連載コラム「邦画特撮大全」第109章
今回の邦画特撮大全で紹介するのは『学校の怪談』(1995)です。
山崎貴監督の最新作『ゴーストブック おばけずかん』が2022年7月22日(金)に公開されることを記念して、テレビ東京“午後のロードショー”(関東ローカル)では同日に類似したテーマの作品である『学校の怪談』が放送されます。
1990年代の一大ブームを築いた“学校の怪談”を題材にした本作『学校の怪談』は、当時の子供……現在20代後半から30代の人たちを熱狂させ、大きな影響を与えた作品でもあります。
夏といえば“怪談”。この機会に『学校の怪談』を振り返ってみましょう。
映画『学校の怪談』の作品情報
【公開】
1995年(日本映画)
【監督】
平山秀幸
【脚本】
奥寺佐渡子
【キャスト】
野村宏伸、杉山亜矢子、遠山真澄、米澤史織、熱田一、塚田純一郎、町田耕平、町田昇平、岡本綾、佐藤正宏、久保晶、広岡由里子、水木薫、余貴美子、笹野高史
【作品概要】
1999年までに全4作製作された「学校の怪談」シリーズの第1作目。監督は『愛を乞うひと』(1998)、『ツユクサ』(2022)の平山秀幸。
脚本は『時をかける少女』(2006)から『おおかみこどもの雨と雪』(2012)まで細田守監督とコンビを組み、映画『八日目の蝉』(2011)や昨年話題となったテレビドラマ『最愛』(2021)を手がけた奥寺佐渡子。
本作の配給収入は15億円で、1995年度の邦画配給収入第4位を記録。第19回(1995年度)日本アカデミー賞の脚本賞、美術賞にノミネートされました。
映画『学校の怪談』のあらすじとネタバレ
1学期の終業式を終え、明日からは夏休みの小学校。
5年生のアキと2年生のミカの姉妹は転校生。明るく人懐っこいミカとは対照的に、姉のアキの方は強気な性格で周りに馴染めていません。下校途中、絵の具箱を忘れたことに気付いたミカは、アキとの軽い言い争いからひとり校舎へ戻ります。
するとミカはひとりでに動くサッカーボールを目撃。ボールはまるでミカを導くように旧校舎の中へ。
旧校舎は取り壊しが決定していて立入禁止の上、お化けが出ると子供たちの間では噂になっていました。サッカーボールについて行ったミカはそのまま旧校舎へ入って行き、トイレで何者かに連れ去られてしまいます……。
ミカを心配して学校へ彼女を探しに来たアキも旧校舎の中へ入って行きます。そこで出会ったのはアキの同級生で悪戯っ子のケンスケとショウタ、4年生のヒトシ。そしてアキがミカを探す中で出会った6年生の少女カオリ。
ヒトシの双子の弟カズオは、学校に出る幽霊を怖がって不登校でした。しかし鏡に映った兄のヒトシに呼ばれたことに異変を感じて学校へと急ぎます。
カズオは職員室に残っていたアキたち5年生の担任の小向に相談しますが、どうも頼りになりません。
アキたち5人の前に鎌を持った妖怪“テケテケ”が現れ、一同を追いかけまわします。外に出ようとするも旧校舎の出入口には鍵がかかっていました。
ちょうど見廻りにやって来た小向とカズオが旧校舎の前を通りますが、助けを呼ぶアキたちの声は届きません……。
映画『学校の怪談』の感想と評価
本作の原作は常光徹『学校の怪談』(講談社・刊)と日本民話の会「学校の怪談」シリーズ(ポプラ社・刊)がクレジットされていますが、内容自体はオリジナルとなっています。
当時ブームとなっていた“学校の怪談”を題材にした作品で、登場するお化けはメリーさんの電話、トイレの花子さん、テケテケ、動く人体模型に口裂け女と、子供たちにとってポピュラーなものでした。
お化けたちは着ぐるみや特殊メイク、ストップモーションアニメ等で表現されています。
タイトルの通り学校で起きる怪奇現象を題材とした作品ではありますが、全体の印象としては“ジュブナイル映画”。恐怖描写もあるもののファンタジー要素の方が強い作品となっています。
全体のストーリーも小学生たちが冒険を通して成長するというもので、板張りの旧校舎という舞台も作品のノスタルジックな空気を作り上げています。
前述した通り恐怖心を煽る描写も散見します。特にミカがサッカーボールを追ってトイレへ辿り着く一連の流れは、強調された効果音と誰の視点なのか定かではないカメラワークが、一般のホラー映画と比べて遜色ないものとなっています。
またデザインを寺田克也、造形を高柳祐介が手掛けた本作のラスボスである怪物“インフェルノ”は、当時のハリウッドSF映画のようなディテールのクリーチャー。
顔面は骨盤をイメージしたものとなっています。用務員クマヒゲがインフェルノに変異するシーンは、ジョン・カーペンターの『遊星からの物体X』(1982)を想起させるグロテスクなものでした。
しかし全体としてはコミカルで、冒頭のメリーさんが本来伝わるフランス人形ではなくジャックランタンのようなスイカとなっている点からも、本作の方向性がうかがえます。
『学校の怪談3』(1997)まで登場したピンク色の妖怪“テケテケ”は、シリーズのアイコン的なキャラクターで、当時はそんな言葉はありませんでしたが、いわゆる「キモかわいい」デザインと言えます。
本作のSFXプロデューサーを手がけたのは、ハリウッドのSF映画ジャーナリストとして活躍し“SFX”の言葉を日本に初めて紹介した中子真治。
中子真治によればこのテケテケは、映画『ゴーストバスターズ』(1984)の緑色の太った幽霊“スライマー”を意識したものとのことです。
配給収入15億円という大ヒットを記録した『学校の怪談』は、1999年まで全4作品製作されます。
『学校の怪談3』(1997)のみ金子修介監督が手がけましたが、他3作品は平山秀幸監督と奥寺佐渡子脚本のコンビの手によるものです。
本作で子供たちと行動を共にする教員・小向を演じた野村宏伸は、3作目まで全て別の役で出演しています。
まとめ
1990年代に子供たちを熱狂させ、トラウマも与えた『学校の怪談』。本作に限らず1990年代はアニメ化もされた『学校のコワイうわさ 花子さんがきた!!』(1994)、『地獄先生ぬ~べ~』(1996)。
堂本光一主演のドラマ『銀狼怪奇ファイル』(1996)、滝沢秀明主演の『怪奇倶楽部』を筆頭とした「木曜の怪談」シリーズ(1995~1997)。堂本剛主演の人気ドラマ「金田一少年の事件簿」シリーズも、最初に映像化されたのは「学園七不思議殺人事件」(1995)でした。
1990年代はマンガに映画にアニメと、メディア・ジャンルを問わず、少年向けの怪奇作品が多数製作され子供たちに親しまれていました。その時代を代表する一作が本作『学校の怪談』だったのです。
当時の子供たちもいまや30代、親になった人もいるかと思われます。この機会に2022年の夏、童心に帰ってあの夏の冒険を再体験するのはいかがでしょうか。