連載コラム『すべての映画はアクションから始まる』第50回
日本公開を控える新作から、カルト的に評価された知る人ぞ知る旧作といったアクション映画を時おり網羅してピックアップする連載コラム『すべての映画はアクションから始まる』。
第50回は、2025年1月10日(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷で1週間限定公開の『皆殺しに手を貸せ』。
さまざまな理由から日本公開が見送られてしまう傑作・怪作を、映画ファンにスクリーンで体験してもらう劇場発信型映画祭「未体験ゾーンの映画たち2025」のラインナップを彩る、夫を殺された妻の復讐劇の見どころを解説します。
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CONTENTS
映画『皆殺しに手を貸せ』の作品情報
【日本公開】
2025年(アメリカ映画)
【原題】
They Call Her Death
【製作・監督・脚本・撮影】
オースティン・スネル
【製作総指揮】
コリー・スネル
【VFX】
アダム・ジェファース
【特殊メイク】
ジェイク・ジャクソン
【キャスト】
シェリー・リペル、ムーンシャイン・マンテル、ジェフ・ボイヤー、デバン・R・ガルシア、ディーン・ショーブ、ショーン・ネイバーグ、ジェイソン・パフ、パトリック・ポー
【作品概要】
「カンザス・ゾンビ」シリーズなど数多くのインディペンデント映画に出演するシェリー・リペルを主演に迎えた、カンザス州の映画監督オースティン・スネルの長編第2作。
19世紀アメリカを舞台に、夫を殺された妻による壮絶な復讐劇を描きます。
2025年1月3日(金)から3月21日(木)までヒューマントラストシネマ渋谷にて上映される「未体験ゾーンの映画たち2025」に選出され、2025年1月10日(金)から1週間限定公開されます。
映画『皆殺しに手を貸せ』のあらすじ
西部開拓時代が終焉を迎えつつある1870年アメリカ。泥棒稼業から足を洗い、夫と慎ましく暮らしていたモリー・ペイは、無実の罪により夫を賞金稼ぎに殺されてしまいます。
亡き夫の名誉のため無実を証明しようとするも、背後に潜む大いなる陰謀に気づいたモリーは、死神に己の魂を差し出し、「明白なる天命」のもと悪に裁きを下します。
16mmフィルムコレクターが放つマカロニ・ウエスタンとジャッロの融合
ミュージックビデオをはじめとした短編映像作品を手がけた後、『暴露』(2018)で長編映画デビューを果たしたオースティン・スネル。
16mmフィルムのコレクターとしても活動し、『暴露』も16mmで撮影した彼の第2作となるのが、本作『皆殺しに手を貸せ』です。
前作が山小屋が舞台の密室スリラーだったのに対し、本作では彼が心酔するというマカロニ・ウエスタン(イタリア製西部劇)とジャッロ(イタリア製ホラーサスペンス)を融合。
1970年代の映画界で隆盛を極めたマカロニ・ウエスタンとジャッロを現代に蘇らせるべく、「デジタル加工の『傷』や『汚れ』で は、それらの作品の本質を理解していない」として、本作でも1960年代のカメラと16mmのコダックフィルムを使用するこだわりぶりを発揮しています。
愛する者を失った女が死神と交わす復讐の契約
1870年のアメリカ。夫婦そろって泥棒稼業から足を洗い、夫と慎ましく暮らしていたモリーは、突如、夫を賞金稼ぎに殺されてしまいます。
夫の無実を証明しようと町の有力者や保安官らに嘆願するも、まともに取り合ってくれないモリーはやがて、彼らの背後に潜む大いなる陰謀に気づくことに。
「観客の欲望を巧みに刺激し、特定のキャラクターへの憎しみを育ててから、そのキャラクターが報いを受ける展開がとても好き」とマカロニウェスタンの魅力を語るスネル監督は、『ゼイ・コール・ハー・ワン・アイ 〜血まみれの天使〜』(1973)にオマージュを捧げたストーリーを構築。
モリーが死神と“契約”するという、ジャッロ要素も加えた復讐劇に仕上げました。
映画は情熱で作るもの
ロケ地として、19世紀アメリカの街並みを再現したカンザス州ウィチタのオールドカウタウン博物館と、ミズーリ州リーズサミットのミズーリタウンリビング歴史博物館で撮影したとのこと。
そのエピソードを聞いて連想したのが、室賀厚監督が小沢仁志、寺島進出演で撮ったVシネマ『ワイルドビート~裏切りの鎮魂歌~』(1994)です。
室賀が敬愛する『レザボア・ドッグス』(1992)とマカロニウエスタンを融合させたガンアクションの『ワイルドビート』は、主要ロケ地に栃木県の日光ウエスタン村(現在は閉園)を使用。しかもそれは、低予算を補うために、当時同村でバイト生活を送っていた寺島の伝手によるものでした。
「映画は情熱で作るもの」と語る室賀が撮った『ワイルドビート』は、あらゆる点で『皆殺しに手を貸せ』とダブり、さらには「自分が作りたいものを作る!」というスネル監督の情熱が詰まっています。
室賀が『ワイルドビート』で認められ『SCORE』(1995)で劇場映画デビューをはたしたように、スネル監督も今後とんでもなく大化けする可能性を秘めています。たとえ大化けしても、16mmフィルムにこだわった作品を発表し続けるのなら、それはそれで大きな作家性となるはず。
ざらついた16mmフィルムによる映像は、往年のジャンル映画ファンは懐古に浸り、若い世代のファンは斬新を得ることでしょう。
次回の『すべての映画はアクションから始まる』もお楽しみに。
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松平光冬プロフィール
テレビ番組の放送作家・企画リサーチャーとしてドキュメンタリー番組やバラエティを中心に担当。『ガイアの夜明け』『ルビコンの決断』『クイズ雑学王』などに携わる。
ウェブニュースのライターとしても活動し、『fumufumu news(フムニュー)』等で執筆。Cinemarcheでは新作レビューの他、連載コラム『だからドキュメンタリー映画は面白い』『すべてはアクションから始まる』を担当。(@PUJ920219)