連載コラム「未体験ゾーンの映画たち2020【延長戦】見破録」第14回
世界のあらゆる国から、様々なジャンルの映画をお届けする、劇場発の映画祭「未体験ゾーンの映画たち2020【延長戦】見破録」。第14回で紹介するのは『アトラクション 侵略』。
2017年、IMAX3D方式で製作されロシアで公開されるや大ヒット、ロシアのSF映画史上最大の成功を収めた映画『アトラクション 制圧』。
日本では「未体験ゾーンの映画たち」と同様に、世界の様々な映画の紹介に努める劇場発の映画祭、「カリテ・ファンタスティック!シネマコレクション(カリコレ)2017」にて上映され、SF映画ファンからの熱い注目を集めました。
その待望の続編が完成し、日本では「未体験ゾーンの映画たち2020【延長戦】」でお披露目されました。もはやハリウッドに劣らぬスケールの、ロシア製SF映画超大作を体験しよう!
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CONTENTS
映画『アトラクション 侵略』の作品情報
【日本公開】
2020年(ロシア映画)
【原題】
Вторжение / Invasion
【監督】
フョードル・ボンダルチュク
【キャスト】
イリーナ・スターシェンバウム、リナル・ムハメトフ、アレクサンドル・ペトロフ、ユーリー・ボリソフ、オレグ・メンシコフ
【作品概要】
モスクワに未確認飛行物体が墜落してから3年後。人類は宇宙からの脅威に備える、新たな社会を作り出していました。そして事件の渦中にあった女の前に、また地球外生命体の男が現れます。異星人の侵略&コンタクトを壮大なスケールで描くSF映画。
ソビエト映画界の巨匠にして名優セルゲーイ・ボンダルチュークの息子、フョードル・ボンダルチュクが『アトラクション 制圧』に引き続き監督した続編で、主要キャストも前作と同じ顔触れが勢ぞろいしています。
『LETO レト』(2018)でも注目を集めるイリーナ・スターシェンバウム、SF映画『アンチグラビティ』(2019)のリナル・ムハメトフ、『T-34 レジェンド・オブ・ウォー』(2018)や、「未体験ゾーンの映画たち2020【延長戦】」上映作品の『ザ・スパイ ゴースト・エージェント』のアレクサンドル・ペトロフと、ロシアの次世代スターたちが共演しています。
映画『アトラクション 侵略』のあらすじとネタバレ
…宇宙は、そこに愛する人がいなければ、大した意味はない。ホーキング博士の遺した言葉を紹介して、この映画は始まります。
3年前、モスクワに巨大宇宙船が墜落します。そしてユリア(イリーナ・スターシェンバウム)は、謎めいた宇宙人ヘイコン(リナル・ムハメトフ)と運命的な出会いを経験しました。
あの事件は多くの人々の運命と、世界の様相を激変させました。2019年、墜落した宇宙船の技術を独占的に研究し、技術の革新を図るロシアに対し、世界は警戒感を強めます。
その一方で世界は外宇宙からの侵略の可能性を知り結束、宇宙開発能力を持つロシア・アメリカ・中国が中心となり、地球を守る人工衛星群を設置、防衛プロトコルが完成しました。
ロシア宇宙軍の指揮官は、3年前の危機に対処したユリアの父、レベデフ中将(オレグ・メンシコフ)でした。しかし現在、地球にあの巨大宇宙船”ソール”が密かに接近しています。
“ソール”から発進すると、人工衛星による防衛網をすり抜け、地球の大気圏に突入した小型宇宙船。それはフィンランド沖のバルト海に落下し、海中を突き進みました…。
その4ヶ月後。モスクワのチェルタノヴォを、愛犬のチャルと共にジョギングするユリア。
彼女は護衛の男たちと共に走っていましたが、チャルに逃げられてしまいます。彼女が呼んでも愛犬は戻ってきません。そこは3年前にあの騒ぎが起きた場所でした。
大学で人工知能について講義を受ける彼女の隣に、事件以降も変わらぬ男友達、グーグルがいました。彼女は護衛に付きまとわれる生活にうんざりしています。
教授は人工知能と人間の感情について講義します。死なない存在が人を理解し、愛することが出来るのか、と質問するユリア。
それは危害を加えられない限り、永遠の生命を保つヘイコンと出会い、命を救われ、そして別れを経験した彼女にとって、今も心に残る大きな謎でした。
グーグルはユリアに何か語りたいようですが、彼女には24時間護衛が付き、プライベートはありません。そして彼女は、今もヘイコンを意識しているようです。
大学を出たユリアは、父レベデフ中将の運転する車に乗りました。同乗したグーグルは、IT大手企業のロステレコム社まで送ってもらいました。
レベデフは頼りなさげな彼が、有名な巨大IT企業に採用されたと知り、意外だと考えていました。実のところ見習い実習生にすぎないグーグル。
レベデフは娘をモスクワ郊外の、ロシア国防軍の実験研究施設に送り届けます。3年前異星人のヘイコンと接触し命を救われ、特殊な力を身に付けた彼女は研究対象だったのです。
1人娘に出来る限り、普通の暮らしをさせたいと考えながらも、レベデフ中将は彼女の身を守り、そして研究に協力させる義務を持っていました。
いっそカムチャッカ半島に身を隠そうか、と他に家族のいない父娘は語り合います。それは叶わぬことだと、理解している2人。
施設では異星人の遺した、パワードスーツなどの実験が行われていました。ユリアは計測器を付けたボディスーツに身を包み、プールの中に身を横たえ様々な質問を受けます。
異星人とコンタクトし、その手により生き返らされたユリアの体や心の反応は、科学者たちの研究対象でした。その実験に協力させられるユリア。
水を操り、それを素材に宇宙船やパワードスーツを作る異星人と接触した影響なのか、それとも彼女にヘイコンが与えた、ブレスレッドの力でしょうか。
彼女の心の動きに水が反応します。反応を引き出そうとした科学者は、ある男を連れてきます。それはユリアの元恋人、チョーマ(アレクサンドル・ペトロフ)でした。
彼女と異星人ヘイコンとの関係に怒り、仲間を扇動して宇宙船の墜落現場に乗りこみ、宇宙人のパワードスーツで暴れ回り、ユリアとヘイコンを傷付けたチョーマ。
彼に話しかけられ、ユリアは激しく動揺します。事件の後危険人物として刑務所に収監され、あの体験の影響か言動が怪しいチョーマは、それでも彼女に会いたがっていました。
ユリアが怒ると、その影響かプールの水は激しく動き、発生した大きなエネルギーは実験施設にダメージを与えます。大声で父を呼んだユリア。
レベデフ中将は娘を助け上げ、チョーマを引き離し実験を中止させます。傷付いたユリアは、どうか一晩だけは護衛無しで、独りで過ごさせて欲しいと頼みます。
娘を慰めるためそれを認めたレベデフ。しかし彼は特殊部隊の隊員イワン(ユーリー・ボリソフ)を選び、密かにユリアを私服で護衛しろと命じました。
1人クラブで酒を飲んでいたユリア。しかし彼女は自分を見守るイワンの存在に気付きます。彼に酒をおごり、正体を見抜いたとアピールするユリア。
気付かれたと知ると、ユリアの隣に座るイワン。彼は真面目に語りかけると、もう帰るよう促します。すると彼女の背後に1人の男が現れました。
ハリトン(リナル・ムハメトフ)と名乗った男は、イワンにも手を差し伸べます。その声はユリアに聞き覚えのあるもので、彼女は動揺します。
ユリアに一緒に出ようと告げたハリトンに、イワンが立ち向かいます。格闘の末ハリトンの首を捉えたイワンの頭を、酒瓶で殴って気を失わせたユリア。
ハリトンは彼女の手を引き逃げ出します。彼がユリアのスマホで、巨大宇宙船”ソール”に指示すると、近くの男女が乗る車が勝手に動き出し、2人の前に現れます。
その車に乗り込んだユリアとハリトンを、イワンが必死に追います。彼から報告を受けたレベデフは、”彼”が娘の前に現れたと確信します。
運転者の意志に反し進む車を、”ソール”は信号など様々な設備を操り、逃走をサポートします。停まった隙に、車の本来の持主である男女は逃げ出しました。
他の車の進行状況を予測し、傍目には危険に見える走行で車を走らせ、ユリアたちの逃走を手助けする”ソール”。
逃げる車をバイクで追うイワンは事故を起こしますが、”ソール”はそれも予測して車を動かし、イワンの怪我を最小限にとどめます。
車は郊外の林の中にある、1軒の家に到着します。そこには彼女の元から逃げたチャル、3年前に死に至る病から、ヘイコンに救われた愛犬がいました。
ハリトン=ヘイコンにすっかり懐いているチャル。ヘイコンが死んだとずっと信じており、なぜすぐ現れてくれなかったのか、と泣きながら責めるユリア。
前回と同じ過ちを繰り返したくなかった、と告げたヘイコン。彼はこの家の菜園で野菜を育て、潜伏して暮らしながら彼女に会う時期を待っていたのです。
そこにグーグルが現れます。3年前事件に遭遇していた彼は、ユリアより先にヘイコンと接触し、彼の潜伏生活を手助けしていました。
かつてヘイコンと仲間の宇宙人は、600年後自滅すると判断された人類を、死滅させるべきか調査にやって来ました。
しかし永遠の生命を持つ彼らに理解できない、様々な感情を持つ人類の可能性を認め、人類を存続させると判断しました。そしてヘイコンはユリアへの愛の感情に目覚めたのです。
その夜、ユリアとヘイコンは結ばれます。同じ頃宇宙では、ヘイコンの宇宙船”ソール”が、それより遙かに巨大な人工の物体に飲み込まれていました。
翌朝、ユリアはスマホで父に無事を伝えます。その電話で位置を知ると特殊部隊を派遣し、ユリアとヘイコンを攻撃せず無傷で確保しろと命じるレベデフ中将。
共に朝食をとり、2人でカムチャッカ半島で暮らそうかと語るユリア。家は特殊部隊が包囲しつつありました。レベデフは部隊に武器の使用を禁じます。
ところがその無線連絡に、宇宙空間の巨大な人工物体が、”ソール”が行った様に介入しました。命令はなぜかレベデフが肉声で、攻撃を命じる内容で部隊に伝わりました。
自分の命令が誤って伝えられたと知り、レベデフはイワンと共に、車両で娘とヘイコンの元に向かいます。そして特殊部隊は家に突入を開始します。
ヘイコンは抵抗しユリアと共に脱出します。水中に隠した小型宇宙船に乗り込むヘイコンですが、特殊部隊に撃たれてしまったユリア。
ヘイコンは彼女を宇宙船に乗せると、飛行して逃亡を図ります。
すると宇宙の人工物体がまた命令に介入し、今度はレベデフ中将の声で対空ミサイル部隊に攻撃を命じます。追尾するミサイルを、操った水を盾にして爆破したヘイコン。
しかしコントロールを失った宇宙船は、どんどん高度を下げて行きます。ヘイコンは必死に操縦し、周囲に被害を与えず川の中に突入させました。
研究施設では宇宙人の出現に伴い、回収した遺物を安全な場所に移動させていました。連行される際に抵抗して逃げ、かつて操作したパワードスーツに乗り込んだチョーマ。
パワードスーツのチョーマは、研究施設から逃亡します。撃たれたユリアを庇いながら宇宙船を操るヘイコンは、”ソール”から支援が得られないと気付きます。
偽りのレベデフ中将の声は、攻撃ヘリに小型宇宙船攻撃を命じていました。水中の宇宙船に機関砲を撃ちこむヘリコプター。
ヘイコンにユリアを奪われたと信じるチョーマも、パワードスーツを駆って宇宙船を追いかけます。そしてヘリは水中の宇宙船に対し、ミサイルを発射しました。
爆発によって吹き飛ばされる宇宙船。その損傷を修復しようと、人々の周囲の水が宇宙船へと巻き上げられていきます。
かろうじて修復されたヘイコンの宇宙船は、どうにか人を傷付けることなくモスクワの中心部に不時着しました。
止めを刺そうと現れたヘリコプターに、チョーマのパワードスーツが襲いかかります。損傷を受けビルの屋上に墜落した攻撃ヘリ。
その現場に到着したレベデフ中将は、イワンや特殊部隊員を待機させると、自ら宇宙船に近づきます。それには血が付着し、誰も乗っていませんでした。
傷付いたユリアと共に人混みに紛れるヘイコン。彼はヘリの墜落に巻き込まれ、救急隊員の世話を受ける人々の中に、チョーマの姿を見つけます。
ユリアに近づいたチョーマは、彼女の負傷を知ると水が必要だと呟きます。その言葉に、純粋な水が大量に必要だ、と応じたヘイコン。
チョーマが停めた車をヘイコンが奪い、ユリアを含めた3人は逃亡します。レベデフ中将の元に、ロシア政府の緊急会議への招集命令が入りました。
車で逃亡中のヘイコンは、事態は宇宙の巨大人工物体”ラー”の仕業だと告げます。人工知能である”ラー”は、ヘイコンの能力と人類の感情を持つユリアを、危険要素と判断したのです。
宇宙の秩序を乱す危険な文明に遭遇すると、”ラー”は破壊を試みますが、自らは手を下しません。その文明の情報網を乗っ取り操作し、思うままに戦争を引き起こし自滅させるのです。
モスクワの地下司令室に政府や軍の幹部が招集され、副首相を中心に緊急会議が開かれます。大統領は外遊中で参加できませんでした。
独断でモスクワ市内で、宇宙船への攻撃命令を出したと副首相に追求され、自分の娘を攻撃する命令など出す訳がない、と反論するレベデフ中将。
しかし残された命令の音声記録は、確かにレベデフのものでした。そこに現在、全く政府の知らない報道がTVで流されているとの報告が入ります。
それはモスクワ市内のヘリ墜落で24名の死亡が確認され、死傷者はさらに増えるという内容です。事件はユリアが引き起こした、テロ活動だと報じられていました。
ニュースは3年間実験対象として不当に扱われたユリアが、宇宙人の技術で人々を攻撃すると宣言する、ユリアの犯行声明の映像を流します。
チョーマはショッピングモールに車を停め、ヘイコンが水の調達に向かいます。テレビもラジオも、ユリアがテロを行った危険人物だと報じていました。
放送局は全く関与していないニュースが流され、それを停止させられず混乱状態になります。
政府の緊急会議も、軍の命令や放送が何者かに乗っ取られたと把握しました。これは地球に接近している、巨大な人工物体の仕業だと告げるレベデフ中将。
地球規模でサイバー攻撃を受け、全てのデジタル情報が敵に支配され、信用できなくなったとレベデフは説明します。
その結果軍の指揮機能も壊滅し、宇宙空間の構築した地球防衛プロトコルも発動できません。中将は指揮系統をネットから遮断し、アナログ情報網での対抗を提案しました。
それを受け地下司令室のパソコンは封印され、全員からスマホなど電子機器が回収されます。印刷所では「デジタル情報を信じるな」、と書かれた号外が刷られます。
モールのスーパーではユリアの為に、ミネラルウォーター売り場で純粋な水を選び出し、それを大量に入手するヘイコン。
ところが周囲の人々のスマホに、近い人から様々な形でユリアがテロの犯人だと告げる情報が入ります。”ラー”はあらゆる情報を操作し、人々に彼女は危険人物だと伝えていました。
警官がヘイコンに声をかけますが、変わった人物と思いながらも彼を解放します。しかしユリアの顔に気付いた市民が通報し、彼らの車を追い始めます。
ヘイコンの宇宙船を運び出す部隊に、イワンの姿もありました。彼に妻から電話が入ります。妻子は何事も無く過ごしていましたが、その会話も”ラー”に操作されていました。
妻から最愛の息子が、ユリアの引き起こしたテロによって瀕死の重傷を負ったと聞かされ、イワンはユリアへの憎悪を募らせます。
地球に迫る巨大な人工知能”ラー”の情報操作より、今やユリアは全ての人々から追われる存在になっていました。
映画『アトラクション 侵略』の感想と評価
参考映像:『アトラクション 制圧』(2017)
モスクワに墜落した宇宙船が、若者たちの運命を変える。ロシア映画史上空前のスケールで描かれた、SFディザスター・アクション映画『アトラクション 制圧』。
その後の物語を、同じキャスト総出演で描いた正統派続編映画が『アトラクション 侵略』です。冒頭に説明が入るので前作を見ていなくても、楽しめる内容になっています。
とはいえ前作に直結した物語。彼らの(宇宙人を含む)人間関係は前作を踏まえてますから、『アトラクション 制圧』をご覧になるとより楽しめます。
特に前作で危ない奴だった、アレクサンドル・ペトロフ演じるチョーマが、こんな人物に変貌して続編に現れたのはアイデアもの。ファンは是非ご鑑賞下さい。
ロシア映画界のハリウッドへの挑戦状
前作『アトラクション 制圧』を見た際に、CGで登場する宇宙船”ソール”などが、どこか『トランスフォーマー/ダークサイド・ムーン』(2011)の敵メカ、”Driller”を意識しているように感じたのは、私だけでしょうか。
『トランスフォーマー』シリーズに限らず、CGや映画のスケールに、ハリウッド映画SF大作映画への挑戦が大いに感じられた前作。
実際にハリウッド映画のVFX製作会社や、そのスタッフが参加していました。そのチャレンジ精神は今回の『アトラクション 侵略』にも健在です。
今回間違いなく意識している、と思われるのが『インデペンデンス・デイ』(1996)。巨大人工知能”ラー”への攻撃シーンは、『インデペンデンス・デイ』の同シーンの、リニューアル版と受け取って良いでしょう。
また宇宙人の再来に備える人類といった設定は、『インデペンデンス・デイ リサージェンス』(2016)を、強く意識していること間違い無しです。
さらに『~リサージェンス』の宇宙人が重力を操って攻撃するなら、こっちは水を操るぞ!という対抗心を感じさせるディザスター描写。
将にハリウッド大作映画より迫力のある、面白いものを作ってやろうという熱い思いが伝わってくる、日本映画に無いチャレンジ精神が感じられる大作映画です。
旧ソ連映画のような風刺が潜んでいる?
VFXシーンが他のSF映画に類似しているとはいえ、『アトラクション』2部作はいわゆる”パクリ映画”ではありません。
永遠の命を持つが、愛を知らない宇宙人と人間が恋をし、宇宙人が感情を学んで、人類の可能性に気付く。どこかで聞いたような、古典的ストーリーで展開されます。
SFの王道でベタなテーマを、現代風にリライトしたオリジナル物語です。小説やコミックなどの原作を持たない面にも、製作者のSF映画への拘りを感じました。
もっともそこに作品のアラ、ツッコミ所を感じる方もいるでしょう。凄まじい日程で完成した人類の防衛網や、やっぱりロシア人は、宇宙人すらウォッカで酔わすのかとか…。
あれだけの水を集めたら周辺の気象はどうなるのか、その水が自然に戻ればどんな災害が起きるのやら。「空想科学読本」的に、誰か考察して欲しいものです。
そして宇宙人がサイバー攻撃や、フェイクニュースを駆使するのは、時代の申し子であり風刺でもありますが、ちと地球のテクノロジーに寄り過ぎた描写と言えます。
ところでフェイクニュースと言えば、アメリカのトランプ大統領の口癖です。本作はそんなアメリカに対する風刺、と捉えて良いのでしょうか。
旧ソビエトと言えば、官製報道しか無い体制。人々は報道を鵜呑みにせず、その裏にある真実を読み取ろうと苦心していました。
そんな体制で作られた映画も、表面的には当たり障りのない物語でありながら、深く読み解けば体制批判や社会風刺、皮肉が込められたものが多数ありました。
ソビエトが崩壊して時が経過しましたが、現在も政府系メディアと、オリガルヒ(ロシアの新興財閥)系メディアによる偏向報道を、ロシアの人々は身近に感じています。
海外からはロシアの政府機関が、ネット世論を操作し他国の選挙に干渉したとの報道もあります。
ロシアの人々にとって本作の「デジタル情報(様々な報道)を信じるな」、というメッセージは自国の現状への風刺を、強く感じさせるものかもしれません。
まとめ
ハリウッド大作SF映画に真っ向挑戦し、見事なスケールの作品を作り上げた『アトラクション 侵略』、SF映画ファン、ディザスター映画ファンなら必見です。
第1作に引き続き本作も大成功、現在シリーズ3作目も準備中との事。ロシア発のSF映画超大作シリーズにご注目下さい。
本作の宇宙からのサイバー攻撃は、荒唐無稽の域に達していますが、ロシアでは他国の情報操作のみならず、実戦でサイバー攻撃を行ったとされています。
2014年から発生したクリミア紛争では、ロシア側は実力行使のみならず、情報戦やサイバー攻撃などを交えた、ハイブリット戦略で目的を果たしたと言われています。
それを目撃したスウェーデンでは、ロシアのハイブリット戦略という新たな脅威を訴える、『アンシンカブル 襲来』(2018)という映画が作られました。
サイバー攻撃、情報操作を身近なものとして捉え、その脅威を風刺として取り入れたSF映画が『アトラクション 侵略』である、と見るのは少々うがち過ぎでしょうか。
ともかく、続編映画である本作。同じ続編でも興行的に失敗、ラジー賞に5部門ノミネート、ローランド・エメリッヒ本人が作ったことを後悔した、『インデペンデンス・デイ リサージェンス』よりも、間違いなく大成功した作品だと評してOKです。
次回の「未体験ゾーンの映画たち2020【延長戦】見破録」は…
次回の第15回は女囚たちが監禁された、孤島の刑務所にゾンビが大発生!『エクスペリメント・アット・セントレオナルズ女子刑務所』を紹介いたします。お楽しみに。
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