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Entry 2021/03/05
Update

サメ映画『スカイシャーク』ネタバレ感想と結末解説のあらすじ。ナチス×ゾンビ×サメの三つ巴のホラーが世界を襲う!|未体験ゾーンの映画たち2021見破録19

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  • 20231113

連載コラム「未体験ゾーンの映画たち2021見破録」第19回

これは公開も危ぶまれても当然…という世界の怪作・珍作・トンデモ映画も紹介する「未体験ゾーンの映画たち2021見破録」。第19回はその代表と言うべき『スカイ・シャーク』。

世界で人気のサメ映画。ネタが尽きたのか巨大化・怪物化するわ、どういう訳だか空を飛ぶなど、B級映画に登場するサメは、何でもありのフルコース状態。

空飛ぶサメにお馴染のゾンビが合体。しかもナチスのゾンビとくれば凶悪この上なし。

B級映画ファンが泣いて喜ぶ要素を詰め合わせ、臆面もなく映画化したのが本作です。

誕生したのは、お馬鹿要素満載の楽しいフルコース映画なのか、はたまたゴッタ煮状態で何が何だかの闇鍋映画か。覚悟を決めてご鑑賞下さい。

【連載コラム】『未体験ゾーンの映画たち2021見破録』記事一覧はこちら

映画『スカイ・シャーク』の作品情報

(C)2020 Fusebox Films GmbH

【日本公開】
2021年(ドイツ映画)

【原題】
Sky Sharks

【監督・脚本・製作】
マーク・フェーセ

【キャスト】
トーマス・モリス、バルバラ・ネデルヤコーヴァ、エヴァ・ハーバーマン、ケイリー=ヒロユキ・タガワ、トニー・トッド、リン・ローリー、ロバート・ラサード、亜紗美、光武蔵人

【作品概要】
突如ナチスのゾンビ兵士に操られた、空飛ぶジェットサメ兵器が旅客機を、世界各国の主要都市を襲撃!という実に悪ノリSFホラーコメディ映画です。

奇抜な設定に目が行きますが、ファンなら泣いて喜ぶ豪華ゲスト出演陣にも要注目して下さい。

残酷特殊効果のスーパーバイザーはトム・サヴィーニ。どうやってこれだけの人々を集めたのか、製作者を問い詰めたいものです。

音楽で活躍しドキュメンタリー映画を製作、『Sex, Dogz and Rock n Roll』(2011)の監督マーク・フェーセの手で、世界のB級映画ファンをざわつかせる作品が誕生しました。

映画『スカイ・シャーク』のあらすじとネタバレ

(C)2020 Fusebox Films GmbH

大西洋上空を飛ぶ旅客機、フィン航空234便。機内には様々な乗客がいました。

退屈してサメのおもちゃで遊ぶ子供をなだめ、自分はバカげた機内映画を見ている父親。酔ってスチュワーデスに絡むアジア系の常連客(ケイリー=ヒロユキ・タガワ)。

飛行機を怖がるシスター(リン・ローリー)をなだめる、ギャングから改心したタトゥーだらけの神父(ロバート・ラサード)。

彼らは操縦席のレーダースコープに、露骨にサメ型をした光点の群れが映り、こちらに接近していると知る由もありません。

ジェット推進で飛ぶ、カギ十字が印されたサメの背に何者か乗っています。武装した彼らは旅客機に接近すると飛び移ります。

外壁を破壊し機内に乗り込んだのは、ナチ親衛隊の軍服に身を包んだゾンビです。機内で短機関銃を乱射し、ナイフで乗客の首を切り裂くナチゾンビ。

手当たり次第に殺戮を繰り広げるゾンビ。十字架を突き付けた神父も殺害され、シスターは頭部を真っ二つにされます。

サメに直接機体を破壊させ現れたのは、女ナチゾンビです。彼女の両手は鋭い刃物となり次々乗客を切断、刺されて大量の血を噴出し絶命するアジア系の乗客。

アイスランド付近で行方の立った旅客機のニュースは、ニューヨークでも報じられていました。

NYでも人目を引く巨大ビル、クラウス・リヒター博士(トーマス・モリス)の古代兵器研究所の入った建物に、派手なスポーツカーに乗った女が到着します。

リヒター科学技術社を率いる博士は115歳、しかし特殊な薬剤K7Bの注射で、75歳相当の肉体を維持していました。

先程到着したのはリヒター博士の娘、アンジェリーク(バルバラ・ネデルヤコーヴァ)。彼女は緊急事態の発生を知り父の元に向かいます。

博士と娘は傍受した映像記録から、旅客機が空飛ぶサメを操る何者かに襲撃されたと確認します。アイスランドで乗客の遺体が回収されたとの報告を受ける2人。

アンジェリークとリヒターは、今回の事件は北極圏で発見された、第2次大戦時の巨大戦艦と関係があると疑います。

リヒターは地球温暖化の影響で氷の中から出現した巨大戦艦に、調査チームを派遣していました。

博士のもう1人の娘、アンジェリークの姉ディアブラ(エヴァ・ハーバーマン)は、調査チームに加わるべく現地に向かいます。

先着した隊員のヘルメットカメラの映像をディアブラが確認すると、戦艦内の男女の調査隊員は2人でナニをしている真っ最中。

ところが背後から近づいたナチゾンビが男の頭を切断します。血塗れになり、裸のままショットガンでゾンビを撃つ女性隊員。

その光景を映像で見たディアブラは、彼女を救おうと巨大戦艦に向かいます。

しかし逃げようとした女性隊員は、ゾンビに捕まり引きずられて行きます。ディアブラの同僚は、リヒター博士に救援を要請しました。

艦内に入ったディアブラは、格納庫内にV2ロケットやHo229全翼型ジェット戦闘機など、ナチス・ドイツの秘密兵器を目撃します。

隊員たちがいた部屋に入ったディアブラは、ゾンビの残した惨状を目撃します。部屋にはカムラー博士のネームプレートがありました。

ナチゾンビは捕えた女性を、巨大水槽で泳ぐサメの餌食にしました。そして艦内で出撃を待っている、無数のゾンビ兵士を目撃したディアブラ。

映像を見たリヒター博士は、それが自分が封印した過去に関わるものだと悟りました。彼は娘に脱出を指示します。

襲い掛かるナチゾンビを格闘で倒すディアブラ。スカイ・シャークの編隊が帰還してきました。

ディアブラが逃げ込んだのはスカイ・シャークの格納庫でした。彼女に気付いた女ナチゾンビはサメに注射した薬剤、K7Bの入った注射器を彼女に突き刺します。

苦痛に耐えながら、ディアブラは動き出したナチの巨大戦艦から脱出します。彼女は出撃したスカイ・シャークが、姿を消して飛行する光景を目撃しました。

アメリカの繁栄を支えるのは我が社のテクノロジー、と訴えるリヒター科学技術社のCM。救出されそのNYの本社にいたディアブラ。

目覚めた姉に、アンジェリークは無茶をしないよう言いました。ディアブラは自分の見た物が何なのか、父に説明を求めます。

K7Bの注射で自らの肉体を若返らせるリヒター博士。シャワーを浴びていたディアブラの体を、ゾンビ化現象が襲います。彼女は何とかゾンビ化を抑えました。

母が好きだった”タカハシ寿司”を取り寄せ、共に食べながら会話する父娘3人。

リヒター博士は黙っていた自分の過去を、娘たちに語り始めます。第2次世界大戦下のナチス・ドイツで、ある計画が密かに実行されます。

それは遺伝子変異技術のパイオニア、ハンス・カムラー博士が発案した”ヒンメルスファウスト(空の拳)計画”でした。

1944年、ナチス親衛隊のヒムラー長官に、反重力装置の実験に成功したと口述させているカムラー博士。

彼をドイツ空軍総司令官、ヘルマン・ゲーリング国家元帥が訪ねます。ゲーリングは博士の計画で戦局が逆転することを望んでいました。

カムラーは自分が開発した、K7Bと呼ばれる血清が全て解決すると語り、”ヒンメルスファウスト計画”を説明する映画を上映します。

何百万もの勇敢で忠実な兵士を失ったドイツ第3帝国。しかしK7Bがあれば勝利できると叫ぶ映画のナレーション。

K7Bを投与された男の体には、強化と再生能力の向上が現れ死なない兵士となる。研究が進めば延命効果も見られ、帝国は永遠に総統に指導されると主張します。

女性に投与した場合は、ゾンビ化した力強い肉体を獲得し、兵士として最前線で活躍出来ると説明を続けました。

K7Bのテスト段階は終了、量産の準備が整いました。それをガス化して最前線に散布すれば、戦死した兵士は命令に忠実なゾンビとして蘇ります。

それと並行し開発されたのが、ジェットエンジンを積み武装した、ナチスの科学が生んだ脅威の航空兵器スカイ・シャーク。

ゾンビ化した兵士と共に出撃すれば、帝国の敵国は必ずや粉砕される。勝利のために立ち上がれ、兵士諸君!と叫んで映画は終わります。

感銘を受けたゲーリングは、拍手をしてカムラーの計画に賛同しました。

恐るべき”ヒンメルスファウスト計画”の研究施設は、第500SS降下猟兵大隊に属しゲーリングが直接監督しました。

こうしてナチの技術者がスカイ・シャークを開発し、自分はカムラーと共にK7Bの研究に没頭したと語るリヒター博士。

父がかつてナチス・ドイツの秘密兵器開発に関わっていたと知り驚く娘たち。

遺伝子操作したサメを元に、20匹のスカイ・シャークが作られたと話すリヒター。大都市を破壊するのにその数で充分でした。

しかしドイツは連合軍の激しい空襲に晒され、計画は実現することなく頓挫します。

終戦間際の1945年プラハ。祖国を棄てアルゼンチンへの逃亡を図るカムラーを制止したリヒター。

カムラーはリヒターを撃ちました。死を逃れるために、リヒターはやむなく自らの体にK7Bを注射しました。

迫る連合軍との激しい銃撃戦の中、カムラーは姿を消しました。リヒターも辛うじて逃れます。

どうやって西側陣営に逃れ、アメリカ軍にために働いたのかと尋ねるディアブラ。

それはナチス・ドイツの優れた科学者を連行し、自国のために働かせようとアメリカが行った、ペーパークリップ作戦のおかげでした。

フォン・ブラウン博士などのロケット研究者、ジェットエンジンやステルス技術の開発者らと共に、アメリカに協力する道を選んだリヒター博士。

彼は自分の研究とそれがもたらす脅威を説明し、カムラーを捕えるように強く訴えました。

そしてアメリカで新たな生活を築き、巨大な企業を起こし成功を収めます。しかし父の正体は過去にナチに協力した科学者と知り、2人の娘は不信感を抱きます。

彼らの元にヨーロッパからのニュースが飛び込んできます。ロンドン、バルセロナ、ベルリン、モスクワ……。大都市が次々と、ナチゾンビに操られたスカイ・シャークの攻撃を受けていました。

以下、『スカイ・シャーク』のネタバレ・結末の記載がございます。『スカイ・シャーク』をまだご覧になっていない方、ストーリーのラストを知りたくない方はご注意ください。


(C)2020 Fusebox Films GmbH

過去に自分が関与した技術が何者かの手で、ナチ巨大戦艦と共に殺戮兵器スカイ・シャークとして蘇った、と思い知らされるリヒター博士。

彼は自分の人脈を駆使して、NSC戦争評議会を開き対策を練ることにします。

CIAなど各国の凄腕諜報員、科学者や政治家、米軍のフロスト少将(トニー・トッド)らと協議を重ねます。

日本人海洋学者の勝部博士(亜紗美)は通訳(光武蔵人)を通じて、スカイ・シャークは生体ステルス・カモフラージュ機能を確立したと語ります。

さらにサメの持つリンパ線のソナーを進化させ、レーダー探知を回避していると説明する潜水服姿の勝部博士。

リヒターは協議の上で、対抗ソナー・パルス装置を積んだ輸送機で接近し攻撃すれば、スカイ・シャークのステルス機能は封じられると結論します。

スカイ・シャークの襲撃を恐れ、全ての民間航空機の運航は停止されました。

旅客機の飛行再開を、空港であても無く待つ人々。テレビはスカイ・シャークがパリのエッフェル塔を破壊したと伝えています。

リヒター博士が用意したソナー・パルス発生機を搭載した輸送機に、ディアブラとアンジェリーク姉妹は乗り込もうとしていました。

しかし姉の具合は良くありません。女ナチゾンビに打たれた血清K7Bの影響に苦しんでいるディアブラ。

姉妹は同じ輸送機に乗り込み、スカイ・シャークとナチゾンビと闘う特殊部隊員と握手を交わします。

リヒター博士率いるリヒター科学技術社は、TVのCMが紹介するように軍事分野でも事業展開していました。

その頃、なぜかフランスのニースからNYに向け、1機の旅客機が飛び立とうとしていました。

スカイ・シャークがステルスモードを駆使して接近しているとは、知るよしもありません。リヒターが用意した輸送機に発進を命じるフロスト少将。

旅客機には乗務員に間抜けな質問をする乗客、露出気味のヒロインが暴れるゲームで遊ぶ子供、旅行気分が抜けずトイレでナニを始めるお盛んな男女がいました。

漏れ聞こえるあえぎ声に乗客は呆れます。そんな状態で飛行する旅客機を、攻撃しようと包囲したスカイ・シャーク。

飛行機に飛び乗ったナチスゾンビが機体に突き刺した、内部監視用の潜望鏡カメラがトイレの男の頭を粉砕しました。

女ナチゾンビがコクピットを制圧し、機体を縦断するワイヤーカッターが次々乗客を切断、凄惨な光景が繰り広げられます。

残った乗客にマシンガンを乱射し、火炎放射を浴びせるナチゾンビたち。

ようやく到着した輸送機がパルス装置を作動、スカイ・シャークのステルス機能を無力化しました。

襲撃された旅客機は分解し墜落していきます。アンジェリークは父に、旅客機を敵をおびき寄せる囮に使ったのでは、と抗議します。

過去に関わった悪夢が片付けば、自分は引退すると約束するリヒター。彼はゾンビ化の影響を受けているディアブラの様子を尋ねました。

ナチゾンビたちは、K7Bを注射された彼女を仲間だと認識していると語るリヒターに、自分たちは父の実験材料かと指摘するアンジェリーク。

彼女は姉が完全にゾンビ化する事を阻止する、解毒剤を密かに渡されていました。

ゾンビたちはディアブラを攻撃対象と把握出来ない、そこにこそ勝利のチャンスがあると説明するリヒター。

彼は戦場に立つには自分は歳を取り過ぎたが、ここから皆を助けることができると告げます。

リヒターの元には、スカイ・シャークと母艦であるナチス巨大戦艦が、アメリカ東海岸に迫っているとの報告が入っていました。

敵はNYの破壊を目論んでいるようです。それを阻止できるのはデットフレッシュ計画、かつて行ったゾンビ兵士開発だと話すリヒター博士。

ペーパークリップ作戦で米軍に協力していた彼は、1968年3月戦況が悪化していたベトナムで、ある実験を行いました。

戦死した兵士を彼の技術で蘇らせた、ダミアンと呼ばれる無敵の超人兵士。それに脳に信号を送って遠隔操作し、実戦に投入する計画です。

軍上層部の許可を得たリヒターは、殺害したベトコン兵士の死体にK7Bを散布、ゾンビ化して最前線の米軍基地を襲わせました。

その戦場にダミアンを出撃させます。博士の助手に操作され、素手でベトコンゾンビをバラバラにしてゆくダミアン。

しかし操作していた助手が耐えられずに倒れると、コントロールを失ったダミアンは、敵味方関係なく殺戮を開始します。

実験は失敗に終わりました。死者に残留する意志が他者からのコントロールを拒み、暴走したと語るリヒター博士。

博士は失敗から学びました。現在のナノテクノロジーを利用すれば死せる者の意志の上書きは可能です。

この技術を応用した博士は、遠隔で操作できる巨大飛行サメ兵器、スカイ・メガロドンを開発していました。

輸送機はスカイ・シャークに襲われ、機内にナチゾンビが乗り込んできます。K7Bでゾンビ化したディアブラが、特殊部隊員と共にゾンビに立ち向かいます。

空の戦場にリヒター博士に操作された、スカイ・メガロドンが現れます。圧倒的な火力で攻撃するメガロドン。

ゾンビ化し力を得たディアブラは、次々ナチゾンビを倒していきますが、症状が進行すると意志を失い味方を攻撃し始めます。

アンジェリークは姉に、解毒剤を注射することに成功しました。

輸送機を襲うスカイ・シャークを、スカイ・メガロドンが粉砕していきます。

リヒター博士の操るスカイ・メガロドンは敵の逆襲に耐え、ついに全てのスカイ・シャークを撃墜しました。

ディアブラも意志を取り戻し、勝利した輸送機は帰還すると報告します。スカイ・メガロドンの操縦から離れたリヒター博士。

勝利したディアブラとアンジェリークは、闘うには歳を取った父の引退について、これからじっくり話そうと告げると2人で笑いました。

しかし。ナチ巨大戦艦内にはさらに多数のゾンビ兵士が待機していました。

より強力なスカイ・シャークを従えた女指導者は、ナチス第4帝国が世界を震撼させると宣言します。果たしてこの女の正体は?

そして、エンドロールを最後まで見た方は知るのです。機内で上映されていたトンデモ映画の正体は『スカイ・フロッグ』だと!

さらに機内で少年がプレイしていたのは、16Bitビデオゲーム版の「スカイ・フロッグ」だった、と知るのです!!

映画『スカイ・シャーク』の感想と評価


(C)2020 Fusebox Films GmbH

見た方は恐らく全員が、開いた口がふさがら無かったであろう、実に素晴らしいトンデモ映画が誕生しました。

ナチにゾンビにサメ、ワルの魅力が詰まった凶悪な敵。トム・サヴィーニが実際どこまで関与したのか不明ですが、人体破壊シーンのオンパレード。

SF的な言葉と映像、戦争映画のアクションに加え、唐突に挿入される無意味なエロシーン。トラッシュムービーの魅力の集大成、というべき作品です。

無茶苦茶でありながら、実在の人物名や兵器・部隊名や作戦名が登場する本作。細部までこだわった映画だと圧倒されました。

B級映画、それもトラッシュ系作品が好きな方にはたまらない、取り扱い要注意の怪作です。誰もが衝撃と困惑の狭間にさまよう、まさに「未体験ゾーンの映画」である本作を解説しましょう。

どうやって集めた⁈ この豪華出演陣

(C)2020 Fusebox Films GmbH

判る人には判る豪華出演陣。これはB級映画好きには「アベンジャーズ」どころの騒ぎではありません。

著名な日系ハリウッド俳優ケイリー=ヒロユキ・タガワ、ドラマ『CSI:マイアミ』(2002~)の悪役で有名なロバート・ラサード、『処刑軍団ザップ』(1970)や『ザ・クレイジーズ 細菌兵器の恐怖』(1973)のリン・ローリー。

これらの人物が冒頭の機内で、ナチズゾンビがド派手に惨殺されます。ここで吹き出す人は私同様、悪趣味映画が大好きな人種と思われます。

人類の英知を集結した(?)対策会議に、『キャンディマン』(1992)や「ファイナル・デスティネーション」(2000)シリーズのトニー・トッド。

日本からは『片腕マシンガール』(2008)、『女体銃 ガン・ウーマン』(2014)に『KARATE KILL カラテ・キル』(2016)、『トウキョウ・リビング・デッド・アイドル』(2018)の亜紗美が、「ガン・ウーマン』『カラテ・キル』の監督・光武蔵人と共に参戦。

さらにドラマ『アメリカン・ホラー・ストーリー アサイラム』(2012~)で強烈な印象を残すナオミ・グロスマン、映画監督のミック・ギャリスなど、まだまだゲスト出演者は多数です。

北極圏でエロシーンを演じ、サメの餌食になったのはドイツの人気ポルノ女優、ルーシー・キャット…ともかく、そういう映画です。

こんな凄い映画だから楽しめる!と言いたいのですが、全出演者に見せ場とセリフを用意した、「出演者に優しく、観る者に厳しい」シーンの数々が困りものです。

主人公たち含め、全カットがドヤ顔、決めセリフで構成された思わせぶりショットで描かれ、どうにも映画のリズムが良くありません。

皆が均等・順番に喋る、実に平等に徹したリモート対策会議のシーンなどは、ダメなズーム会議のお手本を見ている感覚に襲われました。

同じナチゾンビの映画『処刑山 ナチゾンビVSソビエトゾンビ』(2014)のような、『死霊のはらわたⅡ』(1987)的なコミカル調のギャグ作品ではないのでご注意を。

トラッシュ映画大好き監督の、パンクな映画を楽しもう

参考映像:『Sex, Dogz and Rock n Roll』(2011)

本作はドイツのマーク・フェーセ監督の作品です。監督が育ったドイツは他のヨーロッパ諸国同様、暴力描写を持つ映画への厳しい規制を持つ国です。

5歳で8㎜でコマ撮りアニメ映画を撮ったと語る監督。若き日の彼が様々なホラー映画に触れる手段は、ファンたちの間でダビングを重ねたVHSテープで鑑賞する方法のみでした。

ホラー・ファンタスティク映画に魅かれた監督は、1999年にナチスが開発した化学物質K7Bが、現在のドイツで引き起こす恐怖を描いたビデオ作品『Mutation』を製作します。

“Phase V”というヒップホッピグループの1員としても彼は活躍します。音楽の特徴はライブ演奏にホラー映画のサンプルをミックスしたものでした。

解散後も音楽業界で活躍、様々なビデオクリップを撮影してきたフェーセ監督。2011年に発表した映画『Sex, Dogz and Rock n Roll』は、彼のスタイルの集大成と言って良いでしょう。

音楽ドキュメンタリーなども手掛けながら、彼が原点回帰して挑んだホラー映画こそ今回紹介した『スカイ・シャーク』。

タブーに挑む反骨精神あふれるスタイルと、音楽をメインにした画面構成は、彼の経歴から誕生したものです。

ちなみに彼は、オーストラリアで開かれたイベント「モンスターフェスト2020」に、自身がお気に入りのナチス物エクスプロイテーション映画、ベスト5を発表しています。

第5位、台湾の朝鮮人参(?)が大活躍するファンタジー映画『三頭魔王』(1988)。第4位、同じく台湾映画の『アマゾネス・コマンドー 美女脱獄囚:地獄のX作戦』(1982)。

第3位、『ザ・バンカー 巨大地下要塞』(2001)。第2位『ナチス・イン・センター・オブ・ジ・アース』(2012)。

そして栄えある第1位は、あのトロマ映画が製作した『悪魔の毒々サーファー』(1987)!

これを聞いても頭痛が起きず、心底マーク・フェーセ監督と友達になりたいと思った人は、今後も彼を熱烈に応援して下さい。

まとめ

(C)2020 Fusebox Films GmbH

何だこれは! 誰もがそう思う、怪作トラッシュ映画『スカイ・シャーク』。ゲラゲラ笑うコメディではなく、パンク精神溢れるロックな映画としてお楽しみ下さい。

こんな映画なら、多くの方がノリノリで参加したと大いに納得です。皆さん間違いなく撮影中は楽しかったはず。完成した映画を見て、果たしてどう思ったでしょう。

ボカシなど日本の映画の規制に、物申したい方は多いと思います。しかし実は欧州各国は日本より、映画の内容そのものが厳しい審査の対象です。

表現の自由は確かに存在しても、映画や芸術として評価しない。ポルノ作品扱いされて自国のマーケットは小さい、そういった扱いを覚悟して作られる映画があります。

そんな作品は海外にファンと販路を求め、時に声高にこれはアートだ、風刺であると叫びます。規制や制約に物申す姿勢を貫く、反骨精神あふれる映画になるのも当然です。

国によってはさらに厳しい宗教的制約、国による検閲がある訳です、映画の生まれた背景に目を向けると、世界のジャンル映画の持つ一面が見えてきます。

そもそもドイツで、カギ十字を付けた空飛ぶサメとゾンビが暴れる娯楽映画を作るには、相当の覚悟とエネルギーが必要。

『スカイ・シャーク』があらゆる方向にブっ飛んだのも当然です。呆れるほど凄い映画を、確かに体験させて頂きました。

次回の「未体験ゾーンの映画たち2021見破録」は…


(C)2020 TOOLBOX FILM.

次回第20回は、警察の横暴に怒りを抱いた人々の暴動が発生!その中で孤立した警官の運命を描くクライム・アクション『アンコントロール』を紹介します。お楽しみに。

【連載コラム】『未体験ゾーンの映画たち2021見破録』記事一覧はこちら







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