連載コラム「B級映画 ザ・虎の穴ロードショー」第51回
深夜テレビの放送や、レンタルビデオ店で目にする機会があったB級映画たち。現在では、新作・旧作含めたB級映画の数々を、動画配信U-NEXTで鑑賞することも可能です。
そんな気になるB級映画のお宝掘り出し物を、Cinemarcheのシネマダイバーがご紹介する「B級映画 ザ・虎の穴ロードショー」第51回は、映画『不倫する理由』。
夫婦ダブル不倫の行方を、妖艶なエロスで描いた韓国映画を紹介いたします。
愛欲に溺れ、誘惑に惑わされた夫婦は、その果てに何を見たのでしょうか?
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映画『不倫する理由』の作品情報
【製作】
2019年(韓国映画)
【原題】
아직 사랑하고 있습니까? / How to live in this world
【監督・脚本】
シン・ヤンジュン
【出演】
キム・イングォン、イ・ナラ、ソ・テファ
【作品概要】
倦怠期を迎え、関係が冷めきった夫婦。妻は夫の上司との不倫に燃え、夫は同窓生の前妻と関係を持ちました。惑わされダブル不倫に陥った夫婦とその周囲の人々を描いた、おかしくも切ない大人のためのエロチックな物語が幕を開けます。
難病に犯された彫刻家とその妻、そして全裸でモデルを務める女の関係を描いた映画、『アトリエの春、昼下がりの裸婦』(2014)の製作・脚本を務めたシン・ヤンジュン監督作品です。
『長沙里9.15』(2019)や『ムルゲ 王朝の怪物』(2018)のキム・イングォン、『ゴーストマスク 傷』(2018)や『The NET 網に囚われた男』(2016)のイ・ナラ(イ・ウヌ)、ドラマ『ピオラ花店の娘たち』(2020~)のソ・テファらが出演しています。
映画『不倫する理由』のあらすじとネタバレ
銀行の副頭取ミンシク(ソ・テファ)は、マンションに住む愛人ヨンジの部屋から去りますが、その時同じマンションに部屋を持つキム・ヨンギョン(イ・ナラ)とすれ違いました。
帰宅したヨンギョンを待っていたのは夫のヨンウク(キム・イングォン)。夫婦は義務となった、月に1度だけの無味乾燥な夜の営みに励みます。
勤め先の銀行で、部下の支店長の不倫が騒動へと発展したとの報告を受けるミンシク。妻を持つ支店長が手を出したのは、部下のジェスンでした。
その頃ヨンギョンは、キュレーター(美術品の管理・鑑定を行う職務)として働く勤め先のギャラリーで、女性社長から次の取引相手がミンシクだと告げられます。
一方ミンシクと同じ銀行に勤めるヨンウクは、融資の支払いが滞ったミョンソプの元妻ヘインに会え、と会社の先輩ソングクから言われます。気が強く離婚の際、夫を殴った女だと面会を渋るヨンウク。
ギャラリーにミンシクが現れます。彼もヨンギョンもどこかで会っていると感じ、互いに好感を覚えたようです。行きつけの店に良いワインが入ったと、ミンシクは彼女を食事に誘いました。
ヨンウクの方は今は和食居酒屋を経営する社長であり、ミョンソプの元妻であるヘインの店を訪ねます。男勝りの彼女に辟易しながらも、ミョンソプの連絡先を聞き出そうとするヨンウク。
ところがヘインは知らないの一点張り。しかも酔った彼女は大胆になり肌を露わにし始め、ヨンウクは目のやり場に困ります。
ミンシクとワインを楽しみ語り合ったヨンギョンは、夫との間に子供は無くもう子を持つ事を諦め、今は避妊していると告げました。自分の大学生になる息子は、米国で前妻と暮らし独り身だと打ち明けたミンシク。
2人は店を出ました。酔ったヨンギョンをミンシクは庇いながら階段を上りますが、よろめいた彼女をミンシクが支えた時、2人は思わずキスをします。
同じ頃ヨンウクはヘインに激しく求められ、彼女の望みに応じ体を重ねていました。そして濃厚なキスを交わし、互いを激しく求め合うヨンギョンとミンシク。
事を終えたヘインに妻との関係を聞かれ、ヨンウクは月に1度決めた日にだけ営みの時間を設けているが、互いに忙しく夫婦の会話も無いと打ち明けます。ヘインからそんな妻を今も愛しているか、今の行為は良かったかと聞かれ、返答に困るヨンウク。
ヨンギョンをマンションの近くまで車で送り届けたミンシクは、彼女は愛人ヨンジと同じマンションに住んでいると気付きます。
翌日ヨンギョンがギャラリーに出勤すると、社長からミンシクが2枚の絵を買ったと告げられます。社長に上手く立ち回ったと褒められるヨンギョン。
彼女が家に帰っても、夫ヨンウクとは何の会話もありません。翌朝ヨンギョンは出勤前のヨンウクから、金曜は勤め先の銀行の会食に参加するので同伴して欲しいと頼まれます。
届けられた絵を職場に飾るよう指示するミンシク。彼はお礼のメールを送ってきたヨンギョンを食事に誘いますが、前回の成り行きを恥じ、彼女に飲酒は抜きにしたいと返事しました。
ヨンウクの会食に同伴し銀行を訪れたヨンギョンは、エレベーターに乗り合わせた男の顔を見て驚きます。夫の務める銀行の副頭取こそ、ミンシクだったのです。
夫にミンシクを紹介され、ヨンギョンは気まずい思いを抱きつつも会食会場に向かいます。彼女が手洗いから出ると、そこにはミンシクがいました。あの日の出来事は夫に話していないと告げるヨンギョン。
そこにヨンウクがやってきました。見られたくないと動揺する彼女の手を握り、思わず男子トイレに引き込むミンシク。
2人は個室に身を隠します。小用を足しに来たヨンウクは、先輩のソングクと融資が回収できない、債務者ミョンソプの一件を話していました。
ミョンソプに会えていないと話したヨンウクは、個室に誰かいると気付いて口を閉ざします。ヨンウクらが出て行ったと知ると、激しく濃厚なキスを交わすヨンギョンとミンシク。
帰宅したヨンギョンはシャワーを浴び、無関心に眠る夫のベットに入りました。1人で夜を過ごすミンシクは、何か思いを巡らせます。
出勤したミンシクは、ヨンウクを支店長に抜擢するよう部下に指示します。そして不倫騒動を起こした支店長は辞職したが、相手の女性社員ジェスンは、不当解雇だと争う姿勢だとの報告を受けました。
ヨンウクは妻ヨンギョンに、自分が済州島の支店長に抜擢されたと話します。ヨンギョンは昇進が早すぎると疑問を口にし、ヨンウクもまた自分でも昇進の実感が沸かないと認めます。
それでも昇進と異動を承諾したヨンウクは、妻に一緒に来るかと告げます。しかしヨンギョンは、夫の単身赴任を前提に将来を考えていました。
ミンシクは愛人ヨンジから、新しい女が出来たのかと指摘されます。冷静な態度の愛人に、今まで自分は狙った女は必ずものにしたと認めるミンシク。
ヘインの自宅を訪れたヨンウクは、彼女から元夫ミョンソプの連絡先を教える代わりに体を求められます。それは妻に対する信条に反する、前回は魔が差しただけと告げ、ヨンウクはどうにか誘惑を拒絶します。
恥をかかされたとヘインは怒りますが、それでもミョンソプの連絡先を教えました。連絡がついたミョンソプは、支払いの滞納を指摘されると話をごまかす態度を取りました。
勤務中のヨンギョンの元に、ミンシクから食事に誘う連絡が入ります。そしてヨンウクは赴任の挨拶に副頭取であるミンシクの部屋を訪れますが、そこに妻が務めるギャラリーが発送した荷物があると気付きました。
その夜ミンシクと外食したヨンギョンは、夫の済州島赴任は自分と関係があるのかと尋ねます。少しはあると認めたミンシクに、私は過ちを犯してしまったと告げるヨンギョン。
「私たち」の過ちだと言い直したミンシクは、2人の関係は秘密にすれば良いと提案します。ヨンギョンは拒絶しようとしますが、あの日の出来事が辛いのかと問われると、激しく沸き起こった想いに囚われました。
そのまま部屋に入り、欲望のままに求め合う2人。行為の最中にかかった夫ヨンウクからの電話にヨンギョンは応じますが、それでも2人の行為は止みません。
済州島に支店長として赴任したヨンウクは、与えられた部屋と車に満足します。そして銀行の行員ジェスンは、未練を持ち体の関係を求める不倫相手の元支店長にきっぱり別れを告げていました。
アメリカ在住の大学生の息子と再会したミンシクは、今は女性と接する経験を積むべき時期で出会った女に深入りせず、いきなり心を開かぬようにアドバイスします。
ヨンウクの支店に、社内不倫で騒ぎを起こしたジェスンが異動してきました。不倫相手に騙され関係を持ったジェスンに対し、会社が与えた不当な人事を、ヨンウクは彼女に上手く説明できません。
銀行は彼女が辞職するよう済州島の支店に左遷していましたが、それでも退職の意志を全く見せないジェスンの姿勢に負けるヨンウク。
ミンシクから今夜、あの部屋で会おうと誘われるヨンギョン。彼女はギャラリーのオーナーから、ミンシクが同じ銀行の頭取の先を越すように絵画を買ったと知らされます。
部屋を訪れたヨンギョンに目隠しをするミンシク。彼はヨンギョンの服を脱がすと、いきなり彼女の体を求めました。
激しいプレイに、いつもこうなのかと尋ねるヨンギョン。彼女はミンシクに私を愛しているのかと尋ねます。それに対し、君は俺を愛しているのかと質問したミンシク。
「いいえ」。それが彼女の答えでした。ならば俺も愛していないと告げるミンシクに、愛していない人と寝るのはもう嫌だ、それを告げに来たとヨンギョンは話しました。
突然の告白に俺が愛せばいいのか、と尋ねたミンシクに、私の方であなたを愛さねば意味がない、と語りかけるヨンギョン。
1人になったミンシクはその言葉の意味を考え、その後愛人ヨンジに俺を愛しているのか尋ねます。ヨンジは新しい女からその質問を投げかけられたのだ、と見抜きました。
その女はあなたを深く愛しているか、もしくは別れたがっているとヨンジは指摘し、あなたこそ相手を愛しているのかと尋ねました。判らない、長らく考えたことが無いとつぶやいたミンシク。
ヨンジからも私を愛しているかと聞かれると、動揺しお前までどうした、とミンシクは言いました。多くの女性をものにした自分が、実は孤独な人間だと気付いたのかもしれません。
職場のミンシクに、先輩のソングクからミョンソプの会社に行った、担保の無い融資がついに焦げ付いたと連絡が入ります。
支店の歓迎会に参加していたヨンウクは、副頭取のミンシクがミョンソプの件に気付いたと知らされます。なぜ副頭取がこの件を調べたのか。自分の早すぎる出世と異動。副頭取の部屋で見た、妻ヨンギョンが働くギャラリーから送られた荷物……。
やがて脳裏にある疑念が浮かび上がりますが、それを必死に否定するヨンウク。その姿をジェスンに見られました。
何もなかったように取り繕うヨンウクを、ジェスンは2人で飲み直そうと誘いました。もう遅いと断るヨンウクの手にメモを握らせると、私は先に行っているので支店長を待っています、と告げるジェスン……。
映画『不倫する理由』の感想と評価
エロチックなシーン満載、と期待に胸を膨らませてご覧頂くと意外な思いを抱くかもしれません。
妻ヨンギョンを巡る物語はともかく、キム・イングォン演じる夫ヨンウクの物語は実にコミカル。何故か女性が言い寄るうれし恥ずかしい、実に羨ましい展開が続きます。
冴えない男に、そんなおいしい話(?)が続く訳が無い……とトラブルに巻き込まれる彼の姿が面白おかしく描かれます。まさに古き良き“艶笑映画”の雰囲気でした。
昭和のお色気コメディの香りが漂いますが、そこは韓国映画。妻を演じるイ・ナラ(イ・ウヌ)の絡みシーンは濃厚、上品なエロスで描いていますからご期待下さい。
キム・イングォンのコメディ演技
二枚目スターを引き立てる脇役として、以前からの韓流映画ファンにお馴染みのキム・イングォン。その確かな演技力にはデビュー以来定評があります。
そして韓国で大ヒットした『花嫁はギャングスター』(2001)で、コメディ演技を披露した彼は絶賛され、その役柄の幅は大きく広がりました。
どのように演技を組み立てているのかと聞かれた時には「心で感じる自分の感性」「心の深い所からわき出る感覚」で演技している、と答えているキム・イングォン。
表情を駆使した彼の愉快な姿が、しっとりとした濡れ場を目撃した観客の気持ちを和らげてくれます。エロチックな映画の気恥しい緊張感は苦手、という方は気に入ること間違いありません。
したたかに生きる女性たちの強さ
現代においても儒教の影響が強く、家父長制の考え方が強く残る韓国社会。その結果今も男性優位の風潮が強く、家庭や社会の様々な部分で女性が不利益を被る状況が残っています。
『不倫する理由』にも、不倫・不貞は男性には(上手くやっている分には)許容されながらも、女性は厳しく糾弾される描写があります。
本作の夫ヨンウクの部下となる若い女性は、あっけらかんと男女の性欲を満たす機会の違いを指摘します。これは韓国に限らず、あらゆる国々で起きている現状でしょう。
そんな状況に耐える女性がいる一方、逞しく男をコントロールする女性も本作に登場します。伝統に根ざす上下関係はあっても、個々の男と女の関係は様々な形をとるものです。
夫ヨンウクの上司にあたる副頭取ミンシクは、男性優位の社会の恩恵を享受しています。しかし彼の愛人ヨンジは、その立場でも自分の進む道を模索できる強さを持った人物です。
家庭では家長の立場に慣れ切り、妻ヨンギョンに関心すら示さない夫ヨンウク。その彼を家の外で誘惑・翻弄し困らせるのは、男性優位社会と互角に渡り合う経営者に、性に対して新たな考え方を持つ若い女性。
妻と恋心を抱く女性の2つの思いを抱いて、深く悩んだヨンギョン。彼女はこのジレンマに向き合い結論を導き出します。それは同じ悩みを抱えた女性に倣ったものでした。
一方夫ヨンウクも妻の行動に薄々気付きながらも、最後に自分の取るべき態度を決めました。それはしたたかに生きる女性の助言に従ったものです。
韓国社会の中で、逞しく生きる様々な女性たちを描いた作品、むろん夜の営みの分野でも……それが映画『不倫する理由』です。
まとめ
韓国映画ならではの、情感あふれるエロチックなシーンが堪能できる『不倫する理由』。それでいてコミカルで気軽に楽しめる内容が、程よいエロスを求める人を満足させてくれるでしょう。
平穏だが愛の無い、義務にすぎない夜の営みに甘んじるのか。それとも波乱を乗り越えて、新たな関係を築くのか。倦怠期を迎えた夫婦の悩みは、どこの国も同じです。
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