連載コラム「B級映画 ザ・虎の穴ロードショー」第110回
深夜テレビの放送や、レンタルビデオ店で目にする機会があったB級映画たち。現在では、新作・旧作含めたB級映画の数々を、動画配信U-NEXTで鑑賞することも可能です。
そんな気になるB級映画のお宝掘り出し物を、Cinemarcheのシネマダイバーがご紹介する「B級映画 ザ・虎の穴ロードショー」第110回は、2022年に製作されたカザフスタン発のスカイアクション映画『タイム・オブ・ヒーローズ』です。
亡き父の影響を受けて軍隊に入った兄弟。国防省に所属し特殊任務に就く優秀な諜報部員であり、冷静沈着な兄スルタンとは対照的に、空軍のエースパイロットだが無鉄砲で型破りな弟ベクザットは、停職処分を受けてしまいました。
そんな兄弟がいがみ合いながらも、祖国と愛する家族を守るべく、国家転覆を狙うテロ組織に立ち向かう映画『タイム・オブ・ヒーローズ』を、ネタバレあらすじとともにご紹介いたします。
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映画『タイム・オブ・ヒーローズ』の作品情報
【公開】
2023年(カザフスタン映画)
【原題】
Vremya patriotov
【監督・脚本】
セリクボル・ウテプベルゲノフ
【キャスト】
ダニアル・アルシノフ、サヌルジャン・スレイマン、アスカル・イリヤソフ、ダステン・シャキロフ
【作品概要】
『シェストイポスト』(2018)のセリクボル・ウテプベルゲノフが脚本・監督を務めた、カザフスタンのスカイアクション映画。ヒューマントラストシネマ渋谷&シネ・リーブル梅田にて開催された「未体験ゾーンの映画たち2023」にて上映されました
『A Dark, Dark Man(英題)』(2019)のダニアル・アルシノフが主演を務め、『Zere』(2021)のサヌルジャン・スレイマンと兄弟役を演じます。
映画『タイム・オブ・ヒーローズ』のあらすじとネタバレ
亡き父親の影響を受け、カザフスタン共和国軍に入隊したイブラエフ兄弟。
冷静沈着な兄スルタンは、陸軍(地上軍)少佐としてカザフスタン国防省に所属し、特殊部隊のリーダーも務める優秀な諜報部員です。
ある日、スルタン率いる特殊部隊は、カザフスタン共和国軍とカザフスタンの国家保安委員会「アスタナ国家保安委員会」の共同作戦にて武装集団を排除しました。
その後の調べで、武装集団の狙いはカザフスタン共和国軍とカザフスタンの人々で、メンバーは国から出たカザフスタン人と身元不明の外国人で構成されていることが判明。
スルタンとアスタナ国家保安委員会のエージェントであるダルメン・タバエフ少佐は敵の脅威を一掃するべく、敵の募集・活動拠点となっている地域の調査に向かいました。
ダルメンは自身のお抱えの情報屋から、最近カザフスタンの若者が家出したまま戻ってこないケースが多いこと、その母親の一人からの手紙で「息子のカイラトが名前を変えてあるグループと行動を共にしている」と知らされていました。
そして、そのグループの名前は「真のムスリム」と呼ばれ、ジハード(聖戦)の準備を密かに進めているという情報も入手していました。
中東・某所。スルタンもまた自身のお抱えの情報屋から、あるグループが高い報酬で国内で有志を募っているという情報を入手。知人のバフティヤルに詳細を聞きに行きました。
殺されたカザフスタンの若者の写真を見て目の色を変えたバフティヤルは、家族を帰国させてくれることを条件に、ある情報をスルタンに教えます。
昨年、バフティヤルのもとには「真のムスリム」と名乗る集団が訪ねていました。彼らはこの街で人を集めており「かなり危険ではあるが、自分なら内情を探ることができるかもしれない」と言うバフティヤル。
彼の息子であるベクタイとディダルは、「真のムスリム」に所属していました。しかし二人がグループに加入したその翌日、「真のムスリム」の連中にシリアに行かされ、そのまま生きて戻ってきませんでした。
バフティヤルはスルタンから渡された超小型カメラを仕込み「“異教徒”だと言われて客足が遠のき、このままでは店が潰れて家族を養うことができない」という相談するていで「真のムスリム」のボスと直接面会をすることに。
すると「真のムスリム」のボスから、遺族に支払われる報酬金を渡す代わりに、自分たちに力を貸してくれと取引を持ちかけられます。
バフティヤルは「下の息子を巻き込まないでほしい」という条件を提示するも「何が起きてもそれはアッラーのご意思だ。私からは何も約束できん」と言われてしまいます。
その日の夜。バフティヤルはスルタンに超小型カメラを返し、内情を探って得た情報について語り始めます。
日程などの詳細は不明だが「真のムスリム」は何かテロを企てており、数日中に何かしら行動に出るかもしれないこと。テロの計画は二つあり、どこかの港と毒物の話をしていたことを話す中、「真のムスリム」の幹部ハザムとその部下がスルタンたちの密会場所を襲撃してきます。
激闘の末に二人を倒したスルタンでしたが、バフティヤルは「真のムスリム」の幹部による銃撃を受けて命を落としてしまいました。
バフティヤルは死の間際「カザフスタンに潜伏している連中の仲間が、二つ目のテロ計画を実行するらしい。『真のムスリム』の幹部らしい」とスルタンに教え、家族の帰国を託しました。
スルタンが建物から出ると、外で待機していた「真のムスリム」の構成員2人に銃口を向けられます。しかしその直後、彼らはダルメンによって射殺されました。実は襲撃してくる直前、スルタンに危機を知らせたのはダルメンでした。
スルタンは滞在先のホテルに戻り、バフティヤルから得た情報と「港・毒物・爆発」というキーワードを暗号化し、アスタナ情放総局本部に送信しました。
カザフスタンの首都アスタナ。スルタンからの暗号メッセージを受け取ったアスタナ情報総局本部は「港・毒物・爆発」というキーワードをもとに、敵は中型の輸送船「オリオン号」でカスピ海を移動中であることを特定しました。
そのオリオン号の積み荷が有毒化学薬品であることから、敵の狙いはカザフスタン・マンギスタウ州アクタウにある港「アクタウ港」だと推測。また「オリオン号」について調べた結果、船の所有者は中東の会社で半年前に購入したこと、その会社はダミー会社であることが判明します。
ただ手持ちの情報が少なすぎるため、カスピ海の公海にいるオリオン号の針路がアクタウ港に変更されるかどうかまでは、AIでも分析することはできませんでした。
しかし、そのAIの見立てによると、敵はオリオン号によりテロ計画を実行する可能性があります。スルタンたちとアスタナ情報総局本部のシャリヤフメトフ陸軍大佐は、アスタナ政府省庁間緊急会議にて情報部にこのことを報告。
さらにスルタンの上官であるカイピエフ陸軍少将が「もしアクタウ港で有毒化学薬品を爆破されてしまった場合、カザフスタンの西海岸の広範囲にわたって汚染され、その被害は(首都の半分以上が被害を受けた)レバノン・ベイルート港爆発事故に匹敵する」と伝えます。
それを未然に防ぐための対策として、スルタンたちは上層部にある作戦を提案しました。
国際海洋法に則って故障を装ってカザフスタン領海の手前で救難信号(SOS)を発信し、アクタウ港に入ろうとするオリオン号を港から1.5海里先の沖に停泊させたのち、潜水士が海から乗船。スルタンとダルメンが係官として船に乗り込む……という作戦です。
スルタンたちが「オリオン号が故障を装って入港してくる」と推測したのは、国際海洋法によって故障した船舶には最寄りの港に入る権利が与えられるだけでなく、海上での税関や国境検問を免除されるためです。
またカイピエフとアスタナ国家保安委員会のフェドロフ大佐は、もう一つのテロ計画が国内で進行中で、既に何人かのテロリストが国内に潜伏していること、オリオン号にはかなり高度な戦闘訓練を受けた戦闘集団が増援部隊がとして乗っていることも報告しました。
映画『タイム・オブ・ヒーローズ』の感想と評価
正反対の性格の兄弟が、それぞれが自分のやり方で国家転覆を狙うテロリストに立ち向かうアクション場面はとても格好良いですし、ハラハラドキドキさせられます。
物語の前半では、問題行動ばかり起こして組織からつまはじきにされてしまい、兄とも友人とも同僚とも恋人とも揉めてしまったベクザッド。しかし停職処分を受けていろんな立場の人と衝突したことで、彼は兵士としてめざましい成長を魅せてくれます。
そんな弟の姿を見て、兄のスルタンも立派な“戦う者”になったと感じ、敵の追尾を安心して任せたのだと考察します。スルタンがダルメンと共に見せた諜報部員ならではの戦いっぷりも、スパイ映画好きの人は特にたまらないアクション場面でしょう。
そしてなんといっても、戦闘訓練中と渓谷で見せたベクザッドの曲芸飛行と、ベクザッドとオマールの優秀なパイロット同士の対決は、スカイアクション好きの人もそうでない人も楽しめる、作中で最高のスカイアクション場面です。
しかもその戦いでは、これまでいがみ合っていたベクザッドとコサエフが即興コンビを組み、見事な連携プレイをみせてくれるのが心にグッとくるものがあります。
まとめ
正反対の兄弟が自分たちのやり方で、祖国と愛する人たちを守るためにテロ組織と戦う、カザフスタンのスカイアクション作品でした。
本作の見どころはズバリ、ベクザッドとスルタンの兄弟が繰り広げる熱いドラマと、スルタンは地上で、ベクザッドは空中でテロリストに立ち向かっていくアクション場面の数々です。
なおエンドロール中、二つの爆破テロの失敗を悟ったファッターフは、自身の前に座る3人の子どもたちに目を向ける姿が描かれています。
果たしてそれは、ファッターフ率いる凶悪なテロ組織が次なるテロ計画を目論んでいるのを意味しているのか、そのために純粋無垢な子どもたちをテロリストとして教育しようとしているのか、真相は闇の中です………。
本作はスカイアクション映画が好きな人、戦闘機が好きな人はもちろん、考察することが好きな人にとっても最後まで楽しむことができます。
凶悪なテロ組織に立ち向かう軍人兄弟の姿を描いた、迫力ある本格スカイアクション映画が観たい人に、とてもオススメな作品です。
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