連載コラム「未体験ゾーンの映画たち2020見破録」第6回
劇場発の映画祭「未体験ゾーンの映画たち2020」は、今年もヒューマントラストシネマ渋谷で絶賛開催中。2月7日(金)からはシネ・リーブル梅田で実施、一部上映作品は青山シアターで、期間限定でオンライン上映されます。
前年は「未体験ゾーンの映画たち2019」の全58作品のすべてを見破し、紹介させて頂きました。
今年も挑戦中の「未体験ゾーンの映画たち2020見破録」。第6回で紹介するのは、意外な設定のサスペンスホラー『ウィッチクラフト 黒魔術の追跡者』。
アルゼンチンで製作会社を設立し、様々な作品・脚本を発表しているマルセロ・パエス・キュベルス監督が、「未体験ゾーンの映画たち2018」で上映された『Z Inc. ゼット・インク』の脚本家、マティアス・カルーソの手掛けたオリジナルストーリーを映画化した作品です。
【連載コラム】『未体験ゾーンの映画たち2020見破録』記事一覧はこちら
CONTENTS
映画『ウィッチクラフト 黒魔術の追跡者』の作品情報
【日本公開】
2020年(アルゼンチン映画)
【原題】
Bruja
【監督】
マルセロ・パエス・キュベルス
【キャスト】
エリカ・リバス、ミランダ・デ・ラ・セルナ、レティシア・ブレディス、パブロ・ラゴ
【作品概要】
捕えた者を薬漬けの性奴隷にして売買する組織の手に落ちた女子高生。しかし彼女の母は魔女でした。魔術の力で娘を救おうとする母親の姿を描くサスペンス・スリラー映画。
主人公の魔女を演じるのは、オムニバスコメディ映画『人生スイッチ』で、ドタバタ騒ぎになる結婚式の花嫁を演じたエリカ・リバス。彼女を支える男を『瞳の中の秘密』や「未体験ゾーンの映画たち2018」上映作品『ゲット・アライブ』に出演の、パブロ・ラゴが演じます。
ヒューマントラストシネマ渋谷とシネ・リーブル梅田で開催の「未体験ゾーンの映画たち2020」上映作品。
映画『ウィッチクラフト 黒魔術の追跡者』のあらすじとネタバレ
まだ幼いセレナは魔女である祖母と共に、たき火の前で酒を飲み騒ぐ2人の男を見つめていました。殺されたマリガリータの仇である2人の男に、制裁を加えようとしています。
呪いをかけるには、その相手が触った物が必要です。祖母の言いつけで男たちの酒瓶を取ったセレナ。魔術で呪いをかけるには、自分の大切なものを捧げねばなりません。祖母は自分の身を傷つけ、瓶に血を垂らします。
心優しいセレナは男たちの死を望んでいませんでしたが、祖母は呪文を唱え酒瓶を地に沈めると、男たちの悲鳴が聞こえます。
セレナは祖母に男たちがどうなったかを訊ねますが、祖母はもう悪事をすることはない、とだけ答えます。そしてこの力を継ぐであろうセレナに、自分の首飾りを渡します。
そして現在。魔術で生計を立て、娘と細々暮らしているセレナ(エリカ・リバス)は、雑貨屋で物を買おうとしていました。
しかし魔女であるセレナを快く思わない雑貨屋の主人は、通常より高い値段で支払いを要求します。その扱いに怒ったセレナは、一度店を出ると魔術を使います。少額紙幣に自分の血を垂らし、術をかけるとそれは高額紙幣に変わりました。それで支払いを済ますセレナ。
彼女は街の外れのみすぼらしい小屋に住み、小さな畑を耕しヤギや鶏を世話して、娘と2人で暮らしています。セレナが自宅に戻ると、児童福祉局の女が調査に来ていました。
家庭の環境が娘に相応しいかを調べる女に、セレナは誰かが嫌がらせで福祉局に訴えたと抗議しますが、良い報告を望むならと賄賂を要求する女。セレナは怒って彼女を追い出します。
しかし娘ヘレン(ミランダ・デ・ラ・セルナ)は、福祉局の女に不利な事は話しませんでした。ヘレンは母を愛していましたが、いつまでも自分を子ども扱いする態度と、貧しくスマホも買って貰えない環境には文句を言います。
携帯が無ければ危険な時にどう連絡するの、と言うヘレンに、彼女は魔術をかけたお守りを持たせていました。貧しいながらも、自分なりに娘を守る手を尽くしているセレナ。
お金にトリックを教えてという娘に、セレナはトリックではないと言い、真面目に魔術を学ぶように諭します。そこでヘレンが術を使って筆記を行うと、親子の絆で結ばれたセレナの体は乗っ取られ、曇った鏡に文字を書いていきます。
セレナが我に返ると、鏡には「携帯が欲しい」と書かれていました。我が娘の能力に喜ぶセレナ。しかしヘレンが高校のパーティーに行くと告げると、悪い男に引っかからない様付いて行きます。そんな少々過保護な一面もありました。
学校のパーティで同級生の友人、ファティマと仲良く過ごすヘレン。しかしセレナは高校の女校長に、児童福祉局に訴えたのかと抗議します。校長は魔術を生業とするセレナを、ヘレンにも学校の他の生徒にも、良くない影響を与える存在だと考えていました。
パーティーには他にも生徒の保護者が来ています。ファティマの父・リカルド(パブロ・ラゴ)は、周囲に手品を披露していました。
セレナに気づいたリカルドは、彼女がファティマに持たせたお守りに文句を言います。それは若い娘を守るのものだ、と彼女は説明しますが、娘にはかかわるな、互いに別のマジックをしようと言い放つリカルド。
居場所を失い1人会場を後にしたセレナは、学校の広場でヘレンとファティマらが、男と談笑する姿を見て帰宅します。
その男パコは、言葉巧みにヘレンらに、レース場のコンパニオンのアルバイトをしないかと誘っていました。容姿を褒められ、バイトはモデルになるチャンスだと言われ、ヘレンは携帯電話欲しさもあってファティマら友人と共に、その話を受けました。
次の日ヘレンとファティマら女子高生たちは、パコに指示で集められ、アルバイトに応募するためと称して、写真撮影の場所へと案内されます。
そこで男に銃を突きつけられたヘレンたち。ファティマらの携帯は取り上げられ、皆監禁されました。ヘレンは母に危機を知らせるべく、術を使って地面にメッセージを書きます。
ヘレンの術に感応し倒れるセレナ。気付くと彼女は植木鉢からこぼれた土の上に、「誘拐された」との文字を書いていました。
娘からの知らせに驚いたセレナは、自転車を走らせファティマの家に向かいます。彼女の父リカルドはヘレンは不在だが、ファティマと共に出かけたと答えます。娘が誘拐されたとの言葉に驚くリカルドですが、彼がファティマに電話をかけても連絡はとれません。
セレナはリカルドから聞いた、娘たちの行き先である公園に向かいましたが、そこには誰もいませんでした。
ヘレンたちは銃を突き付けた男の母親、マリサ(レティシア・ブレディス)に告げられます。お前たちが年齢を偽ったためにレース場との契約は破棄され、私は損害を被った。その分お前たちに稼いでもらう。無論言いがかりに過ぎず、女子高生らは自分たちの運命を悟ります。
娘の誘拐を訴えに警察に現れたセレナですが、市長に妻の葬儀に駆り出されていた警察に無駄に待たされたあげく、ようやく話をしても誘拐だと信じてもらえません。そもそも電話を持たない娘からどう連絡されたか説明出来ず、冷たくあしらわれます。
そこにリカルドが現れ、セレナに代り警察に訴えます。彼の熱心かつ強行な態度に重い腰を動かし、警察はようやく捜査を約束します。
セレナとリカルドは高校に向かいます。そこには校長や、他にも娘を誘拐された保護者など多くの人が集まっていました。若い娘をさらう人身売買組織が、警察や政治家と結託しているのは良くある話だ、団結して抗議活動を行い、世間に訴えようとリカルドは皆に提案します。
ヘレンの心に感応したセレナは、昨日娘たちとパコがいた場所に向かいます。その場に立ち過去の出来事を読み取ったセレナは、パコの吸い殻を見つけるとそれに自分の血を垂らします。それを咥えたセレナは、娘から助けてとの、悲痛なメッセージを受け取ります。
ヘレンらを監禁した女マリサは、現れた売春組織の仲介人と会い、娘らを幾らで売るかを交渉していました。値引きの代わりに、娘の1人を味見することを許したマリサ。連れていかれた娘はベットに手錠でつながれます。そして彼女は、命を失うことになります。
魔術の力でパコを見つけたセレナは、吸い殻を使い呪いをかけ彼を苦しめ、口を割らせようとします。娘たちが連れていかれた場所を聞き出しますが、黒幕についてパコは話しません。セレナは彼も、妹が捕えられ脅されて、組織に働かされていると知ります。
警察はパコの語った場所に踏み込みますが、そこはもぬけの殻でした。その頃マリサは、息のかかった警官から捜査の動きを伝えられていました。
手がかりを求めるセレナも、娘たちが監禁されていた場所を訪れます。そこに彼女の後をつけたリカルドが現れます。今まで魔女のセレナを良く思っていなかった彼ですが、娘の為に何でもしたいと協力を申し出ます。
この場所で何かを感じたセレナ。そこにあるのは娘が命を奪われたベットでした。自分の能力を解放するため、ナイフで腕を切り血を垂らし、女神に捧げるセレナ。殺された娘に憑依された彼女は、ベットで娘が遭遇した出来事を追体験します。それはリカルドに信じがたい光景でした。
仲買人に迫られた娘は抵抗した結果、麻薬を注射されてしまします。しかしそれが体に合わず命を落していました。セレナはその場のやり取りから、ヘレンたちをさらった組織のボスの名はマリサだと知りました。
それ以上の手がかりを掴めぬセレナは、リカルドの車で移動します。彼女はリカルドに今回の件は、独り身でヘレンを妊娠した時に、不安のあまり流産を願った報いだと話します。自分を責める彼女をなだめるリカルド。
リカルドは、人身売買組織の女マリサの名を聞いた事がありました。そこで彼は裏社会に通じる男に会い、マリサと接触しようと試みます。
セレナと共に酒場に入り、その男と会ったリカルド。女を売りたいと言ってマリサの連絡先を尋ねますが、素人からそんな話をもちかけられても男は承知しません。
そこでセレナが魔術を使い、男を手を触れずに痛めつけます。その隙に男の手帳を奪って逃げたセレナとリカルド。手帳によってマリサの連絡先を掴みますが、同時に男が警察や市長ともつながっていると知った2人。
早速マリサと接触しようと、女を売ると言って呼び出すリカルド。一方手帳を奪われた男はセレナが何か魔術を使ったと悟り、そして起きた事を各方面に伝えます。
その頃ヘレンは隙をついて、監禁場所から逃げる事に成功していました。夜道を走って逃げる彼女は、幸運にもパトカーに出くわし保護されます。しかしパトカーはヘレンが逃げ出した場所に戻り、彼女は引き渡されます。もう逃げないように、娘たちは薬漬けにしようと言うマリサ。
市長は妻の葬儀の中、今回の事件で親たちが抗議に動き出した状況を快く思っていませんでした。警察や人身売買組織が、早く騒ぎを鎮めるよう命じます。
そんな中マリサをを待つリカルドとセレナの元に、パトカーが現れます。警官はいきなりリカルドを殴り倒し、余計な事をしないよう告げると、セレナをパトカーに乗せ連行します。
セレナの自宅に着くと畑にガソリンを撒き、火を放つ警官たち。これ以上動くと全てを失う事になると脅し、彼女を痛めつけて去りました。
絶望と怒りに囚われたセレナは、魔女たちが信仰する女神に捧げ祈ります。どうか私に邪心を、更なる力をお与え下さい。どうか私を邪心を持つ、不敵な女にして下さい、と願います。
祈りは聴き遂げられ、強い魔力と冷酷な心を持った魔女、セレナが誕生しました。
映画『ウィッチクラフト 黒魔術の追跡者』の感想と評価
アルゼンチンの勧善懲悪魔女物語
映画に登場するのは女子高生を餌食にする人身売買組織、と聞いて良からぬ妄想を抱いた方、正直に手を挙げて下さい。
この映画のエロ方面の描写は、コンプライアンス順守の寸止め状態。言うなれば昭和のテレビ時代劇と同程度の描写です。むしろ魔術のため、自傷するセレナの姿のほうが過激です。
テレビ時代劇と例えましたが、若い娘を喰い物にする“やり手ババア”と、それに従う極悪息子。地元の警察と市長が結託する姿も、将に時代劇お約束の図式。しかしアルゼンチンでは、これは身近に存在する悪の姿として、切実に感じられるのでしょうか。
悪を成敗する時代劇が、一服の清涼剤として楽しまれたように、この映画も勧善懲悪の物語として楽しむ事ができます。自傷行為とオカルト趣味がおまけに付いてきますけど。
ところで昭和の時代劇にも、入浴シーンが売りの作品もありました。それ位のサービス描写があってもイイと思った、私のようなけしからん人物は…きっと魔女に成敗されます。
日常生活感のあるオカルト描写
日本では今一つ馴染みがありませんが、西洋文化圏に魔女は欠かせない存在。今もライトなコメディドラマの主役となる一方、ロバート・エガース監督の出世作となった『ウィッチ』など、様々な形で登場しています。
ところで本作に登場する魔女は、神秘的でも万能の魔法を手軽に使う訳でも無い、アイテムが不可欠で更に自己犠牲が必要とされる術を使う存在です。制約ある“縛りプレイ”で展開する物語が、この映画ならではの面白い展開を生みました。
昭和のテレビ時代劇と同時代に人気を博した、「魔太郎がくる!!」や「エコエコアザラク」といったオカルトホラー漫画。本作はそれらと同様にダークな一面を持ち魔術を操る人物を、物語の主人公にした映画と評することができます。
改めて『ウィッチクラフト 黒魔術の追跡者』を振り返ると、その魔術描写は、オカルト的な雰囲気をしっかりと維持しながら、丁寧に描いた注目すべきポイントになっています。
まとめ
なぜか昭和の香りが漂う、勧善懲悪魔女映画『ウィッチクラフト 黒魔術の追跡者』。魔術系オカルトファンには要注目の作品です。
「ハリー・ポッター」シリーズの魔法は、才能ある者がしっかり学べば杖一つで発揮されますが、アイテム不可欠かつ自己犠牲が必要とされる本作の魔術描写は、古くからある設定にひねりを加えた、ユニークな物となりました。
原作漫画、そして映像化された「エコエコアザラク」シリーズのファンなら、それを南米テイストで映画化したかの様なこの作品が、間違いなくお気に召します。
次回の「未体験ゾーンの映画たち2020見破録」は…
次回の第7回は日本が世界に誇る“おバカ映画”の偉大なる巨匠、河崎実監督最新作『ロバマン』を紹介いたします。
お楽しみに。