連載コラム「未体験ゾーンの映画たち2019見破録」第45回
ヒューマントラストシネマ渋谷で開催中の“劇場発の映画祭”「未体験ゾーンの映画たち2019」。今回は悪魔との対決を描いた映画が登場します。
ウィリアム・フリードキン監督が『エクソシスト』が発表すると、世界的なオカルトブームを巻き起こし、悪魔憑き・悪魔祓いという言葉は一躍世に知られ、社会現象になりました。
ホラー映画、ドラマのテーマとして定着した感のある悪魔祓い。近年映画『エクソシスト』が、テレビシリーズ化されるなど、このジャンルは新たな映像化ブームを迎えています。」
そしてまた、悪魔憑き・悪魔祓いを扱った新たな映画が誕生しました。
第45回はエクソシスト・ホラー映画『悪霊館』を紹介いたします。
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CONTENTS
映画『悪霊館』の作品情報
【日本公開】
2019年(アメリカ映画)
【原題】
Along Came the Devil
【監督】
ジェイソン・ドゥヴァン
【キャスト】
シドニー・スウィーニー、カイラ・ディーヴァー、ジェシカ・バース、ブルース・デイヴィソン、マディソン・リンツ、マット・ダラス
【作品概要】
幼い頃に母が失踪し、酒に溺れ荒れた父と暮らしてきたジョーダンとアシュリー姉妹。高校生になり、叔母と暮らし始めたアシュリーは、ある日母の霊を呼び出そうと、友人と共に降霊術を行います。
彼女が招いたものは、この世のものならざる邪悪な存在でした。
主人公アシュリーをTVドラマ『シャープ・オブジェクツ』(スター・チャンネル放送時タイトル『KIZU -傷-』)に出演の若手女優、シドニー・スウィーニーが演じます。
シドニーの叔母ターニャを、コメディ映画『テッド』シリーズで、あのテッドの妻を演じたジェシカ・バース、物語の鍵となる人物マイケル牧師を名バイプレーヤー、ブルース・デイヴィソンが演じて脇を固めます。
ヒューマントラストシネマ渋谷とシネ・リーブル梅田で開催の「未体験ゾーンの映画たち2019」上映作品。
映画『悪霊館』のあらすじとネタバレ
悪霊は、天使の顔で現れる。新約聖書の一文です。
幼い頃、母が失踪したジョーダンとアシュリー姉妹。ジョーダンは大学に進学を機に、母の妹と暮らすのアシュリーは、故郷の街へと帰ります。
まだ姉妹が幼い頃の姿が映し出されます。姉のジョーダンに、母はどんな人だったか尋ねるアシュリー。ジョーダンは妹に母は美しい人だったと告げます。
妹のもの同じとペンダントを、いつも母は身につけていた事をジョーダンは教えます。
そこに会話を聞きつけた父親が現れ、喋るなと言っただろうと叱りつけ、姉妹をクローゼットに閉じ込めます。沈黙を守る姉妹は、父が女を連れ込む姿を目撃します。
ママがいたらいいのに、と呟くアシュリーを姉が慰めます。神に祈りを捧げ眠りにつく2人。
目を覚ましたジョーダンは、アシュリーがいないと気付き、まだ暗い中妹を捜しにクローゼットから出ます。トイレにいたアシュリーを見つけましたが、父の相手の女が姉妹に気付きます。
相手の女は、子供がいるのに女を連れ込んだと父をなじって出て行きます。怒った父は、言いつけを守らなかった姉妹に、折檻をくわえようと近寄ります。
10年後。アシュリー(シドニー・スウィーニー)に、今日は教会に行かないの、と声をかける叔母のターニャ(ジェシカ・バース)。アシュリーは、今日は転校初日の準備をすると言って断ります。
高校生のアシュリーは現在叔母と共に暮らしており、幼い頃育った故郷に越してきたばかりでした。
叔母と言葉を交わしたアシュリーは、母サラの写真を収めたフォトフレームを手に取った後、外出します。フォトフレームは独りでに床に落ち、ガラスが割れた事にターニャは気付きます。
街の教会では若い牧師ジョン(マット・ダラス)が、自分を迎い入れてくれたマイケル牧師(ブルース・デイヴィソン)に感謝の言葉を述べていました。
ジョンの働きを褒めるマイケル牧師ですが、ジョンが彼の持つ悪霊に関する本に関心を示すと、多くを語らずそれを元の場所に仕舞わせます。
自転車で街を散策するアシュリー。子供時代の思いにふける彼女の名を呼ぶ者がいます。それは幼馴染みのハンナ(マディソン・リンツ)でした。
再会を喜ぶ2人。幼い頃アシュリーは、ハンナにお別れもせず引っ越していました。近況を聞かれたアシュリーは、今は叔母と共に暮らしており、姉ジョーダン(カイラ・ディーヴァー)は奨学金で大学にいっていると説明します。
ハンナに誘われ彼女の家を訪れます。ハンナの部屋に招かれますが、彼女は心霊や悪魔といったオカルトに興味がありました。映画『エクソシスト』は見た事あるかとアシュリーに尋ねるハンナ。
ハンナは同世代の仲間についても話します。昔カメを飼っていた男の子、シェーンはイケメンになったと教えるハンナ。彼女は今晩仲間が集まるパーティーにアシュリーを誘います。
無人の家に帰宅したターニャは妙な物音が気づきますが、そこにアシュリーがハンナを連れ帰ってきます。ハンナが教えたパーティーに行きたいと言うアシュリーに、ターニャは許しを与えます。
闇に包まれた森の中を歩くアシュリーとハンナ。湖の桟橋の上にある小屋に、若者たちが集まっていました。
ハンナはアシュリーを、同世代の男の子であるシェーンやブライスに紹介します。シェーンはアシュリーにおかえり、と声をかけ再会を喜びます。
会話が弾む中、ハンナはスマホのEVP(電子音声現象)アプリを起動させ、TV番組の『ゴーストハンターズ』の様に、霊を捜そうと提案します。EVPで霊界の声や活動が確認できると言うのです。
アシュリーはきみ悪がりますが、皆は興味を持ちEVPアプリを起動させ注目します。自分の名を呼ぶ声を聞き、何かの気配を感じるアシュリー。
突然悲鳴をあげたアシュリーに皆驚きます。ハンナに母が近くにいたように感じたと訴え、彼女は1人で帰ります。森の中を進むアシュリーに、怪しい気配が迫ります。
帰宅したアシュリーを迎えたターニャも、自分を名を呼ぶ声を聞いていました。風呂に入ったアシュリーは幻覚を見て悲鳴を上げ、ターニャがかけつけます。
叔母と言葉を交わし、落ち着きを取り戻すアシュリー。ターニャはアシュリーが姉に似てきたと語ります。アシュリーが身に付けているペンダントは、ターニャが16歳の時、姉サラにプレゼントしたものでした。
ターニャはあなたは強いとアシュリーを励まし、明日の転校初日に備え、もう休むように言い聞かせます。
夜ベットで休むアシュリーの周囲に、怪しい物音が響き奇妙な現象が起きていました。
翌朝、街の風景を写真に収めていたジョン牧師は、アシュリーに気付き声をかけます。ターニャから彼女の事を聞かされていたジョンは、彼女も写真が趣味と知り親しく言葉を交わします。
高校へ向かうアシュリーは、ハンナに出会います。彼女はまたEVPをやらないかと提案してきました。彼女はアシュリーが出会ったのは母親の霊ではないか、と考えていました。
授業中、うわの空でアシュリーは、突然悲鳴を上げ周囲を驚かせます。ハンナはパーティーの夜以来、アシュリーの周囲に何かが起きていると確信します。
アシュリーはシェーンの車に送られ帰宅します。明日の登校の迎えに来ると約束するシェーン。帰宅したアシュリーは、子供の声や物音を聞き取ります。そして家に中には、何かがいました。
突然ハンナが現れアシュリーは驚きます。家の物音はハンナがたてたと考えますが、ハンナには心当たりがありません。一方ハンナは、アシュリーの部屋の中に異臭を感じていました。
ハンナは彼女の周囲にいる存在が、アシュリーの母、サラであるか確かめようと提案します。蝋燭を立て、霊界に通じる道として鏡を用意し、2人は降霊術を行います。
母に呼びかけるアシュリー。しかし怪しげな周囲に気配に、ハンナは間違いを犯したと気付きます。何人かの人影が現れ、その背後に人ならぬものの気配があります。
2人の前に帰宅したターニャが現れ、何をしているのか尋ねます。ハンナはアシュリーに、あれはお母さんじゃない、と言い残し帰りました。
校長からアシュリーの学校での振る舞いを聞いていたターニャは、心配して姪に話しかけます。2人の会話はサラが話題となり、サラとターニャがやったいた様に、映画を見ながらポップコーンを食べようという事になります。
テレビの前で、姉との楽しい思い出をアシュリーに語るターニャ。2人はいつしか眠っていましたが、ターニャは過去の出来事を夢に見ていました。
ターニャに妊娠したと告げるサラ。彼女は頭の中で声がすると、悪い事でもせずにいられなくなると、ターニャに訴え助けを求めます。誰かの助けが必要だと答えたターニャは、姉をお守り下さいと神に祈ります。
目覚めたターニャに、アシュリーはもう寝ると告げ、寝室に向かいます。
眠るアシュリーの周囲でハエの羽音が響き、怪しい影がアシュリーに迫ります。
翌朝、食欲が戻ったと叔母に告げるアシュリー。ターニャは彼女の肩に傷があると気付きますが、尋ねられたアシュリーはぶつけただけと答えます。
迎えに来たシェーンの車に向かうアシュリーは、露出度の高い服を着ていました。シェーンに対し、冒険がしてみたいと告げた彼女がハンドルを握ります。
そんなアシュリーの姿を、ターニャは不安げに見ていました。
アシュリーとシェーンは登校せず湖に向かいます。アシュリーからの積極的なアプローチにショーンは戸惑いますが、彼女の求めに応じキスをします。
激しくキスをしたアシュリーは、シェーンの舌を深く噛んで出血させます。
職場のターニャは、学校からアシュリーが登校していないと連絡を受け早退します。ハンナも登校せず、電話しても連絡のとれないアシュリーの身を案じていました。
帰宅したターニャは物音聞き、アシュリーがいると思い彼女の部屋に向かいますが、そこには誰もおらず異臭を嗅ぎ取ります。一方ハンナは誤って呼び出した悪霊が、アシュリーに憑りついたと考えていました。
帰宅したアシュリーの、血にまみれた顔を見てターニャは驚きます。
教会では明日の集会の準備をするジョンを前に、マイケル牧師が酒を飲んでいました。信仰に関するジョンの問いに、マイケル牧師は闇を破壊し正したいと答えます。
しかし私は、全ての正しい魂を救う事は出来なかったと口にするマイケル牧師。ジョンは牧師が何を語っているのかは差し置いても、信仰に従って彼へ協力する事を約束します。
ターニャはアシュリーを連れ病院に向かいました。診察された精神科医から心と体を癒すよう言われ抗うつ剤、鎮静剤を処方されますが、彼女は安らかに眠れません。
アシュリーの身を案じたハンナは、自転車で彼女の家の前に現れメールを送り、アシュリーの部屋を見上げます。
窓にはアシュリーと、人ならぬ者の姿がありました。驚いて逃げ出し交通事故に巻き込まれるハンナ。
翌朝、アシュリーのスマホのEVPアプリが起動している事に気付いたターニャ。自分を呼ぶ声に気付いたターニャは、超常現象についてネットで検索し、1日を過ごしてしまいます。
教会の日曜の礼拝に参列したアシュリーとターニャ。牧師の言葉を前にうつむいていたアシュリーは、体を動かし何かを呟き始めます。
やがて恐ろしい形相となって、神を冒涜する言葉を叫び出すアシュリー。ジョン牧師と参列した人々は驚きます。
マイケル牧師はアシュリーの魂は危険にさらされており、力になろうとターニャに申し出ますが、彼女はサラの時は失敗したと非難し、アシュリーを連れ立ち去ります。
マイケル牧師はジョンと事務室に向かうと、彼に過去の出来事を打ち明けます。
私は余りに多くの悪を見てきた。悪魔憑きは存在する、と語り始めます。
映画『悪霊館』の感想と評価
ここから始まる?アトランタ発のエクソシスト
なんとも衝撃なラストに、紹介されながらも全く活躍しない主人公の姉。物語はここから始まる、というドラマのパイロット版の様な展開に、驚いた方も多い模様です。
この映画はジェイソン・ドゥヴァン、ヘザー・ドゥヴァン夫婦を中心に製作されました。ジェイソン・ドゥヴァンは監督・脚本を、ヘザー・ドゥヴァンは脚本、そしてサラの役で出演しています。
90年代からジェイソン・ドゥヴァンはCM・ビデオゲームなど出演、ヘザー・ドゥヴァンはモデルとして広告業界で活躍、共にエンタメ業界でのキャリアを積んだ人物です。
結婚して20年以上になる2人は、LAとアトランタを拠点に家族経営のプロダクションを設立、この作品を実現するプロジェクトを2015年に立ち上げ、ついに完成したのがこの映画です。
ドゥヴァン夫妻のプロダクションは『悪霊館』の次回作の脚本も用意しており、本作はシリーズ化や更なる展開を意識して製作されました。
『悪霊館』の続きがありそうなラストの背景には、この様な事情がありました。
クオリティの高い映像とホラー描写を支えた人々
本作はインディーズホラー映画ですが、雰囲気ある映像、また特殊効果シーンなどは見応え充分。VFXは『THE JUON/呪怨』シリーズに参加、サム・ライミ監督の『スペル』でスーパーバイザーを務めたアーロン・カミナーが務めています。
映画として格調高い映像を手がけたのはジャスティン・デュバル。様々な撮影現場で経験を積んだキャリアを持つ人物ですが、本作の他に撮影監督として関わった長編映画に、悪趣味映画の代表作として名高い「悪魔の毒々モンスター」シリーズでお馴染みの、トロマ映画があります。
ロイド・カウフマン監督作品『Return to Nuke ‘Em High Volume 1』『Return to Return to Nuke ‘Em High Aka Vol.2』という2作品、「悪魔の毒々ハイスクール」シリーズの撮影監督を彼は務めています。
参考映像:『Return to Return to Nuke Em High aka Vol.2』(2017)
低予算と悪ノリに、更に磨きのかかった感のあるトロマ映画らしい予告ですが、『悪霊館』の映像はうって変わった本格派。彼の実力が存分に発揮されています。
『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』シリーズ監督・脚本のジェームズ・ガンも、トロマ映画でキャリアを積んでから、『マーベル・シネマティック・ユニバース』の大作を手がける人物になりました。
低予算悪ノリ映画の雄、トロマは今も映画人を育てる役割を果たし続けています。
重要な登場人物である、マイケル牧師を演じたブルース・デイヴィソン。『いちご白書』で人気となり、現在も映画、ドラマに精力的に出演しています。
近年はロブ・ゾンビ監督作『ロード・オブ・セイラム』や、『インシディアス 最後の鍵』(日本ではDVDスルー、ネット配信公開)など、ホラー系の作品で見かける事が増えてきました。
参考映像:『インシディアス 最後の鍵』(2018)
彼の演技も作品の質を上げていますが、彼は牧師や神父を演じる際には、40年来の友人であり、オラー映画そして悪魔祓いのファンでもあるという、著名なギリシャ正教会司教のアドバイスを参考に、役を演じていると話しています。
テレビドラマ『エクソシスト』のシーズン1の最終回で、教皇役を演じているブルース・デイヴィソン。これからも本作のような役柄に縁がありそうです。
まとめ
インディーズ映画でありながら、本格的な雰囲気で見せる作品『悪霊館』。ラストは続編を意識したものになっていますが、劇中の悪魔憑き・悪魔祓い描写はホラー映画ファン納得のもの。
ドゥヴァン夫妻の家族経営のプロダクションは、他にもスリラー映画の企画を用意しており、ハリウッドとアトランタを行き来し活動を続けています。
「未体験ゾーンの映画たち2019」で上映中の『オッズ』は、ナッシュビルを拠点に脚本と映画製作を指導してきた、ボブ・ジョルダーノ監督が地元を舞台に製作した映画です。
様々な形で地方からも、エンタメ性の高いインディーズ映画が製作されているアメリカ。ハリウッドを支える裾野の広さを、我々に再確認させてくれます。
次回の「未体験ゾーンの映画たち2019見破録」は…
次回の第46回はインドネシアを舞台に、孤独なヒットマンの闘いを描いたアクション映画『メッセージマン』を紹介いたします。
お楽しみに。