Cinemarche

映画感想レビュー&考察サイト

連載コラム

映画『マジック・ロード』ネタバレあらすじ感想と結末の評価解説。 空飛ぶ仔馬と天空の花嫁は手塚治虫が愛した世界観にリスペクト|未体験ゾーンの映画たち2022見破録2

  • Writer :
  • 20231113

連載コラム「未体験ゾーンの映画たち2022見破録」第2回

映画ファン毎年恒例のイベント、今回で11回目となる「未体験ゾーンの映画たち2022」が今年も開催されました。

傑作・珍作に怪作、お子様まで楽しめる映画など、様々な作品を上映する「未体験ゾーンの映画たち2022」、今年も全27作品を見破し、紹介して古今東西から集まった映画を応援させていただきます。

第2回で紹介するのはロシア発のファンタジー映画『マジック・ロード 空飛ぶ仔馬と天空の花嫁』

VFX技術の発達で、SFだけでなく歴史・戦争映画など、様々な映画が製作可能です。おとぎ話の世界も、現在なら新たな表現で映画化できる時代です。

そんな映画がまた1本誕生しました。童心に帰って見ても良し、帰らずとも明るく楽しい気分になれる、ハッピーな映画を紹介します。

【連載コラム】『未体験ゾーンの映画たち2022見破録』記事一覧はこちら

映画『マジック・ロード 空飛ぶ仔馬と天空の花嫁』の作品情報


(C)2021 CTB Film Company LLC – CGF LLC – All-Russian State Television and Radio Broadcasting Company

【日本公開】
2022年(ロシア映画)

【原題】
Конёк-Горбунок / Upon the Magic Roads

【監督】
オレグ・ポコディン

【キャスト】
アントン・シャギン、ポリーナ・アンドレヴァ、パーヴェル・デレヴィヤンコ、ミハイル・イェフレモフ

【作品概要】
ロシアの詩人ピョートル・パーヴロウィチ・エルショーフが、ロシアの昔話『金色の馬』や『火の鳥』、『イワンの馬鹿』を再構成した童話『せむしの仔馬』をアレンジし映画化した作品。

監督は『ミッション:アルティメット』(2008)を監督し、『スペースウォーカー』(2017)の脚本を手掛けたオレグ・ポコディン。彼がハリウッドで活躍するVFXスタッフと共に完成させた映画です。

主演は舞台俳優としても活躍し『ヴァーサス』(2016)、『ドヴラートフ レニングラードの作家たち』(2018)に出演のアントン・シャギン。

映画『愛の囚人』(2015)に主演し、Netflixで配信されたロシア製ドラマ『アリサ、ヒューマノイド』(2018~)で、美しい女アンドロイド・アリサを演じたポリーナ・アンドレヴァがヒロインを演じます。

映画『マジック・ロード 空飛ぶ仔馬と天空の花嫁』のあらすじとネタバレ


(C)2021 CTB Film Company LLC – CGF LLC – All-Russian State Television and Radio Broadcasting Company

むか~し、むかし。ある所に老いた父親と3人の息子が住んでいました。この一家は広い麦畑を持っていますが、ある夜何者かが麦畑を駆け抜け、荒したのです。

カンカンに怒った父親は、息子たちに今晩誰かが畑を見張れと言いました。2人の兄は一番下の弟イワン(アントン・シャギン)に、その仕事を押し付けました。

馬鹿が付くほど正直者で、底抜けにお人好しのイワンは文句も言わずに引き受けます。その夜、父と兄たちがぐっすり眠る中、畑で見張りにつくイワン。

すると馬のいななく声がしました。そしてイワンは白くて大きな、立派な馬を目にします。この馬が昨晩、麦畑を荒した犯人に違いない。そう考えた彼は、馬に向かって輪にした縄を投げました。

投げ縄は馬の首に掛かりました。驚いた馬がもの凄い速さで駆け出すと、イワンは引きずり回されます。

それでもイワンは縄を離しません。すると白馬は天高く駆け上がります。空飛ぶ馬に引かれ、イワンの体も宙に舞いました。

空を飛んでご機嫌のイワンですが、やがて彼の体は墜落します。イワンは何とか着地しましたが、縄に引っぱられた空飛ぶ白馬は沼に落ちます。

沼に沈み、悲しそうな声を上げる馬を見て、イワンは気の毒に思います。必死に縄を引き、水車の力を利用して白馬を引き上げたイワン。

助けた白馬に、もう2度と畑を荒らすなと言い聞かせて、イワンは放しました。彼の態度に心動かされた白馬は、イワンを残し天高く駆け去っていきました。

白馬を見送ったものの、今晩も荒らされた畑を見て、これでは親父に殺されると頭を抱えたイワン。

朝日が昇り、馬小屋で眠るイワンが目覚めると、そこには豪華な鞍を付けた2頭の立派な馬がいました。驚いたイワンに話しかける声がします。

怪しい者がいる、と身構えたイワンは蹴り飛ばされます。相手はポニーのような小さな馬、耳が長くてロバのようにも見える、奇妙な仔馬(声=パーヴェル・デレヴィヤンコ)でした。

しゃべる仔馬にイワンは驚きます。しかし仔馬の方では平気な顔でした。自分は昨日イワンが助けた、天駆ける白馬の息子だと説明する仔馬。

母は助けてくれたお礼にと、この2頭の馬をイワンにプレゼントした。そしてイワンには話し相手が必要だと言い、自分にイワンの側にいるよう命じた、と仔馬は説明します。

イワンは思わぬプレゼントに大喜びします。しかし目覚めた父親が、また麦畑を荒されたと気付き怒り声を上げていると知り、これはマズいと思ったイワン。

小さな仔馬はイワンに、自分にまたがるよう言いました。イワンを乗せた仔馬が駆け出すと、小さくても天駆ける白馬の息子、猛スピードで突っ走ります。

ここまで来ればもう大丈夫。まだ実力は出していない、と涼しい顔でイワンに語る仔馬。しかし2頭の立派な馬を置いてきたイワンは、家に戻ろうと言いました。

うるさい父や兄たちから逃げたのに、家に戻っては元も子もありません。すると不思議な口笛を吹く仔馬。

その音を聞いた2頭の馬は駆け出し、イワンの元にやって来ました。イワンと仔馬は王様のいる都に行き、馬を売ろうと考えます。

偉い人だから王様なんだ、偉い王様だから立派な人に違いない。立派な王様に会いたいと望むイワン。仔馬には彼が無邪気で素朴な若者に思えました。

彼らは都に着きました。仔馬はお人好しのイワンが馬を売る際、損をせぬようアドバイスします。しかし見る物全てが珍しいイワンは、仔馬の忠告に耳を貸しません。

王様の住む立派なお城を見て驚くイワン。しかし、中に住む王様(ミハイル・イェフレモフ)は、とても愚かなかんしゃく持ちで、おべっか使いの家臣に囲まれた、実にわがままな人物でした。

お城の上から街の様子を眺めた王様は、立派な馬を売るイワンの姿を見つけます。その馬が欲しくてたまらなくなる王様。

都の人々はイワンの2頭の立派な馬を手に入れようと、次々に買値をつり上げます。そこに王様一行が現れました。

貧しい農民の若者が立派な馬を持っているとは、きっと盗んだに違いない。だったら取り上げてしまえと大臣にそそのかされ、王様はイワンの馬を我が物にしようとします。

お人好しのイワンはあっさり馬を渡しました。しかし代金が払われる気配はありません。イワンが支払を要求すると、当然のように拒絶する王様。

言わんこっちゃない、忠告を聞かないからだとイワンに呆れる仔馬。しかし仔馬が口笛を吹くと、馬は駆け出して戻ってきます。おかげて馬車に乗っていた王様は大変な目に遭います。

王様は不格好な姿になりました。皆が遠慮して口を閉ざす中、王様を見て大笑いするイワン。不機嫌になった王様は彼を殺してやろうか、と考えました。

それは少しやり過ぎだ、でも立派な2頭の馬は欲しい。そこで馬を扱えるイワンを、厩舎の世話係に雇うことにします。

わがままで強欲な王様に仕えても、ロクなことはないと仔馬は考えますが、人を疑うことを知らぬイワンは喜んで言葉に従いました。

その夜、王様はイワンにからかわれ、挙句の果て首をはねられる、実にふざけた悪夢を見ます。

人が良く明るく正直で、おまけに働き者のイワンは都の人々の人気者になっていました。その姿を見てうとましく思う王様に、あなたの見た悪夢は悪い知らせだと告げる大臣。

イワンを始末したい王様に、大臣は彼に火の鳥を捕まえに行かせましょう、と提案します。捕まえようとすれば炎で焼け死に、捕まえねば命令違反で死罪にするつもりです。

命令に従いイワンは旅の準備をします。仔馬は王様の意図を見抜き逃げろと言いますが、王様を疑わないイワン。

忠告に聞かない底抜けにお人良しなイワンに、仔馬は頭を抱えます。火の鳥を捕らえようとした冒険者や騎士は、皆が命を落としていたからです。

それでも仔馬はイワンの力になろうとします。彼を乗せて疾走するとどんな生き物も眠らせる、眠りの木の実を手に入れる仔馬。

そして仔馬とイワンは、火の鳥が棲む砂漠の中のオアシスに向いました。夜になると、オアシスに美しい火の鳥が現れます。

火の鳥に追われ大変な目に遭う1人と1頭ですが、木の実を食べて眠り、炎が消えた火の鳥を捕らえることが出来ました。

しかし火の鳥を見て哀れに思ったイワンは、苦労して捕まえた鳥を放します。自由になるとイワンの口笛に応えるように、1本の羽根を落す火の鳥。

火の鳥がいないと王様に殺させれる、逃げろと提案する仔馬。しかしイワンは捕まえた証拠の羽根があると言って都に戻りました。

イワンは仔馬が心配した通り、命令を守らなかったと王様に死罪を命じられます。でも、火の鳥は確かに捕まえたと説明するイワンを、笑い者にする王様や都の住人たち。

イワンは証拠の羽根を見せますが、炎は消えており皆が大笑いしました。そしてイワンの首がはねられようとした時、雨の中で辺りが輝きだします。

イワンの危機を知ったのか、都の空に火の鳥が現れました。イワンの口笛に応じるように空を舞う火の鳥。

誰もが彼は火の鳥を捕えたと認めます。偉業を成し遂げたイワンに褒美を与えろと叫ぶ住民たち。王様は不機嫌になりますが、大臣はここは国民の願いに応じねばマズい、と助言しました。

そこで王様はイワンに豪華な衣装を与えます。イワンは住人のために祝宴を開いて欲しいと願い、王様はしぶしぶ承知します。

人々の人気者となり、火の鳥を自在に操るイワンがますます疎ましい王様に、大臣はそれでは結婚してはいかがでしょうと提案しました。

結婚相手に遥か彼方に住む、美しく王様に相応しい天空の雲姫を選び、天空の雲姫を連れて来いとイワンに命じましょう、と入れ知恵する大臣。

今度こそ命令を果たせず、イワンは命を失うはず。王様は大臣のアイデアに大喜びしました。

姫を迎えにイワンは出発します。都の住人は彼ならやり遂げると信じていました。しかし仔馬はまた厄介な命令を与えられた、とぼやきます。

天空の雲姫は氷に閉ざされた大地の、天高くそびえた山の上の、3人の恐ろしい番人が守る氷の宮殿に住んでいました。それでもイワンを乗せ駆け出す仔馬。

イワンと仔馬は苦労して山を登り、氷の宮殿に着きました。噂の番人はお留守のようですが、氷に閉ざされ宮殿に入ることができません。しかしイワンは火の鳥の羽根の力で入ることができました。

宮殿には吊るれた氷のベットで眠る、美しい天空の雲姫(ポリーナ・アンドレヴァ)がいました。雲姫は火の鳥の羽根の力で目覚めます…。

以下、『マジック・ロード 空飛ぶ仔馬と天空の花嫁』のネタバレ・結末の記載がございます。『マジック・ロード 空飛ぶ仔馬と天空の花嫁』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。


(C)2021 CTB Film Company LLC – CGF LLC – All-Russian State Television and Radio Broadcasting Company

目覚めた天空の雲姫は、ついに自分の結婚相手に相応しい、勇敢な騎士か王子が現れたと思いました。

彼女は目の前にいるイワンが平凡な男で、しかも求婚者の王様の使いだと知りがっかりします。

イワンの手を借りた姫は、ベットが壊れて彼の上に倒れかかります。この時、身分の違う2人の心に、何か感情が芽生えたのかもしれません。

しかし姫はイワンに、自分に直接求婚しようと望む騎士は王子はいない、ならば結婚はしないと告げ、雲の上に建つ氷の宮殿から身を投げます。

それを見たイワンは後先考えず飛び降ります。実はゆっくり舞い降りることができるドレスを着ていた雲姫は、イワンの行動に呆れました。

姫はイワンを助けようとしますが、ドレスが破れ2人は地上に落下していきます。それを見て身を投げ出す仔馬。その背には、いつの間にか翼が生えています。

天駆ける白馬の子である、仔馬の能力が目覚めました。イワンと天空の雲姫を乗せて飛ぶ仔馬。

気を失った姫を抱えたイワンは、その美しさに魅かれ、思わずキスをしそうになります。仔馬はその人は王様の婚約者だぞ、とたしなめました。

辺りが暗くなり野宿すると、眠っている姫の横で仔馬はイワンに語りかけます。王様はお前を陥れようとしている、このまま逃げないかと誘う仔馬。

その話を姫は密かに聞いていました。しかし正直で真面目なイワンは、王様の命令を破ろうとは考えません。今美しい姫君との時間を、僕が一人占めしているだけで幸せだ、と答えるイワン。

何度忠告しても耳をかさぬイワンに、仔馬は頭を抱えます。そんなイワンの人柄に、姫は興味を抱きました。

イワンが都に帰って来ました。住人たちは天空の雲姫の美しさに心を打たれます。イワンが使命を果たし、人々に讃えられる姿が不満な王様も、美しい姫が手に入り喜ぶべきと大臣に言われ、気を取り直します。

様々な褒美を与えられたイワンですが、彼の心は晴れません。お城の姫に会ってくると告げたイワンに、王様の婚約者の部屋に忍び込むなど、身の破滅だと警告する仔馬。

しかし自分の心に忠実なイワンは、その言葉に耳を貸さず城の塔を登ります。窓から声をかけたイワンを、雲姫も心待ちにしていました。

現れたイワンは摘んできた花を雲姫に渡し、彼女にただ好意だけを伝えました。そこに王様の家臣が現れ、慌てて窓を閉める雲姫。

彼女は着飾ると婚約者との面会に向かいます。貧相で老いた人物が結婚相手の王様だと、中々気付かないお姫様。

お城から流れる、婚約の宴の音楽を聴いてやきもきするイワン。仔馬はどうやら彼も本心は、天空の雲姫を愛していると知りました。

雲姫は王様との結婚が嫌なのか、彼女もイワンに恋したのか、祖母が海に落して無くした指輪が無いと、王様との結婚式はできないと言い出します。

この言葉に困った王様。ところがその言葉を聞き、せめてお姫様の役に立とうとして、自分が探すと言い出すイワン。

雲姫は1人なると、自分の気持ちも知らず、指輪探しを買って出たイワンを馬鹿な人だ、とつぶやきます。仔馬も姫に愛を告白せず、それどころか良かれと思い、無理難題を引き受けたイワンに呆れました。

星空を見上げ母の天駆ける白馬に、どうして僕をイワンの元に送ったのかと嘆く仔馬。彼はお人好し過ぎて、僕の言葉に耳を貸してくれないと訴えます。

すると夜風が声を運んできました。指輪はとてつもなく巨大で、島になったクジラが飲み込んだと仔馬に教えます。そして島に向かう方角を示す夜風。

仔馬はイワンを乗せ空を飛びました。大海の果てで誤って海に落ちたイワンは、海底から伸びる巨大な鎖を見つけます。

鎖の先に大きな島がありました。その島こそ、鎖に縛られた巨大なクジラでした。

クジラはあまりに大き過ぎて、それとは知らず100隻以上もの船を、船乗りごと飲み込んでいました。その罰でクジラは縛られ、島になったのです。

自分の行いを後悔しているのに、どう償っていいのか判らずクジラは悲しみ泣いていました。海に落ちて濡れ、思わずクシャミをした時に良い考えを思いついたイワン。

イワンは仔馬にまたがり空を飛び、クジラの体内に入ると仔馬の羽でクジラを刺激します。クジラは身を揺るがせて、大きな大きなくしゃみをしました。

吹き飛ばされたイワンに続き、クジラの口から次々船が吐き出されます。罪を償ったおかげか鎖は解け、自由の身になるクジラ。

巨大なクジラと、無数の船と船乗りを解放できたイワンは満足です。しかし肝心の指輪は手に入らなかった、と指摘する仔馬。

するとイワンの元にカニが現れます。カニはクジラに頼まれ、イワンに指輪を届けに来たのです。

天空の雲姫のために働き目的は遂げたが、指輪を届ければ彼女は王様のお妃になるんだ、と自覚したイワン。

雲姫もイワンとの旅を思い出し、彼に心を寄せていました。その夜、都に帰ったイワンはたまらなくなり、彼女の部屋に忍び込もうとします。

ところがその姿を大臣が見ていました。しかもイワンが仔馬と喋っていると気付きます。イワンは悪魔の使いと喋っている、と考える大臣。

イワンは部屋の窓の鉄の鍵を、火の鳥の羽根の炎で焼き切ります。そして部屋に入ると指輪をお姫様に差し出し、自分の心のままに結婚を申し込みます。

その瞬間、大臣と兵隊たちが部屋に乗り込んできました。騒ぎで目覚めた王様は、雲姫の部屋の窓にいる仔馬に気付き、銃で撃ち落としました。

イワンは王様の婚約者を誘拐しようとした、恐るべき悪魔の信者として断罪され、財産は没収され死罪を命じられます。

牢獄に入れられたイワンを案じ、雲姫は部屋で1人悩んでいました。すると彼女の前に1羽のヒヨコが現れます。これは何者かの使いだ、と悟る天空の雲姫。

雲姫がヒココの後を付けると、そこには身をかくした仔馬がいました。姫は喜びますが、仔馬にイワンに迫る危機を伝えました。

イワンを愛し王様と結婚したくない雲姫は、祖母から伝わる秘術で王様に若返って欲しい、と頼みます。

それは三つの大釜を用意し、最初の釜には煮えたぎったお湯、次の釜には氷水、そして最後の釜には煮えたぎったミルクをいれます。3つの釜に順番に入る秘術で若返って欲しいと王様に頼む雲姫。

お姫様の頼みとはいえ、どう考えても危険だと思う王様。すると大臣が、イワンを使って本当に効果があるか試しましょうと入れ知恵します。

話を聞かされ、もはやイワンの運命も尽きたと口にする仔馬。しかし雲姫は言葉を続けました。

イワンが最初の熱湯の釜に飛び込む前に、雲姫に渡された指輪を投げ込めば彼は無事だ。2番目の氷水の釜なら、火の鳥の羽根を入れれば身を守れる。

しかし3番目の釜に入った時に、この世の果てにある生死の花を投げ入れねば、秘術は成功せずイワンは死ぬ、と告げた雲姫。

仔馬の羽は王様に撃たれ傷付いていました。しかし仔馬は大好きなイワンのために、秘術が行われるまでに地の果てに行き、生死の花を摘んで戻って来ると決意します。

翌日、王様のお慈悲で死罪を逃れ、秘術を試すイワンを見物しようと、3つの大釜が並ぶ広場に都の住人が集まりました。

引き出されたイワンを見た住人たちは、彼は悪人かそれとも英雄なのか、大いにもめていました。人々はイワンに弁明の機会を与えろと王様に求めます。

機会を与えられたイワンは、自分の罪を認めます。それは王様の婚約者である天空の雲姫を恋した事だ、と話すイワン。

いけない事だが、共に旅した雲姫を愛してしまった。と自分の想いを正直に打ち明けたイワンの言葉に、人々は胸を打たれました。

しかし彼の言葉が終わると、王様はイワンを最初の熱湯の大釜に突き落とします。しかし雲姫が指輪を投げ入れると、彼の体は釜から飛び出します。

そのまま2番目の氷水の大釜に落ちるイワン。彼の危機を察した火の鳥が現れ、羽根が釜に落ちて行きます。そして氷水の釜から飛び出し、煮えたぎるミルクの大釜に落ちたイワン。

羽を傷付けられ飛べない仔馬は、必死に駆けて地の果てにたどり着きました。しかし目の前にある生死の花は、自分を摘んだ者は死ぬ、と警告します。それでも仔馬はイワンを救おうと花を摘みました。

ミルクの大釜は静まりかえったままです。誰もがイワンは死んだと思った時、生死の花が大釜に舞い落ちます。

すると釜の中から、立派な若者になったイワンが現れました。人々は歓声をあげ、イワンを見つめて喜ぶ天空の雲姫。

なるほど秘術は成功した、今度は自分の番だと熱湯の大釜に飛び込む王様。しかし様子が変だ、と大臣たちは焦ります。

大釜から大きなシャボン玉が現れました。その中に閉じ込められた王様は大声でわめき散らします。それを見た人々が大笑いする中、シャボン玉は王様を入れたまま、どこかに飛んでいきました。

さて、この国に王様がいなくなりました。それでは困る、誰を次の王様にしよう。人々はイワンを新しい王様にしようと叫びます。

その声に応え、新たな王様になったイワン。王妃様は天空の雲姫です。しかし仔馬がいない、と気付くイワン。

大釜に生死の花を投げ入れた仔馬は、自分の死を覚悟していました。運命を受け入れ最期の時を待つ仔馬。

しかし、いつまで経っても死にません。なんだか様子がおかしい、静かな最期を飛び回るハエに邪魔された、と暴れる仔馬の前にイワンと雲姫が現れます。

友人のイワンに別れを告げた仔馬に、雲姫が種明かしをします。生死の花は自分を摘む者を試すために、皆に摘めば死ぬと偽りを語っていただけでした。

イワンに助けられた天駆ける白馬は、彼を助けるために息子の仔馬を送ったのではなく、知恵のある息子がイワンから、正直さと人を思いやる心を学んで欲しかったのかもしれません。

国民たちの前で結婚式をあげ、新しい王と王妃になったイワンと天空の雲姫。仔馬は喜びの口笛を吹きました。めでたし、めでたし。

映画『マジック・ロード 空飛ぶ仔馬と天空の花嫁』の感想と評価


(C)2021 CTB Film Company LLC – CGF LLC – All-Russian State Television and Radio Broadcasting Company

ロシアのおとぎ話を現代風にアレンジした作品、いかがだったでしょうか?

この作品は童話『せむしの仔馬』(不適切な用語がありますが、以降作品の誕生した時代背景とオリジナリティーを尊重し、公開時の題名を使用させて頂きます)を原作とした作品で、ロシアの昔話の味わいを生かしつつ現代風にアレンジされた作品です。

少々知恵は足りなくても、正直で誠実な人間が成功を収める昔話は世界各地に存在し、特に喜劇の分野で発展しています。

日本の落語に登場する“弥太郎”や、松竹新喜劇で藤山寛美が演じた“阿呆もの”、志村けんがコントで演じたキャラククターも、その系譜に連なるものでしょう。

日本人とロシア人の文学や芸術、自然や人間に対する感性は似ていると言われますが、文豪トルストイも描いた「イワンの馬鹿」は、日本の落語や喜劇に登場する“弥太郎”や“阿呆もの”に類似しています。

よって『マジック・ロード~』の物語に、多くの方が親しみを覚えるでしょう。知恵があり助けてくれる仔馬の助言を聞かない、聞かずに失敗しても懲りないイワンの姿を、強調している点が現在風アレンジでしょうか。

オリジナルの童話・昔話(昔話の常で、物語には何パターンかある模様です)と比較すると面白い作品です。

ロシア文化・映画の伝統を現代風にアレンジした作品

参考映像:『The Humpbacked Horse(英題)』(1941)

数多くのVFXシーンが登場する本作。と同時に、セットも衣装も中々豪華な作品だと感じるでしょう。

本作は巨額の費用を投じ、2018年の夏から秋にかけて撮影されました。その後ポストプロダクション作業に入り、ロシアでは2020年3月の公開が予定された作品です。

本作のためにまず7000平方メートルのスタジオに、ロシア中世都市の木造建築と石造り建築を元に、アール・ヌーヴォーと民話的世界を取り入れた、サッカー場の広さを持つ3つのセットが建築されました。

そこには都の門に市場、宮殿の一部と5つの家がありました。そして王様やお姫様たちのために50以上のドレスや豪華な衣装、住民たちの300以上の衣服が作られます。

何でもCGで作れる訳ではありません。こうして完成した豪華でありド派手にアレンジされたロシア風セットと衣装を眺めるだけで楽しくなるでしょう。

大きな期待を寄せ、多額の費用と時間を費やし作られた作品ですが、パンデミックの影響で公開は延期。2021年2月にようやく公開されました。

まだ収まらぬ感染症の影響、公開の遅れに評論家の否定的意見…映画興行が成功するか不安視されましたが、ふたを開ければ大ヒット。2021年公開ロシア映画の興行ランキング上位を占めるファミリー映画になりました。

またソビエト~ロシア時代に作られた、最もヒットしたおとぎ話(童話・民話)原作映画となる成功を収めます。

この作品は1941年(第2次大戦の独ソ戦開戦の年)の実写映画、『The Humpbacked Horse』から特に強い影響を受けています。映像をご覧頂くとセット・衣装のデザインや色彩の、本作との類似を確認できます。

また日本でも公開されたアニメ映画、ソビエトアニメの創始者イワン・イワノフ=ワノ総指揮で作られた『せむしの仔馬』(1947)、そしてこの作品をイワン・イワノフ=ワノ自らリメイクした『世界名作童話 せむしの仔馬』(1976)からも影響を受けています。

ちなみにこの1976年版アニメは日本で、1977年の『夏休み 東映まんがまつり』で石井輝男監督作『惑星ロボ ダンガードA対昆虫ロボット軍団』(1977)他、合計6本の特撮・アニメ映画の中の1本として上映されました。

この『東映まんがまつり』は、色んな意味で濃厚過ぎるプログラムだと思います。

手塚治虫にも大きな影響を与えたファンタジー・ロマン

参考映像:『青いブリンク』(1989~)

『せむしの仔馬』…近年は『イワンと仔馬』と改題された映像作品もあります。この作品が日本で愛され続け、様々な世代の観客の目に触れた歴史を紹介しました。

そして、この作品に最も影響を受けた人物を紹介せねばなりません。それは日本の漫画・アニメ界の巨人、手塚治虫です。

多くの方がディズニーのアニメ映画が、手塚治虫に影響を与えた事実をご存じでしょう。しかし彼は同時にソビエトのアニメ、『せむしの仔馬』(1947)からも大きな影響を受けました。

「罪と罰」を漫画化するなど、ロシア文学に深い関心を寄せる手塚治虫は、アニメ映画『せむしの仔馬』が大変お気に入りでした。彼は1955年、フルカラーで描いた漫画『せむしのこうま』を発表しています。

そして『せむしの仔馬』に、そして本作『マジック・ロード~』にも登場するキャラクターの火の鳥が、彼の代表作『火の鳥』の原型だと誰もが気付くでしょう。

手塚治虫の『せむしの仔馬』への情熱は、これに留まりません。彼は1989年、NHKで放送される新作アニメ番組『青いブリング』の原作・総監督、そしてキャラクターデザインを務めます。

『せむしの仔馬』の設定を大いにアレンジした、SF仕立てながら童話も絡む作品『青いブリング』。登場するロバのような長い耳を持つ仔馬(宇宙から来た雷獣)の姿は、ロシアの映画やアニメに登場する仔馬そっくりです。

こうして4月放送開始に向け、製作が始まった『青いブリング』。しかし手塚治虫は1989年2月に亡くなりました。

『青いブリング』は残されたスタッフの手で完成し、放送されました。手塚治虫のアニメーションの遺作はまさに『青いブリング』。漫画「火の鳥」を含め、『せむしの仔馬』は彼のライフワークの源となる作品でした。

『マジック・ロード~』をご覧になる際、本作が様々なロシア実写・アニメ映画の影響を受け、同じ原作が手塚治虫に影響を与えた事実を知ると、より興味深く鑑賞できるでしょう。

まとめ


(C)2021 CTB Film Company LLC – CGF LLC – All-Russian State Television and Radio Broadcasting Company

子供も楽しめるファミリー映画に見えて、実に興味深い作品の『マジック・ロード 空飛ぶ仔馬と天空の花嫁』。気楽に楽しみながら、童話らしい教訓が与えられる作品です。

なお『せむしの仔馬』は、童話を大きく改変したバレエの演目『せむしの仔馬、または皇帝の姫君』でも有名です。本作劇中にバレエの楽曲も登場します。火の鳥のシーンは、バレエを意識した演出でした。

耳の長いロバみたいな、しゃべる仔馬が出るおとぎ話だからといって、決して本作は『シュレック』(2001)の類似品ではない、と強調しましょう。

本作はロシア昔話の有名人物、「イワンの馬鹿」を主人公にした“阿呆もの”です。知恵が足りずとも真面目で、正直で善良あれば成功する、かつて藤山寛美が松竹新喜劇で演じた物語そのものです。

昔この藤山寛美の“阿呆もの”を、知恵の足りない者を笑いものにするけしからぬ芝居だと、クレームをつけた人物がいたそうです。

おそらくこの方は、知恵のある者は知恵の無い者より優れている、だから知恵の無い気の毒な人を笑い者にしてはならぬと考える、心優しい人だったのでしょう。

しかし知恵を巡らせ誤りを認めず、謝罪もしない者より、知恵は無くとも正直で誠実な者の方が成功する。少なくとも炎上騒ぎは起こさない数多くの事例を見ると、その考えは怪しいのでは、と指摘させて頂きます。

今は知能指数IQよりも、心の知能指数EQが大切な時代です。『マジック・ロード~』はそんな時代にマッチした作品だと断言しましょう。

ちなみに私のIQは低いですが、B級映画に対するEQなら、けっこう高いと思いますよ。

次回の「未体験ゾーンの映画たち2022見破録」は…


(C)2019 CJ CGV Co., Ltd., B.A. Entertainment All Rights Reserved

次回の第3回は私たち、訳ありで偽装結婚しました! 韓国のお騒がせ婚約ドタバタコメディ、『私たちの偽装結婚』を紹介いたします。お楽しみに。

【連載コラム】『未体験ゾーンの映画たち2022見破録』記事一覧はこちら






増田健(映画屋のジョン)プロフィール

1968年生まれ、高校時代は8mmフィルムで映画を制作。大阪芸術大学を卒業後、映画興行会社に就職。多様な劇場に勤務し、念願のマイナー映画の上映にも関わる。

今は映画ライターとして活躍中。タルコフスキーと石井輝男を人生の師と仰ぎ、「B級・ジャンル映画なんでも来い!」「珍作・迷作大歓迎!」がモットーに様々な視点で愛情をもって映画を紹介。(@eigayajohn

関連記事

連載コラム

映画『大コメ騒動』あらすじと感想レビュー。実話を基にロケ地の富山県で“女性たち”が声をあげた出来事の痛快さ!|映画という星空を知るひとよ40

連載コラム『映画という星空を知るひとよ』第40回 2021年1月8日(金)TOHOシネマズ日比谷ほか全国公開される『大コメ騒動』は、大正時代に富山県の海岸部で発生した「米騒動」に基づいた映画です。 『 …

連載コラム

映画『ガンパウダー・ミルクシェイク』あらすじ感想と評価解説。主演キャストのカレン・ギランが子連れとして刺激的な攻防戦を魅せる|映画という星空を知るひとよ91

連載コラム『映画という星空を知るひとよ』第91回 映画『ガンパウダー・ミルクシェイク』は、『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』(2017)のカレン・ギランが主演を務め、犯罪組織に立ち向かう女たちの死 …

連載コラム

『ウォリアーズ』ネタバレあらすじ感想と結末の評価解説。ウォルター・ヒルによるヤンキー映画/漫画のバイブル的作品|すべての映画はアクションから始まる32

連載コラム『すべての映画はアクションから始まる』第32回 日本公開を控える新作から、カルト的に評価された知る人ぞ知る旧作といったアクション映画を時おり網羅してピックアップする連載コラム『すべての映画は …

連載コラム

ギルティ/THE GUILTYネタバレ考察とリメイク版の結末あらすじ感想。どんでん返しにジェイク・ギレンホールが挑んだハリウッド映画の内容とは⁈| Netflix映画おすすめ62

連載コラム「シネマダイバー推薦のNetflix映画おすすめ」第62回 2021年10月1日(金)にNetflixで配信されたクライムサスペンス『THE GUILTY/ギルティ』。 同タイトルのデンマー …

連載コラム

【ネタバレ】スカーフェイス|あらすじ感想と結末の評価考察。キューバ難民から麻薬王へと昇りつめた男の栄枯盛衰をバイオレンスに描く【すべての映画はアクションから始まる42】

連載コラム『すべての映画はアクションから始まる』第42回 日本公開を控える新作から、カルト的に評価された知る人ぞ知る旧作といったアクション映画を時おり網羅してピックアップする連載コラム『すべての映画は …

【坂井真紀インタビュー】ドラマ『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』女優という役の“描かれない部分”を想像し“元気”を届ける仕事
【川添野愛インタビュー】映画『忌怪島/きかいじま』
【光石研インタビュー】映画『逃げきれた夢』
映画『ベイビーわるきゅーれ2ベイビー』伊澤彩織インタビュー
映画『Sin Clock』窪塚洋介×牧賢治監督インタビュー
映画『レッドシューズ』朝比奈彩インタビュー
映画『あつい胸さわぎ』吉田美月喜インタビュー
映画『ONE PIECE FILM RED』谷口悟朗監督インタビュー
『シン・仮面ライダー』コラム / 仮面の男の名はシン
【連載コラム】光の国からシンは来る?
【連載コラム】NETFLIXおすすめ作品特集
【連載コラム】U-NEXT B級映画 ザ・虎の穴
星野しげみ『映画という星空を知るひとよ』
編集長、河合のび。
映画『ベイビーわるきゅーれ』髙石あかりインタビュー
【草彅剛×水川あさみインタビュー】映画『ミッドナイトスワン』服部樹咲演じる一果を巡るふたりの“母”の対決
永瀬正敏×水原希子インタビュー|映画『Malu夢路』現在と過去日本とマレーシアなど境界が曖昧な世界へ身を委ねる
【イッセー尾形インタビュー】映画『漫画誕生』役者として“言葉にはできないモノ”を見せる
【広末涼子インタビュー】映画『太陽の家』母親役を通して得た“理想の家族”とは
【柄本明インタビュー】映画『ある船頭の話』百戦錬磨の役者が語る“宿命”と撮影現場の魅力
日本映画大学