連載コラム「蟹江まりの映画ともしび研究部」第1回
はじめまして、蟹江まりです。
歌と演技が大好きで、女優を目指して特訓中の大学生です!愛してやまない映画の面白さと素晴らしさを、少しでも分かりやすく伝えていきたいと思います。
連載コラム「蟹江まりの映画ともしび研究部」の第1回目に取り上げるのは、2012年公開の映画『レ・ミゼラブル』。
文豪ビクトル・ユーゴーの同名小説にして、世界43ヶ国で上演された記録的名作ミュージカルを、ヒュー・ジャックマン、ラッセル・クロウ、アン・ハサウェイら豪華キャストで映画化した、誰もが楽しめる作品です。
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CONTENTS
映画『レ・ミゼラブル』の作品情報
【公開】
2012年(イギリス映画)
【原題】
Les Miserables
【原作】
ビクトル・ユーゴー『レ・ミゼラブル』(1862)
【監督】
トム・フーバー
【キャスト】
ヒュー・ジャックマン、ラッセル・クロウ、アン・ハサウェイ、アマンダ・セイフライド、エディ・レッドメイン、サマンサ・バークス、イザベル・アレン、ダニエル・ハトルストーン
【作品概要】
「わが身を捧げて守る人がいる。誰もが三度涙した」の言葉のとおり、自分にとっての「守る人」のために、時代という激動の渦に呑まれながらも愛を貫き全力で生きた人々を描いた作品です。
長年世代を超えて愛されてきた小説をもとに世界各国で上演されてきた舞台ミュージカルを、アカデミー賞受賞の経験を持つトム・フーバー監督が映画化しました。
第85回アカデミー賞・3部門(助演女優賞:アン・ハサウェイ、メイクアップ賞、録音賞)、第70回ゴールデングローブ賞・最多3部門(主演男優賞:ヒュー・ジャックマン、作品賞、助演女優賞:アン・ハサウェイ)、第66回英国アカデミー賞・最多4部門を受賞という輝かしい受賞歴を誇り、より一層話題になりました。
映画『レ・ミゼラブル』のあらすじ
パンを盗んだ罪で19年間服役したジャン・バルジャン(ヒュー・ジャックマン)は、仮出獄中に再び盗みを働くが、その罪を見逃してくれた司教の優しさに触れたことで改心を決意しました。
身も心も入れ替えた彼はその後、過去と名前を捨て、皆に頼られ愛される市長となりました。
やがて娼婦として養育費を稼ぐ女性ファンティーヌ(アン・ハサウェイ)と出会い、彼女が亡くなる際に愛娘コゼットを託されたバルジャンは、仮出獄後も自分を執念深く追う警部ジャベール(ラッセル・クロウ)の追跡をかわしつつ、コゼットを引き連れてパリへと逃亡します。
月日は流れ、バルジャンは美しく育ったコゼット(アマンダ・セイフライド)とともに穏やかに暮らしていました。しかし、彼女が恋した青年マリウス(エディ・レッドメイン)は、疲弊したパリを変えたいと革命を志す学生でした。
やがてマリウスたちは蜂起し、誰もが19世紀フランスの激動の渦へと呑みこまれていきます…。
映画『レ・ミゼラブル』の感想と評価
各人の愛が交錯する世界
本作のテーマで大きな割合を占めるものとして、「愛」は外せません。登場人物それぞれに「愛する人」がおり、誰もがその人を守るために一生懸命生きています。
だからこそ、誰一人としてかけることなく、皆が「美しい」人でした。
バルジャンは司教の優しさに触れること、そしてファンティーヌの愛娘コゼットと出会うことで愛情を知ります。そのファンティーヌは言うまでもなくコゼットのことを愛しています。
愛情を知ったバルジャンは慈悲の心を持つようになります。パリで学生たちが蜂起した日には、自分を執拗に追い続けてきたジャベールのことを見逃します。
散々自分とコゼットを苦しめてきた憎むべき相手が、目の前で縄に縛られている。自分の手で彼を殺し、長き苦しみから解放されるチャンスを得たというのに、その縄を解き逃がしてしまうのです。
慈悲の心について、フーパー監督は「人を許すこと」こそが、本作のメッセージと語っています。
またコゼットは、幼少期は預けられた卑しいテナルディエ夫妻のもとで、愛とは無縁、それどころか奴隷のような扱いを受けますが、バルジャンと出会い愛情を知り、また大人になるとマリウスに恋愛感情を抱くようになります。
一方エポニーヌはテナルディエ夫妻の娘であり、コゼットとは対照的に絶大な愛情(同時に悪事の片棒を担がされていたと言っても過言ではないはずです)を受けて育ちますが、そんな自分の人生を変えてくれたマリウスはコゼットに惹かれてしまいます。
コゼットとエポニーヌ、この2人は紛れもなく恋愛と家族愛の象徴でした。
バルジャンとジャベールの対立
劇中でのバルジャンは「幸せになりたい」と願いを、ジャベールは「街の平和を守りたい」という願いを持っています。
それは同時に、「ジャベールから逃れて自由になりたい」というバルジャンの願いと、「脱獄者であり盗人であるバルジャンを捕まえたい」というジャベールの願いが正反対であることを意味します。
彼らは当然のように幾度となく対立し闘います。
ですが、私は彼ら自身が正反対の人間だとは感じませんでした。なぜなら彼らは「その願いに向かって自分の信念を曲げなかった」人同士だからです。
たしかに闘うけれど、決してどちらかが悪人という訳ではありません。
むしろどんな状況に陥っても、コゼットの幸せ、そしてコゼットと暮らす幸せを守るためにジャベールからの解放を求め続けるバルジャンと、過去に社会的に許されない行為である盗みや脱獄を働いたバルジャンを追い続け、最終的にその願いをバルジャンによって打ち砕かれたことにより自ら命を絶ってしまうジャベールは、2人とも「つよい」人だと言えます。
先程の「愛」の話と重なりますが、やはり2人とも自分の信念のために生きた「美しい」人なのです。
バルジャンとジャベールを「対立した2人」として捉えるのではなく、「似たもの同士な2人」と捉えることで、また新しい『レ・ミゼラブル』が発見できるのではないでしょうか。
映画を彩る豪華キャストとその歌声
そして豪華なキャスト陣の高い演技力と素晴らしい歌声が、本作を形作っています。
まず主演には、「X-MEN」シリーズや『ニューヨークの恋人』(2001)などで知られるヒュー・ジャックマン。その他に『グラディエーター』(2000)で知られるラッセル・クロウ、『プラダを着た悪魔』(2006)で知られるアン・ハサウェイ、『マンマ・ミーア』(2008)で知られるアマンダ・セイフライドなどが出演しています。
子役たちも見逃せません。コゼットの幼少期を演じるのは、学校の演劇『ハーメルンの笛吹き男』で足が不自由な男の子(主役)に扮したところを見出されたイザベル・アレン。
また、革命軍の幼き勇者ガブローシュを演じるのは、舞台出演経験もありミュージカル劇『レ・ミゼラブル』でもガブローシュ役を演じたダニエル・ハトルストーンです。
このような豪華キャストによって生み出される劇中歌は、どれも一度聴いたら耳に残る素敵なハーモニーを奏でています。実際にサウンドトラック盤のCDは3日間で4万3千枚、10日間で合計17万8千枚を売り上げるという快挙を成し遂げました。
特に注目したいのは、ヒュー・ジャックマンの歌声です。本作で2度目のミュージカル主演男優賞受賞を果たした彼は、透き通るように綺麗で、けれども非常に力強い歌声で劇場中を魅了しました。
映画として楽しむもあり、ミュージカルとして楽しむもあり、音楽ともして楽しむもあり、と何度でも『レ・ミゼラブル』の世界を味わえる作品となっています。
まとめ
160分という長尺があっという間に感じてしまうほど、一瞬で物語の世界に引き込まれてしまう作品です。
また、物語の舞台は、原作小説と同じく19世紀のフランス。1789年のフランス革命によって王政は廃止されたものの、独裁政治の台頭や隣国との戦争によってこれまでより貧しい生活を送るようになった市民も少なくはないと言われています。
その後、ナポレオンの失脚によって王政が復活し、七月革命や二月革命が発生したまさに激動の時代を生きたのが本作の登場人物たちで、マリウスたちが起こした暴動はフランス労働者による六月蜂起がモデルとされています。
そんな時代に屈服することなく必死に生き、自分にとっての愛と正義を追い求め続ける彼らの姿に、誰もが思わず感涙することは間違いありません。
まだ観ていない人はもちろん、もう観たという人も何回でもこの感動を味わってくださいね。
次回の「蟹江まりの映画ともしび研究部」は…
次回の『蟹江まりの映画ともしび研究部』では、2019年10月5日(金)より絶賛公開中の映画『ホームステイ ボクと僕の100日間』を取り上げます。
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