連載コラム「未体験ゾーンの映画たち2019見破録」第43回
ヒューマントラストシネマ渋谷で開催中の“劇場発の映画祭”「未体験ゾーンの映画たち2019」。今回は皆が待ち望むホラーの定番、ゾンビ映画を紹介します。
世界中で人気のスマホゲーム、ゾンビシューティングゲームの「デットトリガー」。FPS視点(一人称視点)が特徴で、「デッドトリガー2」も配信されています。
そのスマホゲームが、あのドルフ・ラングレン主演で映画化されました。
ゲームの世界同様、集団で迫りくるゾンビを完全武装したキャラクターが撃ち倒していきます。
第43回はゾンビ・アクション映画『デッドトリガー』を紹介いたします。
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CONTENTS
映画『デッドトリガー』の作品情報
【日本公開】
2019年(アメリカ映画)
【原題】
Dead Trigger: Unkilled
【監督】
マイク・カフ、スコット・ウインハウザー
【キャスト】
ドルフ・ラングレン、オータム・リーザー、ロミオ・ミラー、イザイア・ワシントン、クリス・ガリア、オレッグ・タクタロフ、ルシアナ・キャロ、ジャスティン・チョン、ジョエル・グレッチ、ジェフ・ラム、ナタリー・ユラ、加賀美聖良
【作品概要】
ゾンビ感染症が発生し、対ゾンビ特殊部隊CSUが結成されました。メンバーは高得点ゲーマー、格闘家、犯罪者など、ゾンビ退治に特化したスキルの持主で構成されています。
ドルフ・ラングレン演じるウォーカー中尉に鍛えられた、一癖ある彼らが人類の未来をかけた使命を帯びて、ゾンビ退治に出撃します。
ヒューマントラストシネマ渋谷とシネ・リーブル梅田で開催の「未体験ゾーンの映画たち2019」上映作品。
映画『デッドトリガー』のあらすじとネタバレ
2025年、ターミナル・シティ。地に溢れたゾンビの群れを見下ろすウォーカー中尉(ドルフ・ラングレン)。
彼はターミナル・シティの元警官で、現在は対ゾンビ特殊部隊・CSUの一員として戦っていました。
夜の街を彷徨い歩くクリス・ノートン(クリス・ガリア)は、取り出したゴーグル型ディスプレイを身に付けます。
そこにはCSUの隊員を募集する、好戦的なコマーシャルが流れていました。
一方巨大企業サイグローブ社の本部では幹部の女、ルッソが社の経営状況について話していました。
ゾンビ対策に1世帯に12丁は銃があるという現在、ゾンビ感染症の蔓延した世界は、まさに武器の販売で大きな利益を上げる、サイグローブ社のものであるとルッソは豪語します。
サイグローブ社はゾンビ感染症の治療薬を、ターミナル・シティの研究所で開発中でした。完成し独占的に販売すれば、更なる儲けが見込まれます。
秘書がルッソに、ターミナル・シティの研究所からメールが届いたと報告します。ゾンビウィルスの塩基配列が発見されたのです。
ルッソは秘書に、将軍に連絡するよう指示します。
クリスの前に2人の男が現れます。彼らは“デットトリガー構想”に従い、優れたゲーマーであるクリスを、対ゾンビ特殊部隊・CSUにスカウトしに来たのです。
説明を聞いたクリスは、CSUの一員となる事を承諾します。
他にも“デットトリガー構想”に相応しいスキルを持った若者たちの元に、スカウトが現れます。
キックボクシングの試合で、相手をダウンさせたサマンサ・アトキンス(ルシアナ・キャロ)は、ファイトマネーの支払いをケチった興行主を痛めつけてからCSUに参加。
自宅でゲームびたりのダニエル・チェン(ジャスティン・チョン)は、怪訝な表情の家族を残してスカウトに応じます。
母の為に売人からゾンビ感染症を抑える薬LV-420を手に入れようとして、トラブルになったゲーマーのジョラルド・“Gドック”・アンダーソン(ロミオ・ミラー)。
彼はトラブルから逃れるためにも、CSUに加わります。
ゾンビの襲撃を回想していたナオミ・シカ(ナタリー・ユラ)は、復讐のためCSUに参加します。
所在地は秘密にされた対ゾンビ特殊部隊・CSUの基地に、5人の若者は集められました。
集められた候補生たちに、コンラン将軍(ジョエル・グレッチ)は部隊を指揮するロックストック大尉(イザイア・ワシントン)、彼らを教育するウォーカー中尉を紹介します。
ブートキャンプが開始されます。体力では皆に劣り遅れがちなチェンに向け、ウォーカーは銃を放って急がせます。
教習中、ゲーマー出身の候補生を悪く言ったライフル大会優勝経験者の参加者に、ウォーカーはゾンビを殺せれば誰でもいいと言い放ちます。
女軍医のマルケッティ少尉は候補生たちに、ゾンビに噛まれたら感染を防ぐために、噛まれた箇所を切断するしかないと説明します。
実戦訓練の日、候補生の前には銃と、鎖につながれたゾンビが用意されます。
ウォーカーは銃の扱いに慣れた候補生に、ショットガンを渡し実演させますが、放たれたゾンビに慌てた彼は銃を暴発させ死亡します。
シカに剣さばきを見せてくれと言うウォーカー。ゾンビを前に彼女は山刀を巧みに振り回しますが、ウォーカーは無駄な動きが多いと言い、刀で易々とゾンビを倒します。
ウォーカーはシカに、家族を失った悲しみを怒りに変えゾンビにぶつけろと告げます。
ナイフを巧みに操る攻撃的な候補生エリック(ジェフ・ラム)は誤ってゾンビに噛まれ、その腕を切り落とすウォーカー。
サーモバリック弾を放つグレネードランチャーの説明に、マルティノフ中尉(オレッグ・タクタロフ)が呼ばれます。
ゾンビの群れが放たれると、山刀で手際よく切りつけ、容赦なく切断し倒すマルティノフ。ウォーカーは候補生の目前にサーモバリック弾を放ち、ゾンビの群れを吹き飛ばします。
最初にスカウトされた5人の候補生が、脱落せずに残りました。彼らの絆は深まっていきます。
娯楽室で楽しむ彼らに一般兵士らが絡んできます。お前らは兵士でなく、デットトリガーだ。希望は無く、長くは生きれない。
争いになりますがウォーカーが仲裁に入り、候補生らを引き下がらせます。ウォーカーは兵士に、彼らはこの国に残された唯一の希望だ、認めてやれと訴えます。
その頃ターミナル島にある、アドラー博士のサイグローブ社研究所は、無数のゾンビに襲われていました。助けを求めるメールが発信されます。
コンラン将軍は5人の候補生を集め、アドラー博士の研究所との連絡が途絶えたと説明します。
ターミナル島には何千ものゾンビがいるが、生存者も残っているため核攻撃はできません。
ゾンビ感染症の発生源でもあるこの島で、ウィルスの研究が行われていました。生存者と研究の成果を救うため、CSUは出撃する事になります。
コンラン将軍は、ウォーカーに研究所に実の娘がいると打ち明け救出を頼みます。
ロックストック大尉が指揮する、ウォーカー、マルティノフ、マルケッティそして5人の候補生を加えたCSU部隊はヘリに乗り込みます。
ターミナル・シティ外縁部に到着した部隊は、闇の中徒歩で目的地に向かいます。一行は研究所付近に到着しますが、何か気配を感じたチェンが許可なく発砲します。
銃声を聞きつけゾンビが集まります。射撃し倒しても、さらに数を増すゾンビ。
部隊は研究所の建物に入り、入口の自動ドアを閉めバリケードを築きます。上の階から信号をキャッチしますが、バリケードを破りゾンビが研究所に侵入してきます。
ゾンビを倒しながら上の階へと進む一行。ロックストックが最後尾を守りますが、ゾンビの群れに襲われその中に姿を消します。
信号を頼りにチェンが導いた先に、ゾンビ化したアドラー博士がいました。しかし唯一の生存者、博士の助手でコンラン将軍の娘、タラ(オータム・リーザー)は無事でした。
彼女は研究の成果、ゾンビ感染症ウィルスのDNA情報を持っていました。何としても父の元に届けたいと訴えます。将軍である父の手ほどきを受けた彼女は、銃の扱いにも慣れています。
タラを加えた一行は、ウォーカーの指示で脱出を図りますが、その行く手に巨大で凶暴なゾンビ、“被験体ゼロ”が現れます。
無数の命中弾を与えても迫り来る“被験体ゼロ”に、チェンは接近して連射を加えますが、投げ飛ばされ脱落します。サマンサは格闘戦を挑みますが、足を痛め身動き出来なくなります。
一行はマルティノフが壁を破壊して作った穴から脱出しますが、残されたサマンサにウォーカーはグレネードランチャーを渡します。
サマンサは迫る“被験体ゼロ”にサーモバリック弾を発射、共に吹き飛ばされます。
ウォーカーからサマンサの運命を聞かされた“Gドック”は、サマンサの元に駆け付けようとしますが、ゾンビに捕まり姿を消します。残る5人は建物の外に出ました。
ゾンビから逃れたウォーカーは、コンラン将軍にヘリによる救出を依頼しますが、将軍は救出が出来なくなったと告げ、プランBへの計画変更を命じます。
命令を告げる将軍の傍らに、サイグローブ社の幹部ルッソとその部下がいました。将軍はルッソに後悔するぞ、と告げます。
私の援助を受けたくせに、と彼女は答えます。ルッソは部下にコンランを射殺させました。
プランBは、自力で防衛線まで向かう事を意味します。父の意図が判らないと訴えるタラ。
突然、夜空に信号弾が上がります。その場所を確認に向かう一同。廃墟となった建物の中に、鎖につながれたゾンビを発見します。
突然現れた2人の女が銃を突きつけ、ここは私たちの縄張りだと告げます。それはゾンビハンターの双子、ニカとリカ(加賀美聖良)でした。
引き返せと言い張る双子に、ウォーカーは腕が立つなら脱出に協力しろと呼びかけます。
夜が明け、一行はニカとリカを加えて進みます。その前に「生存者に救いを」と大きく書かれた教会が現れます。
その中にはジュリアン神父と、生存者たちがいました。ウォーカーが手を貸して欲しいと頼むと、神父はトラックが1台あると教えてくれます。
ウォーカーとクリスは、建物の外にあったトラックを動かそうとします。ところが教会の中では、マルティノフが仲間に銃を向け、武器を捨てるよう指示していました。
マルティノフはタラから、ゾンビ感染症ウィルスのDNA情報を奪い盗ります。俺はこれで楽園の島へ行くと告げるマルティノフ。
シカは彼の裏切りを、ウォーカーが許さないと言います。トラックの修理を終えたウォーカーとクリスは、乗り込んで教会に向かいます。
教会に戻ったウォーカーを、マルティノフが銃の台尻で殴ります。ウォーカーが反撃しシカも加勢しますが、その際に教会に入り込んだゾンビに、ウォーカーは腕を噛まれます。
それでもウォーカーはマルティノフを殴り倒し、クリスが彼に銃を向け大人しくさせます。
ウォーカーはゾンビ感染症を抑える薬、LV-420を自らに打ちます。残るは1本、駆けつけた軍医のマルケッティは、その効果は一時的だと知っていました。
変異が始まったら自分を撃てというウォーカーに、キスをするマルケッティ。
マルティノフからサイグローブ社が任務を妨害し、ウィルスのDNA情報を入手しようとの動きを知り、ウォーカーは自力で防衛線にたどり着かねばならないと判断します。
神父には後で助けに来ると伝えるウォーカー。神父は信徒を守るために、残ってゾンビと戦うと答えます。
ウォーカーたちはマルティノフを残し、ゾンビを倒しながら教会を出てトラックに乗り込み、軍にゾンビ感染症ウィルスのDNA情報を渡すべく、防衛線へと向かいます。
椅子に縛られたマルティノフに、裁きはしないと告げる神父。信徒の為に力になりたいと言うマルティノフを信じ、神父はロープを解きますがマルティノフは神父を射殺します。
サイグローブ社のルッソは、ウィルスのDNA情報が他者に渡るくらいなら、生存者もろとも消滅して良いと考え、軍にターミナル島の爆撃を依頼していました。
防衛線に向かって脱出を図るウォーカーたちには、様々な危機が迫っていました。
映画『デッドトリガー』の感想と評価
ノロノロ動く正統派ゾンビVSドルフ・ラングレン!
まさかの“夢オチ”ならぬ、“○○○オチ”。あえて知りたいという方はネタバレ・結末の紹介をお読み下さい。
ホラー映画のお約束パターン、最後まで見た者をガッカリさせる事が多い“夢オチ”。中には夢だったけど、これから現実になるんだよ、という変則パターンのオチもあります。
現実→夢だった→現実となる展開。今まで見た映画の内容が、無限ループの様に繰り返すならまさに悪夢。ただしこの映画の“○○○オチ”は、原作ゲームと映画をつなぐ役割を果たしています。
“夢オチ”から現実に、というラストを持つゾンビ映画に『ナイトメア・シティ』、他にも様々な原題・邦題を持っている、いかにもB級というホラー映画があります。
参考映像:『ナイトメア・シティ』(1980)
世界的なホラー映画ブームの中、この映画に登場したゾンビらしきモンスターの、全力で疾走し、武器を使用し、ひどい目にあうと痛がるルール破りの行動が、ファンの呆れと失笑を呼び、かえってカルト的な人気を持った作品となりました。
当時笑われた疾走するゾンビの姿が、後にダニー・ボイル監督の『28日後…』以降、世界を席巻する事になるとは、誰も知りませんでした。
一時はスピード感あるゾンビが世界の主流となりましたが、ドラマ『ウォーキング・デッド』以降、ノロノロ歩くオーソドックスなゾンビの魅力が再認識されています。
そんな姿のゾンビを愛し、コスプレをし、エキストラのゾンビを演じたがる、新たな世代のファンも増えましたが、『デッドトリガー』のゾンビは、このオーソドックスなスタイルで登場します。
ゾンビを演じるエキストラの熱演。弾着はCGで表現していますが、特殊メイクで見せるショックシーンの数々。この作品にはゾンビ映画ならではの楽しみが溢れています。
殺伐とした世界はあの映画のオマージュか?
原作のゲームはFPS視点(一人称視点)ですが、POV方式(視点・主観ショット)で作られた映画ではありません。オーソドックスな劇映画スタイルで製作されています。
冒頭、いきなり登場するCSU隊員を募集する過激なコマーシャル。そのロゴといい、明らかにあの映画を思い出させてくれます。
参考映像:『スターシップ・トゥルーパーズ』(1998)
ポール・バーホーベン監督の過激なSFアクション映画、『スターシップ・トゥルーパーズ』です。
CSU隊員候補生に対する訓練も、その映画の新兵訓練シーンを意識した、殺伐さとブラックユーモアを交えて描かれました。
ドルフ・ラングレンの演技も、『スターシップ・トゥルーパーズ』でクランシー・ブラウンが演じた、ズィム教官を意識したものになっています。
思わずニヤリとさせられるシーンの数々、全編この悪ノリで通してくれても良かったのでは。
ドルフ・ラングレン演じるウォーカー中尉、実に頼りになるイイ奴過ぎて困ります。
世界を相手に活躍中の加賀美セイラ
この作品でゾンビハンターの1人リカを演じているのが、ファッションモデル出身で、マルチに活躍している加賀美セイラ。女優としては加賀美聖良の名を使用されています。
彼女は現在ハリウッドを拠点にドラマ、映画に出演するなど活躍中で、『デッドトリガー』では間違いなく見た者の記憶に残る、印象的なキャラクターを演じています。
世界中を捜しても、金メッキしたAK自動小銃をぶっ放し、ドルフ・ラングレンに殺される女性など、間違いなく彼女しか存在しないでしょう。
そして彼女の役柄は、同じくゲーム原作のゾンビ映画、『バイオハザード ザ・ファイナル』に出演のローラよりも間違いなく大きい、そう自信を持って紹介します。
まとめ
『デッドトリガー』に、“噛ませ犬役”として出演のオレッグ・タクタロフ。彼は同じ「未体験ゾーンの映画たち2019」上映作品『バトルドローン』にも出演しています。
こういった映画に欠かせない彼を相手に、高く足を上げキックを放つドルフ・ラングレン。まだまだアクションは健在だと見せてくれました。
アメリカでも、全世界でも劇場公開映画としての扱いは小さかった『デッドトリガー』。この作品をスクリーンで見れたことは貴重な体験でした。
しかしネット配信の世界では、原作が世界で楽しまれているスマホゲームという事もあり、多くの需要があるようです。特にキャストもあってか、東欧・ロシアでの人気が高いようです。
同じくゲーム原作の映画『ウォークラフト』。アメリカでも日本でも興行は振るいませんでしたが、ゲームの人気が高かった中国で爆発的ヒットという大成功を遂げています。
現在製作されている映画は、世界を相手に様々なニーズに合わせて、多様な形で世界に公開されている事実を忘れてはなりません。
世界を舞台に活躍している加賀美セイラも、思わぬ場所でファンを獲得しているのでしょう。
次回の「未体験ゾーンの映画たち2019見破録」は…
次回の第44回はオーストラリアのモーターギャングの世界を描いたアウトロー映画『モーターギャング』を紹介いたします。
お楽しみに。