連載コラム「B級映画 ザ・虎の穴ロードショー」第7回
深夜テレビの放送や、レンタルビデオ店で目にする機会があったB級映画たち。現在では、新作・旧作含めたB級映画の数々を、動画配信サービス【U-NEXT】で鑑賞することも可能です。
そんな気になるB級映画の数々を紹介する連載コラム第7回は、韓国のサバイバル・パニック映画『EXIT』。
韓国のある都市で突然蔓延した有毒ガス。迫りくるガスから逃れるために高層ビルの屋上へ登り、ビルからビルへと跳び、走る2人の男女の奮闘を描きます。
パニック映画のはずなのに、コメディー要素大、家族愛を描いてほっこりする場面もある『EXIT』をご紹介いたします。
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CONTENTS
映画『EXIT』の作品情報
【配信】
2019年韓国
【監督・脚本】
イ・サングン
【キャスト】
チョ・ジョンソク、ユナ(少女時代)、コ・ドゥシム、パク・インファン、キム・ジヨン
【作品概要】
突然蔓延し始めた有毒ガスから逃れるため、地上数百メートルの超高層ビルを登り続けることになるサバイバル・パニック映画。主人公の青年ヨンナム役にチョ・ジョンソク、ヨンナムが大学時代に所属していた山岳部の後輩・ウィジュ役に少女時代のユナが挑み、監督・脚本を本作が長編映画監督デビューとなった、イ・サングンが手掛けます。
映画『EXIT』のあらすじ
韓国のある都心部で、突如原因不明の有毒ガスが蔓延しはじめ、道行く人たちが次々に倒れ、パニックに陥っていきます。
そんな緊急事態になっているとも知らず、無職の青年ヨンナム(チョ・ジョンソク)は、母親の古希のお祝いをする会場で、そこで働く大学時代に想いを寄せていた山岳部の後輩ウィジュ(ユナ)との数年ぶりの再会に心を躍らせていました。
しかし、上昇してくる有毒ガスの危険が彼らにも徐々に迫り、ガスに触れてしまったヨンナムの姉・ジョンヒョン(キム・ジヨン)が瀕死の状態に。
なんとか両親・親戚たちとともに救助のヘリコプターで運ばれますが、重量オーバーでヘリコプターに乗れなかったヨンナムとウィジュは、ビルの屋上に取り残されてしまいます。
彼らの手元にあるのは、ロープ、チョーク、そして山岳部で鍛えた知恵と体力のみです。
映画『EXIT』の感想と評価
見事なアクションを披露しながらも、泣き言を言うヒーロー
蔓延する有毒ガスで都市がパニックに陥る物語ということで、かっこいいヒーローとそれに寄り添うヒロインが奮闘する物語だと想像する人もいるでしょう。
本作で奮闘するのは、青年ヨンナム。特筆したいのは、決してかっこいいヒーローではないということです。3人の姉を持つヨンナムは、気は優しいけれどどこか頼りない青年。就職試験がうまくいかず、無職でパッとしない日々を送っています。
大学時代は山岳部に所属していたため、体力だけはありあまっているのか、毎日公園の鉄棒で技を披露して、井戸端会議をしているおばあちゃんたちに拍手をもらっています。
「夢中になって鉄棒をする不審な男」と子どもたちの間で有名になってしまい、そのことを恥ずかしいと思っている甥っ子に無視される始末です。
毎日のように実家に遊びに来る姉・ジョンヒョンには「何の役にも立たない山岳部なんかに夢中になるからいけないのよ」と罵られるなど、肩身の狭い毎日を過ごしていました。
こうした冴えない青年・ヨンナムの緩い毎日が物語の前半で描かれるので、「この映画は本当にパニック映画なのか?」と疑問に思ってしまいました。ところが途中から、手に汗を握る展開へと一気に加速していきます。
ガスを吸ってしまった姉・ジョンヒョンを背負い、ヨンナムはビルの屋上へ避難するよう両親、親戚を誘導し、救助ヘリコプターで全員を避難させることに成功します。
取り残された大学山岳部の後輩・ウィジュとともに、ビルを命綱なしでロッククライミングのごとく登ったり、屋根から屋根へ跳んだりする活躍を見せます。
しかし物語の前半で、頼りないヨンナムを印象づけられたため、「大丈夫か」とハラハラしてしまい、心臓がバクバクします。
しかも過酷な状況になればなるほど、ヨンナムは素の自分をさらけ出し、泣き言を言う場面もチラホラ。
大学時代に想いを寄せ、告白したものの振られてしまったウィジュに対し、かっこいいところを見せるチャンスなのに、うまく立ち回る器用さは、ヨンナムにないのです。
でもそこがこの作品の魅力の一つ。ヒーロー像とは程遠い「人間臭さ」を前面に出すヨンナムに、思わず「頑張れー!お前ならできる!」と声を掛けてしまう人もいることでしょう。
正義感に満ちたしっかり者・ウィジュ
ヨンナムと一緒に取り残されるウィジュは責任感が強く、心優しい女性です。上司にしつこく言い寄られたりするなど、悩みはありますが、副店長として仕事に邁進しています。
「僕の家族のせいで君を助けることができなかった」とわびるヨンナムに、「副店長だから、お客様の安全を第一に考えるのは当たり前」と言い切る姿は、とても立派です。
ヨンナムと2人、力を合わせて脱出を試みますが、ウィジュの頭の回転の早さや機転の利くところがあったからこそ、抜群のコンビネーションで危機に立ち向かえたといってよいでしょう。
しっかり者のウィジュですが、ヨンナムと離れ離れになった瞬間、取り乱しながら戻ってきたヨンナムをなじるところは、可愛らしい一面を魅せています。
無事に救出され、先に救助ヘリコプターで脱出していた上司をビンタするところは、胸がスカッとします。
パニック映画なのに、家族愛でほっこり
ヨンナムとウィジュが命がけで有毒ガスから逃れようとする姿を描く一方で、家族愛をあますところなく描いているのも本作の魅力です。
ヨンナムの母親の古希のお祝いの場面では、親戚一同が集まってとても盛り上がるのですが、「年上を敬う」という韓国ならではの文化が色濃くでているシーンでもあり、興味深く観ることができます。
そして家族全員が団結して救助ヘリコプターを呼ぶところも、緊迫感・悲壮感というよりは、どこか微笑ましさがあり、思わずほっこりしてしまいます。
息子のために無茶を承知で避難所を飛び出す父・ジャンス、息子の無事を必死で祈る母・ヒョノク(コ・ドゥシム)、瀕死の状態で病院に運ばれた姉は「山岳部なんて役に立たない」と弟に向かって言ってしまったことを後悔するかのように、弟の帰りを待ち続けます。
物語の最後、ヨンナムと無事に再会した父・ジャンスが、「ありがとうございました」と丁寧に頭を下げるシーンに、胸が熱くなります。
まとめ
2020年に大ヒットした『愛の不時着』。ヒョンビンが演じるジョンヒョクの部下で、韓流ドラマ好きのジュモクを演じたユ・スビンがヨンナムの親戚の一人として登場しています。
また、『キム秘書はいったい、なぜ』で、パク・ソジュン演じるヨンジュンの親友・ユシクを演じたカン・ギヨンが、ウィジュにしつこく言い寄る嫌味な上司として登場します。
大ヒットドラマでいい味を出していた俳優を別の作品で観て「あっ!」と思うのも楽しみの一つです。
この作品は、ところどころ笑いが散りばめられているのも魅力です。ヨンナムを演じるチョ・ジョンソクはもちろんのこと、ウィジュ役のユナもコメディエンヌぶりを発揮しているので、注目してみてください。
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