連載コラム『増田健の映画屋ジョンと呼んでくれ!』第1回
この世には見るべき映画が無数にある。あなたが見なければ、誰がこの映画を見るのか。そんな映画が存在するという信念に従い、独断と偏見で様々な映画を紹介する『増田健の映画屋ジョンと呼んでくれ!』がやって来ました。
あなたに素晴らしい作品との出会いを紹介できれば幸い、「なんじゃこりゃ!」という作品を紹介すればあなたへの災い…、と覚悟してお付き合い下さい。
記念すべき第1回として紹介するのは、スペインの驚愕設定サスペンス映画『Two』。
トンデモ設定のこの映画は、最後まで真面目に展開する模様です。このNetflixオリジナル映画『Two』は2021年12月10日(金)より配信開始されました。
なぜか心ひかれた作品を、本当に見ても良いかと迷えるあなたにご紹介します。世の中には、こんな映画もあるんです。
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映画『Two』の作品情報
【公開】
2021年(スペイン映画)
【原題】
DOS / Two(英題)
【監督】
マル・タルガローナ
【出演】
パブロ・デルキ、マリナ・ガデル
【作品概要】
見知らぬ男女が密室で目覚めた時、2人の体は縫合されていました。何者がいかなる目的で行ったのか……謎だらけの状態の中で、2人はどう行動するのか?
という無茶苦茶な設定のサスペンス映画を手掛けたのは、『ボーイ・ミッシング』(2016)や『マウトハウゼンの写真家』(2018)を監督し、プロデューサーとしても活躍しているマル・タルガローナ。
大変な目にあう主人公男女を、『愛その他の悪霊について』(2009)と『ロスト・アイズ』(2010)、ドラマ『あなたに出会っていなければ』(2018~)のパブロ・デルキ、映画『ブラック・ブレッド』(2010)に出演しテレビドラマで幅広く活躍するマリナ・ガデルが演じます。
映画『Two』のあらすじとネタバレ
ベットの上で目覚めた女(マリナ・ガデル)。彼女は隣で男(パブロ・デルキ)が眠っていると気付きます。
体を動かすと激しい痛みに襲われ悲鳴を上げたサラ。目を覚ました男も苦痛を感じており、彼女に動かないよう告げました。
2人は共に全裸だと気付きます。密着している相手が何者か互いに判りません。身を離そうと動き苦痛に襲われ、悲鳴を上げる女。
男が確認すると脇腹に包帯があり、2人の体は脇腹で接合されていました。なぜこんな目に遭わされ、どうしてこの場所にいるのか共に理解できません。
互いに最後に覚えていることを確認します。女は夫と約束で家を出た、男はデートが最後の記憶と説明します。意識を失い記憶まで喪失する、犯罪に悪用される睡眠薬が使われたと口にする男。
体の注射の痕と手術で縫合された部分を確認した女。部屋の壁には同じ絵が2枚飾ってありました。
2人は意識を奪われ外科手術で体を接合され、この場所に運び込まれたと認めました。男は女を落ち着かせようとしますが、現時点ではあなたは容疑者だと告げる女。
一方的な言い分だと男は抗議しますが、女は警戒心を解きません。今は昼か夜かも判らず、身に付けた物は全て奪われていました。
男は女の耳にイヤリングがあると指摘しますが、女は嫌悪に震えてそれを外します。それは彼女の物で無かったのです。
女は部屋に電話があると気付きますが、誘拐された身で連絡に使える訳が無いと言う男。2人はなぜこんな目に遭わされたのか理由を考え始めました。
住んでいる場所、家族構成、職業……2人の共通点はありません。どうやら男は孤児で労働者階級出身、女は一人娘として上流階級に育ったと、互いに感じたかもしれません。
女は手元のリモコンに気付き、男はどこかにカメラが仕掛けられ監視されていると口にします。
部屋の外からはドアの音や、犬の吠え声が聞こえてきました。女は電話を試そうと提案します。体が傷付かぬよう抱き合って転がり、苦痛に耐えてベットの端に移動した2人。
男がダビドと名乗ると、女も自分はサラだと教えます。2人は同時に立ち上がろとしますが、苦痛に襲われ床に倒れました。
怒るダビドに力が入らないと訴えるサラ。ダビドは詫びて彼女の体を持ち上げ、2人は痛みに耐えつつ電話のある机に移動します。
サラは受話器を取りますが、どこにもつながっていません。ダビドは水差しの水をコップに注ぎ、警戒するサラに構わず飲み干しました。
サラが部屋のドアを叩いても反応はありません。耐えられず騒ぐ彼女を落ち着かせたダビド。
2人は自然の欲求からトイレに向かいますが、バスルームにも誰もいません。まずサラが、続いてダビドが小用を行うと思わずサラは笑いました。
君には待ってくれる人、夫がいると励ますダビドに、なぜかいないと答えるサラ。ダビドは飼い犬が自分を待っている、人を見下さない犬は、むしろ人間より良いと彼女に告げます。
部屋にあったタオルで互いの身を隠した瞬間、いきなり照明が消え暗闇に包まれました。何も見えない中、部屋に誰かがいると訴えたサラ。
明かるくなると洗面台に薬が置いてあり、ダビドは鎮痛剤だと確認しました。サラは服用しますが、ダビドは潰瘍があると言い薬を飲みません。サラはまた彼に疑念を抱いたようです。
2人はベットに戻ろうとしますが、その前に机に立ち寄ります。電話はやはり通じていませんが、ダビドは引き出しの鍵をサラのイヤリングを使いこじ開けました。
中には聖書が入っています。それには印が付けてありましたが、その箇所を読んでも意味は判りません。
引き出しにはもう1冊、同じ聖書が入っていました。中には1枚の写真、エッフェル塔の前に立つ女の写真がはさまれており、写真にはリタと書いてあります。
リタが何者か2人に判りません。サラは1年前の学生時代、同じ場所で写真を撮っていました。この場所には昔、彼女と行ったきりだと答えるダビド。
続いて2人は壁に掛かった、同じ図柄の2枚の絵に向かいました。それは悪魔たちが足の指の鋭い爪を切り落とそうとする不気味な絵で、ダビドはその1枚の悪魔の目の部分に小型カメラが仕掛けてあると気付き、それを外しました。
突然電話が鳴り出します。サラが受話器を取ると発信音が鳴るだけです。彼女が外部に連絡しようとダイヤルを操作すると、「2」を回すことが出来ました。
すると電話からモーツァルトの「レクイエム ニ短調 K. 626」(未完のまま遺されたモーツァルト最後の楽曲。彼の死後、弟子が完成させた)が流れます。それを聞き愕然とするサラ。
部屋の壁紙の図柄も、部屋の中にある物も全てが2つ、対になっています。「レクイエム」は私の夫、マリオの好きな曲だ。全ては夫の仕業と彼女はダビドに告げました。
話が理解できない彼に、サラは夫マリオは精密化学と哲学の分野で高名な人物で、数学がライフワークと説明します。数字の「2」は宗教だ、最小の素数だと語るサラ。
「2」は唯一の偶数で二進法の底、2だけは足しても掛けても、累乗しても同じ数になる。2番目のモツキン数(円上のn点の間に、交差しない弦を描く方法の数)であり、プラトンやピタゴラスも重要性を知っていた。
「2」は左右対称の基本で、脳も2つに分かれている。対になるのは陰と陽、男と女、体と心……その言葉を聞き君もインテリかと口にするダビド。
夫と暮らした影響だと答えるサラ。彼女は自分の浮気を疑ったマリオが、この異常な事態を企てたと考えていました。
嫉妬深い夫が、妻を他の男と一緒にするのかと訊ねたダビドに、2冊の聖書に2枚の絵、電話のダイヤル「2」を回すと夫の好きな曲。夫が2週間前に家を出た理由は、私の浮気を疑ったからとサラは説明します。
ダビドに対し、実際は浮気はしてないと告げたサラ。夫に話があると呼び出されたが、その場所は覚えていないと説明した彼女に、ダビドは君の夫は真実を告白させたいのだ、と告げました。
では、なぜあなたはここにいるとサラは逆に質問します。男にしては身だしなみに気を使うダビドを、彼女はヒモか何かだと睨んでいました。追及されエスコートをしていると認めたダビド。
あなたの客の夫が、妻を寝取られた仕返しをしているかも、と詰問するサラ。相手は安全な客だと説明したダビドは、自分がこの事態の理由なら、逆になぜ君がここにいると問いかけます。
夫は君を殺すのかとの彼の問いに小刻みにうなずくサラ。ダビドは脱出しようと扉に向かいました。しかし扉はスチール製で、外からしか開かないと気付くダビド。
その言動を見たサラは、彼を犯罪行為に詳しい人物と考えたかもしれません。それを悟ったダビドは、彼女を金持ちの男と結婚し養われた、世間知らずの女と非難します。
2人の間は険悪になりますが、脱出するには協力するしかありません。苦労して窓を開けると、外は雨戸か何かで塞がれていました。
それを無理にずらすと光が差し込み、溶剤の匂いがします。街から遠い、墓地の隣に塗料工場があったと思い出す2人。
雨戸が閉まり指を挟んだダビド。助けを求めても誰も来そうにありません。体を離せば窓から脱出できると主張する彼に、体力も弱って無理だと訴えるサラ。
見つめ合った後に、ダビドは彼女にキスをします。すると照明が消えました。何とか縫合された箇所の糸を切ろうとダビドが告げると、室内が明るくなりました。
切るものを探そうとバスルームに入った2人は、洗面台の中に血の付いたタオルを見つけます。2人を手術した際の物だと口にしたダビドは、怒りに駆られたのか鏡を殴り付けます。
驚くサラの前で、洗面台の鏡は割れました…。
映画『Two』の感想と評価
石井輝男監督の『江戸川乱歩全集 恐怖奇形人間』(1969)みたいな映画?と思っていたら…想像以上にそうでした。また見ても楽しくない、困惑のヌードシーンが登場する作品です。
本作のトンデモぶりを味わうには、ぜひ実際にご覧頂くしかありません。上映時間70分、エンドロールを除けば60分を少々上回る程度。やたら長い映画が増加する昨今、こんなお手頃作品を見逃す手はありません。
体当たり演技を見せたマリナ・ガデルは、本作の脚本に初めて目を通した後「Oh my gosh!(何てことでしょう!)」と思った、とインタビューに答えています。
撮影にする際に直面するであろう、様々な問題を監督とキャスティングディレクターと話し合った上で、彼女は出演を決意しました。
『Two』は俳優として興味深い取り組みだと語っているマリナ・ガデル。本作は自分はどこにいるのか、接合された男は何者かなど、あらゆる情報を失った状態で始まる物語と説明しています。
それは私たちが人間として、自問自答している物の一部だと話す彼女。本作は人の離別とその傷み、そして愛と融合を必死に探し求める行為に、多くを物語り問いを投げかける作品だと語りました。
女性監督であるマル・タルガローナの取り組みが、最後にどこに行きつくか目撃したかった、彼女は撮影をそう振り返っています。
映画に登場した結合双生児たち
体が結合して誕生する双子、結合双生児は昔から人の興味をそそるものでした。本作で紹介された、19世紀のタイに生まれたチャンとエンのブンカー兄弟は、サーカスの見世物として欧米を巡業します。
何ともトンデモな話ですが、ブンカー兄弟は成功を収め財産を築きアメリカに移住します。いわゆる「シャム双生児」という言葉は、彼らの活躍から誕生しました。
その後、伝説のカルト映画『フリークス』(1932)には、デイジーとヴァイオレットのヒルトン姉妹が出演。結合双生児はさまざまな形でサブカルチャーに登場しますが、やはり視覚的インパクトがある影響か様々な映画に登場します。
ブライアン・デ・パルマ監督は、この題材にサイコスリラーに発展させた映画『悪魔のシスター』(1972)を発表、ティム・バートン監督は『ビッグ・フィッシュ』(2003)の劇中に、美しい結合双生児を登場させました。
B級映画ファンなら、フランク・ヘネンロッター監督の伝説的悪趣味カルト映画『バスケット・ケース』(1982)をまず思い浮かべるかもしれません。
日本のマンガでは手塚治虫の「ブラック・ジャック」にも題材として登場していますが、一番有名な作品は萩尾望都の短編マンガ「半神」でしょう。
後に野田秀樹と萩尾望都の共同脚本で、野田秀樹主宰の「夢の遊眠社」で戯曲化・舞台化され、繰り返し再演・発展した演劇ファンの間で名高い作品になっています。
そしてロンドン・インターナショナル・フィルム・スクールに留学した佐藤嗣麻子監督は、この作品を題材にした短編映画『半神 SUZY&LUCY』を卒業制作作品として製作しています。
この題材は多くのクリエイターを刺激し、様々な作品を生み出しているのです。
妖しく人を魅了する題材から生まれるドラマ
結合双生児は、人間のダークな興味を刺激するのでしょう。日本を代表する推理作家江戸川乱歩は「孤島の鬼」で、横溝正史は「悪霊島」でこの題材を取り上げています。
鹿賀丈史が金田一耕助を演じた角川映画『悪霊島』(1981)では、恐ろしい姿で画面に登場し観客に衝撃を与えました。
しかし日本で一番有名なこの題材を扱った映画と言えば、「孤島の鬼」を中心に「パノラマ島奇談」等、江戸川乱歩の他作品の要素も取り入れ映画化した、既に何度も紹介している『江戸川乱歩全集 恐怖奇形人間』です。
今やキング・オブ・カルトと呼ばれる、石井輝男監督の異常性愛路線と呼ばれる映画の最終作。当時から物議を呼んだ作品ですが、今や世界の映画ファンが認めるダークファンタジーとなりました。
『江戸川乱歩全集 恐怖奇形人間』には男女の結合双生児(その男を演じたのは近藤正臣)が登場しますが、これは手術で人工的に作られたという無茶な設定。そう、紹介した『Two』に一番近い映画です。
『Two』には主演2人が密着して、その多くのシーンをヌードで演じる必要がありました。当然ながらこの撮影には、多くのリハーサルが必要だったと語るマリナ・ガデル。
幸いにも私と共演のパブロ・デルキは同じ位の身長で、おかげで多くのシーンの撮影が楽だったと彼女は証言しています。それでもどう倒れるか、どう立ち上がるか、そして12時間も密着して行った撮影は大変だったと言葉を続けています。
ファレリー兄弟監督作のコメディ映画『ふたりにクギづけ』(2003)で、結合双生児を演じたマット・デイモンとグレッグ・キニアは実に楽しそうでしたが、やはりこの役を演じるのは色々と大変でした。
まとめ
トンデモない設定は『江戸川乱歩全集 恐怖奇形人間』と同じ。しかも黒幕の正体には、あの怪作『ムカデ人間』(2011)の要素まで加わっている『Two』。
それでも2人の男女を接合する部分は、『ムカデ人間』より物凄く良心的!、とフォローしておきましょう。
昔から人々を引き付け映画の題材として興味深い、しかし表現上取り扱いの難しい結合双生児。多くの国の映画ではファンタジーやホラー、コメディといった非日常的作品に登場します。
しかし本作はリアルな人間ドラマとして描かれました。このサスペンスの濃密さには、少々後ろめたい動機から本作をご覧になった方も圧倒されるでしょう。
同じスペインの巨匠、ペドロ・アルモドバル監督の『私が、生きる肌』(2011)には結合双生児は登場しませんが、ある意味それよりトンデモない外科手術が登場します。
もはやSF、あるいは狂気の沙汰と呼ぶべきか……他国の映画ならファンタジー的に処理する題材を、『私が、生きる肌』も『Two』同様に真摯な人間ドラマとして描きます。
恐るべしスペイン映画。しかしスパニッシュホラー、サスペンス映画を振り返ると、際どい題材から人間を描く作品が多数ある事実に気付かされました。
本当にこの世には、見るべき映画がまだまだ無数にあるようですね…。
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増田健(映画屋のジョン)プロフィール
1968年生まれ、高校時代は8mmフィルムで映画を制作。大阪芸術大学を卒業後、映画興行会社に就職。多様な劇場に勤務し、念願のマイナー映画の上映にも関わる。
今は映画ライターとして活躍中。タルコフスキーと石井輝男を人生の師と仰ぎ、「B級・ジャンル映画なんでも来い!」「珍作・迷作大歓迎!」がモットーに様々な視点で愛情をもって映画を紹介。(@eigayajohn)