連載コラム「未体験ゾーンの映画たち2019見破録」第44回
ヒューマントラストシネマ渋谷で開催中の“劇場発の映画祭”「未体験ゾーンの映画たち2019」。今回はバイクを操る、危険な男たちを描いた映画が登場します。
『マッドマックス』を初め、数多くの路上を舞台にした、アウトローが活躍する映画を生んだオーストラリア。
そのオーストラリアのモーターサイクル・ギャングの世界を舞台に、激しく繰り広げられる抗争劇を描いたアクション映画が登場しました。
第44回はバイオレンス・アクション映画『モーターギャング』を紹介いたします。
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CONTENTS
映画『モーターギャング』の作品情報
【日本公開】
2019年(オーストラリア映画)
【原題】
One Percent
【監督】
スティーブン・マッカラム
【キャスト】
ライアン・コア、アビー・リー、シモーヌ・ケッセル、マット・ネイブル、アーロン・ペダーセン
【作品概要】
服役中のボスに代わり、モーターギャングクラブを仕切っていたパドー。しかし同じ組織に属する実の兄が、他のギャングとトラブルを起こします。そのトラブルの最中に出所してきたボス。周囲の人間の思惑が重なり、事態は思わね抗争劇へと発展します。
主人公が愛する女ギャングを、『マッドマックス 怒りのデス・ロード』そして『ネオン・デーモン』に出演した、アビー・リーが演じます。
ヒューマントラストシネマ渋谷とシネ・リーブル梅田で開催の「未体験ゾーンの映画たち2019」上映作品。
映画『モーターギャング』のあらすじとネタバレ
トンネルを通り抜ける無数の大型バイク。これから“モーターサイクル・ギャング”たちの物語が始まります。
住宅が立ち並ぶ中をマーク、と大声で叫びながら現れる男。
マーク、仲間からはパドー(ライアン・コア)と呼ばれる男は、同棲しているカトリーナ(アビー・リー)と自宅で、2人のひと時を楽しんでいました。
そこに先程叫んでいた男、パドーの兄スキンクが現れ、殺されると訴え彼に泣きつきます。訝しる間も無く男たちが乱入し、3人は家から引き出されます。
パドーとカトリーナ、スキンクはモーターサイクル・ギャングクラブ、“コッパーヘッズ”に属していました。3人は敵対するギャングクラブ“デビルズ”に拉致されたのです。
ひざまずかされた3人の他に、1人の男がいました。“デビルズ”は銃を用意すると、殺るか、殺られるかだと告げ、スキンクに銃を渡し男を撃たせようとします。
怯え切ったスキンクは撃てず、代わりにパドーが撃ちますが銃は空でした。それを見た“デビルズ”のボス、シュガー(アーロン・ペダーセン)が男を射殺します。
この男とスキンクが俺からヘロインを盗んだ、と言うシュガー。ギャングの掟を破ったとして、落とし前をつける事を求めます。
何ならカトリーナを差し出すか、と挑発するシュガー。しかし態度を改めると、パドーに話をもちかけます。
兄貴を助けたければビジネスの話をしよう、“デビルズ”が“コッパーヘッズ”の稼いだ金を使えるように洗浄し、代わりに手数料を30%頂くと提案します。
この取引を飲めばスキンクは殺さないと告げ、シュガーら“デビルズ”の面々は立ち去ります。
なぜやったとスキンクに問うパドー。スキンクは新しいバイク欲しさにヘロインの取引を行い、シュガーの怒りを買いました。騙されたと言い訳をするスキンク。
スキンクは残された遺体を埋め、パドーはカトリーナの無事を確認します。
“コッパーヘッズ”のメンバーがたむろするクラブに現れたマークを、誰もがパドーの通称で呼び歓迎します。パドーは“コッパーヘッズ”の幹部でした。
クラブでクスリを使用していた女ジョーシーを、ルールを破ったとして追い出すヘイリー(シモーヌ・ケッセル)。彼女は“コッパーヘッズ”のボス、3年間服役中のナック(マット・ネイブル)のパートナーで、今はクラブを仕切っていました。
パドーはヘイリーと共に、出所間近のナックと面会しに刑務所へ向かいます。
刑務所内で、若い囚人と関係を持つナック。行為を終えると相手を追いやります。
服役中のナックはパドーを信頼し、“コッパーヘッズ”を任せましたが、組織の中で力を増してゆくパドーの存在が、ヘイリーには不安でした。面会した彼女はナックそれを訴えます。
パドーはあくまで代理だと言うナックに、ヘイリーは出所したら皆にボスだと示すよう求めます。
次いでナックと面会したパドーは、“デビルズ”からの提案をボスに説明します。様々な手段で現金を集めても使えない、資金洗浄の話は受けるべきだと伝えます。
しかし手数料は30%。いつから“デビルズ”のお友達になったと、不満げに言うナックに、いい話だと説得するパドー。
ナックは来週、出所する日に“デビルズ”のボス、シュガーに会わせろと言い、面会を終えます。
自宅に戻ったパドーをカトリーナが迎えます。ボスが不在の3年間、“コッパーヘッズ”を見事に仕切り成長させたパドーが、ナックの出所後その下になる事が彼女には不満でした。
何とか“デビルズ”からの提案を、説得してナックに呑ませると言うパドーに、あなたがボスになるべきだと言うカトリーナ。パドーは笑って彼女を抱きます。
出所の日、ナックは刑務所で関係をもった男に誰にも言うな、言えばここに戻ってお前を殺すと口止めします。
パドーの家では、スキンクが何度も自分の頭を打ち付けていました。兄をなだめるパドー。子供の頃虐待されたスキンクは、心に傷に苦しんでいました。
クラブに“コッパーヘッズ”のメンバーが集まります。パドーはクラブのマネージャー、モトゥや用心棒の巨漢ウェビーと言葉を交わし、カトリーナは失業したメンバー、デイブを皆で助けるよう声をかけます。
ヘイリーは1人でナックの出所を出迎えます。家に帰ると抱き合う2人。ヘイリーはナックに子供が欲しいと囁きます。
パドーはナックと共に、バイクで“デビルズ”のボス、シュガーに会いに酒場へ向かいます。
シュガーはナックに酒を勧め、パドーに提案したビジネスの話をしますが、ナックは彼を殴りつけます。
ボスは俺で、俺以外に商売を持ちかけるなと告げるナック。いきり立つ手下を制し、シュガーはあざ笑ってナックを見送ります。
ボスの出所を祝いに、“コッパーヘッズ”の屈強な男たち、その女たちが集まっていました。ナックが現れますが、彼が服役中に加わった見知らぬメンバーもいました。
“コッパーヘッズ”のパーカーを来た、新たに加わった会計士のデビットを見たナックは、それを脱ぐよう強要します。
パドーはデビットを組織の役に立つ男としてメンバーに加えましたが、彼が大型バイクにも乗れず、そして何かとパドーを頼る姿が、ナックの気に入りません。
新たに作ったパーカーを、ボスが気に入らぬと知った他のメンバーは、慌ててパーカーを火にくべます。
気になるジョーシーに気付いたスキンクは、勇気を出して彼女に声をかけます。
今後はナックが全て仕切るようになると言うヘイリーに、“コッパーヘッズ”を大きくしたパドーの功績を強調するカトリーナ。2人の女は対立していました。
ナックはあの会計士、デビットの就任式を行うと宣言します。デビットを散々殴り、その上で“コッパーヘッズ”とボスのナックへの忠誠を誓わせます。
ナックは今後“コッパーヘッズ”に加入する者の推薦は、俺の許可が必要だと宣言します。
そして忠誠を誓った血みどろのデビットを、正式にメンバーとして認めます。一同は歓声をあげ狂喜するデビット。
ウェビーはデビットの傷を縫うよう指示され、別室に彼を連れて行きます。そしてデビットには女があてがわれます。
パドーは出所祝いに用意した新しいバイクを、ナックにプレゼントしますが、彼は自分には気に入ったバイクがあると言って、受け取りを拒否します。
メンバーに力を見せつけ、何かとパドーを軽んじる態度をとるナックに、何が不満なのかパドーは尋ねます。
ナックの不在の間、パドーは組織を大きくし、資金も潤沢に集まるように育てました。以前より状況は良く、今後は賢く振る舞うべきだと訴えます。
しかしナックは、パドーが“デビルズ”のシュガーに何か吹き込まれたと疑っていました。
その頃スキンクはジョーシーの気を引く為に、密かにクスリを勧めていました。そしてヘイリーとカトリーナは、それぞれナックとパドーの肩を持って言い争い、対立を深めます。
ナックはデビッドに声をかけ、彼がまだ大型バイクを持っていないと知ると、パドーから贈られたバイクを彼に譲ります。その意図に戸惑うデビット。
ジョーシーがまたクスリをやったと気付いたヘイリーは、彼女を皆の前で責めます。追求にジョーシーはスキンクから手に入れたと告白します。
クラブでのクスリの使用は掟に反する行為。スキンクは彼女に売らず、譲っただけだと説明しますが、パドーがスキンクを殴りつけます。
兄が掟を破り、“コッパーヘッズ”での立場を失ったパドー。それでもスキンクをかばい、ジャケットを脱いでクラブを後にします。その後を追うカトリーナ。
帰宅後泣きじゃくり、失禁までしたスキンク。その彼をカトリーナが慰め世話をします。
翌朝、皆が帰りクラブは閉店していました。店内を掃除するデビットに近寄るナック。そしてナックは強引に彼をレイプします。
散らかったままの店内を見たウェビーは怒りますが、ナックとデビットの姿を見て察すると、クラブの外を掃除し始めます。
パドーは自宅でカトリーナに、ここを離れ全てを棄て、誰も知る者のいない土地クイーンズランドで暮らさないかと提案します。
しかしカトリーナは、今まで築いたものを失いたくないと拒み、ナックがあなたを恐れている、あなたは逃げるような男ではないと励まします。
パドーは単身“デビルズ”のシュガーに会いにいきます。ナックと組めば必ずトラブルになる、俺はお前と組みたいと語るシュガー。
お前が“コッパーヘッズ”を継げ、ダメなら兄貴を殺すと続けるシュガー。その時は俺も殺せとパドーは答えます。
一方帰宅したナックを、なぜ遅かったとヘイリーが尋ねますが、彼は理由を答えません。誘ってきた彼女を拒絶したナックは、お前に飽きたのかもしれない、と口にします。
怒って去るヘイリーに、ナックは思わず口に出た自分の発言を後悔します。
シュガーとの会談を終えたパドーは、その内容をカトリーナに告げます。もうナックを殺るしかない、と言うカトリーナ。出ていこうとパドーが提案しても、彼女は聞く耳を持ちません。
ナックを殺せば俺もお前も、兄もいずれ殺される。そう語るパドーに、彼女は舌打ちします。
翌日、“コッパーヘッズ”のメンバーが集まる前で、パドーはナックと直接対決します。パドーとスキンクの追放を宣言するナックに、パドーは自分のやり方なら合法的に稼ぎ、仲間を守る事が出来る、だがその機会をナックが潰したと訴えます。
しかし多くのメンバーはボスの意向に従い、パドーに付く者は僅か。パドーたちの追放が決定されます。一方カトリーナはナックとデビッドの関係に気付きます。
家に戻ったカトリーナは、パドーに付いた僅かな仲間を帰らせると、全てアンタのせいとスキンクを責めます。
そして彼女はヘイリーに会いに行きます。勝ち誇るヘイリーに、ナックは男と浮気していると告げて去るカトリーナ。
彼女が去った後、ヘイリーはパドーの仲間であったデビッドが、ナックの傍にいる姿を目撃し2人の関係を悟ります。
自宅に戻ったカトリーナは、パドーがナックと対決する意図が無いとみると、兄のスキンクを責め始めます。苦境に立つパドーは引っ越すしか、一生逃げ回るしかない。ナックに追い出されるけどパドーは悪くない。
パドーに愛想をつかされるよ、という言葉がスキンクを追い詰めます。
そしてパドーも、これからどう動くべきかを1人悩んでいました。
映画『モーターギャング』の感想と評価
様々なモーターサイクル・ギャングの世界
アクション・バイオレンス映画に、パロディの対象やゲイカルチャーのアイコンとして、様々な形で登場し、映画ファンにお馴染みのモーターサイクル・ギャング。
メディアによって伝説化された、彼らの実態と映画との関係を簡単に解説しましょう。
第二次大戦後、アメリカに多くの兵士が復員しましたが、社会に馴染めぬ者も多数いました。そしてバイクを軸に集まった集団の中に、非合法活動に手を染める団体が現れました。
元軍人が多かっただけに、組織に軍隊的な規律を持ち込み、ルールに縛られないアウトローであり、反体制でもヒッピー文化の対極にある存在として、世に知られていきます。
とくに有名な団体が“ヘルズ・エンジェルス”。国境を越えて組織を広げ、最も危険で最も有名な集団に、かのロジャー・コーマンが映画の題材にしようと目を付けました。
参考映像:『ワイルド・エンジェル』(1966)
こうしてロジャー・コーマン監督作『ワイルド・エンジェル』が1966年に製作されました。主演はピーター・フォンダ、エキストラに“ヘルズ・エンジェルス”のメンバーが多数登場しています。
なおこの映画に助監督、実は脚本・撮影・編集とあらゆる分野で奮闘したのがピーター・ボグダノヴィッチ。彼もハリウッドの“コーマン・スクール”出身の一員です。
この映画のヒットでバイカー映画の人気に火が付き、1967年の『爆走!ヘルズ・エンジェルス』にジャック・ニコルソン、『続・地獄の天使』はデニス・ホッパーが主演しています。
こうしてバイカー映画の洗礼を受けたメンバーが、後にアメリカン・ニューシネマの傑作『イージー・ライダー』に結集します。
その後も新たなメンバーを加え、アメリカから国境を越え、世界に広がったモーターサイクル・ギャング。“ヘルズ・エンジェルス”はオーストラリアにも支部を持っています。
オーストラリアで誕生したモーターサイクル・ギャングが“ザ・レベルズ”。同国最大のギャング集団と呼ばれています。彼らの存在がオーストラリアに『マッド・マックス』や、『マッドストーン』などのアウトロー映画を生み出す原動力になりました。
参考映像:『マッドストーン』(1974)
当然ながらほとんどのバイカーは善良な人々。集団で走っても同好の士。モーターサイクル・ギャングの存在に憂慮した、アメリカン・モーターサイクリスト協会は「99%のバイク乗りは、遵法的です」との声明を発表しました。
それに対しモーターサイクル・ギャングたちは、「我々は残りの1%だ」と称し、かえって団結して活動を継続しています。
『モーターギャング』の原題『One Percent』はここに由来し、劇中の“コッパーヘッズ”“デビルズ”双方のメンバーが、ジャケットに「1%」のワッペンを付けています。
異色俳優マット・ネイブルが描いた男たち
この映画で主人公の敵役、“コッパーヘッズ”のボスを演じたのがマット・ネイブル。
参考映像:『リディック ギャラクシー・バトル』(2013年)
『リディック ギャラクシー・バトル』でヴィン・ディーゼル演じるリディックと、最後まで関わり合う賞金稼ぎを演じていますが、本国オーストラリアでは様々な映画に出ている実力俳優です。
彼は元プロラグビーリーグの選手を経て、2007年自身で脚本を書いたラグビー映画『The Final Winter』で主演を演じ、俳優としてのキャリアを歩み始めます。
以降俳優・作家・脚本家として活躍しています。『モーターギャング』では脚本を執筆し、13.5㎏体重を増やしてこの役に臨みました。
また彼は、自身が双極性障害(躁うつ病)と診断された経験を持ち、それを公表して啓発活動を行い、同じ悩みを持つ人々の手助けにも尽力している人物です。
モーターサイクル・ギャングの凶暴なボスの姿の正体は、社会に貢献する多才な人物でした。
まとめ
『モーターギャング』にはエキストラとして、多数のバイク愛好家が出演しています。その中に「1%」の方が含まれているかは不明です。
映画で描かれた抗争劇は、日本の”実録ヤクザ映画”的なストーリー。痛快さや勧善懲悪より、人の弱さを軸に描いた物語になっています。
普段強面な面々もいざ殴り込みとなると、目当ての敵がいなかったり、逃げる奴がいたり、部下を盾にするという無様な展開。マット・ネイブルが描きたかったものが見えてきます。
バイカー映画に興味が無くても、日本の任侠映画や海外のギャング映画が好きな方は、充分楽しめる展開になっています。
そして「未体験ゾーンの映画たち2019」の、『エリザベス∞エクスペリメント』とは打って変わって悪女を演じたアビー・リー。ファンには必見の姿です。
次回の「未体験ゾーンの映画たち2019見破録」は…
次回の第45回は少女に憑りついた悪魔と、神父との対決を描くエクソシスト映画『悪霊館』を紹介いたします。
お楽しみに。