連載コラム「B級映画 ザ・虎の穴ロードショー」第26回
深夜テレビの放送や、レンタルビデオ店で目にする機会があったB級映画たち。現在では、新作・旧作含めたB級映画の数々を、動画配信U-NEXTで鑑賞することも可能です。
そんな気になるB級映画のお宝掘り出し物を、Cinemarcheのシネマダイバーがご紹介する「B級映画 ザ・虎の穴ロードショー」第26回は、『西遊記 はじまりのはじまり』(2014)のチャウ・シンチー監督が描くギャグ満載の人間と人魚のエンターテインメント映画『人魚姫』。
『少林サッカー』(2001)、『カンフーハッスル』(2004)、『西遊記 はじまりのはじまり』(2014)とヒット作を生み出してきたチャウ・シンチー監督が“シンチー節”ともいえるギャグ満載のお馴染みのノリで描いた新たな人魚と人間のラブロマンスを描くエンターテインメント大作。
人魚と人間のラブロマンスをベースにしながら、中国消費経済社会の勝者の富豪たちの金儲けのためなら手段を選ばない非道さ、環境問題への警鐘と、ラブロマンスの枠にとどまらないメッセージ性も盛り込んだ映画になっています。
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映画『人魚姫』の作品情報
【公開】
2017年(中国・香港合作映画)
【原題】
美人魚 Mermaid
【監督・脚本・製作】
チャウ・シンチー
【キャスト】
ダン・チャオ、リン・ユン、キティ・チャン、ショウ・ルオ
【作品概要】
監督を務めるのは『西遊記 はじまりのはじまり』(2014)のチャウ・シンチー。人魚姫シャンシャン役にはオーディションで12万人の中から選ばれたリン・ユン。他のキャストには『SHADOW 影武者』(2019)、『ドラゴン・フォー 秘密の特殊捜査官 隠密』(2014)のダン・チャオ、『少林少女』(2008)、『ミラクル7号』(2008)のキティ・チャン、『ポリス・ストーリー REBORN』(2018)、『西遊記 はじまりのはじまり』(2014)のショウ・ルオなど。
映画『人魚姫』のあらすじとネタバレ
“世界珍獣博物館”ではティラノサウルスやアムールトラ、バットマンなどが展示されていますが、全てインチキでまともな展示はなく、人魚姫の展示では館長自らカツラをつけて布を履いて人魚に扮し、客に文句を言われます。
文句を言われても「生きるためには仕方ない」と館長は開き直ります。
一方、あるオークション会場では香港郊外の美しい土地、青羅湾がオークションにかけられています。2億で買い取ったのは青年実業家のリウ(ダン・チャオ)でした。
リウをはじめとした資本家たちは自然保護区の生物をソナーを使って排除し、青羅湾を埋め立ててリゾート地にする土地計画をたて、実行に移そうとしていました。
お金を稼ぐ以外のことはよく分からないリウは、ソナーによって生態系が壊されていることも知らずに資本家の言うがまま計画を進めます。
リウが興味あるのはお金と女性であり、パーティ会場で資本家の美女・ルオラン(キティ・チャン)に迫られその気になっています。
そこに突然、変なメイクの女性(リン・ユン)が現れ、シャンシャンと名乗り、電話をしてとリウに電話番号が書かれたメモを差し出します。適当に電話をすると答え、メモを受け取ったリウは警備員にシャンシャンを外に連れ出すように促します。
追い出されたシャンシャンは、満足そうにスケートボードに乗り市場でチキンをたらふく食べ、家に帰ります。
青羅湾の崖にポツンと建てられた家に帰るシャンシャン。その家は裏にある青羅湾に通じており、廃船の中には沢山の人魚たちがいます。
シャンシャンは、ソナーによって負傷し、追われた人魚たちがリウに復讐するために派遣された人魚だったのです。
太古の昔から人間は人魚の捕獲と殺戮を繰り返し、人魚は人間を遠ざけてきました。しかし、ソナーにより多くの人魚が負傷し、住む場所を追われました。復讐のため、人魚たちはリウにハニートラップを仕掛け殺そうと計画しています。
電話が鳴り、リウから迎えに行くと言われます。家にやってきたらリウを殺そうと身構えていましたが、やってきたのはリウの部下でした。
車に乗せられそうになったシャンシャンに、タコ兄(ショウ・ルオ)が慌ててリウを殺す道具を入れた鞄を手渡します。誰だ?と不審がる部下に、シャンシャンは叔父だと説明します。
身体検査をうけさせられ、シャンシャンはリウが来るまで待たされます。しかし、リウはルオランに安い売春婦と遊んだことを責められ、成り上がりの下品さを指摘された腹いせに、シャンシャンに電話しただけで本当に来るとは思っていませんでした。金を渡し、帰れとあしらわれてしまいます。
引き下がらないシャンシャンに仕方なく送ることにしたリウ。途中でシャンシャンはお気に入りのチキンが売っている屋台を見つけ、絶対あなたも気に入るから食べに行こうと無邪気に誘います。
誘いに乗ったふりをして置き去りにして帰ろうと思っていたリウですが、引き返し共にチキンを食べ始めます。
安い屋台のチキンなんて…と最初は言っていたリウも気づけば夢中でチキンを食べ、突然泣き出しました。
貧しくて食べるものがなく、父親が残りものを探して食べさせてくれた味を思い出したのです。
子供の頃の経験を経て、金持ちになると誓ったというリウに対し、シャンシャンは「お金を稼いでどうするの?この地球から綺麗な水と空気がなければ意味がない」と言います。
「何も分かっていない」と理解しないリウに向かって、シャンシャンは歌い出します。リウも共に歌い2人は意気投合し、遊園地のアトラクションに乗りはしゃいで遊びます。
家まで送ろうというリウに対し、お茶でも飲んでいく?と誘うシャンシャンでしたが、家に入ればリウが殺されていることを知っているシャンシャンは気が咎め、「遅いからもう帰って」と扉を閉めてしまいます。
次の日、シャンシャンを食事に誘ったリウは「君は天使だ、結婚してほしい」と言います。
シャンシャンは驚き、泣きながらあなたを殺しにきたと言いますが、リウは聞き入れません。タイミング悪くルオランがやってきて、シャンシャンは出て行ってしまいます。
私は女優でも殺し屋でもないからもう無理だとシャンシャンは言い、タコ兄をはじめとした人魚たち仲間はあと一歩だとシャンシャンを引き止めます。
そのような話し合いをしている最中に呼び鈴がなり、扉を開けるとリウの姿が。シャンシャンの足を見て驚いている間にリウは捕らえられ、アジトの廃船に連れて行かれてしまいます。
「何の権利があって地球を壊す?」とソナーにより被害をうけ、そのためにお前を殺すとリウは脅されます。リウは俺を殺したらソナーを止められなくなる、ソナーを止めるから殺さないでくれと言いますが、タコ兄は聞きません。
首をしめられているリウをみかねたシャンシャンは、タコ兄の足を切り落としてリウを逃がしてしまいます。
映画『人魚姫』の感想と評価
破天荒なロマンス
「人魚姫」と聞くとアンデルセンの童話を切ない人魚と人間の恋を描いた思い浮かべる人が多いかもしれません。
また、美しくも残酷なホラーファンタジー映画『ゆれる人魚』(2018)やトム・ハンクス、ダリル・ハンナら出演のコメディ映画『スプラッシュ』(1984)など、人魚を題材にした映画も多くあります。そんななか、本作は“チャウ・シンチー節”ともいえるギャグセンスが光る、素晴らしきエンターテイメント作になっています。
ヒロインであるシャンシャンは、登場シーンからまるで漫画のキャラクターのような変な化粧で王道恋愛映画のヒロインとはかけ離れた強烈なキャラクターとして登場します。
大きな声で笑い、貪るようにチキンに食らいつき、リウに色仕掛けしようとするもどこか間の抜けたダサいセクシーポーズになってしまうようなヒロインです。
成功しても孤独を感じ、お金目当てで近寄ってくる女性しかいないリウは、最初は何か魂胆があって近づいてきたのだと思い、お金を渡して追い払おうとします。
しかし、何の魂胆もなく飾らない素直なシャンシャンに惹かれていくのです。
シャンシャン自身も仲間達の仇であるはずのリウと共に過ごすうちに、敵だと思っていた人間がみんなが皆悪い人ではないことに気づき始めます。そしてリウを殺さなければ仲間を裏切ることになると分かっていても殺せないと、葛藤します。
王道ロマンスを描きつつもチャウ・シンチーらしいコミカルな演出で観客を楽しませます。
2人でチキンを食べ、歌い出す場面や、警察に人魚に誘拐されたことを話しながらもシャンシャンが可愛くて仕方ないリウなど、思わず笑ってしまうようなどこか王道ではない破天荒なロマンスが、この映画の魅力です。
都市開発と環境破壊
人間と人魚のロマンスとともに本作で描かれているのが、環境破壊です。
自然保護区である青羅湾を埋め立てリゾート地にする計画のため、ソナーを開発し、保護区の自然を破壊していきます。金儲け以外のことには興味を示していなかったリウは、ソナーによって環境が破壊されていることを知りませんでした。
ソナーは電磁波によって生物を寄せ付けないのではなく、周囲の生物を電磁波によって破壊していたのです。沢山のイルカをはじめ海洋生物が破壊され、人魚も被害に遭いました。
中国だけでなく、土地開発による環境破壊は世界的に問題視されている問題です。
環境破壊で被害にあう弱者と、目先の利益のために手段を選ばない強者の縮図。金がものをいう富裕層の価値観に対し、シャンシャンは「この地球から綺麗な水と空気がなければ意味がない」と言い放ちます。
シャンシャンと出会ったことによって“金が全て”であったリウが自身の孤独な心に向き合い、本当に大切なものを見出していきます。
ロマンスでありながら、一人の男の成長譚でもあるのです。
更にリウの金に対する執着の根底にあるのは貧しかった幼い頃の体験です。
貧しさから逃れるため、手段を選ばず金にものを言わせるようになってしまったのです。冒頭に描かれる“世界珍獣博物館”の館長も、どう見ても偽物の展示を平然と展示し、自ら人魚に扮することまでやってのけるのは生きるためには仕方ないからなのです。
ラストのインタビューでリウは私財を投じて環境保全に尽力しただけでなく、貧しい学生のために奨学基金を設立し、援助しています。
一見コミカルでギャグセンス抜群のロマンスに見えますが、その中に込められた真っ直ぐなメッセージは現代社会の縮図や環境破壊に対する警鐘、本当に大切なものを私たちに伝えてくれるのです。
まとめ
香港映画界が誇るエンターテイナーチャウ・シンチーが、人間と人魚のロマンスを描いた映画『人魚姫』。
強烈なヒロインでありながら、どこかキュートなリン・ユン演じるシャンシャン、遊び人のように見えて真っ直ぐなダン・チャオ演じるリウのラブロマンス、環境破壊など現代社会の縮図を描く視点とさまざまな要素を盛り込みつつも、誰もが楽しめるエンターテインメント映画になっています。
男気があり頼れる存在なのにどこか損な立ち回りのタコ兄やゆるい人魚たち、心地よいほど悪女っぷりを演じてくれたキティ・チャン演じるルオランなど、メインの2人意外にもユニークで印象的なキャラクターも魅力的です。
細部の演出まで観客を楽しませてくれ、環境破壊に対する真っ直ぐなメッセージを忘れない真摯さを感じられる映画になっています。
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