連載コラム「シネマダイバー推薦のNetflix映画おすすめ」第102回
未承認の医薬品や医療機器を、被験者の同意の上で人体を使った臨床試験を行う「治験」。
通常医療での回復が困難なケースで行われる試験や健康的な成人が行う試験など、種類はさまざまであれど被験者の「同意の上」であることが大前提となっています。
今回はそんな「治験」をテーマにしたNetflix独占配信スリラー映画『スパイダーヘッド』(2022)を、ネタバレあらすじを含めご紹介させていただきます。
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CONTENTS
映画『スパイダーヘッド』の作品情報
【公開】
2022年(アメリカ映画)
【原題】
Spiderhead
【監督】
ジョセフ・コシンスキー
【キャスト】
マイルズ・テラー、クリス・ヘムズワース、ジャーニー・スモレット=ベル、チャールズ・パーネル、ネイサン・ジョーンズ
【作品概要】
ジョージ・ソーンダースによる短編小説を『トップガン マーヴェリック』(2022)のジョセフ・コシンスキーが映像化した作品。
『トップガン マーヴェリック』で物語のメインとなるルースターを演じたマイルズ・テラーが主演を務め、「アベンジャーズ」シリーズで雷神ソーを演じたクリス・ヘムズワースが共演として参加しました。
映画『スパイダーヘッド』のあらすじとネタバレ
受刑者を使い薬の治験を行う「スパイダーヘッド刑務所」。
受刑者たちは治験に参加する見返りとして刑務所内での自由行動を許可されていました。
受刑者のジェフは治験を取り仕切るスティーヴとその助手のマークによって美的感覚を鋭敏にする「N-40」を投薬する治験を繰り返し行なっています。
「N-40」は投薬されることで景色だけでなく、目前の相手に性的感情を伴った好意が呼び覚まされ、ジェフは治験の最中に受刑者のヘザーやサラと性的関係を持つことになります。
ある日、ジェフはヘザーとサラのどちらかに発狂に追い込まれる危険な薬物「ダークフロックス」を投薬する治験を行うと宣言され、スティーヴはその対象をジェフに選ばせようとします。
実はこの選択は「N-40」が切れた後も愛情が続くかと言う治験の延長であり、ジェフが選択を拒み続けると「ダークフロックス」の投入は行われませんでした。
しかし数日後、ヘザーに対する「ダークフロックス」の治験が行われ、その様子を感情の言語化機能を引き上げる薬を投薬されたジェフが観測する実験が始まります。
ジェフは「ダークフロックス」は治験の終わった劇薬であり、あまりにも非人道的な実験であるとスティーヴに文句を言いますが、治験を行うことで手に入れている自由について諭されてしまいました。
「ダークフロックス」による幻覚で暴れ出したヘザーは腰につけられた薬物の注入装置を破壊してしまい、規定量以上の「ダークフロックス」が投薬されたことでインテリアを破壊した破片を使い自らの首を切り死亡してしまいました。
緊急事態にスティーヴとマークが場を離れた隙にジェフはスティーヴの手帳を覗き見ると、手帳には「BINGOカード」が挟まっており、数字の羅列が薬品の名前と同じであること、そして治験の終わった薬に星マークのシールを付けていることに気づきます。
翌日、ジェフと親密な仲である受刑者のリジーは恐怖心を引き出される薬を投薬され苦しんだ後、ジェフに対し何故毎回投薬の承認を行ってしまうのかを問いかけます。
ジェフはスパイダーヘッドが拷問に近い投薬を繰り返す、通常の刑務所よりもずっと酷い環境であることを理解しながらも、過去に妻と親友を自身の危険運転で死亡させてしまった贖罪として投薬を受け入れているのだと話しました。
スティーヴはジェフの行動を監視し続け、ジェフがリジーに対して特別な感情を抱いていることを知ると、「ダークフロックス」の実験をリジーに対して行うとジェフに宣告。
スティーヴは治験は翌日から始めると言うと、ジェフは非人道的な治験の数々を快く思っていないマークを呼び出し、スティーヴが薬の名前をBINGOカードで決めるような遊び半分で行っている人物であることを指摘しました。
映画『スパイダーヘッド』の感想と評価
その刑務所は受刑者にとっての楽園なのか
本作に登場する「スパイダーヘッド刑務所」では受刑者が施設内を自由に移動し、性別を問わずに好きな相手と交流を深めています。
外部に出ることこそ禁止されているものの、主人公のジェフは監視の中で外出し外部への電話が許可されるなど、受刑者は刑務所としては異例と言える「自由」を謳歌。
それは認可されていない薬物の「治験」を承認した見返りであり、スパイダーヘッドでは受刑者は定期的な治験に呼ばれます。
治験を指揮するスティーヴは投薬前に必ず本人への同意を求めており、一見スパイダーヘッドは受刑者にとって楽園のような刑務所に映っていました。
しかし、治験に使われる薬は決して安全なものではなく、スティーヴの気まぐれでいつ命を落としてもおかしくない状況であることにジェフは気づきます。
人間的権利を犠牲にした少しの自由が果たして受刑者たちの犯した罪の重さに匹敵するのか、トロッコ問題を彷彿とさせる倫理の問題を考えさせられる作品です。
作品の主軸となるクリス・ヘムズワースの演技
スパイダーヘッド刑務所を統括するスティーヴは陽気で人当たりが良く、巧みな弁舌で人に取り入ることに長けた人物として描かれています。
しかし、物語が進むにつれて自分の思い通りに物事が進まないと人を罵倒する短気さ、と被験者の苦痛を伴う実験を笑いながら行うサイコパスとしての一面を徐々に見せ始めます。
どんな嘘でも平気でつき、人の善意を操り人体実験まがいの治験を正当化するスティーヴの恐ろしさは彼を演じたクリス・ヘムズワースの演技力によって引き出されており、本作は彼の演技なしでは有り得ないとまで言えるほどでした。
次にどんな行動をとるか想像させない、クリス・ヘムズワース史上最も危険なキャラクターをその目で確かめてみてください。
まとめ
海と山に囲まれた刑務所の外を映した自然豊かなシーンとは裏腹に、刑務所内のシーンは自由でありながらも狭く画面自体が明るいシーンでも暗さを感じさせます。
徐々に高まっていく違和感と、主人公のジェフが犯した罪と贖罪、そしてラストに明かされる刑務所の秘密。
Netflix独占配信映画『スパイダーヘッド』は、スリラー映画としての魅力的な要素がしっかりと詰まった作品でした。
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