連載コラム「シネマダイバー推薦のNetflix映画おすすめ」第5回
千明孝一が手掛けた、橋本花鳥の漫画を原作としたNetflixオリジナルアニメシリーズ『虫籠のカガステル』。
人間が巨大な虫になってしまう奇病カガステルが蔓延する世界を舞台に、カガステルを狩る駆除屋の青年キドウと、“閉ざされた過去”を持つ少女イリの姿を描くアクションファンタジーです。
巨大な虫、カガステルに支配された世界で主人公・キドウは少女、イリと出会い、陰謀の渦に巻き込まれていきます。
残酷な世界だからこそ、人は生きることを渇望し希望を見出すと、現在にも通じるメッセージが込められたアニメです。
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CONTENTS
アニメ『虫籠のカガステル』作品情報
【公開】
2020年
【監督】
千明孝一
【キャスト】
細谷佳正、花澤香菜、花江夏樹、櫻井孝宏、、森川智之、興津和幸、諏訪部順一、塩崎智弘、茅野愛衣、白鳥哲、間宮康弘、山下大輝、鬼頭明里、杉田智和、悠木碧、鳥海浩輔
【作品概要】
橋本花鳥による終末アクションコミックをアニメ化。『ブレイブストーリー』(2006)などで知られる千明孝一が監督を務めます。
人間が巨大な虫に変化する奇病“カガステル”により荒廃した世界で、カガステルを狩ることを生業とする“駆除屋”の青年キドウと、一人の少女イリの出会いが、やがて世界の命運を揺るがす事になります。
アニメ『虫籠のカガステル』のあらすじとネタバレ
21世紀末、人間が突如、巨大な虫に変貌する奇病、“カガステル”により、世界は分断されます。
虫を駆除することを生業とする駆除屋のキドウ(声:細谷佳正)は馴染みの商人、ジン(声:興津和幸)を護衛する途中、巨大な虫、カガステルに追われる車を発見します。
成り行きで車に乗る親子を助けますが、父親のグリフィス(声:浪川大輔)は重傷を負ます。
グリフィスは娘のイリ(声:花澤香菜)を母親の下へ送り届けてほしいとキドウに託し、息絶えます.
キドウたちはイリを連れ、拠点としている都市、E‐05で下宿としている酒場、ガーデンマリオに帰ります。
店主・マリオ(声:森川智之)に事情を説明するキドウはマリオにイリの母親、タニアを探すよう頼みました。
タニアが見つかるまでの間、キドウと共にガーデンマリオで暮らすイリですが、初めはキドウや自らの境遇に反発します。
しかし、スラムで暮らす少年、ナジ(声:山下大輝)や、たくましく生きる少女、リジー(声:鬼頭明里)らとの出会いにより前向きに生きることを決意。そして、いつしかキドウに惹かれつつも、キドウの心にある陰に気が付きます。
そんな日々を送る中、駆除屋ばかりを狙った猟奇殺人事件が多発、キドウもその標的にされ、半身がカガステル化した謎の青年、アハト(声:花江夏樹)と出会い、対峙します。
戦いの最中、イリに遭遇したアハトはその姿を見て驚きます。その隙をキドウに突かれ、アハトは退却します。
しばらくして、キドウは顔なじみの軍人、カシム(声:諏訪部順一)がカガステルを発症、成り行きから駆除します。
帰ってきたキドウの人を寄せ付けない雰囲気に恐怖を覚えるイリにマリオはキドウの生い立ちを話します。
極東と呼ばれる地で両親を失った幼いキドウは駆除屋のラザロに育てられ、駆除屋として鍛えられます。
ある日、ラザロが取りまとめる駆除屋たちの集団は軍との軋轢から罠にはめられ、多くの駆除屋が死傷、ラザロは生き残った者たちの助命のため、自らの身柄を軍に差し出し、事態を治めようとします。
それを止めようとするキドウの前でラザロはカガステルを発症、キドウに駆除されます。
ラザロに次ぐ実力者になっていたキドウを中心に駆除屋が勢力を盛り返すことを恐れた軍人、ペトロフ(声:鳥海浩輔)はキドウを暗殺しようとしますがキドウは極東を去り、長い旅の末、E-05に辿り着きました。
話を聞いたイリはキドウを励まそうと部屋を訪ねます。
初めはイリを拒絶するキドウですが、イリの想いに触れ立ち直ります。
翌日、キドウはカシムの相棒であったエディ(声:塩崎智弘)からE-05に査察にやってきている軍が持っていた情報の話を聞かされます。
アニメ『虫籠のカガステル』の感想と評価
3DCGによる迫力の映像
本作『虫籠のカガステル』は新鋭のアニメーションスタジオ、スタジオKAIにより制作されています。
3DCGで描かれる事により、立体感あふれるバトルシーンに力を入れていました。
特に、キドウとアハトが熾烈な戦いを繰り広げるクライマックスの対決では、刃がぶつかり飛び散る火花や血しぶき立体的に拡散する演出は、立体感のみならず、臨場感あふれる白熱のバトルになっています。
また、キャラクターを描く上で瞳の動きによる表情の変化が表現されている点も見事でした。
とりわけ、心境の変化を表現する際の一瞬、揺らぐ瞳の動きで表情には現れないものの僅かに垣間見える動揺や驚きが感じ取れました。
単純に“見せる”映像だけでなく細かな部分にこだわった繊細な作画は重厚なストーリーを余すところなく表現しています。
残酷な世界で「何者」として生きていくのか?
本作で描かれている世界は人間がカガステルの脅威に脅かされて恐々とし、人々がどこか自分たちの生き方や在り方に囚われている中、主人公・キドウとイリは自分たちの生き方を見つけます。
劇中でキドウは自身に何度も「駆除屋は“剣”であれ」と言い聞かせ、生き残るため、“感情”を無駄なものと切り捨て、他者に対して非情になろうとしますが、人一倍、感じやすく、情け深いキドウにとって、その言葉は心の苦しみを表す“呪い”のようにのしかかります。
特に、物語の中盤、キドウに歩み寄り始めたもののカガステル化したカシムを殺め、その後、新たに負った心の傷さえも否定しようとする様子は、前述のキドウの苦しみをもっとも表す場面に感じます。
ですが、キドウはイリとの出会いで知らず知らず、人間らしい感情を否定することが無くなっていきます。
しかし、そのイリもカガステルを制御するため生み出された“女王”であり、アドハムの陰謀に巻き込まれ、自らの出自に苦しみ、一度はその運命を受けいれますが、その身を運命に委ねるのではなく、自分の想いを遂げるため行動を起こします。
また、単身でイリを助けに向かったキドウは、自らの意思や衝動と言った彼の言う“剣”ではなく一人の人間として感情を元にしています。
そして、最後にはイリがカガステルの女王であり、人をカガステルに変えてしまうかもしれないという不安を抱えながらも、人として生きていく事を決意し、キドウはイリと共に歩みはじめます。
“剣”であると自分を規定していたキドウ、“女王”として生み出されたイリ、自らの出自に関わらず、ただの人間として歩もうとする2人はある意味、もっとも過酷な道を選んだのかもしれません。
しかしながら、人は決意と覚悟を持ち、信じた道を歩いて行ける、そんなメッセージを本作から感じ取ることができました。
まとめ
劇中、「乾いた傷は自分の一部、癒そうとするものではない」と言うセリフが登場します。
キドウの過去を語って聞かせるマリオがイリに感想を求めた際に発したその言葉は、つらい過去は忘れるものではなく、痛みが消えても、決して無くなるものではなく、その過去を抱えて生きていくしかないと言う意味で発せられます。
この言葉は現実に生きる私たちにとってもどこか身につまされるように感じられます。
それだけに残酷な世界でいくつもの“乾いた傷”を持つキャラクターたちが前を向いて歩み続ける『虫籠のカガステル』に勇気をもらえるのかもしれません。