連載コラム「未体験ゾーンの映画たち2019見破録」第37回
今年もヒューマントラストシネマ渋谷で開催中の“劇場発の映画祭”「未体験ゾーンの映画たち2019」。今回はNYに君臨した、伝説のギャングの半生を描いた作品が登場します。
幾度となくハリウッド映画に登場する、ニューヨークの裏社会に君臨するマフィアたちの世界。
その中に1980年代に君臨し、派手な振る舞いで世間の注目を集めた人物である、ガンビーノ一家のドン、ジョン・ゴッディがいました。
彼の歩んだ生き様と同時に、多くの一般市民すら魅了したカリスマの姿が描かれます。
第37回はアメリカの実録犯罪映画『ギャング・イン・ニューヨーク』を紹介いたします。
【連載コラム】『未体験ゾーンの映画たち2019見破録』記事一覧はこちら
CONTENTS
映画『ギャング・イン・ニューヨーク』の作品情報
【日本公開】
2019年(アメリカ・カナダ合作映画)
【原題】
Gotti
【監督】
ケヴィン・コナリー
【キャスト】
ジョン・トラボルタ、ケリー・プレストン、スペンサー・ロフランコ、プルイット・テイラー・ヴィンス、ステイシー・キーチ、クリス・マルケイ、ウィリアム・デメオ
【作品概要】
「リアル・ゴッドファーザー」と呼ばれた実在のマフィアのドン、ジョン・ゴッティをジョン・トラボルタが演じるクライムアクション映画。
またゴッティの妻、ヴィクトリアをジョン・トラボルタ夫人である女優、ケリー・プレストンが演じています。
ドラマ『アントラージュ オレたちのハリウッド』など、多くの作品に出演している俳優、ケヴィン・コナリーが本作の監督を務めています。
そして2019年ゴールデン・ラズベリー賞に6部門にノミネートされるなど、通常と異なる視点から映画ファンの注目を集めている作品です。
ヒューマントラストシネマ渋谷とシネ・リーブル梅田で開催の「未体験ゾーンの映画たち2019」上映作品。
映画『ギャング・イン・ニューヨーク』のあらすじとネタバレ
夜の街を背景に「ニューヨークてのは、世界一の街だ」と語るジョン・ゴッディ(ジョン・トラボルタ)。そして彼は続けます。
「マフィアの末路は死ぬか、塀の中だ。俺は両方だ」。
1999年、服役中の刑務所で、厳重に監視され面会室へ向かうゴッディ。それと共に彼の半生が振り返られます。
1973年、マフィァの5大ファミリーの1つ、カルロ・ガンビーノ一家の一員であったゴッディは、幹部から殺しの指示を受けます。
ターゲットはガンビーノの甥の誘拐・殺人事件の主犯と思われる男、ジェイムズ・マクブラトニー。バーにいた彼にゴッティと仲間は警官を装って近づきます。
マクブラトニーに銃弾を浴びせ、止めを刺したゴッディ。1957年から裏社会で生きていた彼は、この功績で正式な一家の構成員となります。
刑務所の面会室でゴッディは、息子のジョン・A・ゴッティ(スペンサー・ロフランコ)と面会します。父と同じ世界に入ったジョンは、自らの裁判を控えていました。
ジョンは父に司法取引させる事で、自分の刑期を短くする事を望んでいました。事態を収束させたいと説明するジョンに、ゴッティは強く反発します。
1974年、ゴッティは刑務所で妻のヴィクトリア(ケリー・プレストン)と子供たちと面会していました。
事件の後ゴッティは逮捕されましたが、検事との取引や圧力の結果、わずか4年の刑を宣告されたのみでした。
しかもゴッディは守衛を買収し、医療行為を名目に外出することまで許されていました。収監されて2年目、外出した彼はギャングのメンバーを殺害し、何食わぬ顔で刑務所に戻ります。
刑務所を出たゴッディは妻子や幼い頃からの友人で、マフィアの仲間であるアンジェロ・ルッジェーロ(プルイット・テイラー・ヴィンス)に迎え入れられます。
アンジェロはゴッティ一家と家族ぐるみで付き合っており、ゴッティの子供たちとも親しい関係でした。
そして功績を認められたゴッティは、5大ファミリーを取り仕切るマフィアの秘密結社、“コーザ・ノストラ”の正式な一員として迎え入れられます。
成績優秀なジョンはミリタリー・アカデミーに入学しますが、父であるゴッディの犯罪がテレビのニュースとなり、学校での居場所を失っていきます。
マフィアの仲間たちと酒を酌み交わすゴッディ。ゴッティが仕えるガンビーノ一家の実力者、ニール・デラクローチェ(ステイシー・キーチ)から幹部たちを紹介されます。
フランク・デチッコ(クリス・マルケイ)やサルヴァトーレ・サミー・グラヴァーノ(ウィリアム・デメオ)など、幹部たちとゴッディは交流を深めていきます。
一方息子のジョンはミリタリーアカデミーを停学になります。ゴッティは驚きますが、ジョンは士官学校への進学を諦め、父と同じ道を進む事を選びます。
ルッケーゼ一家のアンソニー・カッソ(通称ガスパイプ)や、ジェノベーゼ一家のヴィンセント・ジガンテ(通称チン)など、ゴッティは他の一家の動向も見極めていきます。
ガンビーノ一家で最も力を持っているのはポール・カステラーノ。彼がカルロ・ガンビーノの後を継ぎ、一家を仕切っている事がゴッティには不満でした。
1980年、ゴッティの息子の一人フランクが自宅の前で車にひかれ亡くなります。将来を期待していた息子の突然の死に、取り乱す妻ヴィクトリアをゴッティは必死に支えます。
しかしジョンは、独りになったゴッティが泣いている姿を目撃します。
フランクをひいてしまったのは、隣人のジョン・ファヴァラという男でした。ファヴァラはある日何者かに拉致されてしまいます。
ヴィクトリアに、ファヴァラの奴をバットで殴ってやったと告げるゴッティ。ファヴァラはその後二度と姿を現しませんでした。この一件はテレビのニュースでも報道されます。
1984年のクリスマス、ゴッティ家のパーティーにガンビーノ一家の幹部が集まります。幹部たちの間に一家のボス、ポール・カステラーノに対する不満が高まっていました。
1985年、仲間と共に酒場にいたジョンは喧嘩騒ぎを起こし、相手に死人が出ます。ゴッティは息子の犯した不始末を激しく怒ります。
父に責められたジョンをアンジェロ・ルッジェーロは、ゴッティは息子である彼を誇りに思っていると伝え慰めます。ジョンたちが起こした事件の後始末はゴッティらが行いました。
ガンビーノ一家を揺るがす事件が起きます。アンジェロ・ルッジェーロの娘の電話がFBIに盗聴されていたと判明したのです。
FBIの捜査の進展を知るため、ポール・カステラーノはアンジェロにテープを入手し自分に渡すよう要求します。
テープがポール・カステラーノに手に渡ると、アンジェロだけでなく他の幹部の立場も危うくなります。この事態に組織は大きく動揺します。
ゴッティらは組織の重鎮ニール・デラクローチェを頼りますが、彼はガンに犯されていました。
ゴッティや彼の友人ウィリー・ボーイ・ジョンソンなど、ガンビーノ一家の幹部は盗聴テープを基に裁判にかけられます。
ゴッディは100万ドルで保釈されますが、裁判の過程でジョンソンがFBIの情報提供者と判明します。狼狽するジョンソンに、ゴッディは平静を装います。
結局裁判でゴッティやジョンソンは無罪となります。釈放されたゴッディは地元であるNY市内のクイーンズで花火を打ち上げ、人々と共に祝います。
許可を得ず行われた打ち上げ花火を、警官たちが注意にやって来ますが、20年も前からやってる事だとうそぶくゴッティ。警官は引き上げるしかありませんでした。
そんな中、ジョンは後に伴侶となる女性、キムと出会います。
ガンビーノ一家の幹部たちの、ドンであるポール・カステラーノに対する不満は高まっていきます。ゴッティは自分がその地位に就くことを考え始めます。
ゴッティは余命いくばくも無い、ニール・デラクローチェを頼ります。ボス殺しはマフィアの掟に反する行為であり、彼はゴッテイに慎むよう告げます。
しかしニールはゴッティの熱意に負け、もしボスを倒すなら誰を味方に付け、誰を警戒し、他のファミリーがどう動くかをアドバイスします。
そのニールが死ぬと、ゴッティはついに決断します。ガンビーノ一家の主要な幹部を味方に付け、他のファミリーも動かないと見た彼は、ポール・カステラーノ暗殺を決意します。
1985年12月16日、ついにゴッティはフランク・デチッコ、サルヴァトーレ・グラヴァーノらと共に暗殺を実行します。4人のヒットマンにゴッティは自ら計画を伝えます。
46丁目のステーキハウス、スパークスに現れたポール・カステラーノは襲撃され射殺されます。ゴッティはそれを車の中から見届けていました。
ポール・カステラーノ殺害のニュースが流れる中、ガンビーノ一家の幹部は集会を開きます。ゴッティは暗殺犯はいずれ突き止めるとして、まずは新たなドンの選出を提案します。
ドンとして推薦されるゴッティ。幹部たちは全員拍手して賛同を示します。
こうしてジョン・ゴッディは、ガンビーノ一家のドンとなりました。マスコミは「新ゴットファーザーの誕生」「アメリカ最強の犯罪王」と報じます。
映画『ギャング・イン・ニューヨーク』の感想と評価
派手な振る舞いで世間を魅了したジョン・ゴッディ
この映画は実在のギャング、ジョン・ゴッディと、その息子ジョン・A・ゴッティを描いた作品です。
ゴッディは将に映画で描かれたような派手好きな人物。世間の注目を浴びる事を好み、公然と権力に歯向かったマフィアのドンでした。
映画の最後で登場人物の氏名や行動は創作されていると断りながらも、登場人物や出来事はほぼ忠実に描かれています。
ゴッティが街中で花火を打ち上げるシーンも、実際にニューヨーク市民の為に行ったパーティーの出来事で、無論警察に無許可です。そんな振る舞いが市民に愛された犯罪者でした。
また息子を交通事故死させた隣人が、行方不明になった件も有名な実話。映画ではゴッティが直接手を下した説をとっていますが、あくまで現在も「行方不明」とされています。
70〜80年代はスラム化し治安が最悪だったニューヨーク。当時を描いた様々な映画を見ると、その雰囲気が感じとれます。ゴッディは暗黒時代の街で活動したマフィアでした。
そのゴッディの逮捕で再開発が進み治安が回復、世界的な観光名所に変貌してゆくニューヨークの歴史と重なっています。
その姿はギャングが支配する70〜80年代のラスベガスで、ギャングのために働き、派手な振る舞いで注目を集めたカジノのボス、フランク・レフティ・ローゼンタールに似ています。
参考映像:カジノ(1996)
そのレフティを主人公にした映画がマーティン・スコセッシ監督の『カジノ』。レフティ(劇中ではエース)を演じたのがロバート・デ・ニーロです。
ラスベガスも同時代に再開発が進み大手資本が参加し、危険な魅力を持つ賭博場から家族で楽しめる観光都市に変貌しました。『カジノ』でデ・ニーロはその歴史を述懐しています。
同様の時代背景を持つ都市を、実在の人物・事件を基に描いた『ギャング・イン・ニューヨーク』は、様々な面で『カジノ』と重なる作品です。
なぜかラズベリー賞に6部門ノミネートされた作品
ところがスコセッシ、デ・ニーロの代表作として名高い『カジノ』に対し、この映画は2019年ラズベリー賞に6部門ノミネート。一つも受賞出来なかった事が、むしろ残念に思えます。
しかもローリング・ストーン誌が選ぶ、2018年のワースト映画で堂々の2位。ちなみに1位はラズベリー賞受賞作『パペット大騒査線 追憶の紫影』です。
なぜこんな結果になってしまったのか、改めて分析してみましょう。
この作品はジョン・トラボルタとケリー・プレストン夫婦の共演作ですが、この夫婦が共演した映画と言えば、2000年のラズベリー賞を席巻した『バトルフィールド・アース』があります。
参考映像:バトルフィールド・アース(2000)
そして本作は『アントラージュ オレたちのハリウッド』の主要キャストとして人気の俳優、ケヴィン・コナリーが監督を務めています。
これらの事実からこの映画は、ラズベリー賞関係者などから弄られやすい作品でした。また3時間近い上映時間の『カジノ』に対して、この映画の上映時間は1時間50分。
その中でジョン・ゴッディの人生の様々なエピソードと、取り巻く関係者を可能な限り忠実に、時間軸に沿って描いています。
ニューヨークに君臨した実在のマフィアたちが次々登場してしまい、誰が誰であったか、上手く整理されていない状態でした。
ゴッティは次々裁判にかけられますが、何の容疑で捕まり、何を争点に裁かれたのか判り辛いです。しかしこれら事実は、時間に沿って忠実に並べられています。
ジョン・ゴッティという人物を知っていれば、誰の関わった、何の事件が描かれたか理解出来ますが、そうで無い方には判り辛い映画になっています。
実話を基にしたノンフィクションを、脚本化するにあたりドラマ化、フィクション化を図った『カジノ』に対し、実際の人物やエピソードの再現に拘った『ギャング・イン・ニューヨーク』。このアプローチの違いが、2つの作品の性格を大きく分けています。
まとめ
アメリカでは厳しい評価を得たこの作品を、その背景を含めて紹介してきました。
しかしジョン・ゴッディの半生に絞って振り返ると、彼に起きた事件と彼の周囲にいた人物は忠実に登場しており、マフィアの世界に関心ある方には興味深い映画になっています。
2019年のアカデミー賞受賞作、『ボヘミアン・ラプソディ』は伝記映画でありながら、巧みにドラマ的な改変を加え、感動的な映画として世界的ヒット作になりました。
同じく『女王陛下のお気に入り』は歴史的人物を登場させながらも、史実とは異なる時間軸で人物は登場しており、全く創作された物語と言って良い内容となっています。
その一方で実際の事件、人物を正しい時間軸で紹介することに拘った『ギャング・イン・ニューヨーク』に与えられた厳しい評価は、実に興味深い結果と言えます。
映画に描かれた事実は、歴史的事実と異なる物語であると心に留め、だからこそ面白く胸を打つものであると、理解しておくべきでしょう。
なおこの映画を「事実に拘った作品」と紹介しましたが、多くの愛人がいたゴッティの私生活の別の側面や、息子ジョンの関わった様々な犯罪行為は描かれていません。
これはSpecial Thanksでジョン・A・ゴッティなど、ゴッティの子供たちや関係者がクレジットされており、それらの方々に配慮した結果でしょう。やはり事実を忠実に映画化するのは、いろいろと難しいようですね。
次回の「未体験ゾーンの映画たち2019見破録」は…
次回の第38回はベルギーのベストセラー小説を原作にしたサスペンスミステリー映画『アンノウン・ボディーズ』を紹介いたします。
お楽しみに。