連載コラム「B級映画 ザ・虎の穴ロードショー」第59回
深夜テレビの放送や、レンタルビデオ店で目にする機会があったB級映画たち。現在では、新作・旧作含めたB級映画の数々を、動画配信U-NEXTで鑑賞することも可能です。
そんな気になるB級映画のお宝掘り出し物を、Cinemarcheのシネマダイバーがご紹介する「B級映画 ザ・虎の穴ロードショー」第59回は、思わぬ人気に全米が沸いた作品『ファイナル・デッド・ツアー』。
B級映画ファンはゾンビなど暴れるが大好き、それが面白ければなお良し!『カメラを止めるな!』(2018)の大ヒットは皆さんご存じのはず。
そんな楽しさと悪趣味あふれる低予算B級ホラー映画が登場。ファンなら見逃せないこの1本を紹介しましょう。
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CONTENTS
映画『ファイナル・デッド・ツアー』の作品情報
【製作】
2020年(アメリカ映画)
【原題】
Uncle Peckerhead
【監督・脚本・製作】
マット・ローレンス
【キャスト】
マイク・ローレンス、デイビット・リトルトン、チェット・シーゲル、デイビット・ブルフバンド、ルース・ロラ、ルビー・マッコリスター、ジェフ・ルドル
【作品概要】
パっとしないバンド3人組が、初のツアーを敢行!移動用のバンと、雑用もこなしてくれる運転手が必要です。そこで妙な名前を持つ、おかしなオジサンにお願いすることに。ところがこの変なオジサンには、秘密があったのです…。
監督はホラーコメディ、『Two Pints Lighter 』(2014) を家族と共に完成させたマット・ローレンス。インディペンデント映画で活躍する彼は、『ファイナル・デッド・ツアー』の成功で注目を集めました。
豪華キャストのオーディブル(オーディオブックアプリ)のコメディドラマ、『Escape from Virtual Island』(2020~)に出演のチェット・シーゲルと、監督の仲間である俳優たちがドタバタ騒動を繰り広げます。
映画『ファイナル・デッド・ツアー』のあらすじとネタバレ
「実話に基づく物語」と案内して映画は始まります。無惨な死体の一部を喰った男は、バンに乗りその場を立ち去ります。これがホントに「実話」なら、洒落になりません…。
カップケーキとスコーンを売る店を辞めたジュディ(チェット・シーゲル)は、ぐうたらなメル(ルビー・マッコリスター)とマックス(ジェフ・ルドル)とバンドを組んでいました。
彼らのバンド、”Duh(ダー)”は前途多難。しかし今後は職を辞め音楽活動に専念すると、ジュディは7日間でライブ6本をこなすツアーを計画します。
ツアーを成功させ興行主アミールの経営する劇場で、有名バンドの前座で演奏して業界人のジェニングスの目に留まり、めでたくデビューする夢と希望を語るジュディ。マックスは大乗り気ですが、超ネガティブ発言で水を差すメル。
それでもテンションを上げ、ツアーに出発する3人組。しかし問題はマックスのダメなMC力より、移動手段の車が借金のカタに取られた事でした。
3人は周囲の車に貸してくれ、と書いた紙を置いて回ります。しかし最後に紙を置いたバンの所有者は、それを見て怒鳴りつけました。謝って事情を説明するジュディとマックス。
相手は関わっては面倒な人と気付き、コソコソ立ち去る2人。しかしパトカーを見た男は何を思ったか、彼らに手間賃とガソリン代を出してくれれば、車を貸し運転手と荷物運びとして働きたいと申し出ます。
“Duh”のメンバーはバンに乗り込みます。運転手は何者と不審がるメルに、男は”ペッカーヘッド(変人、もっとトンデモない意味も有り)”(デイビット・リトルトン)と名乗りました。
そんな名前があるかよ!、だったらペックと呼んでくれ。てな会話を交わしてバンドのメンバーと、変なおじさんドライバーは演奏ツアーに出発します。
先を急ぐジュディは、ペックに少しオーバースピードで走ってと頼みますが、この辺りは警官が多いと断られます。変人にしてはルール厳守のベックの態度に焦った彼女は、車に付いた血痕を見つけました。
最初のライブ会場の酒場に到着しますが、店は閉まっており機材の搬入が出来ません。一同がヒマを持て余した時、運転席のダッシュボードの中に注射器と薬剤を見つけるジュディ。
ようやく現れたオーナーはジュディが挨拶しても無関心。演奏内容に無茶を要求、実力不足の”Duh”に荷が重いステージになりました。
ヘビィな曲が似合わぬ僅かな客の前で、”Duh”は演奏を終えました。しかし渡されたギャラは3ドル。お礼をするとナイフを取り出すメルを、ジュディはどうにかなだめます。
するとペックが時間を聞きました。今は真夜中の12時前、一同は出発しようとしますが、その前にトイレに行くと告げ店に戻るペック。
帰ってこないペックを探しに店にム開くジュデイ。何やらうなり声が聞こえます。彼女が見たのはオーナーの死体を貪る怪人の姿でした。
ジュディは悲鳴をあげバンに戻り仲間と逃げようとしますが、血塗れのペックが戻ってきます。怯えるジュディに何でもない、オーナーをお仕置きしたとペックは説明します。
人を殺した、こいつの正体は化け物だと叫ぶジュディに、酷い言い草だとこぼすペック。人殺しだ、殺してないと言い合う2人に戸惑うメルとマックス。
皆で確認に向かうと、無惨な姿のオーナーの死体があります。”Duh”の3人は車の鍵を奪い逃げようとしますが、ペックは彼らに何が起きたか説明すると言いました。
一同はダイナーに移動します。ペックは3人に謝ると食事をおごり、俺の変身を説明すればよかったと言い出します。
ペックは真夜中12時になると、人を喰う凶暴なモンスターになります。いつから、なぜこうなったのかは不明。怪物に変身するのは時間限定だから、どうか安心しろと告げるペック。
人を殺し食べて問題ない訳が無いだろ、と怒るジュディ。次に襲うのは私たちかと尋ねるメルに、ペックは真顔で仲間を食べる訳がない、感情はコントロールしていると説明します。
見つけた注射器を示し薬物中毒患者か、と指摘するジュディに、これは変身を押さえる鎮静剤だと彼は説明しました。今夜はジュディたち仲間を喰い物にした悪党を始末するのに、自分の力を解放したとペックは言いました。
正当なギャラをもらうために食べた、と説明するペックは、しっかり店から金をせしめていました。それでもモンスターに変身する変人、ある種の正義感は持っています。
君らに怖い思いをさせた、だがガソリン代に食費・宿代も手に入れたと、もうしないから許してくれと話すペック。ジュディが反対しようが、許す気になってるメルとマックス。
多数決でペックを仲間に認めることが決定、”Duh”のツアーは続行です。ジュディの心配を他所にメルは怪物に興味深々、マックスはペックに人間の味を尋ねる始末。
次に到着したのは一軒家。家の主で興行主のニックはイケメンで金もあるようで、魅力的な彼になぜかマックスは大興奮。今夜はここに泊まり明日の演奏に備えます。
一同はニックの家のプールで楽しみました。ジュディはマックスといい感じになりますが、12時が近づくとペックが注射の時間だと割って入りました。
ムードを壊したペックをジュディは恨みます。その後彼女はニックと関係を持ちますが、彼はアレに関しては受け身専門。それより窓の外に現れた、怪物化したペックを見て驚くジュディ。
彼女はバンの中で鎮静剤で眠るペックを確認しますが、彼は普段の姿で大イビキでした。ジュディは何やら不安に襲われます。
翌朝ジュディが目覚めると、皆はペックが焼いたスコーンが美味いと盛り上がっています。何だかくやしいけど、ペックの料理の腕を認めるしかないジュディ。
彼女は今日のライブでトリを務めるシャイロと出会います。実にイケ好かない相手で、ジュディは彼とマウントを取りあう会話を交わします。
ライブ会場でグッズ販売にやる気の無いメルに比べ、ペックは多くのデモテープを売りさばきます。ニックとも打ち解けた彼を見て、ジュディは嫉妬のような感情を抱きました。
“Duh”は次の演奏地を目指します。夜になり駐車場にバンを停め、ペックは仲間と盛り上がりますが、自分は寝るからペックは怪物化する前に、今すぐ鎮静剤を打てと要求するジュディ。
まだ12時ではない、もう少し楽しみたいというペックに、彼のことは任せろと言うマックスとメル。不安を覚えながらも彼女は先に休みました。
翌朝、彼女はにぎやかな笑い声で目覚めます。見るとマックスとメルがペックに水をかけ洗っていました。
その光景に驚いたジュディ。なぜならペックの体は血塗れ。笑い転げる彼らは、昨晩いったい何をやらかしたのやら…。
映画『ファイナル・デッド・ツアー』の感想と評価
アメリカで大いに評価されたインディーズコメディホラー、いかがでしたか?
低予算でヒットした伝説のホラー映画と言えば、衝撃と不快感で観客を圧倒した『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』 (1968)や『悪魔のいけにえ』(1974)が思い浮かびます。
やがて『死霊のはらわた』(1981)シリーズのように残酷描写にドタバタコメディ要素を加えた、ナンセンスかつブラックな笑いを持つのホラー映画が台頭します。現在ホラーコメディと聞けば、多くの方がこのタイプの作品を思い浮かべるでしょう。
しかし本作は意外にも、ブラックな笑いを散りばめつつ”怪物”の危険な本性を徐々に露わにする、ストーリー性を持つ作品です。最後まで悪ふざけを期待した方は驚きだったはず。
鑑賞前に悪ノリ映画を想像した方ほどこの意外性に驚き、しっかりした人物描写に納得させられる。これが高評価の理由でしょう。
このヘンなおじさん=怪物の、ストーカーじみた一方的愛情と凶行が主人公には実に迷惑…『オペラ座の怪人』(2004)型のありがた迷惑映画と言いましょうか…のお話は、監督の全く別の企画から誕生しました。
監督のあるアイデアから発展した映画
本作監督のマット・ローレンスはインディーズ映画の製作者だけではなく、ニュージャージー大学の助教授として、メディア研究と製作を教える人物です。
彼は90年代前半の、シットコム形式のコメディ番組をイメージしたシリーズものを企画します。とある家にパンクロックバンドを組んだ子供のグループが住んでいる。毎回トラブルを起こす彼らと交流するのは、年上の”ペッカーヘッド”おじさんでした…。
という企画です。ヘンなおじさんが登場する『ウェインズ・ワールド』(1992)か、『ビルとテッドの大冒険』(1989)といった作品でしょうか。
しかしホラー映画の大好きな監督は、この企画にホラー要素を加え映画化することにしました。ヘンなおじさんの正体はゾンビ?狼男?それとも悪魔?…マット・ローレンスはある種のグール(屍食鬼)と考えている、と問いに答えていました。
監督は本作の残酷シーンを、特殊メイクを使って描きました。優れた特殊メイク技術で描かれた70~80年代のホラー映画は今も鑑賞に耐えうる。今も効果的なこの手法を自作でやってみたかった、と監督は話しています。
そこで彼が本作に選んだのは、マーベルドラマ『デアデビル』(2015~)や『ジェシカ・ジョーンズ』(2015~)、『パニッシャー』(2017~)などで特殊効果を担当しているジャリッド・バログでした。
彼の手腕は映画の中で大いに発揮されています。あの変なおじさんが嫌味なバンド野郎にお仕置きするシーン、ちょっとやり過ぎ…下ネタ方面で大いに…と思われますか?
それも当然。知的な男に思えるマット・ローレンス監督は、本作劇中に悪名高いB級映画の老舗、トロマの映画『悪魔の毒々モンスター東京へ行く』(1989)の映像を紹介する人物ですから。
仲良しキャストが映画を盛り上げる!
バンド”Duh”と”ペッカーヘッド”おじさんによる、珍道中ロードムービーでもある『ファイナル・デッド・ツアー』。監督はマックスを演じたジェフ・ルドルを、素晴らしいミュージシャンで愉快で魅力的なカリスマ的人物と紹介しています。
その彼にキャスティング作業を通じて選ばれた、ジュディ、メル、”ペッカーヘッド”役の3人が合流します。彼らは毎日撮影に使用された、実はジェフ・ルドルのバンに乗って現場に現れ、共に食事をし眠る生活を過ごしました。
初顔会わせから48時間後には、彼らは仲良い絆で結ばれたグループになったと語る監督。出演者たちに友人のような緊密な演技を求めるには、良い人たちをキャスティングするのに尽きると言葉を続けます。
メルを演じたルビー・マッコリスターは子供の頃に憧れた、映画『プッシーキャッツ』(2001)とその原作コミックとアニメ「ドラドラ子猫とチャカチャカ娘」のような、架空のバンドを演じるのは実に楽しかったと話しました。
とはいえ音楽的センスは持ちながらも、演奏経験の無いジュディ役のチェット・シーゲルと私は、撮影中は場違いなコメディエンヌのようだった。それをジェフ・ルドルが上手く導いてくれたと説明しています。
ペック役のデイビット・リトルトンを含めた4人で、撮影前は一緒にブラブラしたりバンの中で過ごしたり。本当にツアーしているような生活だった、と当時を振り返るルビー・マッコリスター。
その雰囲気は画面から伝わってきます。様々な経験を経て、どう考えてもダメな行為に走るおじさんと仲良くなり、打ち解けた4人の姿を楽しんだいた観客は、その後の展開にゾっとする。これこそが本作の見どころでしょう。
まとめ
ドタバタコメディではないが、ニヤリとなる毒が楽しく、そして当然の結末なのに途中抱いた希望を打ち砕かれた気分になる、印象深い展開を持つ『ファイナル・デッド・ツアー』。
マット・ローレンス監督は、登場人物の中では野心的なバンドのリーダー、主人公ジュディこそ自分に一番近い性格の持ち主だ、と語っています。
常識人だが自分の夢のために職を捨て、望みを叶えるために怪物に妥協し、いつしか魂を売るように悪事を受け入れていた…。彼女の『ビルとテッドの大冒険』のキアヌ・リーブスのような能天気キャラではない性格が、作品に深みを与えました。
実はメンバーの中で一番年上、彼氏も無く職を捨て、ダメ過ぎるツアーは計画性に欠け、他人が自分よりバンドを上手く仕切ると嫉妬する、夢見る崖っぷちミュージシャン…という痛い設定が観客に共感を与え、身につまされる人もいるでしょう。
ゲラゲラ笑える能天気コメディを期待した人も、監督の描いたキャラクターの人物像にはしんみりしたはず。その描写が後半部の衝撃につながるのです。
と書くと実に素晴らしい映画に思えますが、本作の原題は「Uncle Peckerhead(”ペッカーヘッド”おじさん)」、これだけで全米が爆笑しました。
“ペッカーヘッド”って何なの?としつこく聞く方。映画『オースティン・パワーズ』(1997)のナニに似たロケット発射シーンで、誰かが”ペッカー”と叫んだのを覚えていませんか?それの”ヘッド”という意味です。…もうお判りですね。
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