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Entry 2020/02/02
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映画『死霊船メアリー号の呪い』あらすじネタバレと感想。“海洋ホラーな幽霊屋敷”的な構造に魅入られたゲイリーオールドマン!?|未体験ゾーンの映画たち2020見破録15

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  • 20231113

連載コラム「未体験ゾーンの映画たち2020見破録」第15回

様々なジャンルの映画の祭典「未体験ゾーンの映画たち2020」は、今年もヒューマントラストシネマ渋谷で開催。2月7日(金)からはシネ・リーブル梅田でも実施、一部作品は青山シアターで、期間限定でオンライン上映されます。

前年は「未体験ゾーンの映画たち2019」にて、上映58作品を紹介いたしました。

今年も挑戦中の「未体験ゾーンの映画たち2020見破録」。第15回で紹介するのは、海洋ホラー映画『死霊船 メアリー号の呪い』

悪霊が憑りついた家は映画のみならず、怪談話でお馴染みのジャンル。では悪霊が船に憑りついていたら?海の上では、どこにも逃げ場がありません。

悪霊に魅入られ船に乗り込んだ人々を襲う、不可解な出来事の数々。海の上を舞台にした恐るべきホラー映画が、今幕を開けます…。

【連載コラム】『未体験ゾーンの映画たち2020見破録』記事一覧はこちら

映画『死霊船 メアリー号の呪い』の作品情報


(C)2018 SANFREE, LLC All Rights Reserved

【日本公開】
2020年(アメリカ映画)

【原題】
Mary

【監督・撮影】
マイケル・ゴイ

【キャスト】
ゲイリー・オールドマン、エミリー・モーティマー、マヌエル・ガルシア=ルルフォ、ステファニー・スコット、クロエ・ペリン

【作品概要】
呪われた船で航海する家族が遭遇する恐怖を描いた、幽霊船が舞台の海洋ホラー映画。主演である船長役は、ついに2018年『ウィンストン・チャーチル ヒトラーから世界を救った男』の演技で、アカデミー主演男優賞に輝いたゲイリー・オールドマン。その妻の『メリー・ポピンズ リターンズ』『マイ・ブックショップ』のエミリー・モーティマー。

共演にマイケル・ベイ監督の、Netflixオリジナル映画『6アンダーグラウンド』のマヌエル・ガルシア=ルルフォ。船長夫妻の娘を、「カリテ・ファンタスティック!シネマコレクション2018」上映作品『インフィニティ』のステファニー・スコットと、巨大蜘蛛が登場する2019年製作のホラー映画、『Itsy Bitsy』で絶叫演技を見せた子役、クロエ・ペリンが演じます。

ヒューマントラストシネマ渋谷とシネ・リーブル梅田で開催の「未体験ゾーンの映画たち2020」上映作品。

映画『死霊船 メアリー号の呪い』のあらすじとネタバレ


(C)2018 SANFREE, LLC All Rights Reserved

広い海原で黒煙を上げる帆船から、母親と娘たちの悲鳴が聞こえてきます。助けられた母親のサラ(エミリー・モーティマー)は、フロリダのジャクソンビルにある沿岸警備隊基地で、クラークソン特別捜査官から尋問されていました。

2人の娘に会わせてほしいと呟くサラに、何があったか教えて欲しいと尋ねるクラークソン。サラは夫のデヴィット(ゲイリー・オールドマン)は、家族のためによく闘ってくれたと呟きます。そして私たちの身に何が起きたかは、決して信じられないだろうと告げるサラ。

悪霊には憑りつくものが必要だと、サラは語り始めます。すべては4カ月前に始まりました。沿岸警備隊の巡視船が、2本のマストと船首像を持つケッチ(ヨットより一回り大きい小型の帆船)、メアリー号を発見します。朽ち果てたその船には、誰1人乗っていませんでした。

フロリダで観光客相手の釣り船の、雇われ船長をしているデヴィットは、自分の船を持ち独立したいと考えていました。港に着いた彼に、中古船売り場に出物があるとの連絡が入ります。早速信頼する片腕のマイク(マヌエル・ガルシア=ルルフォ)と共に、売り場に向うデヴィット。

最新のプレジャーボートが並ぶ中、デヴィットは古びた帆船に目を止めます。船首像を持つその船、メアリー号になぜか魅入られ、彼はその場で船の購入を決めます。

夫からの連絡で、2人の娘リンジー(ステファニー・スコット)とメアリー(クロエ・ペリン)と共に港に向かったサラ。3人はデヴィットが手に入れたメアリー号を目にします。

下の娘メアリーは、自分と同じ名を持つ船を見て喜びますが、新しい釣り船ではなく、痛みの激しい帆船を独断で、マイクと共に購入した夫にサラは不満でした。それでもデヴィットは、めったに無い年代物の船で、手を加えれば素晴らしい船になると力説します。

船の代金に加え補修にまで費用がかさめば、独立して順調に営業出来ても、2年間は利益の無い状態になると涙ぐんで訴えたサラ。しかし一生人に使われるより、自分の船を得て海に出たいのだと、デヴィットは妻を必死に説得します。

言い争いにはなったものの、最期に私はあなたを信頼している、と妻が語って2人は笑って抱き合います。次の日からメアリー号出港に向け、家族総出で準備を開始します。

デヴィットは家族と自分の船のクルー、マイクとまだ若いトミーと共に、帆船を補修します。内装・外装を新しくして設備や備品を加え、見違えるように美しくなるメアリー号。

帆船の船首に、デヴィットがシャンパンのボトルを叩きつけ割ります。皆が新しく生まれ変わった、メアリー号の完成を祝福しました。

その夜は身内の集まったパーティーとなり、船の補修を通じ仲良くなった、リンジーとトミーはキスを交わしていました。デヴィットらを雇っていた船会社のオーナー、ジェイも皆の門出を祝いに駆け付けています。

明日のメアリー号初試乗は、バミューダ島を目指し航海すると決めたデヴィット。魔の海に挑むつもりか、とジェイはからかいますが、メアリー号の前の持主、ウィリアム・サンフリーは航海中に姿を消したという、気になる事実を口にします。

船に事故は付き物と、気にとめる様子の無いデヴィット。スピーチを求められ、新しい帆船を見て言葉に詰まりますが、皆に感謝の言葉を述べました。

デヴィット一家とマイクはメアリー号の前に並び、トミーが一同をスマホで撮影します。しかし撮影の瞬間、画面に現れた何かを見て、思わずスマホを落してしまうトミー。

撮影された写真には、笑顔の5人以外何も映っていませんでした。航海に挑む一同は船で一夜を過ごしますが、翌朝サラは悪夢を見て目覚めます。

ジェイは船首のセイレーン像は、300年前に作られた値打ちものだと教えてくれた、と妻に語るデヴィット。サラはセイレーンは海の魔女だと語りますが、デヴィットは魔女よりローンの方が怖い、と語り、夫婦は笑います。

晴れた海を軽快に進むメアリー号。デヴィット一家とマイクとトミーは、順調な航海を初めていました。6月23日船はフロリダの東、約22キロを進んでいました。

水着姿でトミーの前に現れたリンジーを、サラは上着を着るよう注意しますが、トミーはなぜか船首のセイレーン像を気にしていました。サラは下の娘メアリーを探しますが見当たりません。

サラが入ったメアリーの部屋の壁には、娘が書いた多くの楽し気な絵が貼ってありました。しかし新たに描いた絵には、子供の前に立つ、大きな黒い人影がありました。

その夜、怪しげな女の夢を見て目覚めたデヴィット。気になってサラと共に船室から出ると、舵を取るトミーの様子を見に上へあがります。甲板に出ると首吊り用のロープが下がっていました。

操舵輪の前にトミーの姿はありません。夫婦が探してみると、彼は船首に立っていました。デヴィットの声に振り返った彼は、ナイフを持ち自らの体を傷つけていました。叫び声をあげデヴィットに襲い掛かり、取り押さえられたトミー。

ここまで語り終えたサラはクラークソン捜査官に、その後トミーは口も利かなくなり、やむなくアバコ島で船から降ろしたと説明します。

サラは話を続けます。6月24日、バハマ諸島のアバコ島に上陸した一同。思わぬ事態に彼女は夫に航海の中止を提案しますが、処女航海の失敗は営業開始の遅れにつながると、デヴィットは航海の続行を決めました。

サラは賛成しますが、トミーを心配するリンジーは航海の続行に強く反発します。サラは娘をなだめますが怒らせるばかりで、その様子を心配したマイクがサラに声をかけます。サラと語り合うマイクの姿を見て、不審に念を抱くデヴィット。

クラークソン捜査官は、彼女に浮気をしていたのか尋ねますが、サラはマイクとは家族同然の付き合いだったと否定します。娘に会いたいと訴えるサラに、捜査官は正直に話さねば、あなたは殺人罪で訴えられてしまうと警告します。

問題を抱えながらも航海を続けるメアリー号は、夜の闇を進んでいました。サラは下の娘メアリーの姿を探しますが、空のベットの脇にあるロッカーの前に、濡れた足跡を発見します。

ロッカーの中に娘が居ると思い、サラはその中に入りますが誰もいません。突然扉が閉まり中に閉じ込められ、何者かの気配を感じたサラ。

扉はデヴィットにより開けられ、結局2人の娘は同じベットで一緒に寝ていただけでした。娘が動揺してるとサラは夫に訴え、マイクからもその件を聞かされていたデヴィットは、明日リンジーに直接話そうと告げました。

翌日電話が通じるようになると、リンジーは早速トミーに宛てて、メールを送りますが返事はありません。その時妹に触られたと思い振り返るリンジーですが、そこに誰もいませんでした。

その後無線でトミーが自殺したと知ったデヴィットは、事実を密かにサラに伝えます。驚き悲しんだ彼女は、思わず夫を抱きしめます。

改めて船の上で、夫婦は娘たちに辛い事実を伝えます。リンジーはトミーがおかしくなったのと同様に、妹も架空の友達と話してると両親に告げますが、それを聞いたメアリーは、7いきなりグラスで姉の頭を殴ります。

母はリンジーを治療し、父はベットで横になるメアリーを叱りますが、娘は何の反応も示しませんでした。メアリーが新たに描いた人が首を吊った絵を、困惑して妻に示すデヴィット。

不穏な空気の中、船は夜を迎えました。ふと目覚めたサラは洗面所に入りますが、その扉の取っ手が怪しく動きます。扉を開けても誰もいませんが、泥で汚れた素足の足跡が残されています。

その足跡を追って進むサラ。甲板に出た彼女は、白く恐ろしい顔をした何者かに襲われます。落ちた帆に覆い被せられ悲鳴を上げる彼女を、マイクが救います。

恐怖にかられ、夫に何か不吉なことが起きていると訴えるサラ。彼女は航海の中止を求めますが、デヴィットはここまで進んだら引き返せない、と叫びます。この航海に全てがかかっている、失敗すれば全てが終わりだ、と妻に力説するデヴィット。

今や彼は、この航海を終えるという激しい執念に、憑りつかれていました…。

以下、『死霊船 メアリー号の呪い』ネタバレ・結末の記載がございます。『死霊船 メアリー号の呪い』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。


(C)2018 SANFREE, LLC All Rights Reserved

翌朝、悪夢を見て目覚めたサラをデヴィットがなだめます。そこに下の娘メアリーが現れ血まみれの歯を示し、”彼女”が抜いてくれたと語ります。サラと上の娘リンジーは不安にかられますが、デヴィットは間もなく目的地のバミューダだ、到着すれば全て上手くいくと告げます。

6月28日夜、バミューダ近海を進む帆船、メアリー号。しかし総舵輪を握るマイクは、目を見開いたままじっと立ちつくしていました。

2人の娘と寝ていたサラは、ふと気になってメアリー号に関する資料、沿岸警備隊の報告書や、過去の持主の履歴を調べます。

するとこの船は1885年のイーゴン船長、1920年のパリッシュ船長、そして1948年のサンフリー船長と、全て子供を連れ航海に出て、船を残し皆子供と共に行方不明になったと気付きます。

妻と同じように船の過去が気になり、過去の3つの事故で船がたどった航路を調べていたデヴィットは、いずれの場合も船は同じ場所を目指しており、今回の航海もまた同じ場所へと進んでいる事に気付きます。

資料からメアリー号誕生の地に伝わる、水中に投げ込まれて殺された魔女の悪霊が、子供をさらい水に引きずり込むという伝説を知ったサラ。

今回の航海と事件のあった過去の航海との、不可解な一致に気付いたデヴィットは、甲板に出てマイクに進路を変えるよう指示すると、サラの元に向かいます。

夫に対しサラは、この船の過去の遭難で子供が失われ、それは魔女の怨霊に連れていかれたと訴えます。そんな話は信用できないと言い、過去この船で起きた事件を認めた上でもなお、航海は続けねばならないと怒鳴るデヴィット。

サラの話を聞いたクラークソン特別捜査官は、どうして航海を中止しなかったのかと尋ねますが、サラは引き返すには進み過ぎており、そして海の上には逃げ場が無い、恐怖がそのまま襲って来ると呟きます。

クラークソン捜査官は、真偽はともかくサラ自身は、自分の語っている出来事は事実だと、強く信じていると確信し、娘に会うならその先を語るよう促します。

落ち着きを取り戻したデヴィットも不思議なことに、3つの事件で船が目指していた場所と、この船が向かう場所の座標が一致していると認めます。そこにリンジーが現れ、妹のメアリーの様子がおかしいと訴えます。

夫婦が向かうとメアリーは、目を見開いたまま動かなくなっていました。マイクを呼びに甲板に出たデヴィットは、帆がたるんでいると気付きます。いきなり背後からマイクに襲われるデヴィット。

上の騒ぎに気付いたサラは、甲板に出るとマイクにしがみつきます。マイクを振りほどいたデヴィットは彼を殴り倒し、夫婦はマイクを縛って船底に閉じ込めます。

夜が明けデヴィットは船の状態を確認しますが、船を進めるメインセイルも、無線もダメにされており、携帯は通じずGPSも働かない状態でした。

デヴィットはマイクに衛星電話をどうしたか尋ねますが、彼は海に捨てたと答え、”彼女”に捧げるのが我々の運命だと、うわ言のように語ります。”彼女”に従え、娘を捧げるのは自分も手伝うと、デヴィットに叫ぶマイク。

メアリー号は進むことなく、漂いながら夜を迎えました。デヴィットは信号銃に弾を込めます。マイクを閉じ込めた部屋のハンドルは独りでに動き出し、眠っていたリンジーは自殺したトミーの気配を感じ、導かれるように甲板に上がります。

甲板のデヴィットは、海面の暗い影に気付きます。そしてリンジーは君のために戻ってきた、と告げるトミーから、首吊りの輪が付いたロープを渡されます。

思わずデヴィットが振り返ると、リンジーが首にロープをかけ、海に飛び込もうとしていました。夫の叫びを聞きサラは甲板に向かおうとしますが、扉が独りでに閉まり進めません。その騒ぎの最中も、目を見開いてベットに横たわるメアリー。

辛うじてリンジーの体を捉えた夫の元に、なんとか外に出たサラが駆け寄ります。夫婦はリンジーを船室に連れていきますが、船倉から出たマイクが現れ、背後からデヴィットを殴り倒します。

クラークソン捜査官は、この後マイクが何をしたのかをサラに尋ねます。

6月29日、どこか判らない海上を漂う帆船メアリー号。嵐の中サラは、縛られ口を塞がれて甲板に転がされていました。彼女の前でマイクが、夫の体を海に投げ込みます。

娘は”彼女”のものだ、俺が捧げると告げ、マイクはサラの首にロープをかけ海に投げ込みます。手を縛るロープを舵に擦って切断し、必死に船に戻ったサラ。

彼女はマイクに襲い掛かりますが倒され、ナイフを突きつけられます。次の瞬間、マイクの体は銛で貫かれます。その背後には船に戻ったデヴィットがいました。そのままマイクは海に転落します。

嵐の中デヴィットが舵を握り、サラは船室に入り信号銃を手に娘を探します。彼女はロッカーの中に縛られていた2人の娘を見つけ、助け出しました。

甲板に出たサラは、リンジーとメアリーに救命胴衣を付けさせます。その時舵を握るデヴィットは背後から現れた女に襲われます。サラは船からハシゴを降ろし、2人の娘を船外に逃がします。

サラが呼んでも夫の返事はありません。デヴィットは舵を握ったまま頭から血を流し、意識を失っていました。駆け寄ったサラは、奇怪な白い女に襲われます。

恐ろしい形相の女に腕を掴まれ、その怪力に悲鳴を上げるサラ。しかし彼女は信号銃を女に命中させ、次に装填して放った1弾はガスボンベに命中、爆発を引き起こします。

海の底に沈んでいくセイレーンの船首像。夜が明けた時、死霊船メアリー号からは、黒い煙が立ち上っていました。

話を終え、クラークソン捜査官に私は娘を救おうとした、2人は私の宝、誰にも渡さないと言い、娘に会せて欲しいと訴えます。

別室で同僚からどうするか尋ねられたクラークソンは、彼女を現実に向かい合わせようと告げます。人は耐えがたい事態に遭遇すると、自分の築いた世界に逃避する。クラークソンはサラの証言を、彼女が作り上げた妄想だと判断していました。

娘に会わせるためでしょうか、捜査員が取り調べ室からサラを連行して行きます。クラークソンは今まで取り調べを撮影した映像を、巻き戻しながら見ていました。すると彼女は映像の奇妙な点に気付きます。

改めて映像を再生すると、サラが1人になった時に映像が乱れ途切れ途切れに、白い服の別の女の姿に入れ替わります。突然叫び声と銃声が聞こえ、クラークソンはそちらに駆け出します。カメラに向かってきたサラの顔は、恐ろしい形相に変貌します。

クラークソン捜査官たちが駆け付けた部屋には、息絶えた捜査員が残され、窓は破れサラの姿はありませんでした。捜査官が見つめる窓の先には、夜の嵐に荒れ狂う海が広がっていました…。

映画『死霊船 メアリー号の呪い』の感想と評価


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“幽霊屋敷映画”と同様なフォーマットの構成

新たな生活を送るために新居に引っ越した一家が、その家に憑りついた悪霊に苦しめられる。これが”幽霊屋敷”映画の古典、『悪魔の棲む家』の設定です。

『悪魔の棲む家』の真の恐怖は、たとえ悪魔や幽霊が潜もうとも、そこが我が家である以上、住み続けなければいけないという点、まして住宅ローンを抱えていれば、簡単に引っ越す事などできないという絶望感にある、と看破した評があります。

ホラー映画に描かれた恐怖は、実は身近な不安の反映です。家族の将来や死別、社会の環境や価値観の変化、病気や暗闇に対する根源的な恐れ…。近年大ヒットした『イット・フォローズ』も、若者が性に抱くネガティブ面を具現化した作品です。

誰もが傑作ホラーと認める『シャイニング』を、原作者スティーブン・キングが酷評したのは、映画が主人公(ジャック・ニコルソン)の、妻子がいるのに今だ芽が出ない、いい歳になっても売れない作家の抱える葛藤に重きを置いていないため、と言われています。

『シャイニング』の主人公は、デビューまで苦労を重ねた原作者の分身ですから、B級映画に寛容なキングであっても、その心境を深く描かなかったスタンリー・キューブリックの名作に、思わず噛みついてしまった心情は理解できます。

と、余談が過ぎましたが、本作のゲイリー・オールドマンは同様に悩める中年男、文字通り一家やクルーの運命を背負った、船長の姿を熱演しています。船に対する思いに憑かれた主人公ですが、最後は家族のために死霊と対決する構成は、”幽霊屋敷”映画の正しい姿を描いていると言えます。

本作脚本は『KRISTY クリスティ』『ロスト・バケーション』のアンソニー・ジャスウィンスキー。監督の『アメリカン・ホラー・ストーリー』などのマイケル・ゴイと共に、本格的な”幽霊船”映画を産み出したと言ってよいでしょう。

海の事故物件は映画としても事故物件⁈


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出演者に恵まれた『死霊船 メアリー号の呪い』ですが、本国での批評家の評価は厳しく、映画評論サイト、ロッテントマトの支持率はなんと4%。短い上映時間のわりにテンポが悪く、何がやりたいのかよく判らない死霊の正体は、実力行使に頼るガテン系”貞子”、採点が辛くなる訳です。

厳しい評価を生んだ理由は、”幽霊帆船”という舞台設定です。乗組員は船の操作に日常生活をこなし、お化けを相手にしながら謎解きを行い、さらに下船したら尋問されると、やるべき事が多過ぎます。1本の映画で描くには、少々欲張りが過ぎました。

無人の”幽霊船”に乗り込む設定なら、登場人物は探索に専念できるし、登場人物の人間関係だけに絞れば、船が舞台の密室サスペンス、自然の猛威に乗組員が立ち向かう物語なら海洋遭難映画…。これらの要素全て詰め込んだ結果、判りにくい部分多数の映画になった感があります。

結局不幸な2人の娘は、どうなっていたのやら。観客に「想像させる」「含みを持たせる」と、「単なる説明不足」である事は大きく異なります。クライマックスは色々と、想像し脳内で補完して楽しみましょう。

死霊船に魅入られ、事故物件の帆船を選んでしまったゲイリー・オールドマンですが、それ以前に映画の作り手が、企画段階で選ぶべき船ではなかったようです…。

まとめ


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何やら厳しい評価になった『死霊船 メアリー号の呪い』ですが、役者陣の演技はお見事。私の一押しは下の娘を演じた子役、クロエ・ペリン。彼女の演技は要注目、今後に期待しています。子役にとってホラー映画は、間違いなく登竜門です。

描くべき事柄が多く、何かと駆け足描写になっているのが残念ですが、TVドラマとして長い時間をかけて展開を紡いでいれば、良い”幽霊船”物語になったのは間違いありません。

『ゴーストシップ』のワイヤー人体切断、『ザ・グリード』の冗談みたいな巨大タコ(?)怪物、『ゴースト 血のシャワー』のシャワーシーン(!)など、派手な見せ場が1つでもあれば、これら先輩海洋ホラーに負けない、記憶に残る”幽霊船”映画になれたと信じてます。

次回の「未体験ゾーンの映画たち2020見破録」は…


(C)2019 Little Monsters Holdings Pty Ltd,Create NSW and Screen Australia

次回の第16回は幼稚園の遠足が、ゾンビ映画の舞台となったコメディ『リトル・モンスターズ』を紹介いたします。

お楽しみに。

【連載コラム】『未体験ゾーンの映画たち2020見破録』記事一覧はこちら




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