連載コラム「SF恐怖映画という名の観覧車」profile151
現代の日本で暮らす以上、切っても切り離せない問題となる「少子高齢化」。
2045年には15歳以下の若者がおよそ10%、65歳以上の高齢者が約40%にもなると試算されており、減り続ける年金や介護施設の不足など現在すら解決していない問題の数々が今よりも深刻になってしまうことは間違いありません。
今回は、ゾンビ映画の巨匠が「高齢者虐待」を取り上げ製作したものの、あまりに衝撃的な内容に封印されてしまったという過去を持つ最新映画『アミューズメント・パーク』(2021)をご紹介させていただきます。
映画『アミューズメント・パーク』は10月15日(金)より新宿シネマカリテにて劇場公開予定!
【連載コラム】『SF恐怖映画という名の観覧車』記事一覧はこちら
CONTENTS
映画『アミューズメント・パーク』の作品情報
【原題】
The Amusement Park
【日本公開】
2021年(アメリカ映画)
【監督】
ジョージ・A・ロメロ
【キャスト】
リンカーン・マーゼル
【作品情報】
『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』(1968)や『ゾンビ』(1979)で現在の「ゾンビ映画像」を作り上げた巨匠ジョージ・A・ロメロが監督を務めた作品。
主演を務めたのは後に『マーティン/呪われた吸血少年』(1978)で再度ロメロ監督映画に出演したリンカーン・マーゼル。
映画『アミューズメント・パーク』のあらすじ
外の世界に興味と期待を持つ老人(リンカーン・マーゼル)は、ボロボロになった老人の忠告を受け止めず遊園地へと足を踏み入れます。
しかし、遊園地では老人にとっては楽園からは程遠い地獄の光景が繰り広げられており……。
映画の公開が封印された禁断の作品
ルター派とも呼ばれるキリスト教の教派の1つである「ルーテル教会」が教育ビデオとして、ジョージ・A・ロメロに製作を依頼した映画『アミューズメント・パーク』。
しかし、1973年に完成した本作は依頼主のルーテル教会があまりに過激すぎる内容に難色を示し、本作は長年封印されることとなりました。
その後、2001年のトリノ映画祭におけるロメロの回顧展で公開された16mmのプリントが2017年に妻であるスザンヌ・デスロチャー・ロメロへと渡され、2019年に4K修復が完了しアメリカでプレミア上映が行われました。
そして2021年、遂に日本でもロメロ監督のキャリアを築くきっかけとなった『ザ・クレイジーズ/細菌兵器の恐怖』(2010)や『マーティン/呪われた吸血少年』(2021)と併せての公開が決定しました。
あまりにもリアルな「年齢差別」
本作の特徴は主演のリンカーン・マーゼルを除いたほぼ全てのキャストがボランティアで補われている点にあります。
言うまでもなく出演した老人たちは「年齢差別」をその身に常に感じている存在。
さらに出演したボランティアの若者たちの多くは介護施設で働いており、高齢者の抱える社会生活上の辛さを誰よりも知っています。
この問題に無関心な人間の些細な行動がいかに老人たちを苦しめているかを真正面から描いており、ゾッとするシーンがいくつもありました。
貧富のより明確な差
老いも若きも関係なく、この世の中には「貧富の差」が存在します。
格差社会として常に社会問題として挙げられる「貧富の差」ですが、肉体の元気な若い間は挽回のチャンスも残されています。
しかし、身体の無理が効かなくなってくる高齢者には挽回のチャンスは掴みにくく、「貧富の差」は若者に比べより顕著に表れることになります。
主人公の老人は遊園地の施設内で食事を取ろうとしますが、店員は権力者である富豪にサービスをするばかりで主人公にもその他の老人にもサービスをほとんど行いません。
さらに提供される食事は富豪の前に置かれたもの比べて明らかに質素であり、長時間待たされたことに対する謝罪もありませんでした。
このシーンは金持ちの老人にのみ擦り寄る若年層への強烈な風刺となっています。
社会的信用度の違い
遊園地内で事故を起こされた老人を目撃した主人公は、明らかな若者の過失を警察官に訴えます。
しかし、主人公も事故を起こされた人も老人であったことから、「老眼」や「判断能力が遅い」と決めつけられ、事故は老人の過失となってしまいます。
老眼や認知症と言った症状は加齢と共に誰の身にでも現れる可能性があります。
老人というだけで不当に社会から悪者扱いされると言う恐ろしく、それでいて現実の社会で違和感もなく行われている行為に気づかされました。
まとめ
映画『アミューズメント・パーク』で描かれる「年齢差別」のシーンは、今回の記事で紹介したシーン以外にも多く登場し、その都度目を覆いたくなるような光景が繰り広げられます。
本作は冒頭とラストシーンにリンカーン・マーゼルの語りが入り、その中で若者に対し「あなたもいつかは老いる」と言い放ちます。
本作で描かれる「ルーテル教会」が封印を決断した高齢者虐待の数々は、将来的に自身が受けることになるかもしれないものなのです。
自分がいつも高齢者にどう接しているのか、を自分の身に降りかかる行動として深く考えて欲しい作品でした。
映画『アミューズメント・パーク』は10月15日(金)より新宿シネマカリテにて劇場公開予定です。
【連載コラム】『SF恐怖映画という名の観覧車』記事一覧はこちら