連載コラム「シネマダイバー推薦のNetflix映画おすすめ」第15回
第二次世界大戦の開戦が迫るイギリスのサフォーク州の田舎町サットン・フーで発見された遺跡の発掘調査を描いた、ジョン・プレストンの小説「The Dig」(2007)を元にしたNetflix映画『時の面影』をご紹介します。
サットン・フーの地主であり、考古学の知識を持つエディス・プリティーは、所有地にあるいくつかの“塚”について興味を抱き、独学で考古学を学んだ発掘調査員のバジル・ブラウンに調査を依頼をします。
発掘経験が豊かなバジルと幼い頃から発掘経験のあるエディス、この2人の“勘”がリンクした時、イングランド人のルーツを結び付ける世紀の大発見をします。
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映画『時の面影』の作品情報
【公開】
2021年(イギリス映画)
【原題】
The Dig
【原作】
ジョン・プレストン
【脚本】
モイラ・バフィーニ
【監督】
サイモン・ストーン
【キャスト】
キャリー・マリガン、レイフ・ファインズ、リリー・ジェームズ、ジョニー・フリン、ベン・チャップリン、ケン・ストット
【作品概要】
町の地主エディス・プリティーを演じたのは『17歳の肖像』(2009)で、アカデミー賞とゴールデングローブ賞で主演女優賞にノミネートされ、一躍注目を集めたキャリー・マリガンです。
“塚”を発掘調査するよう依頼された、発掘調査員のバジル・ブラウンには『シンドラーのリスト』(1993)『ハリー・ポッターと炎のゴブレット』(2005)など、多くの話題作に出演しているレイフ・ファインズが務めます。
他に『シンデレラ』(2015)、Netflix映画『レベッカ』(2020)で主演を務めた、リリー・ジェームズなどが共演しています。
映画『時の面影』のあらすじとネタバレ
1938年イギリス サフォーク州、一艘の小舟が初老の男と自転車を乗せて、川を渡りサットン・フーに向います。男はプリティ夫人から発掘の依頼を受け会いに行くのだと言います。
サットン・フーの田舎道を自転車で走り抜け、プリティ邸に到着すると男は「バジル・ブラウンです。プリティ夫人の依頼で来ました」と告げます。
依頼主のエディス・プリティは、“塚”のある場所へと案内します。そこは広大な土地に大小いくつかの塚が存在し、バジル1人では到底発掘できるものではありません。
エディスは初め地元のイプスウィッチ博物館に依頼をしたが、ローマヴィラの発掘調査で発掘者が不足していると断られ、バジルを紹介されたと話します。エディスは東西にいくつかある塚の中でも、ひときわ大きい塚の発掘をバジルに頼みました。
しかし、バジルはその塚の上に立つと地質の感じから、ここが“墳丘墓”だとしても中の副葬品などの宝は、すでに墓荒しや盗賊に盗まれてないだろうと推測します。
エディスの目的はお宝などではなく、シドー修道院の発掘作業をしていた父親を手伝っていたことから、その塚のことがどうしても気になり何かがあると感じていました。
バジルは「過去は何かを語り掛ける?」と言い、掘るにしても勘ではなく何かしらの根拠がないと、お金の無駄になると別の塚を発掘すうよう勧めます。
エディスは発掘賃金をイプスウィッチ博物館と同額で提示すると、「それでは受けられない。あそこは安すぎる」と、発掘を断りました。バジルもサットン・フーの塚を掘ってみたい気持ちはありましたが、諦めるしかありませんでした。
そこにエディスの使いが自動車で追いかけ、バジルに手紙を渡します。バジルが再びプリティ邸を訪ねると、エディスはバジルの要望を聞き賃金を上げ、近くに寝食する部屋を提供し、助手を2人用意しました。
こうしてサットン・フーの塚の発掘作業はバジルが行うことになります。しかし、作業をする塚はエディスが気になっている大きな塚ではなく、バジルが提案した塚の方です。
しばらくすると塚から古い木片が出土し、歓喜したバジルは急いでエディスを呼びます。エディスは進捗状況を見てもらうために呼んだ、イプスウイッチ博物館のリードモアと新しい館長のメイナードが一緒にやってきました。
バジルがその板を取り出すのをメイナードに手伝わせると、もろくなっていた木片は崩れてしまいました。リードモアは「出てきたのはそれだけか?」と、からかうように言います。バジルは板の腐食具合に気づけなかったことに自信を失いました。
さて、リードモアはエディスに別の話しもあって来ました。それは、ローマヴィラの発掘人が足りなくなったので、バジルを戻してほしいという要望でした。開戦の様相が色濃くなって来たため、ローマの発掘を優先し急ぎたいからです。
エディスは塚の発掘は最後までバジルに頼みたいが、決めるのは彼次第だと言います。
そこにバジルがやってきて言います。「あの木片はバイキング時代のものだと思い込んでいましたが、さらに古いもので私の目測が間違っていました。おそらく、アングル・サクソンのころのものです」
バジルがこう言うとメイナードは「絶対にありえない」と言い、リードモアは戻ってローマ遺跡の発掘に参加するよう促します。エディスが「あなた次第よ」と言うと、バジルは“残留する”と即答しました。
エディスは病死した夫の墓参りから戻ると胸の不調をおこします。ハウスドクターから神経症による“胃酸過多”だと診断され、その晩はツタンカーメンに関する本を読み過ごします。
翌日、エディスは作業をしている塚へ行き、掘った羨道の中でツタンカーメンを発見した考古学者の本を読んだと話し、もしこの塚が墓ならば遺体が出る可能性があり、それは使者に対する冒涜ではないかと案じます。
バジルは「“まるで時が止まったようだ”と?遺骸が発見されたとしても、審問委員会では死者に対し礼儀をもって扱う、済めば怒りもおさまるだろう」と、羨道の地面を掘り始めると掘った壕の土が崩落し、バジルは生き埋めになってしまいました。
バジルは懸命の救助で一命を取りとめることができました。エディスはバジルに「失神している時に何か見なかった?」と聞きます。バジルはただ頭の中に自分と同じ名前“バジル・ブラウン”だった祖父のことが浮かんだと言います。
その祖父は農夫でサフォークの土壌について教え込んでくれたと話します。するとバジルは何かを思い出したように、再び塚のある場所に戻り興奮したように言います。
「この土地は何千年もかけて耕され、塚の形が変わり盗賊たちは中心の場所を誤った。ここだけが楕円で周囲が円形なのはそのせいだ。」と・・・。
そして、エディスが気になっていた楕円形の大きな塚こそ、何か発見できる可能性を秘めていると確信し発掘すると決めました。
ある日、バジルは慌てた様子でイプスウィッチ博物館へと向かいメイナードを呼び「スネイプ墳丘で鉄の鋲(リベット)がみつかったよな!?」と興奮しながら質問し、白い布にくるんだ鉄の塊をみせるとメイナードは「驚いたな・・・」と、唖然とします。
塚へ戻ったバジルは助手のジェイコブズとスプーナーに、エディスに発掘場所を見せて驚かせようと準備をはじめます。
ロンドンに出かけていたエディスが帰宅した頃、バジルはプリティ邸に趣き大至急見せたい物があると告げました。エディスは息子のロバートも連れて塚へと行きます。
塚の上へ登り発掘場所を見下ろすと、そこには船首の形をした跡がはっきりと出土していました。ロバートはバジルに「なぜここに船が埋まっているの?」と質問を投げかけます。
バジルは「船は墓の役割」で「高貴な人が亡くなり」、川から船で運ばれ大勢の人たちの力によって、ここに埋葬された。と話し時代はアングル・サクソンで間違いないだろうと説明します。
バジルはエディスの“勘が正しかった”と言い、鉄のリベットを見つけたジェイコブズの手柄だと言います。エディスはバジルには祝福の助手の2人には労いの握手をしました。そして、バジルはさらに調査を進めることに意欲を燃やします。
Netflix映画『時の面影』の感想と評価
エディスは人生を通して発掘調査に縁をしていて、バジル・ブラウンも独学でありながら、サフォークに根付いた考古学の研究に勤しむベテランでした。全く異なる人生を歩んでも、古へのロマンが2人を結び付け大発見につなげたと感じます。
エディスは若い頃に母を亡くし、父親を長年介護していました。遠回りをしてやっと結婚をし高齢で出産しますが、まもなく夫も亡くしてしまいました。そんな彼女は人一倍、命の儚さを知っており、興味のある分野への情熱も強い女性なのです。
また、学びへの探求心は奇跡を起こすと考えると、勇気も与えてくれました。しかし、2人の功績が近年まで広まらなかった背景には、権威や権力のほかにも戦争が事実を風化させ、長きにわたって封印させていたのだろうと思い、平和への願いも深まります。
「サットン・フー」とは
サットン・フーの由来は「南部の農場」や「集落」という意味があります。作中でバジル・ブラウンが「何千年もかけて耕され続けた」という通り、農民や盗賊が地形を壊してからは、墓地とも知らずに農地として見られていたのでしょう。
しかし、その周辺には墳丘のある土地が点在し、スネイプ墳丘もその1つとして発見されていました。つまり、サットン・フーに残る塚も“墳丘”なのではないか?とエディスは興味を持ったのだと推測します。
結局、サットン・フーには大小18個の塚があり、その中の“マウンド1”と名付けられた一番大きな塚をエディス・プリティとバジル・ブラウンが発掘をして、船葬墓を発見し有名になりました。
作者の叔母「ペギー・ピゴット」
映画『時の面影』の原作は、ジョン・プレストンの小説「The Dig」です。作中の考古学者の卵“ペギー・ピゴット”は、プレストンの叔母にあたります。小説では発掘調査でのペギー・ピゴットの役割が強調されているようです。映画のペギー・ピゴットは違った形でデフォルメされました。
映画では夫のスチュアートは、どうやら同性愛者でカムフラージュのために、ペギーと結婚をしたような雰囲気です。ペギーは女としての愛情を注がれず、モヤモヤしながら発掘に参加していました。
いつしかローリーに恋愛感情を抱き、人妻のため一旦は諦めますが、エディスの助言で自分の気持ちに素直になり、ローリーと結ばれます。ところが戦争が2人を引き裂いていくという悲恋であり、そんなロマンス要素も取り入れた物語に仕上がっていました。
実際のペギーとスチュアートは1936年に結婚し、1956年に離婚をしています。彼女は英国の考古学者として60年のキャリアを積み、特にイギリスの先史時代の調査に強く貢献しました。
まとめ
Netflix映画『時の面影』は命が尽きても、親から子へ子から孫へ受継がれるものや、発見や語り継ぐ歴史によって、人々は繋がってきたことを“面影”に例えています。
考古学のような歴史的なものにはロマンがあり、精神世界にも通じていて神秘的な作品でした。
また、長い時の中で忘れ去られたり、私利私欲で塗り替えられた歴史でも、発見する者が必ず現れ、事実を示し表明していかなければならないと思わせた映画でした。
つまり原作の「The Dig」を書いたジョン・プレストンが、エディス・プリティやバジル・ブラウンの存在を示し、サットン・フーの歴史に正しく示してくれたのだと、思わずにはいられません。