連載コラム「邦画特撮大全」第95章
今回の邦画特撮大全は『妖怪大戦争ガーディアンズ』(2021)を紹介します。
2021年8月13日(金)から劇場公開されている映画『妖怪大戦争ガーディアンズ』。
2005年に公開され興行収入20億円のヒットを記録した前作『妖怪大戦争』(2005)に続く令和版『妖怪大戦争』で、三池崇史監督が取りまとめます。
CONTENTS
映画『妖怪大戦争ガーディアンズ』の作品情報
【公開】
2021年(日本映画)
【製作総指揮】
角川歴彦、荒俣宏
【監督】
三池崇史
【脚本】
渡辺雄介
【出演】
寺田心、杉咲花、猪股怜生、安藤サクラ、大倉孝二、三浦貴大、大島優子、赤楚衛二、SUMIRE、北村一輝、松嶋菜々子、岡村隆史、遠藤憲一、石橋蓮司、柄本明、佐藤佐吉、HIKAKIN、荒俣宏、東儀秀樹、神木隆之介、大森南朋、大沢たかお
【作品概要】
大映京都が製作したオリジナル版『妖怪大戦争』(1968)、角川グループ創立60周年を記念して製作された映画『妖怪大戦争』(2005)に続き、昭和・平成を経て令和に製作された新たな“妖怪大戦争”が、本作『妖怪大戦争ガーディアンズ』です。
主人公・渡辺ケイにはドラマやCMでお馴染みの子役・寺田心。そして2005年版と同様に今回も、杉咲花、赤楚衛二、大森南朋、安藤サクラ、大倉孝二、大沢たかおと著名な芸能人たちが特殊メイクで妖怪に扮しています。
ナインティナインの岡村隆史は“小豆洗い”、石橋蓮司は“大首”と前作と同じ妖怪役で出演したほか、製作総指揮を務める作家の荒俣宏と遠藤憲一は前作と違う妖怪役で続投しています。
監督は2005年版に引き続き『クローズZERO』(2007)、『十三人の刺客』(2010)の三池崇史。
映画『妖怪大戦争ガーディアンズ』のあらすじとネタバレ
父の死後、看護師の母と弟ダイの3人で暮らす小学5年生の渡辺ケイ。ケイは同級生たちと廃校へ肝試しに行きます。
そこでおみくじを引くのですが、ケイが引いたものには運勢が書かれておらず赤い紙でした。ケイは怖くなってその紙を捨ててしまいます。
その夜ケイの枕元に妖怪が現れます。誘われるように外へ出ると、ケイの前に次々と妖怪たちが現れ、ケイを脅かしていきます。
フォッサマグナに眠る古代の化石たちが一つに集合し巨大な“妖怪獣”へと姿を変えたのです。妖怪獣は東京を目指しており、このまま進んでしまうと、東京に張られた結界を破って“あの方”の封印を解いてしまいます。
このままでは人間たちも妖怪たちもただではすみません。
実はケイの先祖は平安時代の妖怪ハンター渡辺綱の血を継ぐ“破風なき家の子”だったのです。この日本最大の危機に妖怪たちは、ケイの力を借りて伝説の武神“大魔神”を復活させようと考えたのです。
人間嫌いの狸の大妖怪・隠神刑部(いぬがみぎょうぶ)はこの計画に待ったをかけます。「人間が滅んだ先の世界が見たい」というのが隠神刑部の真意でした。
渡辺綱の血を継ぐと言っても気弱な性格のケイは、隠神刑部の気迫に圧されてしまいます。廃校で引いた赤い紙は“破風なき家の子”の証だったのですが、それを持って弟のダイが妖怪たちの前に現れます。
妖怪たちはケイではなくダイの方が“破風なき家の子”だと勘違いし、ダイを大魔神の元へと連れて行きました。
ケイはダイを危険な目には遭わせられないとようやく立ち上がります。そんなダイの前に現れたのは謎の妖怪剣士・狐面の女。狐面の女は「真の勇気はあるか?」とダイに試練を与えます。
果たしてダイはケイより先に大魔神の元へ辿り着き、妖怪獣を倒せるのか――
※以下、ネタバレ
映画『妖怪大戦争ガーディアンズ』の感想と評価
2005年版『妖怪大戦争』に引き続き、三池崇史監督が取りまとめた本作『妖怪大戦争ガーディアンズ』。人気子役が主演、特殊メイクと着ぐるみで表現された妖怪、気弱な少年のひと夏の冒険、全体的なコンセプトは2005年版と共通しています。
しかし映画全体の持つ雰囲気が2005年版とはだいぶ違っているのです。2005年版はファミリー映画ながらほろ苦さのある作品となっていましたが、本作『妖怪大戦争ガーディアンズ』はだいぶファンタジックな仕上がりの作品となっています。
プロデュースチームの不在と監督の変化
作品が持つ空気の違いの理由は、まずプロデュースチーム「怪」の不在です。
2005年版では水木しげる、荒俣宏、京極夏彦、宮部みゆきといった作家陣が原案を提供していました。しかし水木しげるは2015年に逝去されたことなどもあり、今回は荒俣宏のみの参加に留まっています。
そのため前作にあった妖怪に対するマニアックな視線が捨象されています。「戦わない」「自分たちのため戦う」という妖怪像は2005年版から引き継がれていますが、本作の妖怪たちはさらにユーモラスなキャラクター像となりました。
一方で「妖怪は名前がない」という解釈が導入され、キャラクター像はユーモラスながら設定はより精霊的になっています。
もう一つ考えられる理由が、三池崇史監督の変化です。
三池崇史監督は今やメジャー大作を数多く手掛けてきたヒットメーカーですが、元々はVシネマでとがった作品を連作していた監督です。
2005年版『妖怪大戦争』は、『ゼブラーマン』『着信アリ』(2004)と三池監督の知名度を高めたこの2作の翌年の公開だったのです。
そのためか2005年版には若干ながらグロテスクな表現などがありましたが、『妖怪大戦争ガーディアンズ』ではそういった描写はほとんどありません。
そして三池監督は2017年から放送開始された『アイドル×戦士ミラクルちゅーんず!』以降、現在放送中の『ビッ友×戦士キラメキパワーズ』(2021)まで、児童向けのTV特撮「ガールズ×戦士」シリーズの総監督を務めています。
三池監督はこの経験から子どもの視点、どういった要素を子どもが好むか嫌うかを2005年版以上に作品へ導入できるようになったのではと考えられます。
ファンタジック作品となった理由
そして作品がファンタジックとなった最大の理由は、渡辺綱の登場でしょう。
渡辺綱は平安時代中期に実在した武将で、酒呑童子や土蜘蛛退治で知られる武将・源頼光の家来です。ケイは渡辺綱の末裔であり、その血を受け継ぐため妖怪に助力を懇願されるというのは、ファンタジー作品の王道的な展開です。
2005年版では広島県三次市に伝わる『稲生物怪録』を由来にした部分はあるものの、背景に留められており映画全面に出てくる訳ではありません。
また今回話題となったのが大魔神の復活です。大映京都が製作した特撮映画『大魔神』三部作以来、スクリーンに大魔神が復活するのは55年ぶりです。
実は大映京都は『大江山酒天童子』(1960)というオールスターキャストの特撮時代劇も製作しており、勝新太郎演じる渡辺綱が準主人公として登場するのですが、本作に渡辺綱が登場するのはそのオマージュかも知れません。
最後にフォッサマグナから生まれた“妖怪獣”。こちらは荒俣宏が小松左京の小説『日本沈没』からの影響や、妖怪とフォッサマグナとの関連から発想を得たと語っています。
“妖怪獣”というネーミング自体は、水木しげるの漫画『ゲゲゲの鬼太郎』に登場するものでしょう。
『ゲゲゲの鬼太郎』の該当エピソードでは、妖怪獣を操るのは隠神刑部の配下・八百八狸であり、本作に隠神刑部が登場したのも自然な流れと言えます。
まとめ
著名な芸能人たちの特殊メイクと着ぐるみによる百鬼夜行、大魔神の復活、妖怪ハンター・渡辺綱の末裔などなど、2005年版『妖怪大戦争』よりもファンタジックな大作となった『妖怪大戦争ガーディアンズ』。2021年、映画館で「ひと夏の冒険」を体験しませんか。
映画『妖怪大戦争ガーディアンズ』は2021年8月13日(金)より全国劇場公開中です。