連載コラム「B級映画 ザ・虎の穴ロードショー」第24回
深夜テレビの放送や、レンタルビデオ店で目にする機会があったB級映画たち。現在では、新作・旧作含めたB級映画の数々を、動画配信U-NEXTで鑑賞することも可能です。
そんな気になるB級映画のお宝掘り出し物を、Cinemarcheのシネマダイバーがご紹介する「B級映画 ザ・虎の穴ロードショー」第24回は、“異世界”ヘと続く森に迷い込んだスクールバスと生徒たちを襲う怪異の謎を描いたジュブナイルスリラー『ストレンジ・ワールド 異世界への招待状』をご紹介します。
世紀の天体ショー“皆既月食”が観測できる日、ノーラン、カール、レジー、ベス、クイニー(IQ)の同級生が乗るスクールバスは、不運にもいつもと違うルートで帰ることになり、思わぬ事態に巻き込まれます。5人が力を合わせ、遭遇した怪異に立ち向かう物語です。
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CONTENTS
映画『ストレンジ・ワールド 異世界への招待状』の作品情報
【公開】
2019年(イタリア・ドイツ合作)
【原題】
Shortcut
【監督】
アレッシオ・リグオーリ
【脚本】
ダニエル・コスチ
【キャスト】
ジャック・ケイン、 ザンダ・エムラーノ、 ザック・サトクリフ、ソフィ・ジェーン・オリヴァー、モリー・デュー、テレンス・アンダーソン
【作品概要】
アレッシオ・リグオーリ監督の日本で発表されている作品は、本作と『エイリアンズ・レポート』(2013)ですが、他にも多くのホラー映画やSF映画を手がけています。
主演は「ドラゴンハート」シリーズ最新作の『ドラゴン・ハート -明日への希望-』でも主演を務めた、ジャック・ケインです。
映画『ストレンジ・ワールド 異世界への招待状』のあらすじとネタバレ
何かから逃れるように森の中をさまよい走る少年。そして、力尽きて膝をつくと、悔しさで地面を叩きながら泣いていました。
森の中をゆっくりとしたスピードで走るスクールバス。
スクールバスのラジオでは今夜、今世紀最大の天体ショー“皆既月食”が観測できることを伝えています。今日の機会を逃すと次に見れるのは、20年先になると興奮気味に語ります。
スクールバスには、静かで落ち着いた少年ノーランと絵を描くのが上手なベス、食いしん坊でお調子者のカール、頭脳明晰なIQ(クイニー)、不良のふりをしたレジーの5人が乗っています。
年季の入ったスクールバスのラジオは、ときどき電波が途切れノイズになり、バスの運転手ジョーは周波数を合わせながら、その晩の皆既月食は見るのかと、少年たちに話題をふりコミュニケーションをはかる優しい男です。
カールが皆になぞなぞを出しますが、あまりに簡単すぎて全部言う前にIQが答えを出してしまいます。そこでジョーが「ネット上にはない、なぞなぞがある」と言うと、IQが解く気満々で「出して」と言います。
「“私”の名は“7文字”」「強い人間かが“私”の勝負」「怪物も嵐も竜も“私”を止めることができない」「そして、“私”は武器も持たない」「“私”の言葉をよくかみしめよ」「恐怖を伴わない“美徳や気高さ”というものは意味をなさない」。
「堂々たる黄金の鬣(たてがみ)を持つ、王の中の王でさえも生きて王座に君臨し雄叫びをあげられるのは“私”のおかげなのだ」「さぁ、“私”は誰でしょう?」……。
さすがのIQにも、このなぞなぞの答えは分かりませんでした。そして、バスの中の少年たちはこの“私”の意味を身をもって体験します。
映画『ストレンジ・ワールド 異世界への招待状』の感想と評価
原題「Shortcut(近道)」が指し示す物語
映画『ストレンジ・ワールド 異世界への招待状』のオリジナルタイトルは「Shortcut」、つまり「近道」です。
元の道を戻ることなく、脇道の迂回ルートへを選択し進んでしまうことで始まった本作の物語。そもそもジョーが知っていたその迂回ルートは“軍事区域”ゆえに普段は近寄りがたい道ではあるものの、本来の直線距離を考慮すると「近道」だったのかもしれません。
普段通い慣れている帰り道を選ばず、むしろ普段は避けているはずの道で帰ろうする。誰もが一度は経験したことのあるそんな行動は、普段は感じることのない「何か」に引き寄せられた結果であるとも言われています。
倒木によって行く先を遮られ、別のルートへと向かいバス。バスに乗る人々が倒れている人にも気がつかなかったのも、そういった理由が関係しているのかもしれません。
また作中で象徴的に描かれる「なぞなぞ」の答えからも読み取れる通り、本作の物語は「何か困難に突き当たった時、どの道を選ぶか?」がキーワードとなっています。困難に直面した時、どのような道が人間にとっての本当の「Shortcut(近道)」となるのかを、本作のオリジナルタイトルは指し示しているのです。
敢えて謎が残された化け物の正体
映画作中にて5人を襲った恐ろしき化け物。ジュリアの日記や新聞の切り抜き記事などを通じてその特徴や正体が次第に明かされていった一方で、最後まで語られることのなかった、化け物のまつわる謎もまたいくつか存在しています。
まず、トンネルへ入ると急に照明が消えたり、消したラジオからノイズ音が出たり、自動車がエンストを起こしてしまった原因です。「電磁波障害」とも見える一連の現象は、そこが“軍事区域”であり軍の機密施設も存在していることからも、強力な電磁波を広範囲で発生させ、範囲内の電子機器を使用不可能にするEMP攻撃を連想してしまいます。
そして、もしその電磁波障害が軍の機密施設と関係している場合、化け物は機密施設での何らかの実験によって作り出された産物なのではないか。そして人為的に発生させられた電磁波障害も、実は機密施設の人間が「光を嫌う化け物が人間を襲いやすくするため」に引き起こしたものなのではないかと解釈することも可能です。
また化け物の正体を「人工生命体」以外に見出そうとした場合、やはり“皆既月食”という世紀の天体現象を見逃すことはできません。
“ブラッドムーン”とも呼ばれ、近年では本作が製作された時期(2018年)に起きた皆既月食は、様々な時代と文化の大半において「凶兆」とされてきました。月の明かりが消える夜に何か起こる……そのような作品のコンセプトからも、化け物の正体を「人工生命体」と断定することは難しいでしょう。
果たして、闇の中を跋扈する化け物の正体とは。敢えて全てを語ることなく残された作中最大の謎は、映画を観終えた者の想像を掻き立てます。
まとめ
映画『ストレンジ・ワールド 異世界への招待状』は、光りが弱点の化け物が襲いかかる中、力を合わせた友人5人が“勇気”でもって困難を乗り越え、友情の絆を強くする物語でした。
ジョーは分岐点で危険があるかもしれない近道を選び、心配した通り5人に“恐怖”という試練を図らずもあたえてしまいました。
そして試練の果てに、ジョーの出したなぞなぞの答え“COURAGE(勇気)”が、恐怖を克服させ、5人にこの友情にこそ価値があると証明しました。全員に“勇気”がなければ生まれなかったからです。
この作品のオリジナルタイトルからは、5人は強烈な体験を共有し、いつでも思い出せる“アイコン”の“Shortcut”という意味で題したのではということが読み取れます。
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