に金の在りかを聞き出し5000ドルを奪います。妻のバッグの中にはピルが入っていたのを男は見ました。
2人を屋外サウナに閉じ込めた男は車に戻りますが、木に監視カメラが仕掛けられていたことに気づきます。仕方なく別荘に戻る男。
果樹園に逃げ込んだ夫と妻を追いかけ、銃で脅してカメラの映像を消す方法を聞き出そうとします。しかしシステム上の問題で不可能だと言われます。
それなら、指名手配が出ても逃げて暮らせるだけのお金を持って逃げることになります。
15万ドルあれば足りると言う男に、それでは足りないだろうから30万ドルにしようと妻が提案します。
それでは足りないだろうという夫に、男はじゃあ300万ドルで。と言うとそんな大金は急には用意できないと言います。
50万ドルを用意させるために部下に連絡する夫。過去に関係があった女性デビ―に脅されていると嘘をついて金を用意させます。銀行が閉まる時間なので金は明日運ばれることになりました。
庭で3人で世間話をします。妻の足には消しかけのタトゥーがありました。夫はそのタトゥーが嫌いでした。
妻と夫は難病支援イベントで出会いました。妻は大学でNPO活動しており、現在は財団を運営しています。学校や病院を建てる活動をしています。5年先まで計画はあると話す妻。しかし、夫は子供ができたら顧問役に退いてほしいと言います。妻はそうすると言います。
夫は巨大企業があるから社員が守られていると自分の仕事を正当化し、男のやっていることを否定します。私利私欲のために盗みをすると言われた男は、何も知らないだろと言って否定します。
別荘内にある日本庭園風のエリアを見たり、テラスのスクリーンで映画を観て過ごす3人。
夜になって、夫は妻に、手段を選ばず男の懐に入るんだと言います。不安な表情を浮かべる妻。
それぞれ別の部屋で寝るように男に指示されて別室へと分かれます。
外で薪を焚いている男の元へ妻が眠れないとやってきます。今の暮らしについて話し始めます。
子を欲しがる夫と、心の準備ができていない妻の状況について。そして男は誰かのために金を使おうとしていることから、大切な人がいるのか、と聞きます。お互いに深くは話しません。
自分は恵まれているけれど、抑圧されていると話す妻。結婚式でみんなが待っている中、本当は逃げだしたくてギリギリまで迷っていたのだと告白します。
結婚してよかった?と聞く男に、30年後に聞いてと言って妻は寝室に戻っていきました。
夫はベッドで目を開けて横たわっていました。
翌朝、妻は不機嫌で夫と男と離れてシリアルを食べます。夫は男に社名を聞き出そうとします。リストラによる恨みだと思ったのです。
夫がつくった数式のせいで多くの人が準備もできず職を失ったと話す男。
夫は、成功を得るために自力で全てを手にしてきた。誰かから盗んだりしてないと話します。
妻は自分が学生ローンを払ってもらったから、自分はたかりなの?と尋ねます。しかし、君はたかろうとしたわけでないからたかりではない、と夫は言います。
そこへ庭師がやってきます。彼が設計した庭を見てほしいと言われ、3人は庭師と一緒に庭に出て話します。新しく木を植えたいので署名をしてほしいと夫は頼まれて署名します。
そして、その紙に「通報してくれ」と走り書きしました。
映画『運命のイタズラ』の感想と評価
本作は、別荘に強盗に入った男と、家主の夫婦が不運にも鉢合わせしてしまい、一晩共に過ごす中で思いがけない事態に発展していくという作品です。
コメディからサスペンスへ
前半はシュールなコメディの様相から、後半にかけて徐々に緊張感が増していき、サスペンスへと変化していくところが見どころとなっています。
まず強盗の男と人質になった夫婦の前半のやり取りは、不思議と緊張感がほぼありません。
強盗の男は、夫婦が別荘にやってくるなんて思わずに堂々と家でくつろいでいたので、不意打ちを食らいます。もはや強盗をする気もなかったのではないかという様子でした。
強盗の男は、人質の手を縛るのにもたつき、奪った鞄を開けるのにもてこずります。
そんな強盗の男に対して夫婦は、鞄の開け方を教えたり、堂々と文句を言ったり、恐がることなく話しかけます。
その関係性が顕著に表れたのは、身代金の額を決めるシーンです。強盗の男が提示した金額では少なすぎると言って、夫婦の方が高い額を提案しました。
身代金が届くまで、一晩待たなければならない状況になり3人は不思議な時間を共有することになります。
妙なコミカルさのある、穏やかな会話劇が続きます。このまま心温まるヒューマンドラマにすることもできたんじゃないかという空気です。
ですが、3人の発言の中に本音と建て前が見え隠れし、穏やかな空気に少しずつ影を落とし始めます。
そして、この晩に交わした強盗の男と妻との会話が、彼らのその後を大きく左右することになりました。
次第に夫婦関係が険悪になり、強盗の男の夫に対する嫌悪感も増幅し始めます。
ここへさらに別荘の庭師が現れたことで、サスペンスの色が濃くなっていきます。
日が暮れて外が暗くなり、不穏な効果音も相まって緊張感が増していく、前半部分と明らかにテイストが変わってくるのです。
妻の本質
窮地に立たされた時に取る行動によってその人の本質が見えるものです。妻は、夫の本質に気づき、本来の自分を取り戻すための行動に出ますが、それは衝撃的なものでした。
本作で妻が行動を起こすきっかけとなったのは強盗の男との会話でしたが、抑圧していた感情や、心の奥にしまっていた思いが表に現れるには、なにか些細なきっかけがあれば十分だったはずです。
本作の原題は、『Windfall』で、思いがけない幸運という意味です。誰にとっての幸運だったのか、それは妻にとっての意味でしょう。
彼女にとっては、この日に起きたことは一見悲劇のようでありながら、それまでの葛藤を抱えた人生から解放されたからです。
しかし皮肉なことに、このような悲劇的な形でしか自分を取り戻せなかった彼女の愚かさ、哀しさも感じられます。
まとめ
一軒の別荘での会話劇を見どころあるものにさせたのは、主演3人の名演に他なりません。
ジェシー・プレモンスは、成功を掴むためには手段を択ばない夫役を嫌味たっぷりに演じています。
一度見ただけで強い印象を残すジェシー・プレモンスの独特の存在感が際立っていました。
ちなみに、本作はこの夫をしっかりと嫌いになれるかどうかが重要だったりします。
ジェイソン・シーゲルは、強盗の男の役です。彼は職も、おそらく大切な存在も失っており、自暴自棄になっていますが、その根底にある優しい人柄が垣間見える人物でした。
主にコメディ作品に出演しているジェイソン・シーゲルならではの優しい雰囲気ともマッチしていました。
そして、最も印象に残るのが妻役を演じたリリー・コリンズです。
自尊心や使命感に溢れながら、実は脆さと衝動を抱えている妻を好演していました。隙の無い見た目とは裏腹に、不安定な精神状態を抱える様は見事で、二面性ある役を見事に演じていました。
本作の登場人物はほぼこの3人に限られ、舞台も別荘内のみとなっています。そのシチュエーションで穏やかなコメディからシリアスなサスペンスまで、3人の会話によってしっかりと展開させていきます。
舞台のようだけれども、別荘内を動き回る3人を様々な角度から追う映画ならではのカットもあり、まさに舞台と映画のイイとこ取りのような作品でした。